- 著者: Robert Richter, Ezgi Sari, Delores Stacks, Crystal Lewis, Julian Smith, Ningyong Xu, Tamiajoi Langster, Dakota Finley, Camilla Margaroli, Kristopher R. Genschmer
- Corresponding author: Robert Richter (rrichter@uabmc.edu, University of Alabama at Birmingham); Kristopher R. Genschmer (kristophergenschmer@uabmc.edu, University of Alabama at Birmingham)
- 雑誌: STAR Protocols
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-04-04
- Article種別: Protocol
- PMID: 40186860
背景
好中球由来の小型細胞外小胞(EVs、直径40〜160 nm)は、細胞間コミュニケーションおよび細胞外マトリックス(ECM)リモデリングにおいて重要な役割を果たすことが知られている。これらのEVsは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、関節リウマチ、敗血症など、様々な炎症性疾患の病態生理に関与することが報告されている。ヒト末梢血中で最も豊富な白血球である好中球(全白血球の50〜70%を占める)は、プライミングや活性化に応答して大量のEVsを放出する。特に、CD66b陽性好中球EVsは、エラスターゼ、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)などの炎症性酵素を搭載しており、組織傷害と修復の調節に関与することが示唆されている。例えば、Genschmer et al. Cell 2019は、活性化好中球由来EVsが肺組織破壊を引き起こす病原性因子であることを報告している。また、EVsの分泌と細胞間コミュニケーションにおける特異性については、Mathieu et al. NatCellBiol 2019によって詳細に報告されている。さらに、EVsの生物学、機能、および生物医学的応用については、Kalluri et al. Science 2020によって包括的にレビューされている。
しかし、これらの好中球EVsの効率的な単離、厳密な特性評価、および機能解析のための標準化されたプロトコルは、これまで十分に確立されていなかった。特に、循環血中の好中球EVsを特異的に捕捉し、その病態生理学的役割を詳細に評価するための体系的な手法は未解明な部分が多かった。EVsの単離には超遠心分離法が広く用いられてきたが、血漿中の豊富な可溶性タンパク質(免疫グロブリンやアルブミンなど)がEVsと共沈し、純度を低下させるという課題があった。また、EVsのサイズ分布や濃度測定、表面マーカーの同定、搭載酵素の活性評価など、包括的な特性評価を行うための統一された手順が不足していた。さらに、好中球は非常に活性化しやすい細胞であり、単離過程での不必要な活性化がEVsの組成や機能に影響を与える可能性があり、その制御も重要な課題であった。本プロトコルは、Genschmer et al. Cell 2019による臨床的に関連する病態誘発能を有する好中球EVsの研究を基盤として開発されたものであり、これらの技術的な不足を解消し、好中球EVs研究の進展に貢献することを目指している。
目的
本研究の目的は、ヒト末梢血から好中球由来EVsを単離し、特性評価および機能実験に供するための詳細かつ標準化されたプロトコルを提供することである。具体的には、以下の3つの主要な目標を設定した。
- ex vivoでの好中球EVs単離と活性化: Ficoll密度勾配遠心法を用いて初代好中球を高純度で単離し、N-ホルミル-L-メチオニル-L-ロイシル-フェニルアラニン(fMLF)による活性化後のEVsを差次的超遠心分離法により精製する手順を詳述する。これにより、特定の刺激に応答して放出されるEVsの特性を評価するための基盤を提供する。
- 循環血漿からの好中球EVsの特異的単離: 循環血漿からCD66b(CEACAM8)抗体磁気ビーズプルダウン法を用いて好中球由来EVsを直接単離する手順を確立する。この手法は、in vivoでの好中球活性化状態を反映するEVsを捕捉し、液体生検としての応用可能性を探ることを目的とする。
- EVsの包括的特性評価: 単離されたEVsの粒径と濃度をマイクロ流体抵抗パルスセンシング(Spectradyne nCS1)で測定し、表面マーカー(CD66b、CD11bなど)をフローサイトメトリーで解析する。さらに、タンパク質発現(エラスターゼ、MPOなど)をウェスタンブロットで評価し、好中球エラスターゼ活性を比色法および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)ベースアッセイで測定する方法を提供する。これらの手法により、好中球EVsの生物学的特性を多角的に解明することを目指す。
結果
