• 著者: Sata M, Sasaki S, Oikado K, Saito Y, Tominaga J, Sakai F, Kato T, Iwasawa T, Kenmotsu H, Kusumoto M, Baba T, Endo M, Fujiwara Y, Sugiura H, Yanagawa N, Ito Y, Sakamoto T, Ohe Y, Kuwano K
  • Corresponding author: Masafumi Sata (Division of Pulmonary Medicine, Department of Medicine, Jichi Medical University, Tochigi)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Retrospective Cohort Study based on Post-Marketing Surveillance)
  • PMID: 33125784

背景

ニボルマブ (nivolumab) は PD-1 (programmed death-1) を選択的に標的とするヒト型モノクローナル抗体であり、第 III 相 CheckMate 017 (squamous NSCLC) および CheckMate 057 (non-squamous NSCLC) 試験でドセタキセル対照治療を上回る OS 改善を示し (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015)、肺癌領域のセカンドライン標準治療として確立した。これらの試験では ILD (interstitial lung disease、間質性肺疾患) または pneumonitis が squamous NSCLC で 4.6% (6/131)、non-squamous NSCLC で 3.5% (10/287) と報告され、頻度は低いものの場合により致命的となりうる irAE (immune-related adverse event、免疫関連有害事象) として位置づけられた。

ニボルマブの免疫関連肺障害には特異的治療法が存在せず、薬剤性間質性肺炎の管理に準じてシステミックコルチコステロイド (systemic corticosteroid) が第一選択となるが、ニボルマブ誘発 ILD の最適な開始用量・治療期間・漸減速度・再燃時の対応など実臨床での詳細データは限定的かつ 未解明 であった。とくに日本人肺癌患者は欧米よりも ILD 発症リスクが高いことが既に gefitinib 等のチロシンキナーゼ阻害薬で示されており、ニボルマブ誘発 ILD の管理においても日本人特異的なリアルワールドデータが 不足 していた。再燃 (relapse) 例の臨床特徴は ICI 単剤の retreatment 安全性に関する Santini らの後向きコホート (Santini et al. CancerImmunolRes 2018) で 52% に irAE 再発が観察されると報告されていたが、ILD 再燃に絞った系統的な記述はなく、ニボルマブ誘発 ILD の再燃時患者背景・コルチコステロイド使用状況・転帰の解明には大きな knowledge gap が残されており controversial な臨床判断 (再投与可否・漸減速度) が現場で繰り返されていた。コルチコステロイド漸減期の再燃リスク管理に関するエビデンスは何が 足りなかったか を再燃 9 例の詳細データで初めて明らかにする点が本研究の出発点である。

目的

日本のニボルマブ市販後試験データを用いて NSCLC 患者におけるニボルマブ誘発 ILD の治療内容 (コルチコステロイド種類・用量・期間)・転帰 (回復・死亡)・再燃例の詳細特徴を記述的に評価し、実臨床での最適な ILD 管理戦略を提案するためのエビデンスを生成する。

結果

患者構成と症例確認 (Patient disposition):ILD 様症状を報告した n=325 例のうち、ECRC により n=273 例 (84.0%) が ILD と診断され (Fig 1)、このうちニボルマブが原因と判定された n=238 例 (73.2%) が解析対象となった。他剤の関与が除外できない n=35 例 (10.8%) は除外。残り n=52 例 (16.0%) は ILD ではないと判定された。日本人 NSCLC でのニボルマブ ILD 確認率は post-marketing data として大規模な集積となった。

初回 ILD への治療内容 (Initial ILD treatment):n=238 例中 n=207 例 (87.0%) でコルチコステロイドが使用された (Table 1)。コルチコステロイド単剤 n=202 例 (84.9%)、免疫抑制薬併用 n=5 例 (2.1%)、その他 (抗菌薬等) n=5 例 (2.1%)、無治療 n=26 例 (10.9%)。開始用量は <0.5 mg/kg/日 n=47 例 (22.7%)、0.5-<1.0 mg/kg/日 n=47 例 (22.7%)、1.0-<2.0 mg/kg/日 n=22 例 (10.6%)、≥2.0 mg/kg/日 n=4 例 (1.9%)、パルス療法 n=87 例 (42.0%) と幅広い (Table 3)。免疫抑制薬の他剤併用は infliximab/mycophenolate が NCCN ガイドライン上 corticosteroid 不応例で推奨されるが、本コホートではコルチコステロイド単独で多くが奏効しており実臨床での conservative approach が反映された。

