• 著者: Valentina R. Minciacchi, Cristiana Spinelli, Mariana Reis-Sobreiro, Lorenzo Cavallini, Sungyong You, Mandana Zandian, Xiaohong Li, Rajeev Mishra, Paola Chiarugi, Rosalyn M. Adam, Edwin M. Posadas, Giuseppe Viglietto, Michael R. Freeman, Emanuele Cocucci, Neil A. Bhowmick, Dolores Di Vizio
  • Corresponding author: Dolores Di Vizio (Cedars-Sinai Medical Center/Boston Children’s Hospital, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-02-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28202510

背景

前立腺癌の進行は、腫瘍細胞と宿主微小環境の間の複雑な相互作用によって駆動される。この相互作用を媒介する細胞外小胞 (EV) の役割が近年注目されている。EV には大きさ、起源、機能の異なるサブポピュレーションが存在し、ナノサイズのエクソソーム (Exo, 約80-180 nm) は、血管新生、免疫寛容、線維芽細胞活性化、および前転移ニッチ形成に関与することが広く知られている Peinado et al. NatMed 2012。しかし、エクソソーム以外のEVサブタイプ、特に大型EVの機能的役割については、依然として多くの点が未解明である。

一方、高度浸潤性の「アメーバ様」前立腺癌細胞からは、非アポトーシス性の膜ブレブ脱落によって異常に大型の EV (1-10 μm) が放出されることが報告されている。これらは “large oncosomes” (LO) と呼ばれ、DIAPH3 (diaphanous related formin-3) サイトスケルトン制御因子の喪失や、構成的に活性化されたミリストイル化活性型 AKT1 (MyrAKT1) の過剰発現によって産生が亢進することが示されている。LO は転移性前立腺癌患者の腫瘍組織および血漿中に豊富に検出されるが、良性サンプルでは検出されないという疾患特異性が報告されており DiVizio et al. AmJPathol 2012、その臨床的意義が示唆されている。

先行研究では、LO が Exo とは異なる特有のタンパク質カーゴを持つことがプロテオミクス解析により示されていたものの Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016、腫瘍微小環境 (TME) における具体的な機能的役割はまったく不明であった。特に、LO が腫瘍由来の発癌シグナルを TME 間質細胞に水平伝播する機構の解明は、新規の治療標的同定の観点からも重要な未解決課題として残されていた。エクソソームが間質線維芽細胞の活性化に関与することは報告されているが、大型オンコソームが線維芽細胞のリプログラミングにどのように関与するかについては知識が不足していた。本研究は、LO による間質線維芽細胞のリプログラミングと腫瘍支持微小環境の形成という新パラダイムを初めて実証したものである。

目的

本研究の目的は、転移性前立腺癌患者由来の血漿 LO (large oncosomes) に活性型 AKT1 キナーゼが含有されるか否かを検証し、LO の間質細胞への取込み機構を決定するとともに、MYC 転写因子を介した線維芽細胞リプログラミングの分子機序を解明することである。さらに、この LO-AKT1-MYC シグナル軸が in vitro での血管新生促進および in vivo での腫瘍増殖支持に及ぼす機能的役割を明らかにすることを目的とした。具体的には、LO が活性型 AKT1 を介して線維芽細胞の MYC を活性化し、α-SMA (α-smooth muscle actin)、IL6、MMP9 の発現を増加させることで、腫瘍支持的な線維芽細胞へとリプログラミングするメカニズムを詳細に解析する。

結果

活性型 AKT1 は LO 特異的に豊富に含有される: 転移性前立腺癌患者 n=12 全例の血漿 LO から、高レベルの p-AKT1 Ser473 が検出された (Exo より有意に多い、p<0.002) (Figure 1B)。Exo では p-AKT1 Ser473 の検出レベルははるかに低かった。LNCaP MyrAKT1 由来 LO (直径 1.5-6 μm) および PC3、22Rv1 由来 LO でも同様に p-AKT1 Ser473 が高発現していた (Figure 1D, E)。LO から免疫沈降した MyrAKT1 は、GSK3α/β を基質とするキナーゼ活性アッセイで活性を示し、LO は Exo と異なり 24-72 時間 ex vivo 培養後もキナーゼ活性を維持することが確認された (Figure 4A)。これにより、LO が活性型 AKT1 キナーゼを in situ に保持した「移動シグナリングプラットフォーム」として機能することが初めて実証された。LO 処置 NAF では、p-AKT1 Ser473 の上昇が処置後 2-24 時間にわたって観察され、LO 由来の AKT1 シグナルが受容細胞内で伝達されることが確認された (Figure 4B)。