1. 高純度好中球EVsの精製と特性評価: Ficoll密度勾配遠心法により、95%以上の純度で初代好中球が単離された。fMLFで活性化された好中球から分離されたEVs画分は、マイクロ流体抵抗パルスセンシングにより40〜160 nmの粒径分布を示し、平均粒径は約100 nmであった (Figure 3A)。典型的なEVs濃度は1 x 10^9〜1 x 10^10 EV/mLであった。フローサイトメトリー解析では、これらのEVsが好中球マーカーであるCD66b陽性であることが確認された (Figure 4A)。これは、好中球由来EVsが特異的な表面マーカーを保持していることを示している。静止好中球由来EVs(n=3ドナー)と比較して、活性化好中球由来EVs(n=3ドナー)ではCD66b陽性EVsの割合が有意に高かった。
2. エラスターゼ活性の保持と増強: 精製されたEVs画分において、好中球エラスターゼ活性が検出された。特に、fMLFで活性化された好中球由来EVsは、静止好中球由来EVsと比較して、エラスターゼの存在量(ウェスタンブロット、Figure 5)および酵素活性(FRETアッセイ、Figure 6B)が有意に高いことが示された。FRETアッセイでは、活性化好中球由来EVsは静止好中球由来EVsと比較して、ドナー:アクセプター蛍光比が約2倍高かった。これは、活性型プロテアーゼを搭載したEVsがECMリモデリング能を持つことを示唆しており、Genschmer et al. Cell 2019の報告と一致する。ウェスタンブロットでは、活性化好中球由来EVsにおいてCD66bと好中球エラスターゼの両方の発現が増加していることが確認された。例えば、活性化EVsのエラスターゼバンド強度は静止EVsと比較して約2.5-fold高かった。
3. 循環CD66b⁺EVsの血漿からの特異的回収: 磁気ビーズプルダウン法により、ヒト血漿から好中球特異的EVsであるCD66b陽性EVsが選択的に精製された。この手法は、循環中の好中球活性化の低侵襲的バイオマーカーとしてCD66b⁺EVsを評価するための液体生検応用の基盤を提供する (Figure 3B)。exoEasyキットを用いた4 mLのヒト血漿からのEVs分離では、250 μLの溶出液中に1 x 10^11〜1 x 10^12 EV/mLのEVs濃度が期待される。これは、循環血中のEVsを効率的に捕捉できることを示している。3人の健常ドナー(n=3)の血漿から単離されたEVsの平均粒径は、約120 nmであった。
4. 炎症疾患モデルへの応用可能性: 本プロトコルで精製された好中球EVsは、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞などへの処置実験に利用可能であり、炎症性肺疾患(COPDなど)のin vitroモデル構築に応用されることが示唆された。例えば、5 x 10^6個の活性化好中球から得られたEVsは、細胞培養モデルにおいて炎症反応を誘発するのに十分な量であると評価された。また、比色アッセイでは、5 x 10^7個の活性化EVsが16時間で有意なエラスターゼ活性を示した (Figure 6A)。この活性は、静止EVsと比較して約1.8-fold高かった。
考察/結論
本プロトコルは、好中球EVs研究における主要な技術的課題、すなわち好中球の速やかな活性化、EVs産生、および循環からの特異的回収を体系的に解決した。ex vivoで産生されたEVsと循環中のCD66b⁺EVsの2経路の精製アプローチにより、研究目的に応じた柔軟な実験設計が可能となった。
先行研究との違い: これまでのEVs単離プロトコルは、特定の細胞種に特異的なEVsの効率的な回収と、その機能的特性評価を両立させる点で課題があった。本プロトコルは、Cui et al. STARProtoc 2021などの好中球単離法を基盤としつつ、好中球EVsの病原性に着目したGenschmer et al. Cell 2019の知見を統合し、より特異的かつ機能的なEVsの単離・評価を可能にする点で、これまでのプロトコルと異なっている。特に、血漿中のEVsを磁気ビーズプルダウン法で特異的に捕捉する手法は、従来の超遠心分離法では困難であった高純度な好中球EVsの回収を可能にした点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、fMLF活性化好中球由来EVsが静止好中球由来EVsと比較して、脱顆粒酵素の存在量と活性が高いことを詳細に示した。具体的には、活性化EVsのエラスターゼ活性が約2倍に増加することを確認した。また、循環血漿からCD66b陽性EVsを特異的に捕捉する磁気ビーズプルダウン法を確立したことは新規であり、好中球EVsのin vivoでの役割解明に貢献する。この手法は、循環中の好中球活性化状態を反映するバイオマーカーの探索に新たな道を開くものである。