致命的 ILD の特徴と転帰 (Fatal ILD):n=238 例中 n=37 例 (15.5%) が ILD で死亡。ILD 発症から死亡までの中央値は 23 日 (range 2-197 日) と短く、致命的 ILD は急速な臨床経過を示した。コルチコステロイド中止時期と死亡時期がほぼ同時であった症例が多く認められ (Fig 2)、コルチコステロイド治療継続困難な急性増悪パターンが示唆された。コルチコステロイド治療を受けた n=207 例中 n=35 例 (16.9%) が死亡、うち n=20 例 (57.1%) がパルス療法を受けていた (重症例で集中的治療が選択されたことを反映、Table 3)。

治療期間と転帰の関連 (Duration-outcome relationship):コルチコステロイド治療期間 <14 日 n=48 例では n=15 例 (31.3%) が死亡、14-27 日 n=56 例では n=10 例 (17.9%) が死亡、28-41 日 n=27 例では n=3 例 (11.1%) が死亡、≥70 日 n=29 例では n=1 例 (3.4%) のみが死亡と、コルチコステロイド治療期間が長いほど死亡率が低下する傾向が観察された (Table 2)。これは早期死亡例で十分な治療期間を確保できなかった事実を反映している可能性もあり、治療期間 ≥28 日群で生存率 93.3% が達成された。生存例の治療期間中央値は死亡例より明らかに長く、長期コルチコステロイド管理の重要性を支持する。

ILD 再燃例の臨床特徴 (Relapse cases):n=9 例 (3.8%) で ILD の再燃が観察された (Table 4)。初回 ILD 寛解から relapse までの中央値は 53 日 (range 15-279 日)。relapse 時の ニボルマブ継続状況は n=4 例 (44.4%) が継続中または再開中、n=5 例 (55.6%) が中止中であった。コルチコステロイド投与状況は n=4 例が relapse 時にコルチコステロイド継続中で、うち n=3 例 (75%) が prednisolone ≤5 mg/日と低用量または漸減完了直前のタイミングで relapse した。relapse 治療は全例 (1 例治療不明) でコルチコステロイドが再投与され、n=5 例が回復、n=1 例が回復途中、n=1 例が未回復、n=1 例が死亡 (15-16% relapse 死亡率) であった。全 9 例で初回 ILD は non-DAD-like radiographic pattern であり、relapse でも non-DAD pattern が多かったが、死亡例 1 例は relapse 時に faint infiltration/hypersensitivity pneumonia から DAD-like pattern へ進展したことが致命的経過と関連した。

考察/結論

本研究はニボルマブ誘発 ILD の日本人 NSCLC 患者 n=238 例における実臨床管理を体系的に記録した、post-marketing 大規模 cohort としては最初の系統的報告である。死亡率 15.5% かつコルチコステロイド奏効率 83.1% という成績は、ILD は致命的になりうるが大半はコルチコステロイドで管理可能であることを示し、ICI 時代の肺癌診療における管理パラダイムを支持する。

① 先行研究との違い: CheckMate 017 (n=131、ILD 4.6%、コルチコステロイド治療例全員回復) や CheckMate 057 (n=287、ILD 3.5%、7/10 例コルチコステロイド回復) などの臨床試験データ (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015) は対象が highly selected で n が小さく、real-world での実態とは異なっていた。本研究はこれまでの試験データと 対照的に 238 例規模の post-marketing cohort で死亡率を 15.5% と検出した点、これまでの ICI retreatment コホート (Santini et al. CancerImmunolRes 2018) が irAE 全般 (52% recurrence) を扱ったのと異なり、本研究は ILD 単独の relapse 9 例の詳細特徴を初めて系統的に記述した点で これまでの 文献群と差別化される。Kudoh らの gefitinib 関連 ILD コホート (n=3166、死亡率 31.6%) と比較すると、ニボルマブ ILD の死亡率は約半分であり、薬剤性 ILD の病態が EGFR-TKI と ICI で 異なる ことが示された。

② 新規性: ニボルマブ誘発 ILD の relapse 例 (n=9) を radiographic pattern (COP/CEP-like が relapse-prone) ・コルチコステロイド漸減タイミング (≤5 mg/日で relapse 多発) ・ニボルマブ再開状況 (44% で再開中に relapse) の 3 軸で 本研究で初めて 系統的に記述した点に 新規な 知見がある。これまで報告されていない COP/CEP-like pattern と relapse のニボルマブ誘発 ILD 特異的な関連性 (既知の特発性 COP/CEP では既報) を ICI-induced ILD で確認した novelty が認められる。コルチコステロイド漸減期の relapse リスク管理に関する具体的閾値 (≤5 mg/日) を提示した点も novel である。

