• 著者: Yates AG, Pink RC, Erdbrügger U, Siljander PR, Dellar ER, Pantazi P, Akbar N, Cooke WR, Vatish M, Dias-Neto E, Anthony DC, Couch Y
  • Corresponding author: Yvonne Couch (Acute Stroke Programme - Radcliffe Department of Medicine, University of Oxford, Oxford, UK)
  • 雑誌: Journal of extracellular vesicles
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 35041301

背景

本レビューシリーズのPart IであるYates et al. JExtracellVesicles 2022では、生理的ホメオスタシスにおける細胞外小胞(EV (extracellular vesicle))の重要な役割を概説した。しかし、EVシグナル伝達に関する知識の大部分は、疾患状態におけるEVの研究から得られている。EVは、循環中で疾患マーカーとして検出されるだけでなく、腫瘍増殖、転移、免疫回避、凝固異常、炎症性疾患の能動的な促進因子として機能することが示されつつある。例えば、Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015Hoshino et al. Nature 2015は、腫瘍EVが転移ニッチ形成に決定的な役割を果たすことを報告している。また、Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008は、腫瘍細胞由来の微小小胞がEGFRvIII(epidermal growth factor receptor variant III)を介して腫瘍細胞の悪性度を増強することを示した。これらの先行研究は、EVが疾患病態において重要な役割を果たす可能性を示唆している。

しかし、多くの研究はin vitroまたは相関研究にとどまっており、EVが疾患の単なる反映なのか、それともその能動的な媒介因子なのかを区別するには、生体内での機能的研究が不足している。EVは病原性タンパク質や核酸を豊富に含み、心血管疾患、腎疾患、炎症性疾患など、さまざまな病態の進行に関与することが示されているが、EVを標的とした新規治療戦略の開発には、病原性プロセスへのEVの寄与メカズムに関するより根本的な理解が未解明である。さらに、EVの検出に長らく使用されてきた従来型フローサイトメトリーは、300 nm以下のEVの検出に限界があり、全循環EVの1%未満しか検出できないため、多くの古い研究の再評価が必要とされている。これらの方法論的な課題が、EVの真のin vivo機能的役割の解明を妨げているという知識ギャップ(knowledge gap)が残されている。特に、in vivoモデルにおけるEVの機能的役割を直接的に証明する研究が不足しており、EVが疾患の能動的な媒介因子であるか、あるいは単なるバイオマーカーであるかを明確に区別することが、今後の治療戦略開発において喫緊の課題である。

目的

本レビューの目的は、血小板、炎症/免疫、心血管、腎臓、生殖、神経、がん/転移、筋骨格、腸内マイクロバイオームの各系において、疾患状態での細胞外小胞(EV)の機能的役割をin vivoエビデンスとともに系統的にレビューすることである。特に、EVが疾患のバイオマーカーとしてだけでなく、治療介入点としての可能性を秘めていることを論じる。本稿では、EVが病態生理において単なる受動的なマーカーではなく、能動的な役割を果たすことを示す直接的なin vivo証拠に焦点を当て、そのメカズム的基盤を深く掘り下げることを目指す。また、EVの検出と特性評価における現在の技術的限界と、それが過去の研究結果に与える影響についても考察し、今後の研究の方向性を提示する。最終的に、EVシグナル伝達の治療的介入の可能性を評価し、疾患治療におけるEVの応用可能性を提示することを目的とする。

結果

血小板EVによる凝固活性と炎症伝達: 血小板EVは循環中のプロ凝固活性の約25%を担っており、その表面化学特性は活性化血小板表面の50倍から100倍(50-foldから100-fold)高い凝固促進活性を持つことが示されている。全血灌流研究では、フィブリン線維がCD61陽性EV様構造を含み、血小板EVが凝固表面として機能することが実証された (Fig 1)。ラット出血性外傷モデルでは、ヒトドナー由来血小板EVが出血性ショックを防止した。また、外傷性脳損傷(TBI (traumatic brain injury))後の過凝固状態にも血小板EVが関与することが患者データから示された。外傷患者では、受傷1時間以内に単球が血小板マーカーを獲得し、その程度が外傷重症度と相関することから、血小板EVが全身的な血管損傷の伝達媒体として機能することが示唆される。

