• 著者: Ye Tian, Ling Ma, Manfei Gong, Guoqiang Su, Shaobin Zhu, Wenqiang Zhang, Shuo Wang, Zhibin Li, Chaoxiang Chen, Lihong Li, Lina Wu, Xiaomei Yan
  • Corresponding author: Guoqiang Su (The First Affiliated Hospital of Xiamen University); Xiaomei Yan (Xiamen University)
  • 雑誌: ACS Nano
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29300458

背景

細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicle) は、ほぼ全ての細胞種から分泌される直径30〜1000 nmのナノ膜小胞であり、RNAやタンパク質などの生体分子を介した細胞間コミュニケーションを担う重要なメディエーターである。EVは、その生合成経路に基づいてエクソソーム (30〜100 nm、後期エンドソーム由来) とマイクロベシクル (100〜1000 nm、細胞膜出芽由来) に大別されるが、一般的な単離プロトコルでは両者が混合した集団として得られることが多い。EVは、腫瘍微小環境の形成、転移前ニッチ形成、免疫調節など多岐にわたる生理的・病理的役割を果たすことが明らかになっており、診断バイオマーカーおよび治療標的としての可能性が広く認識されている。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007はエクソソームがmRNAやmiRNAを細胞間で輸送する新たな遺伝子交換メカニズムであることを報告し、Skog et al. NatCellBiol 2008は膠芽腫由来マイクロベシクルが腫瘍増殖を促進し診断バイオマーカーとなることを示した。また、Hoshino et al. Nature 2015は腫瘍エクソソームのインテグリンが臓器指向性転移を決定することを示唆している。

しかし、個々のEV粒子レベルでのタンパク質プロファイリングとサイズ測定には、いくつかの根本的な技術的障壁が存在する。主な課題は、(1) EVの極めて小さなサイズ(多数が30〜100 nmに集中していること)、(2) 個別EV上のタンパク質コピー数の低さ、(3) EV集団の高い不均一性、の3点である。従来のフローサイトメーター (FCM) の最小検出可能サイズは、通常サイズのFCMで270〜600 nm、専用FCMでも150〜190 nmであり、最も豊富なEV集団である30〜100 nmのEVを単一粒子レベルで検出することは事実上不可能であった。ナノ粒子追跡解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis) はEVのサイズ分布を測定できるが、精度が低く、特に小さなEVのピーク径を大幅に過大評価する問題が指摘されている。例えば、van der Pol et al. JThrombHaemostasis 2014は、様々な手法でのEVサイズ測定の比較を行い、NTAの限界を報告している。これらの技術的限界により、EVの生物学的機能の解明や疾患バイオマーカーとしての応用が未解明な部分が多く、その可能性が十分に引き出されていない現状がある。

EVの表面タンパク質は、その細胞起源の反映、標的細胞への捕捉、循環中からのクリアランス回避において重要な役割を果たす。したがって、EVの表面タンパク質プロファイリングは、腫瘍関連サブポピュレーションの同定、癌診断、転移臓器予測などに応用可能であると考えられている。しかし、アンサンブル平均的な分析手法(例:ウェスタンブロットやELISA)では、EV集団の不均一性により特定の機能を持つEVサブセットが他の豊富なEVによってマスクされてしまう可能性があるとTkach et al. Cell 2016も指摘している。このため、単一粒子レベルでの定量的マルチパラメーター解析法の確立が喫緊の課題として残されており、EV研究における知識ギャップを埋める上で、より高感度で高分解能な分析技術が不足していた。

目的

本研究の目的は、研究室で自作した高感度フローサイトメーター (HSFCM: High-Sensitivity Flow Cytometer) を用いて、細胞外小胞 (EV) の単一粒子レベルでの解析技術を確立し、その臨床応用可能性を評価することである。具体的には、以下の3点を目的とした。

  1. EVの精密サイズ分布測定法の確立: 40 nmまでの個々のEVのサイズ分布を、高分解能かつ迅速に測定できるHSFCMベースの手法を確立すること。既存の技術であるクライオ透過型電子顕微鏡 (cryo-TEM) やナノ粒子追跡解析 (NTA) との比較を通じて、HSFCMの精度とスループットの優位性を実証する。
  2. 単一EV上のタンパク質発現プロファイリングの定量化: 個々のEV上に発現するテトラスパニンマーカー (CD9, CD63, CD81) および癌関連マーカー (CD147) のタンパク質コピー数を定量し、EVサブポピュレーションの同定と共発現パターンの解析を行うこと。これにより、EV集団の不均一性を単一粒子レベルで解明する。
  3. 大腸癌患者血漿サンプルへの応用によるCD147陽性EVの診断バイオマーカーとしての実証: 大腸癌患者と健常人の血漿サンプルをHSFCMで分析し、CD147陽性EVの濃度が癌診断バイオマーカーとして有用であるかを評価すること。特に、早期癌診断および治療モニタリングにおける液体生検としての応用可能性を検証する。