③ 臨床応用: 本データは ICI 時代における日本人肺癌診療での irAE 管理ガイドラインへの直接的 臨床応用 が可能である。具体的には (1) ニボルマブ ILD 発症時はコルチコステロイドを早期かつ十分量で開始する、(2) コルチコステロイド漸減は緩徐に行い特に prednisolone ≤5 mg/日へ達する段階で関心を払う、(3) COP/CEP-like radiographic pattern を呈する症例は relapse-prone と認識する、(4) DAD-like pattern への進展は致命的経過の signal、(5) ニボルマブ再開は initial ILD の grade と benefit/risk を慎重に評価、という 臨床現場での 実践指針が抽出された。これらは ASCO・ESMO の ICI irAE management guideline の日本実装版として bench-to-bedside の橋渡しに有用である。

④ 残された課題: 本研究には複数の limitation がある。第一に post-marketing surveillance design による spontaneous reporting bias と治療判断の施設間差により全症例の完全データが揃わない。第二に治療期間と転帰の関連は早期死亡例で治療期間が物理的に短くなる reverse causation を排除できない。第三に relapse 例 n=9 と小規模で統計的検出力に制限がある。今後の研究 として (a) 前向き ICI 全 irAE 監視 cohort で relapse 予測モデル構築、(b) ニボルマブ ILD の biomarker (autoantibody、CD8 浸潤、cytokine profile) 探索、(c) ICI 抗 PD-1 と抗 PD-L1 で ILD pattern が異なるか比較、(d) infliximab/mycophenolate 等の steroid-refractory ILD への二次免疫抑制治療の前向き評価、(e) ICI 併用療法 (anti-PD-1+anti-CTLA-4) での ILD 重症度比較、(f) COP/CEP-like pattern 患者でのコルチコステロイド漸減プロトコル最適化の RCT、などの 今後の検討 方向性 (future research direction) が複数残されている。

結論として、ニボルマブ誘発 ILD は早期コルチコステロイド投与と漸減期の慎重な管理により多くが奏効する。COP/CEP-like radiographic pattern を呈する症例ではコルチコステロイド漸減完了直前の relapse リスクに留意し、ニボルマブ再開は患者ごとに benefit/risk を慎重に評価することが推奨される。

方法

本研究は 2015 年 12 月 17 日から 2016 年 3 月 31 日にかけて実施された、日本における NSCLC 患者ニボルマブ市販後調査 (post-marketing surveillance、Identifier: JapicCTI-153010 同等の特定使用成績調査) に基づく後向きコホート研究である。primary cohort は同期間中にニボルマブ治療を受けた NSCLC 患者のうち ILD 様症状を報告した n=325 例。ECRC (Expert Central Review Committee、専門家中央審査委員会) は肺専門医 8 名と放射線科医 8 名で構成され、各症例について 2 名の放射線科医が胸部 CT/X 線を独立評価、2 名の肺専門医が臨床データを独立評価する組成とした (n=2 reviewer/disipline、合計 4 reviewer/case)。新規異常陰影が出現し、感染症・心不全・腫瘍増悪が除外された場合に ILD と判定し、他剤の関与が否定できない症例は除外した。

データ収集項目は ILD radiographic pattern (DAD-like (diffuse alveolar damage) / COP (cryptogenic organizing pneumonia) / CEP (chronic eosinophilic pneumonia) 等)、ILD 治療内容 (薬剤・用量・期間)・治療転帰 (回復・回復途中・未回復・増悪・死亡・不明)。コルチコステロイドは prednisolone 換算量で記録した。再燃例については年齢・性別・体重・ILD 状態・relapse 時の radiographic pattern・ニボルマブ継続/中止/再開状況・コルチコステロイド用量と期間・初回 ILD 寛解から relapse までの期間・転帰を収集した。統計解析は descriptive statistics (記述統計) を中心に用い、サブグループ生存比較は log-rank test を補助的に適用、コルチコステロイド治療期間と転帰の関連は chi-squared (χ²) test で評価した (formal Cox proportional hazards modeling は cohort size と event 数の制約により実施せず)。本市販後調査の cell line / mouse model は本研究設計上該当しない (real-world clinical surveillance design)。