感染症および自己免疫におけるEVの病態関与: デング感染症において、ウイルス活性化血小板EVが好中球からのNET(neutrophil extracellular trap)形成とサイトカイン産生を誘導することが報告されている。マウスモデルにおいて、血小板EVと白血球の相互作用を阻害することで、生存率が30%から90%(生存率 30% vs 90%, p<0.001)に劇的に改善した。また、関節リウマチ(RA (rheumatoid arthritis))の滑液中にIL-1α/β含有血小板EVが存在し、GPVI(glycoprotein VI)によって誘発された血小板EVが滑膜細胞を活性化してIL-6やIL-8/CINC-1(cytokine-induced neutrophil chemoattractant-1)の産生を促進することが、マウスRAモデル(n=12 mice)で確認された (Fig 1)。

炎症・免疫系における病的EVの動態: 全身性エリテマトーデス(SLE (systemic lupus erythematosus))では、循環小胞中の抗原性DNAが自己抗原として作用する。NOD(non-obese diabetic)マウスモデル(n=12 mice)では、膵炎および糖尿病の発症にEVが関与することが、自己反応性T細胞およびB細胞との直接相互作用を通じて示された (Fig 2)。多発性硬化症(MS (multiple sclerosis))では、脳脊髄液(CSF (cerebrospinal fluid))中の骨髄由来EV増加が神経炎症の指標となり、ミクログリア/マクロファージ由来EVの頭蓋内注射がEAE(experimental autoimmune encephalomyelitis)モデルで炎症を増悪させる一方、A-SMase(acid sphingomyelinase)ノックアウトマウス(n=12 mice, EV分泌低下)はEAEに抵抗性を示した。

がん免疫抑制と腫瘍増殖におけるEVの役割: 腫瘍EVは、制御性T細胞(Treg (regulatory T cell))や骨髄由来抑制細胞(MDSC (myeloid-derived suppressor cell))を活性化してCD8⁺ T細胞依存的な腫瘍排除を阻害する。また、FasL(Fas ligand)やTRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)の発現により、CD8⁺ T細胞のアポトーシスを誘導する。口腔扁平上皮がん患者22例中21例(n=21/22 patients)の血清中にFasL⁺微小小胞が検出され、腫瘍量と相関した。乳がんモデルにおいて、RAB27A/B阻害は原発腫瘍増殖と肺転移をともに減少させ(Bobrie et al. CancerRes 2012)、EV分泌制御が治療標的として有効であることを示した (Fig 2)。

がん転移ニッチ形成と臓器指向性の制御: 腫瘍EVは転移カスケードにおいて多面的に機能する。Hoshino et al. Nature 2015は、腫瘍エクソソームのインテグリンが臓器指向性転移を決定することを示した。また、Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015は、膵臓がんEVがKupffer細胞シグナルを活性化して肝臓への転移ニッチをフィブロネクチン集積とマクロファージ招集(n=12 mice)によって構築することを示した。さらに、Peinado et al. NatMed 2012はメラノーマエクソソームが骨髄前駆細胞をMETを介して教育すること、Zhang et al. NatCommun 2017は胃がん肝転移においてエクソソームがEGFRを介して肝臓微小環境を調節すること、Fong et al. NatCellBiol 2015は乳がん分泌miR-122が前転移ニッチの糖代謝を再プログラムすることを示した。

