• 著者: Alessio Cortellini, Sebastiano Buti, Daniele Santini, et al.
  • Corresponding author: Alessio Cortellini (St. Salvatore Hospital, L’Aquila, Italy)
  • 雑誌: The Oncologist
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30796151

背景

既存の自己免疫疾患(AID)を有するがん患者は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の臨床試験から通常除外されてきた。しかし、実臨床ではこのような患者に遭遇する機会は多く、ICI治療の安全性と有効性に関するエビデンスが不足していることが課題であった。これまでの研究は、主に特定のがん種(例: メラノーマ)や少数例に限定されており、非小細胞肺がん(NSCLC)や腎細胞がんなど複数の癌種を含む大規模なリアルワールドデータは乏しい状況であった。特に、抗PD-1療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)におけるAIDの有無、その活動性、および性別が免疫関連有害事象(irAE)の発生に与える影響を定量的に評価する必要があった。また、女性患者においてirAEの頻度が高いという性差の観点も、既存研究では十分に検討されていなかった点が不足していた。Johnson et al. JAMAOncol 2016Menzies et al. AnnOncol 2017Leonardi et al. JClinOncol 2018などの先行研究は存在するものの、より多様な癌種と大規模なコホートでの包括的な評価が未解明であった。

目的

抗PD-1療法を受けた進行がん患者において、既存AIDの有無および活動性(活動性AID vs 非活動性AID)がirAE発生率、グレード3/4 irAEリスク、客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)に与える影響を定量的に評価すること。さらに、女性患者におけるirAE頻度増加を含む性差についても検討し、その臨床的意義を明らかにすることを目的とした。

結果

患者背景と既存AIDの頻度: 全751例の進行がん患者が登録され、中央値年齢は69歳(範囲24-92歳)、男性が499例(66.4%)、女性が252例(33.6%)であった(Table 1)。主な原発巣は、NSCLCが492例(65.5%)、メラノーマが159例(21.2%)、腎細胞がんが94例(12.5%)であった。抗PD-1療法は、ニボルマブが569例(75.8%)、ペムブロリズマブが182例(24.2%)に投与された。既存AIDの既往を有する患者は85例(11.3%)であり、そのうち70例(82.4%)が非活動性AID、15例(17.6%)が活動性AIDであった。既存AIDの内訳は、甲状腺疾患が51例(60%)、皮膚疾患が14例(16.4%)、リウマチ疾患が10例(11.8%)と高頻度であった(Table 2)。

全グレードirAEの発生率と関連因子: 全患者における全グレードirAEの発生率は42.9%(95% CI 38.3-47.8%)であった(Table 3)。既存AIDを有する患者群では、全グレードirAE発生率が65.9%(95% CI 49.7-85.5%)と、AIDなし群の39.9%(95% CI 35.2-45.0%)と比較して有意に高かった(p < .0001)。多変量解析(Table 6)では、非活動性AID(調整オッズ比 [OR] 2.5, 95% CI 1.4-4.5, p = .0005)、活動性AID(調整OR 4.2, 95% CI 1.3-13.6, p = .0162)、女性(調整OR 1.4, 95% CI 1.1-1.9, p = .0004)、ECOG PS 0-1(調整OR 2.1, 95% CI 1.3-3.4, p = .003)が全グレードirAE発生の独立した有意因子として同定された(Figure 2A)。

グレード3/4 irAEの発生率とフレア: 全患者におけるグレード3/4 irAEの発生率は8.9%(95% CI 6.9-11.3%)であった(Table 3)。既存AIDを有する患者群では9.4%(95% CI 4.1-18.5%)であり、AIDなし群の8.8%(95% CI 6.7-11.4%)と比較して有意差は認められなかった(p = .8663)。同様に、非活動性AID群(8.6%, p = .9638)および活動性AID群(13.3%, p = .5487)においても、AIDなし群との間に有意な差はなかった。既存AIDを有する85例中40例(47.1%)に既存AIDのフレアが発生し、そのうちグレード3/4のirAEはすべてフレアによるものであった。特に、甲状腺疾患患者の66.6%、皮膚疾患患者の50%、消化器/肝臓疾患患者の100%でフレアが認められた(Table 5)。

