- 著者: Eguren-Santamaria I, et al.
- Corresponding author: Ignacio Gil-Bazo (Clínica Universidad de Navarra, Pamplona, Spain)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-04-30
- Article種別: Review
- PMID: 32354698
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の20%から32%に脳転移 (BM) が発生し、特にALK転座を有するNSCLC患者ではその割合が59%に達することが報告されている (Shaw et al. Lancet Oncol 2017)。BMを有する患者は予後が極めて不良であり、過去には分子標的薬や化学療法が血液脳関門 (BBB) を十分に通過できず、その効果が限定的であった。例えば、モノクローナル抗体であるリツキシマブの髄液 (CSF) 対血漿比は0.1%から0.7%であり、トラスツズマブでは1:420と著しく低い透過性を示し、脳放射線治療後に1:76へ改善するものの、中枢神経系 (CNS) への到達が著しく制限されることが知られている (Rubenstein et al. Blood 2003, Stemmler et al. Anticancer Drugs 2007)。従来の化学療法薬では、テモゾロミドが黒色腫BMにおいて奏効率 (RR) 7%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値1.2ヶ月と不良な成績であった (Agarwala et al. J Clin Oncol 2004)。ペメトレキセドはBBBを約10%通過すると推定され、カルボプラチンとの併用でBM奏効率40%が報告されているものの、その反応は短期間に留まることが課題であった (Bailon et al. Neuro Oncol 2012)。
近年、EGFRやALKのチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 、特に第三世代のオシメルチニブやアレクチニブはCNS活性を有することが示され、ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCのBM管理に大きな進歩をもたらした (Mok et al. NEnglJMed 2017、Peters et al. NEnglJMed 2017)。しかし、ドライバー変異陰性のNSCLCにおけるBMの治療は依然として大きな課題として残されている。PD-1/PD-L1阻害薬 (ICI) は、腫瘍細胞に直接作用するのではなく、T細胞を活性化することで免疫応答を誘導する作用機序を持つため、BBBへの透過性要件が理論的に緩和されるという新たな仮説が提唱された。この仮説に基づき、ドライバー変異陰性NSCLCのBMに対するICIの応用が探索され始めたが、その有効性、安全性、最適な使用方法については未解明な点が多かった。特に、CNS内の免疫微小環境の特殊性や、ICIと放射線治療の併用における放射線壊死のリスク増加など、多くの知識ギャップが残されている。本レビューは、これらの不足している情報を統合し、NSCLC脳転移におけるICIの役割を包括的に評価することを目的とした。
目的
本レビューの目的は、NSCLCの脳転移に対するPD-1/PD-L1阻害薬のCNS内での有効性、安全性、および最適使用方法を、BBBの薬理学的特性、CNS免疫微小環境の特殊性、および既存の臨床試験エビデンスを統合して包括的に評価することである。具体的には、ICIがBBB透過性が低いにもかかわらずCNSで効果を発揮するメカニズムを生物学的に考察し、未治療および安定化したBMに対するICI単剤療法および併用療法の臨床成績を詳細に分析する。さらに、放射線治療とICIの併用における相乗効果と、それに伴う放射線壊死 (RN) のリスク増加という重要な懸念事項を検討し、偽増悪やRNと真の増悪を鑑別するための診断課題を明らかにする。最終的に、これらのエビデンスに基づき、NSCLC脳転移患者に対するICI含有療法の臨床管理アルゴリズムを提唱し、今後の研究方向性を示すことを目指す。本レビューは、多施設連携によりPubMedおよび主要学会抄録から同定された90報の論文を統合したものである。
結果
