• 著者: Nabet BY, Qiu Y, Shabason JE, Wu TJ, Yoon T, Kim BC, Benci JL, DeMichele AM, Tchou J, Marcotrigiano J, Minn AJ
  • Corresponding author: Minn AJ (andyminn@upenn.edu)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28709002

背景

多くのヒトがん種において、腫瘍が抗ウイルス応答に関わるインターフェロン刺激遺伝子 (ISG; interferon-stimulated genes) を予想外に高発現し、これが化学療法・放射線療法への抵抗性と関連することが報告されていた。先行研究 (Boelens et al. Cell 2014) では、ISG 応答性 (ISG-R) 乳癌細胞 (主に TNBC・基底型) と間質線維芽細胞の細胞間接触により、間質由来エクソソームが乳癌細胞へ移行し、パターン認識受容体 (PRR; pattern recognition receptor) RIG-I を活性化して ISG が誘導され、NOTCH3-STAT1 経路を介した腫瘍幹細胞拡大・治療抵抗性につながることが示されていた。一方、ISG 非応答性 (ISG-NR) 乳癌細胞 (主に ER 陽性・管腔型) では同現象は認められなかった。また、腫瘍由来エクソソーム RNA が TLR3 (Toll-like receptor 3) を活性化して肺転移前ニッチ形成を促すことが (Liu et al. CancerCell 2016) により示され、DNA メチル化阻害薬が内因性 dsRNA を介したウイルス模倣応答を誘導することも (Chiappinelli et al. Cell 2015) によって報告されていた。しかし、RIG-I 活性化には 5’ 三リン酸化 (5’ppp) 構造が必要であるにもかかわらず、正常細胞の細胞質内には 5’ppp RNA が豊富に存在しているにもかかわらず慢性的な PRR 活性化は生じない。この矛盾——内因性 RNA が非病理条件下では PRR 認識を回避しながら、病的条件下には DAMP (damage-associated molecular pattern) として機能するようになるメカニズム——には根本的な知識の gap in knowledge があった。特に、間質細胞の腫瘍応答性活性化が RNA 結合タンパク質 (RBP) による「遮蔽解除 (unshielding)」を引き起こすという概念は手薄な領域であり、その分子実体も不足していた。

目的

間質活性化によって産生されるエクソソーム RNA DAMP の分子実体 (どの RNA か) と産生機構 (どうやって RBP 遮蔽を失うか) を同定し、この非遮蔽エクソソーム RNA が乳癌の悪性形質 (増殖・転移・治療抵抗性) を促進する機構を細胞・動物・患者検体レベルで解明する。

結果

エクソソームによる選択的 RNA 移行 (ISG-R 乳癌細胞への特異的移行):CD81-RFP エクソソームレポーターを用いた定量により、ISG-R 1833 乳癌細胞への間質エクソソーム移行が ISG-NR MCF7 との共培養に比べて顕著に高いことが示された (Fig 1B)。EU ラベリング実験では、ISG-R 共培養 24 時間後に 40% 以上の乳癌細胞が間質由来 RNA を取得したことが確認された (Fig 1D)。4sU ラベル RNA を用いた定量では、エクソソーム除去条件培地 (Co-cx Exo(-) CM) では移行が消失し、エクソソーム依存性が明確に確認された (n=5; Fig 1E)。BJ 線維芽細胞を用いた追試 (n=3) でも同様の選択的移行が認められ、ISG-NR 共培養では移行量が顕著に少なかった (Fig 1F)。exoRNA の SNP アレル頻度解析でも、共培養エクソソームの RNA が主に間質由来であることが確認された (Fig 1G)。これらの結果は、ISG-R 乳癌細胞との相互作用が間質線維芽細胞による選択的エクソソーム RNA 分泌・移行を誘導することを示している。