LO は dynamin 依存的 phagocytosis で特異的に内在化される: WPMY-1 筋線維芽細胞および NAF (normal associated human prostatic fibroblasts) による PKH26 標識 LO の取込み率は、FACS でそれぞれ 93.3% (WPMY-1) および 92.1% (NAF) であった (n=3 biological replicates)。共焦点顕微鏡では、PKH26 と HA-FITC-MyrAKT1 の共局在が細胞内周縁部および核周囲に確認された (Figure 2B, D)。低温 (4°C) 処置で取込みが有意に抑制されたことから、能動的エンドサイトーシスが必要であることが示された (Figure 2F)。phagocytosis 阻害剤 Dynasore-OH (Dyn) (p<0.002) と DNM2 siRNA で取込みが有意に低下したが、macropinocytosis 特異的阻害剤 EIPA では抑制されなかった (Figure 2G, H)。この結果から、LO 取込みは macropinocytosis ではなく dynamin 依存的 phagocytosis 機序によることが確定した。また、CD8+ リンパ球では LO 取込みがほぼ完全に阻害されており (n=3 cell types)、細胞種特異的な取込み選択性が示された (Figure 2E)。LO (5-20 μg/mL) を直接処置した HUVEC (ヒト臍帯静脈内皮細胞) では管腔形成が Exo より有意に増加し (p<0.05)、Dyn 処置でこの効果が完全に消失したことから、取込みが LO の機能的活性に不可欠であることが実証された (Figure 2I, J)。

LO-AKT1-MYC 軸による線維芽細胞の CAF 様リプログラミング: LO 処置 NAF では、Exo と比較して α-SMA (α-smooth muscle actin) (筋線維芽細胞マーカー)、IL6、MMP9 の発現が有意に上昇した (p<0.05) (Figure 3B, C)。TGFβ1、MMP1、TSP1 は変化がなかったことから、LO が独自の「血管新生促進型 CAF (cancer-associated fibroblast) 様」表現型を誘導することが示された。RNA-seq 解析 (LO vs 対照) では 207 の差次的発現遺伝子 (DEG) (FDR<0.1、fold change ≥1.5) が同定され、MRA で 274 の転写因子の中から 16 の putative TF が特定された (経験的検定 p<0.01 かつ超幾何検定 p<0.01)。MYC はその筆頭として同定され (Figure 3E)、CDK4 プロモーターの MYC 依存的転写活性が LO 処置 NAF で有意に上昇した (Exo 処置では効果なし、p<0.05) (Figure 3D)。MYC 自体は LO 内に検出されなかったことから、LO は MYC タンパク質を運搬するのではなく、受容細胞内で MYC 活性化を誘導することが確認された (Figure 3F)。AKT1 阻害剤 AZD5363 (1 μmol/L) は MYC 活性、α-SMA 発現、管腔形成をいずれも有意に抑制し (p<0.05)、Dyn による LO 取込み阻害も MYC 活性を低下させた (Figure 3J, 4C, D, E)。提案されるメカニズムは、「LO 内 AKT1 → NAF 内 GSK3α/β リン酸化 (不活化) → MYC 安定化・活性化 → FGF2/GLS/LDH の転写誘導 → 血管新生・代謝再プログラミング」という AKT1/MYC 軸である (Figure 4F)。

In vivo 腫瘍増殖促進と MYC 阻害の抗腫瘍効果: DU145 前立腺癌細胞単独 vs. LO 前処置 NAF との共移植 (4:1 混合) でヌードマウス皮下腫瘍体積を比較すると、腫瘍細胞単独に対して LO 前処置 NAF との共移植で腫瘍体積が約 3 倍に増大した (35 日間追跡、n=5 mice per group) (Figure 3K)。Dyn による LO 取込み阻害および MYC 阻害剤 10058-F4 (20 μmol/L) はいずれもこの腫瘍増殖促進効果を完全に消失させた (p<0.05)。野生型マウス初代前立腺線維芽細胞への MYC 過剰発現は、腎被膜下グラフティング実験で隣接正常前立腺上皮の過形成を誘導し、腫瘍支持的役割の独立した証拠となった。また、NAF 由来の条件培地 (LO 前処置) は HUVEC 管腔形成を Exo 由来条件培地より有意に増強し (n=3 biological replicates、p<0.002) (Figure 3A)、in vitro 血管新生においても LO-NAF クロストークの機能的重要性が示された。

考察/結論

本研究は、前立腺癌由来 large oncosomes (LO) が活性型 AKT1 キナーゼを保持した独自の細胞間シグナリングプラットフォームとして機能し、dynamin 介在 phagocytosis で線維芽細胞に取り込まれた後、AKT1/MYC シグナル軸を介して CAF (cancer-associated fibroblast) 様リプログラミングを引き起こすという新規パラダイムを確立した先駆的研究である。

先行研究との違い: これまでのエクソソーム研究では、TGFβ1 が CAF 分化を誘導すると報告されていたが、本研究は、μm 級の LO がエクソソームとは独立した機能単位として活性型キナーゼを長期保持する点、および phagocytosis という特異的な取込み機構を介して機能的活性を発揮する点で、これまで報告されたメカニズムと異なることを示した。特に、LO が MYC を LO-間質クロストークのマスターレギュレーターとして同定した点は新規である。