これらの目的を達成することで、EV研究における技術的障壁を克服し、EVを介した細胞間コミュニケーションの理解深化、および先進的な診断・治療戦略の開発に貢献することを目指す。

結果

HSFCMの基本性能とEV純度評価: HSFCMは、220 nmフィルター済みPBSのバックグラウンドイベント率が2〜4 events/秒であるのに対し、EVサンプルでは明確な散乱光シグナルを検出した。検出器を飽和させる175 nm以上の粒子は、HCT15細胞由来EVサンプルにおいて検出された10,720イベント中98イベント (約0.9%) であり、99%以上のEVが正確にサイズ測定可能であった。Triton X-100処理による膜溶解試験の結果、細胞培養上清由来EVは85〜90%が膜小胞であった。一方、血漿由来EVではリポタンパク質粒子の混入により、膜小胞の割合は約70%に低下した。これは血漿中の豊富なリポタンパク質粒子がEV単離時に共存することを示唆している (Figure 1h)。

EVサイズ分布測定の比較: HCT15細胞由来EVのサイズ分布をHSFCM、cryo-TEM、およびNTAで比較した。cryo-TEM (n=1,034粒子) では、EVのピーク径は55 nm、中央値は75 nmであった。HSFCM (n=10,720粒子) では、ピーク径50 nm、中央値64.5 nmと、cryo-TEMの結果と非常に近似した値を示し、HSFCMのサイズ測定の妥当性が確認された (Figure 2a, d)。HSFCMにより測定されたEVの97%が150 nm未満であった。これに対し、NTAではピーク径105 nm、中央値107.6 nmと、cryo-TEMやHSFCMと比較して著しい過大評価が認められた (Figure 2f)。さらに、HSFCMは5種類の単分散SiNP混合物 (47, 59, 74, 94, 123 nm) の5つのピーク全てを1 nmの分解能で分離できたのに対し (Figure 2b)、NTAでは著しいピークの広がりにより5種類のSiNPを分離することは不可能であった (Figure 2e)。HSFCMによる解析はわずか2分で完了し、数時間から1日を要するcryo-TEMと比較して、高スループットかつ統計的に堅牢な (>10倍の粒子数) 測定が可能であることが示された。

テトラスパニンマーカーの単一EV発現プロファイリング: 100,000×g超遠心で単離したHCT15細胞由来EVのテトラスパニンマーカー発現率をHSFCMで解析した。CD9陽性EVは55.2%、CD63陽性EVは46.0%、CD81陽性EVは55.0%であった (Figure 3a)。個々のEV上のタンパク質コピー数をPE蛍光強度から算出した結果、CD9、CD63、CD81の各マーカーのコピー数中央値はそれぞれ5、6、5コピーと非常に低いことが判明した (Figure 3b)。これは、IgG-PEコンジュゲートの立体障害により実際のコピー数より過小評価されている可能性も示唆された。二重染色による共発現EVの割合は、CD9/CD81共発現が31.8%、CD63/CD81共発現が31.1%、CD9/CD63共発現が22.3%であった (Figure 3c)。これらの結果は、免疫電子顕微鏡 (IEM) 法の既報と質的に一致するが、HSFCMは統計的に有意な数の粒子を定量的に解析できる点で優位性を持つ。

大腸癌細胞株におけるCD147発現解析: 腫瘍浸潤・転移に関与するMMPsのインデューサーであるCD147の発現を、正常大腸線維芽細胞であるCCD-18Co細胞と大腸癌細胞株であるHCT15細胞、HCT116細胞由来EVで比較した。CCD-18Co由来EVではCD147陽性率が10%未満であったのに対し (Figure 4a)、HCT15由来EVでは51.4%、HCT116由来EVでは47.5%と、癌細胞由来EVで約5倍高発現していることがHSFCMにより示された (Figure 4b, c)。この結果はウェスタンブロットによる定性的な確認とも一致した (Figure 4d)。さらにHSFCMは、HCT15由来CD147陽性EVは小サイズ、HCT116由来CD147陽性EVは大サイズであるなど、細胞株によるCD147陽性EVのサイズ差を単一粒子レベルで検出できることを示した。

