- 著者: Lauren J Brown, Alison Weppler, Prachi Bhave, et al.
- Corresponding author: Matteo S Carlino (Westmead Hospital, Sydney, Australia)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-04-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 33963010
背景
イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)と抗PD-1抗体(ニボルマブやペムブロリズマブなど)の併用免疫療法は、単剤療法と比較して複数の癌種において高い奏効率と生存期間の延長を示し、進行メラノーマを含む多くの癌種で一次治療として承認されている。これらの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、免疫調節において重要な役割を果たすCTLA-4およびPD-1経路を標的とすることで、強力な抗腫瘍免疫応答を誘導する。しかし、その作用機序上、免疫恒常性の破綻を招き、免疫関連有害事象(irAE)を引き起こすリスクも高いことが知られている。特に併用療法では、単剤療法よりもirAEの発生率と重症度が増加することが報告されている。
これまでのICIの臨床試験では、既存の自己免疫疾患(AID)を有する患者は、重篤なirAEやAIDの増悪(フレア)のリスクが懸念されるため、一貫して除外されてきた。このため、既存AID患者におけるICIの安全性と有効性に関するデータは限られていた。しかし、近年、単剤のイピリムマブや抗PD-1抗体に関する後方視的研究がいくつか実施され、既存AID患者においても単剤ICIが比較的安全に使用できる可能性が示唆されてきた。例えば、Johnson et al. JAMAOncol 2016は、進行メラノーマ患者30例を対象としたイピリムマブ単剤療法において、27%の患者でAIDフレアを認め、33%でGrade 3-4のirAEが発生したが、奏効率は20%であったと報告した。また、Menzies et al. AnnOncol 2017は、抗PD-1抗体単剤療法を受けた既存AID患者において、38%でAIDフレア、10%でGrade 3-4のirAEが発生し、奏効率は33%であったと報告している。これらの研究は、既存AID患者における単剤ICIの忍容性と一定の有効性を示唆するものの、併用療法に関するデータは依然として不足していた。
既存AID患者における併用ICI療法に関する報告は、これまでにAbu-Sbeih et al. JClinOncol 2020が炎症性腸疾患(IBD)患者10例、Tison et al. ArthritisRheumatol 2019が既存AID患者3例を含む小規模なコホートで併用療法を評価したに過ぎず、その安全性と有効性を系統的に評価するにはデータが不十分であった。特に、併用療法は単剤療法よりも毒性リスクが著しく高いことが知られており、既存AID患者ではirAEやAIDフレアのリスクがさらに増大する可能性が懸念されていた。このような背景から、既存AIDを有する進行メラノーマ患者に対するイピリムマブと抗PD-1抗体併用療法の安全性と有効性を包括的に評価し、その臨床的意義を明らかにすることは喫緊の課題であり、この領域には依然として未解明な点が残されている。
目的
本研究の目的は、既存の自己免疫疾患(AID)を有する進行メラノーマ患者に対して、イピリムマブと抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)の併用免疫療法を施行した場合の安全性プロファイルと有効性を、国際多施設後方視的コホート研究により評価することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- 安全性評価: 併用療法におけるAIDフレアの発生率、重症度、発現時期、および管理方法を詳細に検討する。また、AIDとは無関係な新規の免疫関連有害事象(irAE)の発生率、重症度、および管理方法を評価する。
- 有効性評価: 客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)を算出し、既存AID患者における併用療法の抗腫瘍効果を評価する。
- 予後因子の検討: ベースラインでの免疫抑制剤(IS)の使用が、AIDフレア、irAE、および治療効果(ORR、PFS、OS)に与える影響を分析する。特に、IS使用患者と非使用患者の間で生存転帰に差があるかを比較検討する。
