Article data
Activated PMN Exosomes: Pathogenic Entities Causing Matrix Destruction and Disease in the Lung
- 著者: Genschmer KR, Russell DW, Lal C, Szul T, Bratcher PE, Noerager BD, Abdul Roda M, Xu X, Rezonzew G, Viera L, Dobosh BS, Margaroli C, Abdalla TH, King RW, McNicholas CM, Wells JM, Dransfield MT, Tirouvanziam R, Gaggar A, Blalock JE
- Corresponding author: J. Edwin Blalock (jeblalock@uabmc.edu), University of Alabama at Birmingham
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30633902
背景
COPD (chronic obstructive pulmonary disease; 慢性閉塞性肺疾患) は、喫煙などによって引き起こされる慢性的な気道炎症と肺胞破壊を特徴とする難治性肺疾患であり、世界の死因第4位を占める深刻な疾患である。その病態生理の中核をなすのが、プロテアーゼと抗プロテアーゼの不均衡説である。この説では、炎症局所に動員された PMN (polymorphonuclear leukocyte; 多形核白血球) から放出される強力なエラスチン分解酵素である NE (neutrophil elastase; 好中球エラスターゼ) と、それを阻害する肺内の主要な抗プロテアーゼ因子である α1AT (alpha-1 antitrypsin; α1-アンチトリプシン) とのバランスが崩れることで、細胞外マトリックスである ECM (extracellular matrix; 細胞外マトリックス) の破壊が進行すると考えられてきた。この古典的モデルは、先行研究である Russell et al. AnnAmThoracSoc 2016 や、Shapiro et al. (2003) などの既報において広く支持されてきた。しかし、実際の臨床現場においては、COPD 患者の肺胞洗浄液中に十分な量の活性型 α1AT が存在するにもかかわらず、なぜ NE による組織破壊が進行するのかという臨床的な矛盾が存在し、その詳細な分子メカニズムは長年にわたり 未解明 のままであった。
また、近年では細胞外小胞の一種であるエクソソームが細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして注目を集めている。がん細胞由来エクソソームがヘパラン硫酸プロテオグリカンを介して機能する機序 Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013 や、インテグリンを介して組織指向性を決定する知見 Hoshino et al. Nature 2015 などの先行研究はあるものの、PMN 由来のエクソソームがそれ自体で独立した病原性エフェクターとして機能し、直接的に ECM を破壊するかどうかについては、これまでの研究において検討が著しく 不足 していた。さらに、超早産児の慢性肺疾患である BPD (bronchopulmonary dysplasia; 気管支肺異形成症) においても、好中球性炎症と ECM の再構築が関与することが示唆されていたが、その具体的なメディエーターや、COPD と共通する病態生理学的機序については 不明 な点が多く、治療標的の確立に向けた知見が著しく 不足 しているのが現状であった。このように、プロテアーゼが抗プロテアーゼの監視を逃れて局所的な組織破壊を駆動する「隠蔽されたプロテアーゼ活性」の存在とその担い手については、従来の遊離酵素モデルでは説明がつかない大きな gap が残されていた。
目的
本研究の目的は、活性化された PMN から放出されるエクソソームが、その表面に活性型の NE を高密度に搭載し、肺内の主要な阻害因子である α1AT による阻害作用に対して選択的な抵抗性を示す新規の病態エンティティであることを実証することである。さらに、このエクソソームがインテグリン Mac-1 (macrophage-1 antigen) を介して ECM に特異的に結合し、搭載された NE によって局所的なエラスチンやコラーゲンの分解を誘導する分子メカニズムを解明する。最終的には、in vivo マウスモデルを用いて、この活性化 PMN 由来エクソソームが COPD 様の肺気腫病変や BPD 様の肺胞発育不全を直接誘導できることを示し、ヒト患者由来の臨床検体である BALF (bronchoalveolar lavage fluid; 気管支肺胞洗浄液) および気道吸引物から回収したエクソソームが、動物モデルにおいてそれぞれの疾患表現型を転移させる能力を持つことを検証し、好中球優位の炎症性肺疾患における共通の治療標的としての有用性を明らかにすることを目指す。