POL3 由来 5’ppp RN7SL1 がエクソソームを介して乳癌細胞 RIG-I を活性化:ISG-R 共培養エクソソームの exoRNA-seq では非コード RNA (反復配列・snRNA・srpRNA・ALU/SINE) が細胞 RNA に比べて富化された (Fig 2A)。RIG-I KO 乳癌細胞への exoRNA トランスフェクションでは ISG 誘導が消失し (Fig 2B)、WT RIG-I 再発現で回復、5’ppp 認識変異体 (RIG-I K858/861A) では顕著に減弱した。共培養後の間質細胞で POL3 サブユニット POLR3G タンパクが上昇し (Fig 2C)、siPOLR3F (n=3) または POL3 小分子阻害剤 (ML-60218) 処理により間質細胞での処理のみが乳癌細胞 ISG 誘導と放射線後細胞死割合の増加 (放射線保護効果) を有意に抑制した (p<0.05; Fig 2D, 2E)。組換え RIG-I ATP 加水分解アッセイでは ISG-R 共培養 exoRNA が RIG-I を直接活性化したのに対し、POL3 阻害剤処理 exoRNA や細胞 RNA では活性化が認められなかった (Fig 2H)。5’ppp-seq による転写産物同定で RN7SL1 (srpRNA) とその偽遺伝子群が共培養エクソソームにおいて単独培養と比較して顕著に増加する 5’ppp RNA であることが同定された (Fig 2I, 3B, 3C)。4sU ラベル RN7SL1 は WT RIG-I への結合が RIG-I K858/861A と比較して選択的に増加し (n=3; Fig 3G)、アルカリホスファターゼ処理 (5’ppp 除去) や 5’ 末端二次構造破壊により活性が消失した (Fig 3H, 3I)。

SRP9/14 遮蔽解除が RN7SL1 を病原性 DAMP に変換:MNase-seq 解析では、細胞質内 RN7SL1 は広範な RBP 遮蔽を受けているのに対し、ISG-R 共培養エクソソーム中の RN7SL1 は高度に非遮蔽状態であることが示された (Fig 4A, 4B)。ISG-NR 共培養エクソソームでは非遮蔽の程度が ISG-R 共培養と比較して有意に低く (Fig S4B)、エクソソーム移行低下と合わせて ISG 誘導不応の原因と考えられた。RN7SL1 の通常の結合タンパク SRP9 は単独培養間質細胞エクソソームには検出されたが、ISG-R 共培養エクソソームでは検出されなかった (Fig 4C)。GFP-SRP9/14 の間質細胞への過剰発現により共培養エクソソーム中の RN7SL1 遮蔽が増加し (Fig 4E)、乳癌細胞での ISG 誘導が有意に抑制された (n=3; p<0.01; Fig 4F)。逆に siRNA による SRP9/14 ノックダウンでは細胞・エクソソーム両方で RN7SL1 非遮蔽が増強 (n=4; Fig 4G, 4H) され、ISG 誘導が亢進した (Fig 4I)。組換え SRP9 タンパク添加は組換え RIG-I ATP 加水分解を部分的に抑制し (n=3; p<0.05; Fig 4J)、SRP9/14 が RIG-I 認識を直接遮断することが示された。

NOTCH1-MYC 軸による RN7SL1 非遮蔽の化学量論的制御:ISG-R 共培養後の間質細胞ゲノムワイドトランスクリプトーム解析で広範な間質活性化転写プログラムが確認された (Fig 5A)。ISG-R 共培養に特異的に NOTCH1 切断 (NICD1 生成) が起こり (Fig 5C)、MYC 核内蓄積が誘導されたが (Fig 5D)、いずれも細胞間接触依存性で GSI 処理により抑制された。重要な所見として、共培養後に RN7SL1 レベルが約 2.01-fold 上昇したのに対し SRP9/14 タンパク発現は不変であった (Fig 5E, 5B)。MYC-ER MEF を用いた 4-OHT 誘導実験では、MYC 活性化単独で POLR3G タンパクと RN7SL1 の増加が誘導され (Fig 5F, 5G)、エクソソーム中の非遮蔽 RN7SL1 が生成され (Fig 5H)、これが乳癌細胞の ISG 誘導に十分であった (Fig 5I)。POL3 阻害剤処理または SRP9/14 レンチウイルス過剰発現のいずれによっても MYC 誘導性の RN7SL1 非遮蔽と ISG 誘導がともに抑制された (Fig 5H-5K)。siMYC 処理によっても共培養での RN7SL1 非遮蔽と乳癌細胞 ISG 誘導が抑制されたことから (Fig 5L, 5M)、NOTCH1→MYC→POL3→RN7SL1 過剰産生という経路の化学量論的不均衡が非遮蔽 exoRNA 産生の中心機序であることが明確となった。