新規性: 本研究で初めて、転移性前立腺癌患者の血漿 LO に活性型 AKT1 が特異的に高レベルで含有されることを明らかにした。また、LO が dynamin 依存的 phagocytosis によって線維芽細胞に内在化され、その取込みが LO の機能的活性に不可欠であることを実証した。さらに、LO が線維芽細胞にα-SMA、IL6、MMP9 の発現上昇を誘導し、血管新生促進型の CAF 様表現型へとリプログラミングするメカニズムにおいて、MYC 転写因子が中心的な役割を果たすことを新規に同定した。この LO-AKT1-MYC 軸は、腫瘍微小環境を形成する新たな細胞間コミュニケーション経路として、これまで報告されていない。

臨床応用: 患者 n=12 全例での血漿 LO 中 p-AKT1 Ser473 検出は、LO が転移性前立腺癌の疾患特異的な循環バイオマーカーとなり得ることを強く示唆しており、液体生検への応用が期待される。また、LO の取込み阻害剤 (Dyn 類縁体など) や MYC 阻害薬 (BET 阻害剤や OMOMYC などを含む) が、「発癌シグナルの水平伝播」そのものを標的とする新規治療戦略となりうる可能性を提示している。これは、腫瘍細胞だけでなく、腫瘍支持的な微小環境を標的とすることで、既存の治療法を補完または代替する新たなアプローチとなる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、LO の細胞内膜融合後の AKT1 活性化の正確な分子機序 (LO カーゴのエンドソーム融合後放出 vs リガンド-受容体シグナリング誘導型 AKT1 活性化の区別) の解明が挙げられる。また、MYC 以外の共活性化 TF (SPI-1、SOX2) の機能的寄与と MYC との協調的役割、乳癌・大腸癌・膀胱癌等の他癌種における LO-間質軸の普遍性の検証、LO 産生を促進する上流シグナル (DIAPH3 喪失以外) の同定、および LO 上の表面リガンドと線維芽細胞受容体との特異的相互作用の解明が今後の重要課題として挙げられる。これらの研究は、LO を介した腫瘍微小環境のモジュレーションに関する理解を深め、腫瘍進行と転移を阻止するための追加の標的を特定することに繋がるだろう。

方法

LNCaP MyrAKT1、PC3、22Rv1 前立腺癌細胞株、WPMY-1 (筋線維芽細胞株) および良性前立腺過形成由来初代正常前立腺関連線維芽細胞 (NAF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) を使用した。転移性前立腺癌患者 n=12 例および対照血漿から、差動遠心分離法により LO (2,800-10,000×g 遠心) と Exo (100,000×g 遠心 + 浮遊精製) を分離した。EV のサイズ分布は、TRPS (tunable resistive pulse sensing, qNano) を用いて確認し、LO は 1.5-6 μm、Exo は 80-180 nm の範囲であった。

LO および Exo 内の p-AKT1 Ser473 (リン酸化 AKT1 Ser473) の発現は、イムノブロット法で定量した。LO 内の AKT1 キナーゼ活性は、免疫沈降産物を ex vivo で 72 時間培養した後に、GSK3α/β リン酸化アッセイを用いて評価した。LO の細胞への取込みは、PKH26 蛍光標識 LO を用いたフローサイトメトリー (FACS) および共焦点顕微鏡により定量した (n=3 biological replicates)。取込み機序の解析には、dynamin 阻害剤である Dynasore-OH (Dyn, 20 μmol/L)、マクロピノサイトーシス阻害剤である EIPA、低温 (4°C) 処理、および DNM2 siRNA による遺伝子サイレンシングを用いた。

LO 処置 NAF (LO 処置 vs 対照) のトランスクリプトーム解析は、Illumina NextSeq 500 を用いた RNA-seq (75 bp single-end, 約20 million reads/sample) で実施した。リードは Bowtie (version 1.1.1) および RSEM (version 1.2.20) を用いてヒト GRCh38 トランスクリプトーム参照配列にアラインメントされた Langmead et al. GenomeBiol 2009 Li et al. BMCBioinformatics 2011。差次的発現解析 (DEG) は limma-voom を用いて行い、FDR<0.1 かつ fold change ≥1.5 を有意な差と定義した。その後、マスターレギュレーター解析 (MRA) を適用し、転写因子 (TF) ネットワークを推定した。MYC 活性は、MYC 結合エレメントを含む CDK4 プロモーターのルシフェラーゼレポーターアッセイで定量した。AKT 阻害剤 AZD5363 (1 μmol/L) および MYC 阻害剤 10058-F4 (20 μmol/L) の効果も評価した。

In vitro 血管新生アッセイとして、HUVEC を用いた管腔形成試験を実施した。In vivo 試験は、C57BL/6 雄マウスへの腎被膜下グラフティング、および DU145 細胞 ± NAF (4:1) のヌードマウス皮下接種モデルを用いて、腫瘍体積を最大 35 日間追跡した。統計解析には、少なくとも 3 回の独立した生物学的複製を行い、両側不対 Student t 検定を用いた。RNA-seq データは Gene Expression Omnibus (GSE87563) に登録された。