• 著者: Sonam Gurung, Dany Perocheau, Loukia Touramanidou, Julien Baruteau
  • Corresponding author: Julien Baruteau (Great Ormond Street Institute of Child Health, University College London, London, UK)
  • 雑誌: Cell Communication and Signaling
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-04-23
  • Article種別: Review
  • PMID: 33892745

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles, EV) は原核生物・真核生物を問わず全ての細胞から放出され、健康と疾患における細胞間情報伝達を制御する Doyle & Wang (Cells 2019)。エクソソームはその一亜群で、当初は網状赤血球が不要な細胞産物 (トランスフェリン受容体など) を排出する機構として同定されたが Johnstone et al. (J Biol Chem 1987)、現在では機能性タンパク質・代謝産物・核酸を受容細胞へ転送し、免疫応答・組織修復・幹細胞維持・中枢神経系 (central nervous system, CNS) 通信から、心血管疾患・神経変性・癌・炎症まで広範な生理・病理過程を駆動することが知られる (Valadi et al. NatCellBiol 2007)。

その生体適合性、二層脂質膜による遺伝子カーゴ保護、血液脳関門 (blood brain barrier, BBB) を含む生体膜の通過能から、エクソソームは診断バイオマーカーおよび治療用カーゴキャリアとして大きな関心を集めている Kalluri et al. (Science 2020)。先行研究では、Trajkovic et al. Science 2008 がセラミド依存の ESCRT 非依存生合成を、Ostrowski et al. (NatCellBiol 2010) が Rab27a/Rab27b による分泌制御を、Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011 が RVG (rabies virus glycoprotein) 提示による脳標的化を、それぞれ単一段階として確立してきた。しかし臨床応用には、標的細胞・臓器を正確に狙いつつオフターゲット分布を抑える困難、および自然に取り込まれる細胞由来の遺伝的不純物による潜在的免疫原性という障壁が残る。これらを克服する前提として、エクソソームの生合成・分泌・標的化・取り込み・細胞内シグナル伝達という各段階を一気通貫で結ぶ分子レベルの統合的理解が依然として不足していた。すなわち従来のレビューに欠けていたのは、個別段階ごとに蓄積した知見を相互に連結し、どの分子が工学的操作の標的になりうるかを段階横断で位置づける「経路全体像」の記述であり、この統合的視座の欠如こそが治療用エクソソーム設計を妨げていた。本総説はこの knowledge gap を埋め、治療用エクソソーム開発に資する経路マップを提供することを動機とする。

目的

本総説は、エクソソームの (1) 多胞体での生合成、(2) 分泌と生体内分布、(3) 標的細胞への到達と取り込み、(4) 取り込み後の細胞内シグナル伝達と運命、という全行程を分子プレイヤー単位で解説することを目的とする。あわせて、各段階のうちエクソソーム工学 (操作・標的化・カーゴローディング) に応用しうる経路を強調し、さらにエクソソーム研究における主要な論争点 (定義・特性評価・細胞膜での生合成) と一般的な落とし穴 (機能実験の二次効果、特性評価標準化の欠如、夾雑物) を整理して、信頼性の高い臨床開発の基盤を示すことを目指す。

結果

EVの分類とエクソソームの生化学的組成: EV はサイズと生合成経路に基づき、エクソソーム (30-200 nm)、マイクロベシクル (microvesicles, MV; 100-1000 nm)、アポトーシス小体 (>1000 nm) の3群に大別される (Fig 1, Table 1)。エクソソームはエンドソーム起源で密度 1.13-1.19 g/ml、MV は細胞膜出芽由来で密度 1.04-1.07 g/ml、アポトーシス小体はブレビング由来で密度 1.16-1.28 g/ml と区別される (Table 1)。エクソソームの主要タンパク質はテトラスパニンファミリー (CD9/CD63/CD81)、ESCRT (Endosomal Sorting Complex Required for Transport) タンパク質 (Alix, TSG101)、インテグリン、熱ショックタンパク質 (heat shock protein, Hsp)、アクチン、フロチリンであり、MHC (major histocompatibility complex) クラス I/II など一部はドナー細胞型に特異的である (Table 2)。脂質はスフィンゴミエリン・コレステロール・セラミドが膜剛性とカーゴソーティング・分泌を制御し、核酸では miRNA が最も豊富な RNA 種で rRNA・lncRNA・tRNA・piRNA も含まれる。ExoCarta データベースの集計では、エクソソームから >4400 種のタンパク質、約200 種の脂質、>1600 種の mRNA、>750 種の miRNA が同定されている。