大腸癌診断バイオマーカーとしてのCD147陽性EV: 大腸癌患者37例と健常人32例の血漿サンプルにおける総EV濃度を比較した結果、健常人 (0.9 ± 1.2) × 10⁹/mLに対し、大腸癌患者は (1.2 ± 1.2) × 10⁹/mLであり、有意差は認められなかった (p=NS) (Figure 5b)。総EV濃度は個人間で40〜50倍の大きなばらつきがあり、癌特異的な変化を捉えることが困難であった。一方、CD147陽性EV濃度は、健常人 (4.1 ± 2.3) × 10⁷/mLに対し、大腸癌患者では (2.9 ± 2.9) × 10⁸/mLと、約7倍有意に高値を示した (p<0.001) (Figure 5d)。

ROC曲線解析では、CD147陽性EV濃度がAUC 0.932 (95% CI 0.873-0.992) と非常に高い診断精度を示したのに対し、総EV濃度ではAUC 0.631 (95% CI 0.498-0.764) であり、CD147陽性EVが癌診断に極めて高い識別能を持つことが実証された (Figure 6)。ステージ別解析では、Stage I (n=7 patients)、II (n=11 patients)、III (n=12 patients)、IV (n=7 patients) 全てのステージにおいて、CD147陽性EV濃度が健常人に比べて有意に高値を示し (p<0.001)、早期癌 (Stage I) でも診断可能であることが示唆された (Figure 5e)。

縦断解析として、大腸癌患者16例の術前と術後 (術後7〜10日) のCD147陽性EV濃度を比較した。16例中13例 (81%) で術後にCD147陽性EV濃度が有意に低下した (p<0.05) (Figure 5f)。この腫瘍切除に伴うCD147陽性EVの消失は、循環血中のCD147陽性EVが腫瘍由来であることを示す直接的な証拠であり、治療モニタリングへの応用可能性を示唆する。

考察/結論

HSFCMの技術的革新性と位置づけ: 本研究で開発したHSFCMは、従来のフローサイトメトリーでは不可能であった40 nm以下の個々のEVを、単一粒子レベルで迅速 (2分/サンプル) かつ統計的に堅牢 (>10,000粒子) に解析できる初の定量的マルチパラメーターEV解析プラットフォームである。cryo-TEMとほぼ同等のサイズ測定精度を保ちながら、TEMの100倍以上のスループットを実現し、EV解析における長年の技術的障壁を根本的に克服した。特に、ナノ粒子追跡解析 (NTA) が示すEVサイズの著しい過大評価と低分解能という限界を明確に示した比較データは、NTAを標準的なサイズ解析法として使用してきたEV分野に対し、HSFCMがより信頼性の高い代替手段であることを強く示唆する。この点は、これまで報告されてきたNTAによるEVサイズ測定の不正確さとは対照的である。

単一粒子タンパク質プロファイリングの意義: テトラスパニン (CD9、CD63、CD81) の単一EV上でのコピー数定量 (中央値5〜6コピー) および共発現パターンの定量化は、従来のビーズベースFCM法が集団平均しか測定できなかったのに対し、EV集団の不均一性を単一粒子レベルで直接解明することに貢献する。この知見は、EVの生物学的機能が特定のサブポピュレーションによって担われている可能性を示唆しており、EVの多様性を理解する上で極めて重要である。本研究で初めて、個々のEV上の非常に低いコピー数のタンパク質発現を定量的に解析する手法を確立したことは、EV研究における新規なアプローチである。今後の展望として、IgGコンジュゲートよりも小さいFab、scFv、アフィボディ、アプタマーなどの結合剤を使用することで、立体障害を軽減し、より正確な抗原コピー数定量が期待される。

CD147陽性EVの診断バイオマーカーとしての妥当性: CD147 (basigin) は、複数のヒト腫瘍型で高発現し、MMPs誘導を介して腫瘍浸潤・転移促進に関与することが知られている。本研究でHSFCMにより定量化されたCD147陽性EVの大腸癌特異的増加 (AUC 0.932) は、液体生検による癌診断への強力な根拠を提供する。特に、総EV濃度 (AUC 0.631) との比較で、特定のEVサブポピュレーションの定量が診断精度を飛躍的に向上させることが実証された点は重要である。早期 (Stage I) からCD147陽性EVが増加するというデータは、現在の画像診断や血清マーカーよりも早期の癌検出への可能性を示唆しており、臨床的意義は大きい。また、手術による腫瘍切除後にCD147陽性EV濃度が有意に低下したことは、これらのEVが腫瘍由来であることを裏付け、治療モニタリングへの応用可能性を示す。

