- 著者: Seymour L, Bogaerts J, Perrone A, Ford R, Schwartz LH, Mandrekar S, Lin NU, Litière S, Dancey J, Chen A, Hodi FS, Therasse P, Hoekstra OS, Shankar LK, Wolchok JD, Ballinger M, Caramella C, de Vries EGE (on behalf of the RECIST working group)
- Corresponding author: Lesley Seymour, MD (Canadian Cancer Trials Group, Queen’s University, Kingston, ON, Canada)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-03-02
- Article種別: Consensus Guideline
- PMID: 28271869
背景
RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours version 1.1) は、固形腫瘍の臨床試験における標準的な腫瘍応答評価基準として広く確立されている。しかし、2011年以降、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が多様な悪性腫瘍で規制当局の承認を受けるにつれて、従来のRECIST 1.1では適切に評価できない免疫療法特有の応答パターンが顕在化した。最も重要な問題は「偽進行 (pseudoprogression)」であり、治療初期に腫瘍が一時的に増大し、RECIST 1.1上では「進行」と判定されるものの、その後持続的な縮小を呈する現象が一部の患者で観察された。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010やTopalian et al. NEnglJMed 2012などの初期の免疫療法試験でこの現象が報告された。また、新病変の出現後にその病変が縮小するというパターンもRECIST 1.1では対応できない。これらの免疫療法特有の応答パターンを適切に評価するための基準は、従来のRECIST 1.1では不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。
既存の免疫関連応答基準としては、2009年に提案されたirRC (immune-related response criteria) があるが、これはWHO基準(双方向測定)をベースとしており、その後の改訂版であるirRECISTも試験ごとに異なる修正が加えられていた。これにより、臨床試験間でのデータ比較や統合が困難であるという課題が残されていた。例えば、Nishino et al. ClinCancerRes 2013はirRCの改訂版を提案したが、その適用は一貫性を欠いていた。さらに、irRCでの独立中央判定が商業機関に委託されることが多く、学術的試験での適用が困難であるという問題も存在した。これらの背景から、RECIST working groupは、免疫療法試験における一貫したデータ収集と将来的な検証を目的として、RECIST 1.1を基盤とした新たな標準化ガイドライン「iRECIST」の策定を計画した。このガイドラインは、データウェアハウスの構築による将来的な前向き検証の枠組みも整備することを目指した。従来のRECIST 1.1では、免疫療法特有の応答パターンを適切に評価するための基準が不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。免疫療法における応答評価の標準化は、治療効果の正確な測定、臨床試験デザインの一貫性、および規制当局の承認プロセスにおいて極めて重要であるが、そのための統一された枠組みは未確立であった。
目的
本ガイドラインの目的は、RECIST 1.1を基盤としつつ、免疫療法試験に特有の応答パターン(偽進行、遅延応答、新病変出現後の縮小など)を適切に評価するための標準化されたガイドライン「iRECIST」を提案することである。これにより、免疫療法試験における一貫したデータ収集、試験間での比較可能性の向上、および将来的なiRECISTの前向き検証を可能にする枠組みを提供することを目指す。具体的には、偽進行を考慮した進行の2段階判定、新病変の個別管理、および臨床的安定性に基づく治療継続の判断基準を明確に定めることを目的とする。また、iRECISTを主要エンドポイントとして用いる早期相試験と、探索的エンドポイントとして用いる第III相試験における推奨事項を提示し、データウェアハウスの構築を通じてiRECISTの長期的な妥当性を検証する基盤を確立することも重要な目的である。
結果
iRECISTの基本原則と用語定義: iRECISTはRECIST 1.1を完全に踏襲した上位互換であり、応答カテゴリに免疫 (immune) を意味する接頭辞 ‘i’ を付与する。定義された評価カテゴリは以下のとおりである。iCR (immune complete response)、iPR (immune partial response)、iSD (immune stable disease)、iUPD (immune unconfirmed progressive disease)、iCPD (immune confirmed progressive disease)、およびiBOR (immune best overall response)。新病変も「new lesion target」(最大5個、1臓器あたり最大2個)と「new lesion non-target」に分類して個別に管理するが、既存のtarget lesion sumには加算しない点がRECIST 1.1との根本的な違いである (Table 1)。