ESCRT依存性のILV生合成機構: エクソソームは多胞体 (multivesicular body, MVB) と後期エンドソームの内方出芽で生じる内腔小胞 (intraluminal vesicle, ILV) に由来する (Fig 3)。MVB はリソソーム/オートファゴソームとの融合による分解経路と、細胞膜との融合・エキソサイトーシスによる分泌経路に分岐するが、両経路が分子的に区別されるかは未解明である。ILV 生合成は主に5つのコア複合体 (ESCRT-0/-I/-II/-III/Vps4) からなる ESCRT 機構が駆動する。ESCRT-0 のサブユニット Hrs (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) がユビキチン化カーゴを PI3P (phosphatidylinositol-3-phosphate) 富化エンドソームへ選別し、ESCRT-I (TSG101; tumor susceptibility gene 101) と ESCRT-II が内方出芽を促し、ESCRT-III (構成要素は CHMP3・CHMP4B など charged multivesicular body protein サブユニット) がネック切断を担い、Vps4 (vacuolar protein sorting-associated protein 4) ATPase が複合体を解離させる。Hrs・STAM1 (signal transducing adaptor molecule)・TSG101 の欠損は腫瘍細胞や樹状細胞でエクソソーム分泌を低下させ、逆に Leptin は TSG101 発現上昇を介して放出を増やす。ALIX は ESCRT-III を後期エンドソームへ動員し、syndecan-syntenin 軸を介して ILV 形成とテトラスパニン取り込みを駆動するが、樹状細胞では ALIX サイレンシングが MHC-II 分泌を増やし CD63 を減らすなど効果は細胞型依存である (Table 2)。

ESCRT非依存性経路:脂質とテトラスパニン: ESCRT 機構と並行し、複合脂質とテトラスパニンによる ESCRT 非依存経路も生合成に寄与する。スフィンゴミエリナーゼがスフィンゴ脂質を分解して生じるセラミドはラフト様構造を自己集合させ、初期膜湾曲を与えて ILV 出芽を促す (Trajkovic et al. Science 2008)。スフィンゴミエリナーゼ欠損は神経細胞での Aβ ペプチドや、複数腫瘍モデルでの CD63/CD81/TSG101/miRNA 含有エクソソームの分泌を阻害し、C 型肝炎ウイルス RNA の転送も抑える。テトラスパニン CD63 (別名 LAMP3; lysosomal-associated membrane protein 3) は EBV (Epstein-Barr virus) 由来オンコプロテイン LMP1 (latent membrane protein 1) のリソソーム分解回避を仲介し、ApoE (apolipoprotein E) と相互作用してメラノソームのソーティングを ESCRT 非依存に制御する。CD9 はメタロプロテアーゼ CD10 のエクソソーム搭載を増強し、CD81 富化マイクロドメインはカーゴソーティングの足場となる一方、tetraspanin-6 は syntenin を介して ALIX-syndecan-syntenin 機能を抑制しエクソソーム産生を負に制御する。ただし脂質依存の生合成調節は細胞型依存で、メラノーマ細胞ではセラミド産生欠損でも産生は不変であった。