CNS免疫微小環境の特徴とICIの理論的根拠: NSCLC脳転移巣では、対応する原発巣と比較してT細胞 (CD4+およびCD8+) の浸潤密度が著明に低下し、B細胞はほぼ欠如していることが報告されている (Kudo et al. Ann Oncol 2019)。単球由来マクロファージが組織常在ミクログリアよりも優勢であり、ミクログリアはMHC class IIやCD80/CD86の発現が少なく、抗原提示能が制限される不均一な集団である。本著者グループによる多重蛍光免疫測定では、CD4+およびCD8+T細胞とPD-L1発現がともに脳転移巣では原発巣より低下していた (Figure 1)。PD-L1発現は脳転移標本の22%から33% (≥5%基準) で認められ、原発巣との質的一致率は最大シリーズ (n=73) で80%超であったが、小規模コホートでは脳転移でPD-L1発現が低い傾向も報告されている。ICIの有効性は、BBBを通過したICI自体の直接作用よりも、脳外での免疫活性化を介した腫瘍特異的T細胞のCNS内動員が主要機序と考えられている。T細胞は抗体よりもBBBを容易に通過するため、このメカニズムがICIのCNS活性に寄与すると示唆される。硬膜リンパ管の発見や、脳内活性化CD4+T細胞がIFNγ産生を通じてBBBを弛緩させ、循環抗体の透過性を高めるという動的機序も、この仮説を支持する。ニボルマブのCSF測定では、5例のCSF:血漿比が1:52から1:299であり、他のモノクローナル抗体と大差なく、ICBの効果はBBB透過性に直接依存しないという解釈を裏付けている。
未治療・活性BMへのICI:Phase II試験 (NCT02085070) の成果: 症候性のない、ステロイドフリーの5mmから20mmの未治療BMを持つNSCLC患者 (PD-L1≥1%必須) を対象とした非無作為化Phase II試験 (Goldberg et al. Lancet Oncol 2016) において、最初の18例での中枢神経系 (CNS) ORRは33% (6/18例) であり、全身系ORRも33%であった。全身とCNSの治療反応の不一致はわずか1例 (CNS奏効+全身進行) にとどまり、概ね並行した反応が観察された。2018年のアップデート (Goldberg et al. J Clin Oncol 2018) では、PD-L1陽性患者34例とPD-L1陰性患者5例が解析対象となり、PD-L1陽性集団のCNS ORRは29.4% (10/34例) で、奏効持続期間の中央値は10.7ヶ月と報告された。不一致は7例に観察され、CNS進行+全身PRが4例、全身進行+CNS PRが3例であった。PD-L1陰性5例では奏効は認められなかった。Grade≥2の治療関連神経毒性は報告されなかった。ただし、BM径20mm超の病変は試験に含まれておらず、懸念される病変は試験登録前に予防的局所療法が施行されていた点には留意が必要である。
実臨床でのCNS活性データ (観察研究・EAP): 欧州7施設のプール解析 (Hendriks et al. J Thorac Oncol 2019) では、CNS評価可能な活性BM患者73例において、頭蓋内奏効率は27.3%であった。PD-L1≥1%陽性23例では35.7% (vs. 陰性11.1%) と、PD-L1発現が高い患者でより高い奏効率が報告された。多変量解析では、BM存在自体はPFSやOSと有意に関連しなかったが、BMサブグループ内では活性BMが不良な生存と関連した。別の実臨床シリーズでは、ニボルマブの拡大アクセスプログラム (EAP) (扁平上皮NSCLC、n=38、無症候・コントロール済みBM) で、CR 1例、PR 6例、SD 11例が報告された。非扁平上皮NSCLCのニボルマブEAP (BM有n=409 vs. 全体n=1588) では、ORRは17% vs. 18%と差はなく、PFS中央値は3ヶ月、OS中央値は8.6ヶ月 vs. 11.3ヶ月 (BM有で若干不良) であった。アテゾリズマブの5試験プール解析 (安全性コホートn=1452) では、BMを有する患者で重篤な神経系有害事象 (AE) がBM無しより高頻度 (6% vs. 3%) であったが、Grade 4は認めなかった。OAK試験のBMサブグループ解析では、アテゾリズマブがドセタキセルに比べ症候性BM出現を有意に遅延させた (HR 0.38, 95% CI 0.16-0.91, Gadgeel et al. Lung Cancer 2019)。