iUPD (未確認進行) と iCPD (確認進行) の2段階判定: iRECISTの最重要イノベーションは進行の確認を義務化したことにある。RECIST 1.1基準の進行はまずiUPD (Unconfirmed PD) として記録する。iUPD判定後の次回評価(4〜8週後)で以下のいずれかが満たされた場合にiCPDが確定する:(a) target lesionにおけるiUPD後のsum of measuresがさらに≥5 mm増大、(b) non-target lesionのiUPD後のさらなる増大、(c) 新病変のさらなる増加または≥5 mmの増大。重要な点として、iUPD後の次回評価でiCR・iPR・iSDの基準が満たされた場合、バーをリセット (reset) して再評価する。すなわちiUPDは無かったものとして再度iUPDとその後の確認を経る必要がある。これにより偽進行患者を「進行」と誤判定することを防ぐ。iCPDが確認されなければ後続の評価でiCR・iPR・iSDを割り当て可能であり(RECIST 1.1では不可能)、この「バーリセット」が偽進行の適切な管理の核心をなす (Figure 2)。例えば、ある患者がiUPDと判定された後、次回の評価でiPRに転じた場合、iUPDは無効化され、iPRが最良全体応答として記録される。
新病変の取り扱い: 新病変の出現はiUPDをもたらす(RECIST 1.1ではその時点で即時に「進行」確定)。新病変はtarget (最大5個、1臓器あたり最大2個) またはnon-targetに分類し、case report formに別途記録する。患者が臨床的に安定であれば治療継続可能である。次回評価(4〜8週後)で新病変数が増加または新病変のsize増大(new target sum ≥5 mm増大またはnew non-targetのいずれかの増大)が認められた場合にiCPDが確定する。新病変が縮小または消失した場合はバーリセットが適用され、iCR・iPR・iSDを割り当てる。
臨床安定性に基づく治療継続の判断: iUPD後も以下の3条件が全て満たされれば治療継続が推奨される:(1) performance statusの悪化がない、(2) 病変由来の疼痛・呼吸困難等の臨床症状が増悪していない(姑息的介入追加が不要)、(3) 疾患関連症状の管理強化(追加鎮痛薬・放射線療法等)が不要。これらが満たされない患者はcase report form上で「clinically unstable」と記録し、治療中止後も可能な限り画像評価を継続することが推奨される。次回確認スキャンはiUPDから4〜8週後に実施し、腫瘍タイプに応じてより長期の確認期間も許容される(例:BRAF野生型メラノーマでは有効な救済療法が乏しいためCTLA4阻害後の確認期間をより長く設定できる)。
タイムポイント応答とiBOR (最良全体応答):タイムポイント応答はRECIST 1.1と同様にtarget・non-target・新病変の評価を統合するが、前回タイムポイント応答を考慮して算出する。iUPDが一度も生じていない患者ではRECIST 1.1と同一のアルゴリズムを適用する。iBORはiUPDが後続でiCR・iPR・iSDに転じても上書きされない(iUPDはiBOR決定においてiSD・iPR・iCRを無効化しない)。iCR・iPRの持続期間は基準が初めて満たされた日から、iSDは試験開始日から計算する。iBOR算定例として、iCR→iCPD→any→any→any の場合のiBORはiCRであり、iUPD→iPR→iCR→iCR,iUPD,NE→any の場合のiBORはiCRとなる (Table 3)。
iPFS算出ルール: iPFS (immune progression-free survival) イベント日=iUPD基準を初めて満たした日(その後iCPDが確認された場合に限り)と定義される。iUPDが後続のiSD・iPR・iCRにより無効化された場合、そのiUPD日はイベント日として使用しない。確認スキャンが実施されずiCPDが確認されない場合でも、(a) 臨床的に不安定で治療中止、(b) 以降の評価が全てiUPDのままiCPDが確認されないまま終了、(c) がんによる死亡—のいずれかではそのiUPD日をイベント日として使用する。例えば、ある試験におけるiPFS中央値は11.8 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) であったと仮定する。この場合、iUPDがiCPDに確認された時点をイベント日としてPFSが計算される。
評価頻度と試験デザインへの推奨: 推奨評価間隔は6〜12週(RECIST 1.1と同様)である。iUPD確認のための追加スキャンは4〜8週後に実施可能(通常スキャンスケジュールに割り込む形)。確認後は当初計画の間隔に戻す。Phase 3試験では主要エンドポイントにRECIST 1.1を維持し、iRECISTは探索的エンドポイントとして実施することを推奨する(iRECISTを主要エンドポイントとすることは早期試験では可)。ランダム化試験においてはRECIST 1.1とiRECIST双方のタイムポイント応答とiBORをcase report formで並行記録することを推奨する。免疫療法と非免疫療法を比較するランダム化試験では、交差 (crossover) 時点の定義をiUPDかiCPDか明確に規定すべきである。
偽進行の実態とリスクの考慮: 偽進行の実際の頻度は主にメラノーマ研究で報告されており、患者の10%以下と稀である(例えば、n=120のnivolumab試験では8%、n=105のpembrolizumab試験では12週時点の偽進行候補が約10%)。NSCLCや他のがん種での真の頻度は不明である。真の進行患者にiUPDとして治療を継続することは、無効な治療への不必要な毒性暴露となるリスクがある。一方で、偽進行患者に早期治療中止は有効な治療機会の損失となる。この課題は「臨床安定性の確認」という臨床家の判断を必須条件として残すことで部分的に対応されている。
考察/結論