結果
活性化 PMN エクソソームにおける活性型 NE の高密度表面搭載: 健常者末梢血 PMN (n=2 donors) から fMLP 刺激によって放出された活性化エクソソームは、NTA 解析において quiescent エクソソームと同様に約 100 nm の平均粒径を示した (Fig 1A)。しかし、FACS (fluorescence-activated cell sorting; 蛍光活性化細胞選別解析) の結果、CD66b⁺ エクソソームにおける表面 NE の陽性率は、quiescent エクソソームではわずか 1.0% であったのに対し、活性化エクソソームでは 89.2% と極めて高頻度であった (Fig 1E)。さらに、DQ-Elastin 蛍光基質を用いたアッセイにおいて、活性化エクソソームは高いエラスチン分解活性を示し、quiescent エクソソームとの間に顕著な機能的差異が認められた (Fig 2A)。プロテオーム解析では、TSG101 や Alix などの canonical エクソソームマーカーとともに、好中球特異的マーカーである CD66b やインテグリン Mac-1 (CD11b/CD18) の存在が確認された (Fig 1B)。これらの結果は、PMN の活性化に伴い、酵素活性を維持した NE がエクソソーム表面に選択的かつ高密度に搭載されることを示している。
α1AT 阻害に対する選択的抵抗性とカチオン性分子による感受性回復: 溶液中の遊離 NE は、肺内の主要なプロテアーゼ阻害因子である α1AT (10 μM) によって速やかにかつ完全に阻害される (Fig 2C)。これに対し、活性化 PMN 由来エクソソームに搭載された表面 NE は、α1AT による阻害に対して約 9-fold の高い抵抗性を示し、新鮮な未凍結サンプルにおいては実質的に完全な阻害抵抗性を確立していた (Fig 2D) (Fig 3B)。この抵抗性メカニズムを検証するため、カチオン性物質である protamine sulfate または L-lysine を添加したところ、エクソソーム表面から NE が速やかに遊離し、遊離した NE は α1AT に対する感受性を完全に回復した (Fig 3B)。この現象は、がん細胞由来エクソソームがヘパラン硫酸プロテオグリカンを介して機能する機序 Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013 にも類似しており、正電荷を帯びた NE がエクソソーム表面の陰性荷電プロテオグリカンと静電的に結合し、大型タンパク質である α1AT (約 52 kDa) の活性部位への立体的なアクセスを遮断し、酵素活性を保護していることを実証している。
Mac-1 依存的な ECM 結合と局所的なコラーゲン・エラスチン分解: 活性化 PMN エクソソームがどのように組織破壊を誘導するかを調べるため、純度 97% の type I collagen およびエラスチンに対する結合能を評価した (Fig 4)。活性化エクソソームは、これらの ECM 成分に対して用量依存的かつ特異的な物理的結合を示した (Fig 4G)。電子顕微鏡観察では、コラーゲンフィブリルに直接結合したエクソソームの周囲で、局所的なフィブリル構造の断裂と崩壊が確認された (Fig 4E) (Fig 4F)。この結合は、Mac-1 の αM-I ドメインを特異的に阻害するペプチド MP-9 の添加によって 100% 阻害されたが、一般的なインテグリン阻害ペプチドである RGD では阻害されなかった (Fig 4H)。がん細胞エクソソームのインテグリンが組織指向性を決定する知見 Hoshino et al. Nature 2015 と同様に、本小胞も Mac-1 を介して ECM にアンカリングされ、表面の NE が局所적かつ集中的にマトリックスを分解する「二段階モデル」が証明された。また、FITC 標識コラーゲンを用いた分解アッセイにおいて、エクソソームによるコラーゲン分解活性は NE 阻害剤 II の前処置によって大部分が消失した (Fig 4J)。
in vivo における超高効率な COPD 様表現型の誘導と遊離 NE との比較: 健常者 PMN 由来の活性化エクソソームを A/J mice (n=5 mice) の気管内に単回投与したところ、投与後3日以内に肺胞腔の拡大 (Lm の有意な上昇) が観察され、この病変は投与後21日まで持続した (Fig 5A) (Fig 5E)。flexiVent を用いた呼吸機能測定では、気道抵抗の上昇とコンプライアンスの低下が確認され、さらに長期的な累積効果として RVH も誘導された (Fig 5C) (Fig 5D)。驚くべきことに、同等の肺胞拡大を誘導するために必要な精製遊離 NE の投与量は 3,333 ng であったのに対し、活性化エクソソーム上に存在する NE 換算量はわずか 0.33 ng であり、エクソソーム搭載 NE は遊離 NE よりも 10,000-fold 高い病原効力を示した (Fig 5F) (Fig 5H)。この病変誘導能は、NE 阻害剤 II による前処置、または抗 CD66b および抗 CD63 磁気ビーズを用いたエクソソームの枯渇処理によって完全に消失したため、病原性の主体が CD63⁺/CD66b⁺ エクソソーム表面の NE であることが裏付けられた (Fig 5G) (Fig 5J)。
