• 著者: Briana Rose Halle, Allison Betof Warner, Farzana Y Zaman, et al.
  • Corresponding author: Briana Rose Halle (Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, TN)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-09-28
  • Article種別: Original Article (後方視的多施設研究)
  • PMID: 34635495

背景

乾癬は一般人口の2〜3%に影響する免疫介在性疾患であり、がん患者においてもICI (immune checkpoint inhibitor) の適応が増える中で乾癬を持つ患者への対応が課題となっている。乾癬の病態ではTh1応答が主体であり、ICIによるT細胞活性化は乾癬の増悪 (フレア) を引き起こす可能性がある。

既存自己免疫疾患 (AID; autoimmune disease) を持つがん患者へのICIの安全性は近年活発に検討され、進行がんでの後方視的コホート (Cortellini et al. Oncologist 2019)、系統的レビュー (Tison et al. NatRevRheumatol 2022)、メラノーマでの抗PD-1/ipilimumab併用研究 (Brown et al. JImmunotherCancer 2021) が、AID患者でもフレアの多くが管理可能であることを報告してきた。しかし、これらの研究で乾癬患者は各コホート数例しか含まれず、乾癬という単一疾患に絞った安全性・有効性データは不足しており、乾癬フレアと治療転帰の関連は未解明であった。本研究はこの空白を埋めることを目的とする。

目的

既存乾癬を持つがん患者を対象に、ICI療法 (抗PD-1/PD-L1、抗CTLA-4、または併用) の安全性 (乾癬フレアおよびde novo irAE) と有効性 (PFS、OS) を多施設後方視的に評価し、乾癬フレアと治療転帰の関係を明らかにすること。

結果

患者背景:76例、中央値年齢67歳 (範囲25〜92歳)、男性50例 (66%)。がん種:メラノーマ62例 (82%)、NSCLC 5例 (7%)、頭頸部がん2例 (3%) など。ICI:抗PD-1/PD-L1 51例 (67%)、抗CTLA-4 8例 (11%)、抗PD-1/CTLA-4併用17例 (22%)。乾癬の種類:尋常性乾癬46例 (61%)、乾癬性関節炎合併15例 (20%)。ICI開始時の全身免疫抑制薬使用はわずか2例 (3%)。

乾癬フレアの発生と重症度:43例 (57%) にICI投与後に乾癬フレアを認めた (中央値発現時期44日後、範囲1〜725日) (Fig 2)。皮膚フレア39例 (51%)、関節・虹彩炎などの皮膚外フレア7例 (9%)。重症度:Grade 1が15例 (20%)、Grade 2が21例 (28%)、Grade 3が6例 (8%)、Grade 4が1例 (1%)。Grade 3-4の重篤なフレアは7例 (9%) のみであった。

乾癬フレアの管理:フレアを経験した43例中23例 (53%) が外用療法のみで管理可能であった。全身療法 (アシトレチン、メトトレキサート、プレドニゾン、アプレミラスト) を要したのは16例 (37%) で、皮膚フレアのみの患者では外用療法での管理が大半を占めた。一方、関節炎・虹彩炎などの皮膚外フレア (7例、9%) は全身免疫抑制療法をより要しやすい傾向にあった。ICIの中止を要した患者はわずか5例 (7%) で、いずれも早期 (中央値より前) に重篤なフレアを発症した症例であった。

De novo irAE:45例 (59%) にde novo irAE (乾癬以外のirAE) を認めた。Grade 3-4は17例 (22%)。内訳:大腸炎16例 (21%)、皮膚毒性 (乾癬以外) 13例 (17%)、内分泌11例 (14%)、肝炎11例 (14%) など。Grade 3-4 irAEの頻度はレジメン依存性で、抗PD-1/PD-L1単剤16%に対し、ipilimumab単剤37.5%、併用療法35%と高かった。Grade 5 (致死的) 事象は認めなかった。irAEによるICI中止は22例 (29%) に発生し、乾癬フレアによる中止 (7%) を大きく上回った。

有効性 (全体76例) :全奏効率 (ORR; objective response rate) は52.1%で、完全奏効 (CR) 23例・部分奏効 (PR) 13例、安定 (SD) 13例であった (Fig 1)。中央値PFSは20.0ヵ月、中央値OSは87.3ヵ月と長く、既存乾癬を有してもICIの有効性は一般のメラノーマ集団に比べ遜色なかった。がん種別ではメラノーマ62例 (82%) が大半を占め、ICI併用療法群でより高い奏効傾向が観察された。CR率の高さ (30%) は対象の8割超がメラノーマで、かつ併用療法を受けた17例 (22%) を含むコホート構成を反映している。観察期間中央値は十分に長く、長期生存の評価に耐える追跡が得られていた。

