• 著者: Stefani Spranger, Robbert M. Spaapen, Yuanyuan Zha, Jason Williams, Yuru Meng, Thanh T. Ha, Thomas F. Gajewski
  • Corresponding author: Thomas F. Gajewski (tgajewsk@medicine.bsd.uchicago.edu) (Department of Pathology and Department of Medicine, Section of Hematology/Oncology, University of Chicago, Chicago, IL, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-08-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23986400

背景

腫瘍微小環境における免疫抑制機構として、FoxP3+ 制御性T細胞 (Treg)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO)、PD-L1/B7-H1の3つが主要経路として同定されており、それぞれを標的とする臨床試験が進行中であった。例えば、抗CTLA-4抗体イピリムマブはメラノーマ患者の生存を改善し (Hodi et al. NEnglJMed 2010)、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体も進行癌患者で有望な臨床活性を示していた (Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。一方で、ヒトメラノーマの遺伝子発現解析からT細胞浸潤型 (T cell-inflamed) と非浸潤型の2サブセットが識別されており、前者は豊富なCD8+ T細胞浸潤と炎症性ケモカイン・I型インターフェロン転写シグネチャーを示していた。しかし、これらの免疫抑制経路がCD8+ T細胞浸潤に先行して癌細胞によって設置されるのか、後から免疫応答への「ネガティブフィードバック」として誘導されるのかは未解明であった。特に、T細胞浸潤型腫瘍においても免疫回避が起こるメカニズムは不明であり、このギャップを埋めることが課題であった。

目的

T細胞浸潤型メラノーマにおけるIDO・PD-L1・FoxP3+ Tregの高発現がCD8+ T細胞浸潤の原因か結果かを決定し、各免疫抑制経路の誘導機序 (IFNγ依存性・非依存性) を同定する。これにより、免疫チェックポイント阻害療法の効果が期待される患者サブセットを特定するためのバイオマーカー開発に貢献することを目指した。

結果

ヒトメラノーマにおけるCD8+ T細胞とIDO/PD-L1/FoxP3の強い相関 (Pearson r≈0.999): ヒトメラノーマ転移巣の遺伝子発現解析において、T細胞浸潤型メラノーマのサブセットはIDO、PD-L1、FoxP3をすべて高発現し、これらはいずれもCD8+ T細胞シグネチャーと極めて強く相関した (Pearson r≈0.999)。免疫組織化学 (IHC) 解析 (n=16メラノーマ転移巣切片) でも、CD8+細胞密度はFoxP3+ Treg密度と有意に相関 (R2=0.6689, P<0.0001) し、PD-L1発現 (P=0.035) およびIDO発現 (P=0.002) とも有意に相関した (Fig. 1)。これらの結果は、T細胞浸潤型腫瘍において、これら3つの免疫抑制経路が協調的にアップレギュレーションされていることを示唆する。この強い相関は、免疫応答の存在がこれらの免疫抑制因子の誘導を駆動している可能性を強く裏付けるものである。

IDOおよびPD-L1の誘導はCD8+ T細胞とIFNγの両方に依存: B16.SIYマウスモデルにおいて、CD8+ T細胞を除去するとIDOおよびPD-L1の腫瘍内mRNA発現が有意に低下した (P=0.0016 for IDO, P=0.01 for PD-L1)。具体的には、CD8+ T細胞除去群ではIDO mRNA発現がコントロール群と比較して約2.5-fold低下し、PD-L1 mRNA発現は約3.0-fold低下した。さらに、IFNγ欠損マウス (n=6 mice) では、CD8+ T細胞が存在してもIDOおよびPD-L1の誘導が消失した (Fig. 2A, B)。このことは、IDOおよびPD-L1が、腫瘍微小環境におけるCD8+ T細胞が産生するIFNγによって誘導される適応的免疫耐性機構であることを明確に示している。腫瘍細胞における主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIおよびII分子の発現増加もCD8+ T細胞に依存していた。

Treg蓄積はCD8+ T細胞依存性だがIFNγ非依存性であり、既存Tregの動員と増殖による: 腫瘍内Tregの蓄積はCD8+ T細胞depletionによって有意に低下したが (P<0.0001)、IFNγ欠損マウスでは影響を受けなかった (Fig. 2C, D)。CD8+ T細胞除去群では、腫瘍内のFoxP3+ Tregの絶対数がコントロール群と比較して約70%減少した (n=5 mice/group)。FoxP3-GFPレポーターマウスを用いた実験では、腫瘍内FoxP3+ TregはFoxP3- CD4+ T細胞からの転換ではなく、既存のFoxP3+ Tregの動員と増殖によって説明されることを確認した (Fig. 3)。BrdU取り込み解析では、腫瘍内Tregの約27%がBrdU陽性 (増殖中) であったが、CD8+ T細胞除去により約10%に減少した (P<0.0001)。これは、CD8+ T細胞がTregの局所増殖も促進することを示唆する (Fig. 4)。リンパ節におけるTregの増殖率はCD8+ T細胞除去の影響を受けなかったが、腫瘍内では有意な減少が認められた (P=0.002)。