Rab GTPaseとSNAREによる分泌・生体内分布: 分泌段階では Ras スーパーファミリー最大の Rab GTPase 群が中心的役割を担う。Rab27a は HeLa 細胞・神経細胞・ポドサイトで MVB の細胞膜ドッキングに関与しエクソソームのサイズを規定する一方、Rab27b は MVB の細胞内分布を制御し、両者は機能を分担する。Rab11・Rab35 はエンドソームリサイクリング経路でカーゴ分泌に関与し、両者の欠損はエンドソームカーゴの細胞内蓄積を招く。SNARE (soluble NSF attachment protein receptor) タンパク質 (標的膜側の syntaxin-5/syntaxin-4/SNAP23 と小胞側 SNARE) と、オートファジー関連 Atg5/Atg16L1 (Atg = autophagy-related) が分泌を促し、master regulator である mTORC1 は栄養・増殖因子に応じて放出を負に制御する。生体内分布は投与経路に強く依存し、経口投与では肝・肺・腎・膵・脾・卵巣・結腸・脳へ広く分布するが、静脈内投与では主に肝臓に隔離され、次いで脾・肺・消化管に分布して血流から急速にクリアされる。腫瘍内注射は腫瘍内検出を延長し、鼻腔内投与は脳送達を優先する (Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011)。標的化は表面組成が規定し、インテグリン α6β4/α6β1 は肺転移を、αvβ5 は肝転移を指向し、CD47 は宿主免疫からの回避を担う (Table 2)。

受容細胞への取り込みと細胞内シグナル伝達: 受容細胞に到達したエクソソームは、表面受容体との直接相互作用によるシグナル誘導、細胞膜との直接融合による内容物放出、またはエンドサイトーシスによる内部移行のいずれかをとる (Fig 4)。取り込み経路はクラスリン依存性エンドサイトーシス (clathrin-mediated endocytosis, CME)、脂質ラフト依存性、カベオリン依存性、食作用 (phagocytosis)、マクロピノサイトーシス、フィロポディア surfing と多彩で、しばしば同一細胞で共存する (Fig 5)。CME ではダイナミン-2 阻害がマクロファージ・ミクログリアの取り込みを減じ、トランスフェリン受容体過剰発現が取り込みを増す。カベオリン-1 は上皮細胞で取り込みを促すが線維芽細胞・グリオーマでは抑制するなど経路の効果は細胞型依存である。取り込み後は早期エンドソーム→後期エンドソーム/MVB→リソソームの古典的経路で分解されうるが、多くのカーゴは分解を回避し機能を発揮する (Fig 6)。pH 感受性の TGF (transforming growth factor)-β1 は酸性エンドソーム環境で活性化し受容細胞の表現型を変える。リソソーム回避経路として、ER (endoplasmic reticulum) や核質網への送達、CD81 陽性 LAMP-1 (lysosomal-associated membrane protein 1) 陰性コンパートメント (HIV-1 [human immunodeficiency virus type 1] 様)、陰イオン脂質リゾビスホスファチジン酸 (lysobisphosphatidic acid) を介した後期エンドソーム融合、トランスゴルジ網への逆行輸送、リサイクリングエンドソームを介した再放出が記述されている。

不均一性・細胞膜生合成論争と研究上の落とし穴: エクソソームはサイズ・密度・組成・細胞起源が多様な不均一集団であり、進化的分画で大型 (90-120 nm) と小型 (60-80 nm) のサブ集団に分離される。論争点の一つは生合成部位で、Jurkat T 細胞の細胞膜には CD63/CD81 富化の「エンドソーム様」ドメインが存在し、ある研究では CD9/CD81 がエンドソーム区画より細胞膜から 5-fold 高効率に出芽すると報告されたが、なお決定的マーカーを欠き議論が続く。落とし穴としては、生合成の分子プレイヤーがゴルジ・リソソーム・オートファジーなど他経路にも関与するため loss/gain-of-function が二次効果を生む点、親細胞・培養条件・単離特性評価の非標準化が EV 間の物性重複と再現性低下を招く点、培養培地由来やマイコプラズマ夾雑由来のエクソソームを誤って解析する点が挙げられる。これらは MISEV 指針の複数相補的特性評価と陰性マーカー (annexin A1 を MV 専用マーカーとする提案など) の徹底で軽減されるとした。