化学療法とICIの組み合わせ:KEYNOTE-189のBMサブグループ解析: KEYNOTE-189試験 (Gandhi et al. NEnglJMed 2018) は、安定BMまたは未治療無症候BM (最大径1.5 cm以下) を持つ患者を含んだ。BM有サブグループでのPFSはHR 0.42 (95% CI 0.27-0.67)、OSはHR 0.41 (95% CI 0.24-0.67) と顕著な利益を示した (Garassino et al. Cancer Res 2019)。この利益の大きさはBM無しサブグループを上回っており、化学療法とICIの組み合わせがBMを有する患者に特に有益である可能性を示唆する。実臨床での後ろ向きコホート研究 (Afzal et al. J Thorac Dis 2018) でも同様の傾向が確認されている。
放射線とICIの相乗効果と放射線壊死 (RN) リスク: 定位放射線治療 (SRT) とICIの組み合わせには、アブスコパル効果や免疫原性細胞死といった相乗効果の理論的根拠があるが、放射線壊死のリスク増加という重大な懸念も浮上している。複数の観察研究で、SRT後にICBを使用した患者では放射線壊死が最大30%に (症候性RNで7%から20%) 発現し、抗PD-1療法がRNリスクを有意に増加させるという後ろ向き解析 (n=480、NSCLC 294例・黒色腫・RCC) が報告された (Martin et al. JAMA Oncol 2018)。ただし、ICB使用患者は全体的に長期生存者が多く、これがRN発現比較を偏らせた可能性がある (RN発症中央値はSRT後10ヶ月超と一貫して報告)。イピリムマブを除外した感度解析では統計的有意差が失われた点も注目すべきである。組織学的にはRN病変にCD3+リンパ球やCD68+マクロファージが密集した広範壊死、血管壁肥厚、活発な血管炎様像が認められ、ICBによる免疫活性化がRNを悪化させる機序を支持する (Figure 4)。複数施設のシリーズ (Hubbeling et al. J Thorac Oncol 2018, Ahmed et al. J Neurooncol 2017) では神経毒性は管理可能としたが、RN発症例に外科的切除を要した症例も報告されている。
偽増悪・放射線壊死・真の増悪の鑑別と評価課題: ICI投与中の脳病変増大は、iRECIST (Seymour et al. LancetOncol 2017) やiRANO (immunotherapy Response Assessment for Neuro-Oncology) 基準に従い再評価が求められる。偽増悪 (pseudoprogression) や放射線壊死 (いずれも一時的増大後に安定/縮小) と真の増悪を非侵襲的に鑑別する最適な方法は確立されておらず、PET、MRスペクトロスコピー、灌流イメージングが補助的に検討されているが、感度・特異度が不十分である。iRANOはPD後3ヶ月での再評価を推奨し、神経症状を呈しない場合はその間にステロイドの介入なしに継続治療を許容する。ベバシズマブが放射線壊死の治療 (脳浮腫軽減・VEGF依存的血管正常化) に有効であり、かつ非扁平上皮NSCLCのBM予防効果を持つという仮説から、ペムブロリズマブとベバシズマブの併用試験 (NCT02681549、黒色腫・NSCLCを対象) でRN予防と免疫細胞動員の両立が評価されている。
臨床管理アルゴリズムの提唱: 本レビューはまた、EGFR/ALK/ROS1/BRAF V600E評価およびPD-L1 IHCに基づく標準評価後のNSCLC BMに対するICI含有療法の候補者向け管理アルゴリズム (Figure 3) を提示した。(1) 単一症候性BMは外科的切除またはSRT後に逐次全身療法、(2) 限局性BM (NCCN基準の少数転移) はSRT±全身ICI療法、(3) 多発性BMは全脳放射線治療 (WBRT) vs. ICI主体全身療法の個別判断、という枠組みが示された。STK11/KEAP1などの新興負的予測因子が陽性の場合は局所療法を優先するよう示唆されている。
考察/結論
本レビューは、脳転移を有するNSCLC患者においてICIが有効であり得ることを示す複数のエビデンスを体系的に整理した。BBB透過性が限定的であるにもかかわらず (CSF:血漿比1:52〜1:299)、ICIが脳転移に有効なのは、その作用機序が脳外での免疫活性化を介したCNS内T細胞動員によるためと理論的に説明できる。これは、従来のモノクローナル抗体がBBB透過性に大きく依存していたことと対照的である。