Treg動員機序:CD8+ T細胞産生CCL22によるCCR4+ Treg誘引と増殖促進: 活性化CD8+ T細胞がCCL22を産生することをELISAで確認した。in vitroで活性化されたCD8+ T細胞は、未刺激細胞と比較してCCL22 mRNA発現が約15-fold増加した。百日咳毒素処理 (Giタンパク質共役受容体シグナル阻害) またはCCR4アンタゴニストC021の投与により、腫瘍内Treg蓄積が有意に抑制された (P=0.0024, P<0.0001) (Fig. 5A)。具体的には、百日咳毒素処理によりTregの腫瘍内浸潤が約80%阻害され、C021処理では約90%阻害された (n=6 mice/group)。ヒト活性化CD8+ T細胞もCCL22を産生し、このCCL22がヒトCCR4+ Tregの腫瘍への動員を促進することを、in vitroのTranswellアッセイおよびNOD/SCIDマウスのヒトメラノーマ異種移植モデルで確認した (Fig. 6)。Transwellアッセイでは、活性化CD8+ T細胞上清は組換えCCL22と同程度のTreg遊走を誘導し、中和抗CCL22抗体により遊走が約70%抑制された。

考察/結論

本研究は、IDO、PD-L1、Tregという3つの主要な免疫抑制経路が、癌細胞によって先制的に設置されるのではなく、CD8+ T細胞による抗腫瘍免疫応答を受けて誘導されるネガティブフィードバック機構であることを包括的に実証した。この知見は、これまでの癌細胞が免疫抑制環境を積極的に形成するという見方と異なり、免疫系自体が適応的に免疫抑制を誘導するというメカニズムを提示する。

新規性: 本研究で初めて、IDOおよびPD-L1の誘導がIFNγを介した転写的なメカニズムに依存し、Tregの蓄積はCD8+ T細胞が産生するCCL22-CCR4ケモカイン軸による動員と局所増殖促進という、異なるメカニズムによって駆動されることを新規に明らかにした。これは、免疫系が自らの活性化に対して適応的な免疫抑制を誘導するという、これまで報告されていないメカニズムである。

臨床応用の観点から、これらの結果は、PD-1/PD-L1ブロッキング、IDO阻害、Treg除去などの免疫チェックポイント療法が、既にCD8+ T細胞が浸潤しているT細胞炎症型腫瘍 (T cell-inflamed phenotype) の患者で特に有効である可能性を強く示唆する。この「T cell-inflamed tumor microenvironment」を免疫療法のバイオマーカーとして活用する概念は、その後の癌免疫療法開発の重要な指針となった。例えば、PD-L1発現が治療効果の予測因子となるという初期データは、この概念を支持するものである (Taube et al. SciTranslMed 2012)。これらの知見は、免疫療法の臨床応用における患者選択の最適化に貢献する。

残された課題としては、T細胞非浸潤型腫瘍における免疫回避メカニズムの解明が挙げられる。本研究の知見はT細胞浸潤型腫瘍に焦点を当てており、非浸潤型腫瘍には別のアプローチが必要である。また、CD8+ T細胞がCCL22を産生する主要な供給源であることを示したが、マクロファージなどの他の間質細胞からのCCL22産生の寄与を完全に排除するものではない。今後の検討課題として、これらの細胞の役割をさらに詳細に検討する必要がある。さらに、複数の免疫抑制経路が同時に関与して免疫回避を促進していることから、複数の免疫チェックポイントを同時に標的とする併用療法が、単剤療法よりも優位である可能性が示唆される (Curran et al. ProcNatlAcadSciUSA 2010)。

方法

ヒトメラノーマ転移巣の遺伝子発現データ (Affymetrix gene expression profiling) を用いてCD8+ T細胞シグネチャーとIDO/PD-L1/FoxP3の相関解析 (Pearson r) を実施した。また、免疫組織化学 (IHC) (n=16メラノーマ転移巣切片) でCD8、FoxP3、PD-L1、IDOを染色し、R2およびP値を算出した。 マウスモデルとして、SIY-GFP (SIY抗原を発現する緑色蛍光タンパク質標識) 抗原を発現するB16メラノーマ細胞 (B16.SIY) をC57BL/6マウスに皮下移植し、以下の実験を行った。(1) CD8+ T細胞depletion (抗CD8 mAb投与) により、IDO/PD-L1/Treg誘導へのCD8+ T細胞の関与を検証した。(2) IFNγ欠損 (IFNγ-KO) マウスを用いて、IDO/PD-L1/Treg誘導へのIFNγ依存性を検証した。 Treg動員機序の解析では、CD8+ T細胞由来ケモカイン産生をELISAおよびPCRで測定した。Giタンパク質共役受容体シグナル阻害剤である百日咳毒素 (pertussis toxin) およびCCR4 (CCケモカイン受容体4) アンタゴニストC021の投与により、Treg動員阻害実験を行った。Tregの起源を解明するため、FoxP3-GFPレポーターマウスを用いてFoxP3- CD4+ T細胞からの転換の有無を確認した。また、BrdU取り込みアッセイでTregの増殖率を測定した。 ヒト系での検証として、活性化CD8+ T細胞のCCL22 (CCケモカインリガンド22) 産生をELISAで確認した。さらに、NOD/SCIDマウスにヒトM537メラノーマを異種移植したモデルにCCR4+ Tregを注入し、Treg動員要件を評価した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを用い、非ガウス分布を仮定し、Mann-Whitney U検定またはKruskal-Wallis検定を実施した。