考察/結論

本総説は、エクソソームの生合成から分泌・輸送・取り込み・細胞内シグナル伝達に至る全行程を分子プレイヤー単位で結びつけ、治療応用に向けた経路マップを提示した。

先行研究との違い: 既報のエクソソーム総説は生合成・取り込み・臨床応用のいずれか単一側面に焦点化することが多かったが、本研究はこれまでの研究を横断して全段階を連結し、ESCRT 依存経路と脂質ラフト/テトラスパニンによる ESCRT 非依存経路が相補的に共存する構図、Rab27a と Rab27b の役割分担、テトラスパニン種別のカーゴ選択性を体系的に対比した。とりわけ、取り込み経路が単一でなく細胞型・カーゴ・組成に応じて並存・拮抗する点を、CME とカベオリン経路が dynamin-2 を共有して区別困難であるといった具体例とともに整理した点が、断片的記述に留まっていた既報と対照的である。

新規性: 本研究で新規に強調されたのは、取り込み後のエクソソームが単一のリソソーム分解運命に収束せず、ER・核質網・CD81 陽性 LAMP-1 陰性区画・リゾビスホスファチジン酸介在融合・逆行輸送・リサイクリング再放出という複数のリソソーム回避経路を経てシグナル機能を果たしうるという「細胞内運命の多経路性」の整理であり、これらをエクソソーム工学で操作可能な標的として位置づけた視点である。

臨床応用: 本知見はエクソソーム基盤の診断・治療製品の開発に直接的な臨床的意義を持つ。標的特異性の向上 (RVG など組織指向リガンドの提示)、CD63 等を用いたカーゴローディング効率の最適化、投与経路選択による生体内分布制御 (静脈内では肝隔離、鼻腔内では脳送達)、遺伝的不純物の管理という設計指針を与え、間葉系幹細胞由来エクソソームによる組織修復、KRAS 標的化を含む癌治療、BBB を越える CNS 治療への bench-to-bedside の橋渡しを支える。

残された課題: エクソソーム研究には、定義・特性評価・細胞膜での生合成をめぐる論争点と、機能実験の二次効果・単離特性評価の非標準化・夾雑物という落とし穴が残されている。今後の検討課題として、MISEV 指針の厳格な遵守と陰性マーカーを含む標準マーカーセットの確立、細胞膜直接生合成の決定的証拠の取得、カーゴ放出を直接可視化する標識・イメージング技術の開発が挙げられる。とりわけ、現行の多くの研究が膜脂質・膜タンパク質を標識するためカーゴそのものの放出を追跡できていないという limitation は、エクソソームのシグナル送達機構を解明し臨床翻訳を進めるうえで克服すべき最重要点である。

方法

本論文はナラティブレビューであり、エクソソームの生合成・分泌・輸送・取り込み・細胞内シグナル伝達に関する既存文献を分子機構の観点から統合した。メタ解析やエビデンスレベルのグレーディングは行わず、各段階の主要な molecular players と、それらを支持・反証する実験的証拠 (loss/gain-of-function、阻害剤、生体内分布トレーシング) を批判的に対比する形式をとる。本総説が前提とするエクソソームの単離法と特性評価枠組みは International Society for Extracellular Vesicles (ISEV) の Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles (MISEV) 指針に沿うもので、単離法としては超遠心分離 (ultracentrifugation)、密度勾配遠心、サイズ排除クロマトグラフィー (size exclusion chromatography, SEC)、免疫親和性捕捉 (immunoaffinity isolation) が用いられる。特性評価マーカーとしてはテトラスパニン CD9・CD63・CD81、ESCRT 関連タンパク質 Alix・TSG101 が陽性マーカーとして、また解糖系酵素・細胞骨格タンパク質の欠如が陰性指標として扱われ、ナノ粒子追跡解析 (nanoparticle tracking analysis, NTA)、電子顕微鏡、フローサイトメトリー、ウェスタンブロットを組み合わせてサイズ・密度・表面マーカー・細胞起源を同定する。MISEV2018 指針はこれら複数の相補的特性評価を全 EV 標本に必須とし、共単離された非 EV 成分の追跡を求めている点を、本総説は方法論的前提として採用する。