臨床応用: 好中球EVsはエラスターゼなどの活性酵素を搭載してECMを傷害することが示されており、COPD、気管支拡張症、関節リウマチなどのEVs介在性病態機序解明に向けた基盤ツールを提供する。本プロトコルは、これらの疾患における好中球EVsのバイオマーカーとしての臨床応用や、新たな治療標的の同定に繋がる可能性を秘めている。特に、循環血中のCD66b⁺EVsを測定することで、低侵襲的に炎症性疾患の病態をモニタリングできる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、個々のドナー間における好中球EVsの数や生物学的特性の変動が挙げられる。特に、全身性炎症の状態によってEVsの特性が変化するため、in vitro/in vivo実験に用いるEVsは、好中球エラスターゼ活性アッセイなどを用いて十分に特性評価を行う必要がある。また、より感度の高いFRETアッセイでは少量のEVs(1 x 10^7〜1 x 10^9 EV)で解析可能であるが、ウェスタンブロットやフローサイトメトリーではより多くのEVs(5 x 10^9〜5 x 10^10 EV)が必要となるため、サンプル量の制約がある場合のEVs濃縮法の最適化が今後の課題である。さらに、磁気ビーズプルダウン法による好中球特異的EVsの回収効率と純度をさらに向上させるための改良も検討されるべきである。
方法
1. 試薬準備 (4時間): 0.9% w/v NaCl、0.2% w/v NaCl、1.6% w/v NaCl、3% w/vデキストラン0.9% w/v NaCl溶液を調製し、オートクレーブ滅菌および0.22 μmフィルター処理を行った。fMLF溶液(20 mM DMSOストック)を調製し、EV除去処理を施した。EV除去リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、150,000 x gで2時間の超遠心分離または100 kDa MWCO遠心フィルターを用いて調製した。EV除去PBS、2.5 mM EDTA溶液およびEV除去PBS、2.5 mM EDTA、2%ミルク溶液も同様に調製した。EV除去PBS、1% Tween 20希釈バッファーは、マイクロ流体抵抗パルスセンシング用に0.02 μmシリンジフィルターでろ過して調製した。50 mMグリシン緩衝液(pH 2.5)も調製した。
2. ヒト全血の採取と好中球単離 (3時間): ヒト全血40 mLをK2-EDTA(二カリウムエチレンジアミン四酢酸)採血管に採取し、20〜22°Cで処理した。好中球単離は、Cui et al. STARProtoc 2021の方法を改変した密度勾配遠心法を用いた。全血を3%デキストラン0.9% NaCl溶液と混合し、20〜22°Cで20分間インキュベートして赤血球を沈降させた(Figure 1A)。上清を除去後、細胞濃縮液を250 x gで10分間遠心分離した(Figure 1B)。細胞ペレットを0.9% NaClに再懸濁し、Ficoll-Paque PLUS上に重層して400 x gで40分間遠心分離した(Figure 1C, D)。回収した好中球層から残存赤血球を0.2% NaClによる低張溶解と1.6% NaClによる等張回復の繰り返しで除去した。最終的に、好中球純度および生存率はそれぞれ95%以上であることを確認した。
3. 好中球活性化とEV産生 (30分 + 4時間): 精製好中球をEV除去1X PBS (+/+) に5 x 10^6個/mLの濃度で調整した。一部の好中球は静止状態のコントロールとしてEV除去1X PBS (-/-) に維持し、残りはfMLF(最終濃度2 μM)で37°C、25分間活性化させた。活性化後、コンディション培地を回収し、3,000 x gで10分間、次いで10,000 x gで60分間遠心分離して細胞デブリと大型EVsを除去した。その後、150,000 x gで2時間超遠心分離を行い、EVペレットを回収した(Figure 2)。EVペレットはEV除去1X PBS (-/-) 100 μLに再懸濁し、4°Cで保存した。
4. 循環好中球EVs単離 (2.5時間): クエン酸採血管から採取したヒト血漿を1,500 x gで15分間遠心し、血小板を除去した。その後、10,000 x gで60分間遠心し、大型EVsを除去した。Qiagen exoEasy Maxi EV分離キットを用いて膜親和性分離を行い、EVsを溶出した。溶出液は必要に応じて10 kDa MWCO遠心フィルターで濃縮した。その後、ビオチン化抗CD66b/CEACAM8 IgG抗体とストレプトアビジン標識磁気ビーズを用いて、CD66b陽性EVsをプルダウンした。磁気ビーズとEVsはEV除去1X PBS (-/-) 2.5 mM EDTA (2%ミルク含有) で4°C、16時間エンドオーバーエンド回転でインキュベートした。
5. 特性解析 (2-3日後): EVsの粒径と濃度はSpectradyne nCS1ナノ粒子アナライザーを用いたマイクロ流体抵抗パルスセンシングで測定した。表面マーカー(CD66b、CD11bなど)はフローサイトメトリー(Beckman Coulter CytoFLEX S)で解析した。タンパク質発現はウェスタンブロット(エラスターゼ、MPOなど)で評価した。好中球エラスターゼ活性は、比色法(N-メトキシスクシニル-Ala-Ala-Pro-Val p-ニトロアニリド基質)またはFRETベースアッセイ(NEmo-1レポーター)で測定した。統計解析には、Student’s t-testを用いた適切な比較検定を用いた。本研究では、ヒト初代好中球(n=3ドナー)からEVsを単離し、特性評価を行った。