COPD 患者 BALF 由来エクソソームによるマウスへの疾患転移: 臨床的な関連性を検証するため、COPD 患者 (n=10 patients) および健常非喫煙者 (n=10 patients) の BALF から精製したエクソソームを A/J mice (n=4 mice) に移入した (Fig 6)。健常者由来エクソソームの投与では変化がなかったのに対し、COPD 患者由来エクソソームを投与したマウスでは、10例中10例 (10/10例) すべてにおいて有意な肺胞拡大 (Lm の上昇) と RVH が誘導された (Fig 6B) (Fig 6C) (Fig 6E)。FACS 解析の結果、COPD 患者の BALF 由来 CD66b⁺ エクソソームにおける NE 陽性率は 96.1% と極めて高値であったのに対し、健常非喫煙者ではわずか 1.3% であった (Fig 6G)。さらに、抗 CD66b 磁気ビーズを用いて精製したエクソソーム画分は、未分画の BALF エクソソームと比較してより少量で同等の肺胞拡大を誘導し、この活性は NE 阻害剤 II の処置によって完全に消失した (Fig 6D)。これは、患者由来の非感染性細胞下構造物であるエクソソームが、NE 依存的に疾患表現型を動物モデルへ転移させうることを示した初の実証例である。
BPD 患者気道吸引物由来エクソソームによる新生児マウスでの肺胞低形成誘導: 本病態経路の他疾患への汎用性を検証するため、重症 BPD 患者 (n=5 patients) および対照群 (n=5 patients) の気道吸引物から精製したエクソソームを、新生児 C57BL/6 mice (n=4 mice) に鼻腔内投与した (Fig 7)。対照群由来のエクソソームを投与したマウスでは正常な肺発達が維持されたのに対し、BPD 患者由来のエクソソームを投与された新生児マウスでは、肺胞の単純化および発達阻害を示す RAC の有意な低下が認められた (Fig 7A) (Fig 7B)。また、これらのマウスでは気道抵抗の有意な上昇および RVH の発現も確認された (Fig 7C) (Fig 7D)。さらに、磁気ビーズにより精製した CD66b⁺ エクソソーム画分のみの投与によっても、未分画のエクソソームと同等の重篤な肺胞低形成が再現された。これらの結果は、PMN 由来の NE 搭載エクソソームが、COPD のような成人の肺胞破壊性病変だけでなく、新生児の BPD における肺胞発達不全をも駆動する共通の病原性因子であることを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の COPD 病態仮説である「プロテアーゼ-抗プロテアーゼ不均衡説」は、遊離 NE が局所の α1AT 阻害能を上回ることで組織破壊が進行すると説明してきた。しかし、この古典的モデルは、肺胞洗浄液中に十分な量の α1AT が存在するにもかかわらず、なぜ組織破壊が進行するのかという臨床的な矛盾を説明できなかった。本研究は、遊離プロテアーゼを対象とした これまで の知見 と異なり、エクソソームという脂質二重膜小胞の表面に結合した NE が、α1AT による接近を立体的に阻害され、プロテアーゼ阻害バリアーを完全に回避して機能するという「隠蔽されたプロテアーゼ活性」の存在を明らかにした。この点で、従来の可溶性酵素を中心とした病態モデルとは一線を画している。
新規性: 本研究は、活性化 PMN 由来のエクソソームが、単なる細胞間情報伝達のツールにとどまらず、それ自体が独立して組織破壊を駆動する「機能性病原エフェクター」であることを 本研究で初めて 示した。特に、インテグリン Mac-1 を介した ECM への特異的アンカリングと、α1AT 抵抗性 NE による局所分解が協調して働く「二段階モデル」を 新規 に提唱した。さらに、COPD や BPD 患者の臨床検体から回収した非感染性の細胞下構造物であるエクソソームが、ナイーブマウスにおいてそれぞれの疾患表現型を忠実に再現し、疾患を「転移」させうる能力を持つことを実証した点も、細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) 分野における極めて先駆的な発見である。
臨床応用: 本知見は、好中球性炎症を伴う難治性肺疾患に対する新たな治療戦略の 臨床応用 に直結する。具体的には、カチオン性化合物 (例えば、すでに臨床で使用されている protamine sulfate など) を用いてエクソソーム表面から NE を解離させ、内因性 α1AT に対する感受性を回復させる治療法や、Mac-1 と ECM の結合を阻害する MP-9 様のペプチド薬、あるいはエクソソーム特異的な NE 阻害剤の開発が、臨床的意義 の高い新規アプローチとして期待される。