iRECISTは、免疫療法の応答評価における「偽進行問題」を解決するための国際コンセンサスに基づく実用的なフレームワークである。その核心は、RECIST 1.1の進行をiUPDとして仮記録し、4〜8週後の確認スキャンでiCPDへの昇格を義務化する「2段階判定」と「新病変の別管理・バーリセット」にある。本ガイドラインは、EORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer)・NCI (National Cancer Institute)・製薬各社・EMA・FDAが共同でデータウェアハウスを構築し、前向き検証を進める枠組みを付随して整備した点で画期的である。
先行研究との違い: 従来のirRC (2009年) はWHO基準(双方向測定)をベースとし、各試験で独自改変が加えられたため、試験間比較が困難であった。irRECISTはRECIST 1.1(一方向測定)をベースとする改善版として登場したが、製薬企業・学術グループ・試験ごとに実装が分散していた。本iRECISTは、RECIST working groupという国際的権威機関による最初の統一コンセンサス基準であり、EMA・FDAも参画した点で規制科学的意義を持つ。これまで報告された免疫療法関連の応答基準と異なり、iRECISTは偽進行の真の頻度が免疫療法患者全体では10%以下と稀であるとの疫学的認識に基づき、iCPDの「確認義務化」という実用的アプローチで、真の進行患者への不必要な治療継続リスクと偽進行患者への早期中止リスクのバランスを図った点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、免疫療法特有の応答パターンを包括的に評価するための統一された基準が国際的なコンセンサスに基づいて策定された。特に、iUPDとiCPDの2段階判定システムは、偽進行の概念を臨床試験の評価基準に組み込むという点で新規性が高い。これにより、従来のRECIST 1.1では見過ごされがちであった遅延応答や偽進行後の奏効を適切に捉えることが可能となる。
臨床応用: iRECISTは、CheckMate、KEYNOTE、IMpowerシリーズなど主要なICI第III相試験への組み込みが進んでおり、iRECISTによる評価データが蓄積されつつある。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016のPembrolizumabのKEYNOTE試験では、iRCで進行した患者の約10%がその後奏効を示したこと、Brahmer et al. NEnglJMed 2015のnivolumabの第III相ではiRC応答患者が8% (10/120例) 確認されたことなど、偽進行の存在が複数試験で裏付けられた。これらの知見は、免疫療法における臨床的意義の評価をより正確にし、臨床現場での治療戦略の最適化に貢献する。ただし、iRECISTはあくまで臨床試験のためのデータ収集基準であり、日常診療での治療決定基準ではない点が明示されている。
残された課題と次世代基準への展開: iRECISTが設定した4〜8週での「確認スキャン」義務化は、試験運営コストや患者負担の増大という現実的課題を伴う。また、偽進行のない腫瘍タイプや治療ライン(例:2次治療以降)でのiRECIST適用の妥当性は未検証の部分が多い。iUPDから臨床的に不安定な状態への移行を客観的に判断する基準も今後の課題として残されている。2017年以降の実臨床データ蓄積によってiRECISTの予後的妥当性(iCPD vs. RECIST PDのOSへの影響差)が検証されており、iRECIST 2.0ともいえる将来版の改訂が期待される。
方法
本ガイドラインは、コンセンサス形成プロセスを通じて作成された。RECIST working group内にサブコミッティーが設置され、2015年から2016年にかけて、臨床、統計、画像診断の専門家、各製薬会社代表、およびEMA (European Medicines Agency)・FDA (U.S. Food and Drug Administration) の規制当局代表との一連の電話会議および対面会議が実施された。2016年6月2日には、シカゴで正式な対面会議が開催され、52名の招待参加者が議論に参加した。会議に先立ち、10グループから事前回答が提出され、各製薬会社および規制当局から追加の問題提起があった。
既存のICI試験データ、特に偽進行の実態(報告されている頻度は10%以下)が参照された。文献検索は2016年8月にPubMedを用いて「immune response criteria」「irRC」「pseudoprogression」の検索語で実施され、関連文献が精査された。iRECISTはRECIST 1.1の原則を継続して適用し、腫瘍病変(リンパ節を含む)の測定可能・非測定可能の定義、骨病変、嚢胞性病変、および既往の局所治療(放射線療法など)を受けた病変の管理については変更がない。測定方法に関しても変更はないが、CTスキャンやMRIなどのより現代的な画像診断技術の利用により、臨床診察や胸部X線撮影はほとんど使用されない。客観的な腫瘍応答を確立するための原則はRECIST 1.1とほぼ変わらないが、iRECISTの主要な変更点は、RECIST 1.1基準の進行が次回の評価で腫瘍縮小を伴う場合に「バーをリセットする」という概念の導入である。
統計解析計画には、欠測データや評価の取り扱い方法を明記することが求められる。iRECISTの検証は、EORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer) が管理するデータウェアハウスに匿名化された画像データを収集し、前向きに行われる。このデータウェアハウスは、iRECISTの妥当性を評価し、将来的な改訂の根拠を提供するための基盤となる。臨床試験デザインにおいては、ランダム化比較試験 (RCT) の主要エンドポイントにはRECIST 1.1を維持し、iRECISTは探索的エンドポイントとして実施することが推奨された。早期相試験ではiRECISTを主要評価項目とすることも考慮される。クロスオーバー試験においては、iUPDかiCPDのいずれをクロスオーバーの判断基準とするかをプロトコルに明確に規定する必要がある。これらのガイドラインは、臨床試験プロトコル (NCT 番号のような登録は本論文では言及なし) に組み込まれ、その実施とデータ収集を標準化することを目的としている。