先行研究との違い: 重要な先行研究との差異として、Phase II NCT02085070試験 (単剤ペムブロリズマブ) でのCNS ORR 29%から33%は、転移性NSCLCの全身系奏効率と概ね並行しており、脳転移が特別な免疫学的聖域ではないことを示唆する。これは、以前の化学療法や分子標的薬がCNSで限定的な効果しか示さなかったことと大きく異なる点である。また、KEYNOTE-189のBMサブグループでの顕著な利益 (PFS HR 0.42, OS HR 0.41) は、化学療法とICIの組み合わせがBM合併NSCLCの新たな標準治療候補であることを強力に示唆する。
新規性: 本研究で初めて、CNS免疫微小環境の特殊性(T細胞浸潤の低下、ミクログリアの抗原提示能の制限)と、ICIがBBB透過性に直接依存しない作用機序(脳外でのT細胞活性化とCNS内動員)を統合的に説明した。さらに、放射線壊死の病理学的特徴(CD3+リンパ球、CD68+マクロファージの浸潤)とICIとの関連性を詳細に分析し、そのメカニズムを新規に提示した。
臨床応用: 本知見は、NSCLC脳転移患者の治療戦略に大きな臨床的含意を持つ。特に、PD-L1発現陽性かつ低病変量の患者に対しては、ICI単剤療法が有効な選択肢となり得る。また、化学療法とICIの併用療法は、BMを有する患者において全身およびCNSの両方で顕著な利益をもたらす可能性があり、臨床現場での導入が期待される。放射線壊死リスクは看過できない懸念事項であり、SRT施行後のICI開始タイミングの適正化 (一般的に4〜6週後が推奨) と、灌流シーケンスを含むMRIによる画像フォローアップ (2ヶ月後) の強化が必要である。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) BM特異的デザインによる前向きランダム化試験の設計と実施、(2) WBRTとSRTの選択およびICI組み合わせの最適化、(3) PD-L1やTMBなどによるBM特異的バイオマーカーの検証、(4) 放射線壊死の非侵襲的診断法の確立、(5) 小径病変 (5mm以上) を評価可能とする測定基準の改定 (iRECIST/iRANOの更なる精緻化) が残されている。本分野は急速に進化しており、本レビューが示したエビデンスと提唱した管理アルゴリズムが、近未来の臨床実践と試験設計の指針となることが期待される。
方法
本レビューは、NSCLCの脳転移に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の臨床的活性を評価した試験および観察研究を対象とした。検索はPubMedデータベースにて2019年7月17日まで実施され、「(PD-1[Title/Abstract]) OR PD-L1[Title/Abstract]) OR immunotherapy[Title/Abstract]) AND brain metastases[Title/Abstract]」の検索戦略を用いた。また、2019年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO)、米国癌学会 (AACR)、欧州臨床腫瘍学会 (ESMO)、国際肺癌学会世界会議 (IASLC WCLC) の主要学会抄録もレビュー対象とした。レビューされた論文の参考文献リストも追加の検索源として考慮した。英語で書かれた研究のみを対象とし、出版時期は問わなかった。脳軟膜転移のみを対象とした研究は除外した。黒色腫および腎細胞がん (RCC) のBMに関する試験も、全身療法アプローチが評価されている場合に参考データとして含めた。
初期検索で408件の参考文献が同定され、タイトルおよび抄録の評価後、93件が全文評価のために選択された。参考文献リストおよびその他の情報源の評価後、最終的に90件の出版物が解析対象として含まれた。本レビューは、多施設連携による包括的な文献検索と統合解析を通じて、NSCLC脳転移におけるICBの役割に関する最新のエビデンスを体系的にまとめることを目指した。特に、CNS免疫微小環境の特性、BBB透過性の課題、ICI単剤療法および併用療法の有効性、放射線治療との併用における安全性プロファイル、および放射線壊死の診断と管理に関するデータを詳細に検討した。統計手法に関する具体的な記述は本レビューの範囲外であるが、引用された臨床試験では、PFSやOSの評価にカプラン・マイヤー曲線やログランク検定が一般的に用いられている。また、奏効率の比較にはフィッシャーの正確検定などが用いられている。