治療中止率と有効性: irAEによる治療中止率は、既存AIDを有する患者群で7.0%(6/85例)、AIDなし群で7.2%(48/666例)であり、有意差はなかった(p = .8086)。活動性AID群の治療中止率は13.3%(2/15例)であったが、非活動性AID群(5.7%, 4/70例)やAIDなし群と比較して有意差はなかった。全患者におけるORRは38.5%(95% CI 31.5-40.5%)であった。既存AIDの有無によるORRに有意差は認められず(p = .3170)、非活動性AID群で38.1%(95% CI 24.4-56.6%)、活動性AID群で50.0%(95% CI 23.0-76.9%)であった。中央値PFSは8.2ヵ月(95% CI 6.6-9.3ヵ月)、中央値OSは16.2ヵ月(95% CI 14.1-20.0ヵ月)であった。既存AIDの有無はPFSおよびOSに有意な影響を与えなかった。非活動性AID群の中央値PFSは14.4ヵ月(95% CI 5.3-17.1ヵ月)と、AIDなし群の8.0ヵ月(95% CI 6.6-9.1ヵ月)と比較して数値的に良好な傾向にあったが、統計的有意差はなかった。活動性AID群の中央値OSは9.8ヵ月(95% CI 5.8-24.6ヵ月)と、AIDなし群(16.5ヵ月, 95% CI 14.1-20.9ヵ月)や非活動性AID群(15.7ヵ月, 95% CI 10.3-24.3ヵ月)より短い傾向にあった。

考察/結論

本研究は、NSCLCを主体とする多様な癌種を含む751例の大規模リアルワールドコホートにおいて、既存AIDを有するがん患者に対する抗PD-1療法の安全性と有効性を包括的に評価した点で新規性を持つ。最も重要な知見は、既存AIDを有する患者では全グレードのirAE発生リスクが有意に高いものの、グレード3/4の重篤なirAEの発生率には有意差がないこと、および女性患者がirAEの独立した高リスク因子であることの2点である。

先行研究との違い: これまでのMenzies et al. AnnOncol 2017(irAE 29%)やLeonardi et al. JClinOncol 2018(irAE 38%)、Danlos et al. EurJCancer 2018(irAE 44.4%)の報告と比較して、本研究のAID患者における全グレードirAE発生率(65.9%)は高かった。この差異は、本研究コホートにおける甲状腺疾患の割合の高さ(60%)、NSCLC患者の比率(65.5%)、およびリアルワールド設定の違いが影響している可能性がある。しかし、グレード3/4 irAEの発生率に有意差がなかったという知見は、先行研究の結果と対照的ではなく、AIDがあっても重篤な毒性が増加しないという臨床的に重要なメッセージを提供する。

新規性: 本研究で初めて、大規模なリアルワールドデータを用いて、既存AIDの活動性(活動性 vs 非活動性)がirAE発生リスクに与える影響を定量的に評価した。多変量解析により、非活動性AIDで2.5倍、活動性AIDで4.2倍の全グレードirAE発生リスク増大が示されたことは新規の知見である。また、女性患者がirAEの独立した高リスク因子であるという発見は、女性の免疫系が男性より高反応性であるという生物学的知見と一致し、性差医療(gender medicine)の観点から今後の研究が必要な領域を示す。

臨床応用: 本研究の知見は、既存AIDを持つ進行がん患者に対する抗PD-1療法の臨床応用において重要な含意を持つ。特に非活動性AIDの患者では、全グレードirAEのリスクは高いものの、重篤なirAEのリスクは通常集団と同等であり、治療中止率や有効性にも有意差がないことから、抗PD-1療法が適応可能であると考えられる。活動性AIDの患者ではOSが短い傾向にあるため、より慎重な多分野連携による評価が推奨される。この結果は、既存AIDを有する患者に対しても免疫療法を提供できる可能性を示唆し、適切なカウンセリングに役立つ。

残された課題: 本研究の限界として、後方視的デザイン、中央での画像および毒性評価の欠如、およびAIDの経過や既往治療に関する詳細な情報が不足している点が挙げられる。例えば、既存AIDの診断時期や再燃歴、使用された免疫抑制剤の種類や期間に関する詳細なデータは収集されていない。また、irAE発症までの期間やその管理方法が臨床転帰に与える影響についても、詳細なデータが不足している。今後の検討課題として、これらの詳細な情報を収集し、irAE発症までの期間や管理方法が臨床転帰に与える影響を前向きに評価する研究が必要である。

方法

本研究は、2013年9月から2018年5月にかけて、イタリア国内15施設で抗PD-1療法(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)を受けた進行がん患者751例を対象とした後方視的・横断的観察研究である。本研究は、L’Aquila大学の倫理委員会(プロトコル番号32865)の承認を得て実施された。患者は、既存AIDの有無および活動性(治療開始時にコルチコステロイドまたは他の免疫抑制剤を使用している場合を活動性AIDと定義)に基づいて分類された。irAEは、米国国立がん研究所の有害事象共通用語規準(CTCAE)バージョン4.0を用いて評価された。ORRはRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)バージョン1.1に基づき評価された。irAE発生に関連する独立因子を特定するため、多変量ロジスティック回帰分析が用いられた。PFSおよびOSは、カプラン・マイヤー法(Kaplan-Meier method)を用いて推定され、ログランク検定(log-rank test)により群間比較が行われた。多変量解析にはコックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)が適用された。データカットオフは2018年8月であった。