乾癬フレアと生存の関連 (ランドマーク解析) :不死時間バイアスを補正したランドマーク解析でも、フレア群は非フレア群より有意に良好な転帰を示した (Fig 3)。全がん種では中央値PFSがフレア群39ヵ月・非フレア群8.7ヵ月で、フレア群が約4.5倍延長していた (39 vs 8.7、P=0.049)。OSも非フレア群29.3ヵ月に対しフレア群は未達であった (P=0.045)。進行メラノーマ (N=52) ではこの差がさらに顕著で、中央値PFSはフレア群43.8ヵ月・非フレア群5.0ヵ月 (43.8 vs 5.0、P=0.015)、OSは非フレア群29.3ヵ月に対しフレア群未達であった (P=0.024)。フレアが治療反応のサロゲートとなる可能性を示すが、フレア群でICIをより長く継続できた交絡の関与は否定できない。

フレアに関連する因子と中止リスク:多変量ロジスティック回帰でフレアと有意に関連した因子はICI投与期間のみであった (P=0.019)。ICI種類 (抗CTLA-4 vs 抗PD-1、OR 0.31、95% CI 0.06-1.64)、既往乾癬治療の有無 (Yes vs No、OR 2.05、95% CI 0.77-5.44)、年齢 (OR 0.67、95% CI 0.33-1.38)、性別はいずれもフレアと有意に関連しなかった。一方、ICI中止のリスクは抗PD-1/CTLA-4併用療法で有意に高く (Anti-PD-1比 OR 5.32、95% CI 1.57-18.06)、フレアそのものよりde novo irAEと併用レジメンが中止の主因であった。

考察/結論

本研究は乾癬を持つがん患者を対象とした最大規模のICI研究であり、乾癬フレア57%という高率を報告した。この割合は他のAID全般を混在させた先行研究 (27〜47%) と異なり明確に高く、乾癬の免疫学的特性 (Th1優位) がICIとのT細胞相互作用を増強する可能性を示唆する。乾癬という単一疾患に焦点を当て、フレアと生存転帰を直接結びつけた点が本研究の新規な貢献である。

最も重要な知見は、高頻度のフレアにもかかわらず93%の患者が標準的乾癬治療で管理可能であり、ICI中止率はわずか7%という点である。比較として、de novo irAEによるICI中止率 (29%) の方がむしろ高かった。このことは乾癬フレアの管理においてICIを継続できることを強く支持する。

フレア群での有意に良好な生存 (PFS 39 vs 8.7ヵ月) は、irAEと治療効果の関連を示す他の報告と一致する。ただし、フレア発現に投与期間が関連するというバイアスを考慮する必要があり、ランドマーク解析によってある程度補正されている。

臨床応用として、乾癬はICI療法の禁忌とはならないことが明確に示された。皮膚科との連携により適切なフレア管理を行いながらICI継続が可能であり、フレア発症を理由とした安易なICI中止は避けるべきである。特に関節炎フレア (乾癬性関節炎) は皮膚フレアより全身免疫抑制療法を要しやすく、関節の状態評価が重要である。

残された課題として、本研究は後方視的デザインであり、乾癬重症度が医療記録に基づくため PASI (Psoriasis Area and Severity Index) などの客観的スコアによる標準化がなされていない点、全身免疫抑制薬がICI効果を減弱させるか否かを評価する検出力に乏しい点が挙げられる。フレアと生存の関連が真の生物学的連関か、フレア群でICIを長く継続できたことによる交絡かを峻別するには、前向きコホートでの検証が求められる。

方法

米国・オーストラリア・ドイツの8施設での国際後方視的コホート研究。対象は電子カルテ上で既存乾癬 (尋常性乾癬・乾癬性関節炎を含む) の診断を持ち、少なくとも1回のICI (抗PD-1/PD-L1、抗CTLA-4、または両者併用) 投与を受けたがん患者76例。各施設で乾癬フレアの有無・発現時期・重症度 (CTCAE; Common Terminology Criteria for Adverse Events によるGrade)・管理方法 (外用/全身療法/ICI中止) と、乾癬以外のde novo irAEを医療記録から後方視的に抽出した。腫瘍奏効はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1相当の臨床評価で判定した。PFS (progression-free survival) およびOS (overall survival) はKaplan-Meier法で推定し、乾癬フレア群と非フレア群の生存曲線をlog-rank検定で比較した。フレア発現が時間依存性であることに起因する不死時間バイアス (immortal time bias) を補正するため、ICI開始1.5ヵ月時点を起点とするランドマーク解析を行った。フレアに関連する臨床因子は多変量解析 (Cox比例ハザードモデル) で評価し、ICI投与期間・ICI種類・既往乾癬治療・年齢・性別を共変量とした。P<0.05を統計学的有意水準とした。