今後の展望と残された課題: 今後の検討課題として、より大規模な臨床コホートでのCD147陽性EV診断精度の検証 (感度・特異度のより精密な推定)、他癌種への適用、多重マーカーEVプロファイリングによる診断精度向上、そして大腸癌以外の消化器癌や肺癌などへの応用が挙げられる。HSFCM技術は、NanoFCM Inc.によるコマーシャライズも進んでおり、EV研究の標準解析プラットフォームとしての普及が期待される。また、本技術は尿、腹水、唾液、精液、母乳など他の体液からのEV解析や、治療用EVの品質管理への応用も期待される。本研究は、EVの不均一な集団を客観的に評価するためのベンチマークを確立し、EVの生物学の解明とEVベースの液体生検および治療法の開発を促進する上で極めて有用である。本研究のlimitationとして、175 nmを超える粒子の検出器飽和、イムノグロブリン-PE複合体の立体障害による抗原コピー数過小評価、血漿リポタンパク質粒子の混入 (EV純度70%) が挙げられる。

方法

HSFCM装置の設計と原理: 本研究では、既存の2チャンネルHSFCMを改良し、側方散乱光 (SSC) チャンネルと橙色蛍光、赤色蛍光の3チャンネル検出が可能なシステムに拡張した。励起源にはNd:YAG (ネオジム添加イットリウムアルミニウムガーネット) レーザー (532 nm, 16 mW) を使用した。検出感度向上のため、プローブ体積を約25 fLに縮小し、タペードキャピラリー (内径40 μm) から流れるサンプルをシース流により約1.4 μmの細流に集束させた。光検出には、シングルフォトンカウント雪崩フォトダイオード (APD: Avalanche Photodiode) を3基使用した。データ処理速度は最大10,000粒子/分であり、220 nmフィルター済みPBSを用いたバックグラウンドカウント率は2〜4 events/秒であった。検出器を飽和させる粒子は175 nm以上であり、これは全体の1%未満であった。

サイズ校正: EVの絶対サイズ分布解析のため、直径47、59、74、94、123 nmの5種類の単分散シリカナノ粒子 (SiNP) を合成し、サイズ基準として使用した。SSC強度と粒子径の関係は、Mie理論に基づき、SiNPの屈折率 (1.461) とEVの屈折率 (1.400) の違いを補正してキャリブレーション曲線を作成した。この曲線はSSC強度が粒子径の5.01乗に比例することを示し (R²=0.9994)、EVサイズへの換算を可能にした。

EV単離: ヒト大腸癌細胞株 (HCT15, HCT116) および正常大腸線維芽細胞 (CCD-18Co) の培養上清、ならびに大腸癌患者37名と健常人32名の血小板除去血漿 (PFP, 50 μL) から、差動超遠心法 (800 gで細胞除去、2000 gで細胞残渣除去後、100,000×gで2時間) によりEVを単離した。EVの純度評価は、Triton X-100 (1%) による膜溶解前後の粒子数比較により行った。細胞培養上清由来EVは85〜90%が膜小胞であったが、血漿由来EVはリポタンパク質粒子の混入により約70%であった。

タンパク質プロファイリング: 単離したEVは、PE標識抗CD9、抗CD63、抗CD81、抗CD147抗体で蛍光免疫染色した後、HSFCMで解析した。単一PEコンジュゲート抗体の蛍光強度を基準に較正することで、PE蛍光強度から個別EV上のタンパク質コピー数を算出した。二重染色も実施し、CD9/CD81、CD63/CD81、CD9/CD63などの共発現サブポピュレーションを定量化した。

臨床サンプル: 大腸癌患者37例 (Stage I: 7例、II: 11例、III: 12例、IV: 7例) および健常人32例の血漿サンプルを使用した。患者の年齢中央値は62歳 (範囲45-74歳)、健常人は26歳 (範囲22-60歳) であった。定量的濃度測定のため、内部標準としてRBITC内包80 nm蛍光SiNPを使用した。また、大腸癌患者16例から術前と術後 (術後7〜10日) の血漿サンプルを採取し、CD147陽性EV濃度の変化を縦断的に評価した。

比較法: HCT15細胞由来EVのサイズ分布測定において、HSFCMの結果をcryo-TEM (Tecnai F20、200 kV、80枚のTEMミクログラフで1,034粒子解析) およびNTA (ZetaView) の結果と比較検証した。

統計解析: GraphPad Prism version 6.0およびOrigin 9.0ソフトウェアを用いて統計解析を行った。総EV濃度またはCD147陽性EV濃度の群間差はANOVA検定で評価した。術前後のCD147陽性EV濃度の変化は、対応のある両側Student’s t検定で評価した。ROC曲線解析を用いて、CD147陽性EV濃度が大腸癌診断における識別能を評価した。p<0.05を有意差ありと判断した。