CD47-SIRPa axis

一行要約

CD47-SIRPa axis は腫瘍細胞が表面分子 CD47 を介してマクロファージの SIRPa 受容体に “don’t eat me” シグナルを送り、貪食 (phagocytosis) を回避する innate immune checkpoint である。この軸の遮断はマクロファージによる腫瘍細胞の貪食を回復させる新規免疫療法標的として、肺癌を含む固形腫瘍で開発が進む。

メカニズム

腫瘍細胞上に過剰発現する CD47 がマクロファージの signal regulatory protein alpha (SIRPa) に結合すると、SIRPa 細胞内 ITIM のリン酸化を介して SHP-1/SHP-2 が動員され、貪食を駆動する myosin-II の重合・集積を抑制して効率的な phagocytosis を阻害する。これは適応免疫の PD-1/PD-L1 checkpoint に対する innate (先天) 免疫側の phagocytosis checkpoint と位置づけられる。貪食の開始はがん細胞表面の “eat me” シグナル — マクロファージの LRP1 (LDL receptor-related protein 1) を活性化する calreticulin、SLAMF7 (SLAM family member 7)、phosphatidylserine、オプソニン化抗体 — と “don’t eat me” シグナル (CD47、PD-L1、MHC class I) の比によって決まり、CD47 はこの天秤の主要な抑制側分子である (Lecoultre et al. JImmunotherCancer 2020)。CD47-SIRPa に続く第二の貪食 checkpoint として MHC class I 構成成分 B2M とマクロファージ LILRB1 (leukocyte immunoglobulin-like receptor B1) の軸が同定され、MHC-I 欠損腫瘍は貪食感受性が約2.5倍に亢進するため、T 細胞認識を逃れる MHC-I 低下が逆にマクロファージへの脆弱性を生むパラドックスが知られる (Lecoultre et al. JImmunotherCancer 2020)。

PD-1/PD-L1 軸は T 細胞のみならずマクロファージの貪食も直接制御する。腫瘍関連マクロファージ (Macrophage-TAM) の約50% が表面 PD-1 を発現 (主に M2 様 CD206+ MHCII-low 表現型) し、PD-1+ TAM は PD-1- TAM より貪食能が低く、T 細胞・B 細胞・NK 細胞を欠く免疫不全マウスでも抗 PD-1/PD-L1 がマクロファージ依存的に腫瘍を抑制する。この系で抗 CD47 を併用すると生存が有意に延長し、貪食 checkpoint と adaptive checkpoint が単一分子経路で統合制御されることが示された (Gordon et al. Nature 2017)。CD47 は免疫回避にとどまらず、卵巣がんモデルでは E-cadherin/N-cadherin 制御を介して EMT・転移・浸潤を促進するなど多面的に作用する (Kloosterman et al. Cell 2023)。

臨床位置づけ

抗 CD47 抗体 (magrolimab 等) や SIRPa 融合タンパク・抗 SIRPa 抗体が臨床開発されてきたが、赤血球の CD47 発現による貧血など on-target off-tumor 毒性、単剤効果の限界が課題で、固形腫瘍での開発は難航してきた。現在は腫瘍選択的な bispecific 設計、適切な併用パートナー (抗腫瘍抗体 / 化学療法 / 既存 IO) の探索、貪食を予測するバイオマーカーの開発が焦点である。肺癌では adaptive checkpoint 抵抗例への innate immunity 動員という観点から関心が持たれる。

Open Questions

  • 固形腫瘍 (肺癌) での CD47-SIRPa 遮断の有効性を示す臨床エビデンスの確立 (血液腫瘍での奏効が固形腫瘍に外挿できるか)
  • 赤血球の CD47 発現に由来する on-target off-tumor 毒性 (貧血) を回避する腫瘍選択的設計 (CD47×TAA bispecific / cis 標的化 TrME / mRNA-LNP in situ 発現)
  • 最適併用パートナー (抗腫瘍抗体 / IO / 化学療法) と、貪食を予測するバイオマーカー (eat-me / don’t-eat-me シグナル比、PD-1+ TAM 割合) の確立
  • CD47-SIRPa を超えた第二の貪食 checkpoint (LILRB1-MHC class I) との同時遮断、および adaptive checkpoint 抵抗例での貪食解除の意義
  • TAM 極性・動員制御 (M-CSF / CSF1R 軸) や GAS6-AXL/MERTK・TREM2 等を組み合わせた統合的 myeloid 標的戦略
  • マクロファージの低い抗原交差提示能 (高プロテアーゼ活性・低細胞質移行・TREX1 による cGAS-STING 抑制) を克服し、innate な貪食を持続的な adaptive 免疫へ橋渡しする方法

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