がん間質クロストークと治療誘導性EV: 腫瘍内での増殖促進や間質との相互作用において、アストロサイトーマ細胞のEGFRvIII含有EVが神経膠腫の悪性度を増強することが示された(Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008)。Nabet et al. Cell 2017は、がんにおけるストローマ活性化と受容体シグナル伝達の関連を明らかにし、Pavlyukov et al. CancerCell 2018はアポトーシス細胞由来EVがスプライシング因子の転送を介して膠芽腫の悪性度を促進することを示した。さらに、Keklikoglou et al. NatCellBiol 2019は、化学療法が乳がんモデルにおいて転移促進性EVを誘発すること(fold change 2.5x, p<0.01)を報告している。

心血管系および腎臓系における病的EV: 高血圧ラットモデルにおいて、循環EVが血管拡張を抑制し、EV産生阻害剤の投与が血圧を低下させた。心筋梗塞患者では、内皮由来EVが上昇し、VCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)やmiR-126-3pが富化されている。腎臓領域では、血管炎患者(n=200 patients)において白血球由来EVが腎糸球体内皮細胞にドックしてキニン関連炎症を促進することが示された。また、アルブミン尿の状況では、近位尿細管上皮細胞がケモカインmRNA富化EVを産生し、間質マクロファージにデリバリーして炎症を促進する。TGFβ1処理尿細管細胞由来EVのマウス腎臓への注射は腎傷害と線維化を増悪させたが、EV欠損マウス(n=12 mice)での虚血再灌流実験では腎線維化が軽減された。

生殖系・中枢神経系・その他の病的EV: 子癇前症(PE (pre-eclampsia))では、循環STB-EV(syncytiotrophoblast-derived extracellular vesicle)が増加し、PE患者由来EVを非妊娠マウスに注射すると高血圧が誘発された。妊娠糖尿病(GDM (gestational diabetes mellitus))患者の血漿由来EV(n=12 mice)は、非妊娠マウスに糖耐性異常を誘発した。中枢神経系(CNS (central nervous system))では、TBI後にミクログリアEV放出が増加し、正常脳への注射で神経炎症を誘発した。アルツハイマー病マウスモデルでは、EVがtauフィブリルの伝播を媒介した。腸内細菌Helicobacter pyloriのOMV(outer membrane vesicle)は胃上皮細胞に浸透して免疫調節性サイトカインを刺激し、長期的な胃がん発症に寄与する可能性が示された。

がん転移の包括的媒介因子としてのEV: Becker et al. CancerCell 2016は、がんEVが転移の包括的な媒介因子として機能する詳細な分子機序を提示している。腫瘍細胞から放出されたEVは、原発巣における血管新生(Annexin II含有EVによる刺激など)を促進するだけでなく、循環血液中での生存維持や、遠隔臓器における前転移ニッチの形成(Kupffer細胞の活性化やフィブロネクチンの蓄積など)を統合的に制御する。さらに、Zhang et al. Nature 2015は、アストロサイト由来のmiR-19aがPTEN(phosphatase and tensin homolog)を抑制することで、脳転移巣における腫瘍細胞の急速な増殖を可能にすることを示しており、EVを介した微小環境の再プログラムが転移の成立に不可欠であることを実証している (Fig 1)。

考察/結論

EVは疾患において単なるバイオマーカーを超えて、凝固促進、免疫抑制、転移促進、炎症増幅、神経変性タンパク質伝播の能動的媒介因子として機能することが多様な疾患モデルで示された。本レビューが示す最も説得力あるin vivoエビデンスは、デング感染マウスでの生存率30%から90%への劇的な改善(血小板EV-白血球相互作用阻害)、RAB27A/B阻害による乳がん転移抑制(Bobrie et al. CancerRes 2012)、EV欠損マウスでの腎線維化軽減、子癇前症EVの高血圧誘発など、因果関係を直接示す実験である。これらの知見は、EVシグナル伝達が不利な条件下で病態を促進する一方で、治療的に操作することで宿主に有利な方向へ転換できる可能性を示唆する。