残された課題: 一方で、今後の検討課題 として、PMN 由来エクソソーム上に搭載されている NE 以外のプロテアーゼ (例えば MMP-9 や MMP-12 など) が、肺胞破壊や組織再構築に果たす副次的な役割については十分に解明されていない。また、本研究における limitation として、マウスモデルにおける急性または亜急性の曝露実験が中心であり、ヒト COPD のように数十年にわたる超長期的な煙吸入下でのエクソソームの動態や蓄積効果を完全に模倣できているわけではない。さらに、protamine sulfate などのカチオン性物質を吸入療法として 臨床応用 する際の、気道粘膜に対する局所的な安全性や投与経路の最適化についても、今後の課題 として慎重な検証が必要である。
結論: 活性化 PMN 由来エクソソームは、α1AT 阻害に抵抗する NE を表面に搭載し、Mac-1 依存的に ECM へ結合・分解することで、遊離 NE の約 10,000倍 の病原効力をもって肺組織を破壊する。本研究は、COPD や BPD の病態を駆動する新規の病原エンティティとして PMN 由来エクソソームを定義し、好中球性肺疾患における革新的な治療標的を提示した。
方法
健常者末梢血から分離した PMN を、fMLP (formyl-methionine-leucine-phenylalanine; 10 nM) または CXCR2 リガンドである PGP (proline-glycine-proline; 100 μg/mL) で刺激し、活性化 PMN 由来エクソソームを調製した。対照として DMSO 処理した静止期 (quiescent) PMN 由来エクソソームを用いた。エクソソームの精製には、超遠心分離法 (150,000G) および抗 CD66b 抗体結合磁気ビーズを用いたキャプチャー法を適用した。粒径および粒子濃度は、NTA (nanoparticle tracking analysis; ナノ粒子トラッキング解析) システム (NanoSight NS300) を用いて測定した。
NE 活性は、DQ-Elastin (dye-quenched elastin; 色素消光エラスチン) 蛍光基質、特異的ペプチド基質 (MeOSucAAPVpNA)、および FITC 標識 type I collagen を用いて定量評価した。α1AT に対する感受性試験では、精製 NE とエクソソーム表面 NE を比較し、カチオン性物質である protamine sulfate (プロタミン硫酸塩) または L-lysine (L-リジン) を用いた表面結合解離実験を行った。ECM への結合能評価には、type I collagen またはエラスチンをコーティングしたプレートを用い、Mac-1 阻害ペプチドである MP-9 (Mac-1 peptide-9; 配列: CPCFLLGCC) または RGD (arginine-glycine-aspartate) ペプチドを添加して結合阻害実験を行った。コラーゲンフィブリルの構造変化は、透過型電子顕微鏡である TEM (transmission electron microscopy; 透過型電子顕微鏡) で観察した。
in vivo 評価として、健常者 PMN 由来の活性化エクソソーム (1.67 × 10⁷ 〜 1.67 × 10⁸ 個) を、8-12週齢の A/J mice または C57BL/6 mice の気管内 (i.t.) に単回または複数回投与した。投与後3-21日目に肺組織を固定し、平均線状遮断長である Lm (mean linear intercept; 平均線状遮断長) による肺胞拡大の定量、flexiVent システムを用いた呼吸機能測定、および右室肥大である RVH (right ventricular hypertrophy; 右室肥大) の評価 (右室重量/左室+中隔重量比) を行った。
さらに、COPD 患者 (n=10 patients) および健常非喫煙者 (n=10 patients) の BALF、ならびに BPD 患者 (n=5 patients) および対照群 (n=5 patients) の気道吸引物からエクソソームを精製し、それぞれ A/J mice (i.t. 投与) または新生児 C57BL/6 mice (鼻腔内投与) に移入して疾患表現型の転移能を評価した。新生児マウスの肺胞発達は、放射状肺胞数である RAC (radial alveolar count; 放射状肺胞数) を用いて定量した。
また、HBE (human primary airway epithelial; ヒト原発性気管支上皮) 細胞にエクソソームを添加し、次世代シーケンサーを用いた RNA-seq (mRNA sequencing; メッセンジャーRNAシーケンシング) を実施した。リードの配列アライメントには STAR Dobin et al. Bioinformatics 2013 を、発現定量には HTSeq Anders et al. Bioinformatics 2015 を使用し、発現変動遺伝子の解析には DESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を用いた。
統計解析には GraphPad Prism を使用し、2群間比較には Mann-Whitney 検定、多群間比較には Kruskal-Wallis 検定を伴う一元配置分散分析 (ANOVA) を用いた。