- AIDサブタイプ別のリスク評価: 内分泌系AID患者と非内分泌系AID患者の間で、AIDフレアの発生率および生存転帰に違いがあるかを検討し、AIDの種類に応じたリスク層別化の可能性を探る。
これらの評価を通じて、既存AID患者に対する併用ICI療法の臨床的有用性と、安全な治療戦略を確立するための重要な知見を提供することを目的とした。本研究は、この特定の患者集団における併用ICI療法の安全性と有効性に関する知識ギャップを埋めることを目指す。
結果
患者背景: 本研究には、既存AIDを有する進行メラノーマ患者55例が組み入れられた。患者の中央値年齢は63歳(範囲23-83歳)で、男性26例(47%)、女性29例(53%)であった。ECOGパフォーマンスステータスは、53例(96%)が0または1であった。AJCC病期は、M1cまたはM1d (distant metastasis)が69%を占めた。ベースラインLDH値は40例(73%)で正常であった。BRAF/NRAS変異ステータスは、BRAF/NRAS野生型が29例(53%)、BRAF変異が17例(31%)、NRAS変異が9例(16%)であった。 既存AIDの内訳は、内分泌疾患が21例(38%)(橋本病11例、バセドウ病8例、1型糖尿病2例)、消化器疾患が14例(25%)(潰瘍性大腸炎7例、クローン病3例、セリアック病4例)、リウマチ性疾患が11例(20%)(関節リウマチ7例、シェーグレン症候群1例、ベーチェット病1例、多発性筋痛症1例、ぶどう膜炎1例)、皮膚疾患が7例(13%)(乾癬6例、円形脱毛症1例)、神経疾患が2例(4%)(多発性硬化症2例)などであった(Table 1)。治療開始時点で臨床的に活動性のAID症状を有していた患者は10例(18%)であった。ベースラインで免疫抑制剤(IS)を服用していた患者は13例(24%)で、内訳はコルチコステロイド単独5例、ステロイド温存薬単独5例、両者併用3例であった。投与されたICIは、イピリムマブとニボルマブの併用が46例(84%)、イピリムマブとペムブロリズマブの併用が9例(16%)であった。イピリムマブ3 mg/kgとニボルマブ1 mg/kgの3週ごと4回投与後にニボルマブ維持療法を受けた患者が40例(73%)であった。
既存AIDのフレア発生と重症度: 55例中18例(33%)に既存AIDのフレアが発生した(Table 2)。フレアの発生率は、リウマチ性疾患で7/11例(64%)、消化器疾患で5/14例(56%)、皮膚疾患で3/7例(43%)と高かったのに対し、内分泌疾患では3/21例(11%)と低かった。フレア発現までの中央値期間は19日(範囲4-167日)であった。フレアの重症度は、Grade 1-2が11例(61%)、Grade 3が5例(28%)、Grade 4が2例(11%)であった。Grade 4フレアは両方とも潰瘍性大腸炎の患者で発生し、集中治療室(ICU)入室を要する重篤な経過をたどった。ベースラインでISを服用していた患者では、IS非服用患者と比較してフレアのリスクが有意に高かった(54% vs 26%、オッズ比 [OR] 4.59、95% CI 1.16-18.04、p=0.03)。フレアが発生した18例中13例(72%)がコルチコステロイドで管理され、6例(33%)がシクロスポリン、サラゾスルファピリジン、インフリキシマブ、メトトレキサート、レフルノミドなどの追加の免疫抑制剤を必要とした。8例(44%)がフレアのために併用療法を中止した。
新規免疫関連有害事象(irAE)の発生: 55例中37例(67%)に、既存AIDとは無関係な新規irAEが発生した(Table 3)。Grade 3-4のirAEは21例(38%)に発生し、内訳は大腸炎9例、肝炎5例、大腸炎と肝炎の併発2例、肺炎2例、甲状腺炎1例、重症筋無力症1例、ギラン・バレー症候群1例であった。治療関連死亡は認められなかった。9例(17%)がAIDフレアと新規irAEの両方を経験した。irAE管理のために25例(68%)が免疫抑制療法を必要とし、15例(41%)がirAEのために両方のICIを中止した。
有効性評価: 客観的奏効率(ORR)は55%(30/55例)であり、完全奏効(CR)が25%、部分奏効(PR)が30%であった。奏効した患者の77%は解析時点で奏効が継続中であった。中央値無増悪生存期間(PFS)は10ヵ月(95% CI 0.01-32.10)、中央値全生存期間(OS)は24ヵ月(95% CI 15.88-32.12)であった(Figure 3)。AIDフレアの有無によるORRに有意差は認められなかった(フレアあり44% vs フレアなし59%、p=0.39)。