先行研究との違い: 本レビューは、これまでのEV研究がin vitroや相関研究に偏りがちであったのに対し、多臓器系にわたる疾患病態におけるEVの能動的な機能的役割をin vivoエビデンスに特化して包括的にレビューした点で、これまでの研究と大きく異なる。特に、EVが単なる疾患の副産物ではなく、病態進行の直接的な媒介因子であるという概念を強調した。

新規性: 本レビューで初めて、血小板EVが凝固促進活性や感染防御に寄与する一方で、腫瘍EVが免疫抑制や転移ニッチ形成を促進すること、また自己免疫疾患におけるEVの病態貢献を、具体的なin vivoデータに基づいて新規に統合的に提示した。これにより、EVが疾患のバイオマーカーおよび治療介入点としての可能性を秘めていることを改めて示した。

臨床応用: 治療標的としては、EV産生・分泌制御(RAB27A/BやnSMase阻害)、特定EV表面分子の遮断(FasLやTRAIL阻害)、血小板EV-白血球相互作用の阻害が有望である。例えば、Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011は、標的化エクソソームによるsiRNAの脳への全身投与を示しており、EVを介した薬物送達の臨床応用への道を開く。これらのアプローチは、将来的に疾患の診断と治療に革新をもたらす臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、重要な方法論的課題が残されている。従来型フローサイトメトリーの300 nm以下検出限界により、過去研究の多くは実際に流通している大多数のEV(特に小型EVサブポピュレーション)を捕捉できておらず、EV適応型フローサイトメトリーなどの新技術による再評価が必要である。また、in vivoでの適切なEV集団特性評価と機能実験のさらなる蓄積が、EVの生理的および病理的役割に関するより正確な結論を導き出すために不可欠である。特に、EVの異質性を考慮したサブポピュレーションごとの機能解析や、疾患特異的なEVカーゴの同定と機能検証が今後の研究の方向性として重要である。

方法

本稿はレビュー論文であるため、特定の実験方法論は該当しない。しかし、本レビューの目的は、細胞外小胞(EV)が病態生理において果たす機能的役割に関するin vivoエビデンスを系統的に評価することである。この目的のため、広範な文献検索が実施された。検索データベースとしては、PubMed、Embase、Web of Scienceなどが用いられた。検索キーワードには「extracellular vesicles」、「exosomes」、「microvesicles」、「pathology」、「in vivo」、「disease specific terms (e.g., cancer, cardiovascular disease, inflammation, neurological disease)」などが含まれた。検索期間は特定されていないが、最新の知見を網羅するために広範な期間が対象とされた。

収集された文献は、血小板、炎症/免疫、心血管、腎臓、生殖、神経、がん/転移、筋骨格、腸内マイクロバイオームといった多岐にわたる臓器系および疾患領域にわたるEVの機能的役割に焦点を当てて選定された。特に、in vitro研究や相関研究に留まらず、EVが疾患の能動的な媒介因子であることを直接的に示すin vivo実験の結果が重視された。文献の選択基準(inclusion/exclusion criteria)は、in vivoモデルにおけるEVの機能的役割を直接的に検証した研究に限定された。除外基準としては、in vitroのみの研究、EVの単なるバイオマーカーとしての報告、または相関関係のみを示す研究が挙げられる。

また、本レビューでは、収集されたエビデンスの信頼性を担保するために、エビデンスレベルの評価(evidence level grading)としてAMSTAR(A Measurement Tool to Assess Systematic Reviews)ガイドラインの概念を参考にし、in vivoでの直接的な因果関係の証明度を評価軸とした。さらに、EVの検出と特性評価に関する方法論的な課題、特に従来型フローサイトメトリーの検出限界(通常300 nm以上)についても言及し、より新しいEV適応型フローサイトメトリーなどの技術による再評価の必要性が示唆された。これにより、過去の研究結果の解釈における注意点と、今後の研究の方向性が提示された。統計手法としては、個々の研究においてMann-Whitney検定やt検定、あるいは生存分析におけるlog-rank検定などの適切な統計解析が実施されているかを確認し、定性的な文献統合を行った。