非遮蔽 RN7SL1 の in vivo DAMP 活性と TNBC 患者血清での特異的増加:MYC 活性化 MEF 由来エクソソームまたはリポソーム封入非遮蔽 RN7SL1 の静脈内投与では、tSNE クラスター解析で脾臓骨髄系/樹状細胞 (DC) サブセットにおける CD40、CD86、PD-L1、MHCII の発現上昇が認められ (Fig 6B, 6C)、poly I:C と同等の DAMP 活性が in vivo で確認された。皮下腫瘍内投与実験では RN7SL1 が腫瘍増殖を RIG-I 依存性に促進し (n=5 per group; Fig 6D)、RIG-I KO 腫瘍では効果が消失した。4175 LM2 乳癌細胞の shRIG-I (#1: 17%±4%、#2: 6%±1%) では shCTRL (38%±3%) と比較して肺転移コロニー形成が有意に減少した (p<0.01; Fig 6G, 6H)。肺転移マウスの血清エクソソームでは PBS 対照と比較してマウス RN7SL1 の非遮蔽が増加しており (Fig 6I)、腫瘍担持によるエクソソーム RN7SL1 状態変化が検出された。患者コホート解析では、健常人と比較してがん患者血清エクソソームで RN7SL1 非遮蔽が有意に増加し (Fig 7F)、特に TNBC 患者では ER 陽性乳癌患者と比較してさらに高い非遮蔽率が認められた (Fig 7G)。原発巣切除後でも異常な RN7SL1 非遮蔽が持続し、がん化した間質 (cancerized stroma) での産生継続が示唆された。

考察/結論

本研究は、内因性 5’ppp RNA が非病理条件では PRR 認識を回避しながら、病的条件下では DAMP として機能するという根本的な矛盾に対して、RNA 結合タンパク質による「遮蔽」という新規な制御層の存在を示した。これまでの研究では、RNA 修飾 (m7G キャッピング、2’-O-メチル化) や細胞内局在が PRR からの自己/非自己識別の主要機構と理解されていたが、それだけでは細胞質に豊富に存在する内因性 5’ppp POL3 転写産物が RIG-I を恒常的に活性化しない理由を説明できないという問題が既報から指摘されていた。本研究で初めて、RBP (SRP9/14) による物理的遮蔽が RIG-I 活性化を防ぐという追加の制御層の存在、そしてその解除メカニズムが同定された点で、PRR による自己/非自己識別の理解に新規の概念的貢献をもたらした。

注目すべき点として、同じ非コード RNA (RN7SL1) が移行先の細胞種によって異なる機能を持つことが示された。免疫細胞 (骨髄系/DC) へ移行した場合は DAMP として炎症応答を誘導するのに対して、乳癌細胞へ移行した場合は RIG-I-STAT1 経路を介して腫瘍幹細胞拡大・治療抵抗性をもたらす。この二重機能は、腫瘍微小環境における「sterile inflammation (無菌性炎症)」と「腫瘍促進性シグナル」の両方が同一の分子機構から生じうることを示す点で、これまでの研究と異なる新しい視点を提供する。さらに、ウイルス感染時のビリオンが SRP タンパクを含まない RN7SL1 を内包することが既報で報告されており、本研究結果はウイルスビリオン中の非コード RNA が RIG-I 活性化に寄与しうる可能性も示唆し、ウイルス生物学との接点を示している。