ベースラインIS使用と生存転帰: ベースラインでISを服用していた患者群の中央値OSは11ヵ月(95% CI 3.42-18.58)であり、IS非服用患者群の31ヵ月(95% CI 20.89-41.11)と比較して有意に短縮していた(p=0.005)(Figure 5B)。12ヵ月OS率は、IS使用群で23%であったのに対し、IS非使用群では66%であった。同様に、IS使用群の中央値PFSは3ヵ月(95% CI 0.71-5.30)であり、IS非使用群の33ヵ月(95% CI 8.38-57.62)と比較して有意に短縮していた(p=0.012)(Figure 5A)。
AIDサブタイプ別のリスク評価: 内分泌系AID患者(甲状腺炎18例、1型糖尿病1例)は、非内分泌系AID患者と比較してAIDフレアの発生率が有意に低かった(16% vs 42%、p=0.05)。また、内分泌系AID患者群の中央値OSは35ヵ月であり、非内分泌系AID患者群の22ヵ月と比較して有意に良好であった(p=0.046)。irAEの発生率は両群間で類似していた。
考察/結論
本研究は、既存の自己免疫疾患(AID)を有する進行メラノーマ患者に対するイピリムマブと抗PD-1抗体の併用免疫療法について、安全性と有効性を系統的に評価した初の国際多施設後方視的研究である。本研究の結果は、既存AID患者においても併用ICI療法が許容可能な安全性プロファイルと高い有効性を示す可能性を強く示唆する。
有効性に関する所見と先行研究との比較: 本研究で示された客観的奏効率(ORR)55%は、既存AIDを有さない患者を対象とした主要な臨床試験(例: Wolchok et al. NEnglJMed 2017のCheckMate 067試験における58%)に匹敵するものであった。これは、特にベースラインで免疫抑制剤(IS)を使用しておらず、AIDが臨床的に非活動性である患者においては、通常の患者集団と同等の治療効果が期待できることを示唆する。この知見は、既存AID患者に対する併用ICI療法の有効性に関するこれまでの懸念を払拭するものであり、臨床的意義は大きい。
安全性プロファイルと新規性: 既存AIDのフレアは33%の患者に発生し、新規irAEは67%の患者に認められた。これらの発生率は、単剤ICI療法に関する既報のデータ(Johnson et al. JAMAOncol 2016やMenzies et al. AnnOncol 2017)と比較して高い傾向にあり、併用療法がより高い免疫毒性リスクを伴うという一般的な認識と一致する。特に、リウマチ性疾患(64%)や消化器疾患(56%)の患者でフレア発生率が高く、炎症性腸疾患(IBD)の患者では生命を脅かす重篤なフレア(Grade 4)が発生したことは、本研究で初めて詳細に報告された新規所見である。これらのフレアの多くは標準的な治療プロトコルで管理可能であったが、一部の患者では免疫抑制剤の追加やICIの中止が必要であった。
ベースラインIS使用の影響と残された課題: 本研究の最も重要な発見の一つは、ベースラインでISを服用していた患者群で、IS非服用患者群と比較して全生存期間(OS)が有意に短縮したことである(中央値11ヵ月 vs 31ヵ月、HR 0.35, 95% CI 0.17-0.70, p=0.005)。この結果は、Tison et al. ArthritisRheumatol 2019の報告とも一致しており、IS療法が腫瘍免疫応答を減弱させ、ICIの治療効果を損なう可能性を強く示唆する。この知見は、既存AID患者に対する併用ICI療法を検討する際に、ベースラインでのIS使用状況を慎重に評価し、可能であれば治療開始前にISの減量や中止を検討する必要があるという臨床的含意を持つ。しかし、IS中止の安全性と有効性については、今後の前向き試験によるさらなる検討が残された課題である。
AIDサブタイプ別のリスク評価: 内分泌系AID患者は、非内分泌系AID患者と比較してフレア発生率が低く(16% vs 42%、p=0.05)、OSも有意に良好であった(中央値35ヵ月 vs 22ヵ月、HR 0.44, 95% CI 0.20-0.97, p=0.046)。この結果は、AIDの種類によって併用ICI療法の安全性プロファイルと予後が異なる可能性を示唆しており、個々の患者のAIDタイプに応じたリスク層別化と治療戦略の個別化が重要であることを強調する。特に、IBDや関節リウマチなどの高リスク疾患を有する患者では、より厳重なモニタリングと専門医との連携が不可欠である。
臨床応用: 本研究の知見は、既存AIDを有する進行メラノーマ患者に対する併用ICI療法の臨床現場での意思決定に重要な情報を提供する。IS非使用で臨床的に非活動性のAIDを持つ患者、特に内分泌系AIDの患者では、慎重なモニタリングと専門科との密な連携のもと、併用ICI療法を考慮できる。しかし、IBDやリウマチ性疾患の患者、およびベースラインでISを使用している患者では、重篤なフレアや治療効果減弱のリスクが高いことを患者と医療者双方が認識し、十分なインフォームドコンセントを行う必要がある。
研究の限界: 本研究は後方視的デザインであるため、患者選択バイアスやデータ収集の限界が内在する。また、患者数が55例と限られているため、統計的検出力に制約があり、一部のサブグループ解析では有意差を検出できなかった可能性がある。中央値フォローアップ期間が14ヵ月と比較的短いため、長期的な安全性と有効性に関する評価にはさらなる追跡が必要である。今後の課題として、これらの限界を克服するための前向き試験や、IS中止の可能性を検討する研究が求められる。
方法
本研究は、2015年3月から2020年2月までの期間に、オーストラリア、米国、フランスの計10の国際的な施設で実施された後方視的コホート研究である。各施設の倫理審査委員会の承認を得て、患者の医療記録からデータが抽出された。
患者選択: 対象患者は、進行メラノーマと既存の自己免疫疾患(AID)の診断を受け、イピリムマブと抗PD-1抗体の併用療法を少なくとも1回投与された患者55例であった。適格なAIDには、リウマチ性疾患(関節リウマチ、シェーグレン症候群、ベーチェット病、多発性筋痛症、ぶどう膜炎など)、消化器疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病など)、内分泌疾患(バセドウ病、橋本病、1型糖尿病など)、皮膚疾患(乾癬、円形脱毛症など)、神経疾患(多発性硬化症など)、血液疾患(特発性血小板減少性紫斑病など)、その他(サルコイドーシスなど)が含まれた。AIDの診断は、各施設の標準的な診断基準に基づき、多くの場合、病歴と血清学的検査で確認された。炎症性腸疾患(IBD)および皮膚疾患の患者では、全例で生検による診断が確認された。
データ収集: ベースラインの患者特性として、年齢、性別、ECOGパフォーマンスステータス、AJCC病期(第8版)、脳転移および肝転移の有無、血清乳酸脱水素酵素(LDH)レベルが収集された。既存AIDの重症度は、治療担当医による臨床活動性評価、ベースラインでの免疫抑制剤(IS)の使用とその用量、および最近のAIDフレアの有無によって評価された。IS (Immunosuppressive agents) は、コルチコステロイド単独、ステロイド温存薬単独、または両者併用として定義された。
安全性評価: 併用免疫療法の安全性は、AIDの増悪またはフレア(全身性または免疫抑制療法を必要とするもの、あるいは免疫療法の中断を要するもの)の発生、および従来のirAEの発生と管理によって評価された。AIDフレアは、患者の治療担当腫瘍医によって診断され、必要に応じてAID専門医と連携して確認された。irAEおよびフレアの重症度は、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v5.0基準を用いて定義された。
有効性評価: 併用免疫療法の有効性は、Response Evaluation Criteria in Solid Tumours(RECIST)v1.1基準、またはフルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影(FDG-PET)画像による臨床評価に基づいて測定された。客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)が評価項目とされた。
統計解析: カテゴリ変数および連続変数は、それぞれパーセンテージおよび中央値を用いて要約された。正式な仮説検定は実施されなかった。OSおよびPFSは、カプラン・マイヤー法を用いて推定され、ログランク検定により比較された。すべての患者は最終フォローアップ時に打ち切られた。PFSは治療開始から病勢進行までの期間、OSは治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。単変量および多変量Cox回帰分析を用いて予測因子を特定した。すべての解析はIBM SPSS StatisticsおよびR統計ソフトウェアを用いて実施された。データ解析は2020年6月21日に実施された。