臨床的含意として、本研究は TNBC 患者血清エクソソームにおける非遮蔽 RN7SL1 がバイオマーカーとして利用できる可能性を示す。また、RIG-I 経路や RNA 遮蔽機構 (POL3 阻害剤、SRP9/14 の操作) が治療標的となりうることを示す。腫瘍内投与では RIG-I 依存的腫瘍促進効果が認められたが、全身投与での DAMP 活性 (CD40/CD86/MHCII 上昇) は文脈依存的な免疫修飾をもたらす可能性もあり、RIG-I 経路の臨床応用では腫瘍種・免疫コンテキストに応じた慎重な設計が必要である。また、RIG-I 活性化が腫瘍増殖促進にも免疫活性化にも寄与するという二面性は、今後の検討において ISG 高発現腫瘍に対する治療戦略の設計に直接関わる。

残された課題としては、まず非遮蔽 RN7SL1 が免疫細胞に対して免疫抑制 (MDSC 誘導) か免疫賦活 (T 細胞活性化) かのいずれに傾くのかについて、本研究の in vivo モデルでは十分に評価されておらず、今後の研究が必要である。また、本研究は主に乳癌 (特に TNBC) をモデルとしたが、ISG 高発現腫瘍は肺がんを含む多くのがん種で報告されており、同様の機構が他がん種にどの程度普遍的に適用されるかも future research の重要課題である。さらに、SRP9/14 以外の RBP による遮蔽機構の存在や、MYC-POL3-RN7SL1 軸以外でも類似の stoichiometric imbalance が生じうるかについても limitation として残されており、RBP 遮蔽-解除制御の全貌解明には更なる検討が求められる。

方法

エクソソーム単離と RNA 移行解析: エクソソームは差次遠心分離法 (ISEV2023 準拠の標準的超遠心プロトコル; Thery et al. 2006) により条件培地から単離し、TSG101 ウエスタンブロット (エクソソームマーカー) と CD81-RFP レポーターで品質を確認した (Figure S2C, S2D)。MRC5 間質線維芽細胞に CD81-RFP を安定発現させた後、CFSE 標識 1833 ISG-R または MCF7 ISG-NR 乳癌細胞と共培養してエクソソーム移行を定量した。RNA 移行は EU (5-ethynyl uridine) ラベリング (蛍光顕微鏡) と 4sU (4-thiouridine) ラベリング (ストレプトアビジンプルダウン) の二法を組み合わせて評価した。RIG-I 依存性検証: CRISPR/Cas9 で RIG-I をノックアウトした 1833 乳癌細胞に野生型 (WT) または 5’ppp 認識変異体 (K858/861A) を再発現させ、exoRNA 誘導 ISG の RIG-I 依存性を確認した。5’ppp-seq 法の開発: 5’ 末端の逐次酵素処理 (脱キャッピング + 脱リン酸化) により 5’ppp RNA を選択的に同定・配列決定するプロトコルを確立した。MNase-seq による遮蔽評価: 界面活性剤による膜透過処理の有無条件でマイクロコッカスヌクレアーゼ (MNase) を処理し、RNA 分解率で RBP 遮蔽状態を定量した。正規化最小自由エネルギー (MFE) で RNA 二次構造を評価した。NOTCH-MYC 経路の多角的解析: gamma secretase 阻害剤 (GSI; DAPT) 処理、siRNA ノックダウン、誘導性 MYC-ER MEF (4-OHT で MYC を誘導)、レンチウイルス過剰発現系を用いた。In vivo 機能解析: ヌードマウスへのリポソーム封入 RN7SL1 静脈内・腫瘍内投与 (n=5 per group)、脾臓骨髄系/樹状細胞の tSNE クラスター解析、皮下異種移植腫瘍増殖モデル、ルシフェラーゼ標識 4175 LM2 細胞による肺転移モデルで評価した。患者検体: レーザーキャプチャーマイクロダイセクション乳癌組織マイクロアレイデータ (GEO: GSE9014) および血清エクソソーム RNA-seq (2 コホート; Tables S2 and S3) を使用した。統計解析は Student’s t検定を基本とし、多群比較は ANOVA を用い、エラーバーはすべて SEM で示した (有意差基準: p<0.05 を *)。