- 著者: Marie-Luise Mosbach, Christina Pfafenrot, Elke Pogge von Strandmann, Albrecht Bindereif, Christian Preußer
- Corresponding author: Albrecht Bindereif (Justus Liebig University of Gießen), Christian Preußer (Philipps University of Marburg)
- 雑誌: Cells
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-10-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 34685656
背景
細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) は、核酸、タンパク質、脂質を含有し、細胞間通信に関与するユビキタスな脂質粒子である。2000年代初頭に Valadi et al. NatCellBiol 2007 がEVを介したmRNAやmiRNA (microRNA) の移送という画期的な概念を報告して以来、RNAカーゴを介した細胞間情報伝達に多大な注目が集まった。EVがmiRNAなどの各種RNAを特異的かつ選択的に包含し、遠隔細胞に機能的に伝達するという「EV-RNAシグナリング」仮説が広く共有されるようになった。この仮説は、EVが診断バイオマーカーや治療薬送達システムとして利用される可能性を示唆し、その後の研究の大きな原動力となった。
しかし、近年の定量的研究により、EV内のmiRNAコピー数は1 EVあたり0.0001〜0.1分子という非常に少ない値であることが示され、Chevillet et al. ProcNatlAcadSciUSA 2014 や Jeppesen et al. Cell 2019 はEVが大量のRNAカーゴを運ぶとする初期の仮定に疑問を呈した。細胞外miRNAの多くはEVではなく、AGO2 (Argonaute 2) などのRNA結合タンパク質に結合した非小胞性画分に存在することも明らかになった。これらの知見は、EVが機能的なRNAを効率的に伝達するという従来の認識に大きなギャップを残した。EVのRNA積載能に関するこのような知識ギャップ (knowledge gap) は、EVの生物学的機能の理解を妨げるだけでなく、EVを治療ツールとして応用する上での課題となっている。
一方、いくつかのRNAクラス(tRNA、Y RNA、vault RNA、U6 snRNA (small nuclear RNA) などのRNAポリメラーゼIII (pol III) 転写産物)はEVに比較的豊富に存在するという報告もあり、EVへのRNA選択的放出を決定する分子規定因子の系統的解析が強く求められていた。特に、RNA特性として (1) サイズ・長さ、(2) プロモーター種 (pol II vs pol III)、(3) 末端修飾 (poly(A)尾部の有無、5’キャップ構造の種類) がEV包含効率に与える影響は未解明であった。これらの分子規定因子を明らかにすることは、EVの生物学的機能の理解を深める上で不可欠であり、また、治療用途でのEV-RNA送達に向けた基盤的知識の確立という実践的観点からも本研究の意義は大きい。現在のところ、EVへのRNA搭載メカニズムに関する包括的な理解が不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題である。
目的
本研究の目的は、RNAの特性(長さ、プロモーター種、末端修飾)を系統的に検討し、EVへのRNA選択的放出を決定する分子因子を同定することである。具体的には、RNAポリメラーゼII (pol II) およびRNAポリメラーゼIII (pol III) 転写産物のEVへの搭載効率を比較し、さらにRNAの長さとEV搭載効率との関係を定量的に評価する。また、内在性RNA転写産物(U6 snRNA、Y1 RNA、U1 snRNA、GAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) mRNA)の細胞内およびEV内での絶対コピー数を複数の細胞株で定量し、EVが機能的RNAカーゴを大量伝達するという従来の仮説を定量的に検証する。さらに、EVに搭載されるmRNAの末端修飾状態(5’キャップおよび3’poly(A)尾部)を詳細に解析し、EV内RNAの機能的意義について考察することを目的とする。これらの知見は、EVを介したRNA伝達のメカニズムと機能的範囲の理解に貢献し、EVの診断および治療応用における基盤情報を提供することを目指す。
結果
pol III転写産物の優先的EV包含: 3種のレポーターコンストラクトをHEK293細胞に同時にトランスフェクションし、EV内コピー数を絶対定量した。細胞内のRNA量はpol III/U6-termが4.1 × 10^5分子/細胞、pol II/U1-3’boxが1.8 × 10^5分子/細胞、pol II/poly(A)が1.8 × 10^5分子/細胞とほぼ同等であった。一方、EV内コピー数はpol III/U6-termが0.1分子/EV、pol II/U1-3’boxが0.02分子/EV、pol II/poly(A)が0.003分子/EVであり、pol III転写産物がpol II転写産物より有意に効率よくEVに包含されることが示された (Figure 2b)。pol III/U6-termはEVあたり0.1 moleculesで検出され、これはpol II/poly(A)の0.003 molecules/EVと比較して顕著な差であった。また、poly(A)尾部の有無ではpol II-poly(A)がpol II-U1-3’boxより低効率であり、poly(A)付加はEV包含に不利であることが示唆された。この結果は、RNAの生合成経路がEVへの搭載効率に影響を与えることを明確に示している。本実験はn=4 replicatesの独立した実験系で検証された。
RNA長の逆相関: pol IIIプロモーター制御下の5種の長さコンストラクト(80、120、200、360、680 nt)をHEK293細胞にトランスフェクションし、EV/細胞のRNA量比を算出した。最短の80 ntを基準(1)とすると、120 nt、200 nt、360 nt、680 ntと長くなるにつれてEV包含効率が段階的に低下した (Figure 2e)。80 ntのRNAは最も効率よくEVに搭載され、680 ntのRNAは最も搭載効率が低かった。この結果は、転写産物長とEV分泌の間に明確な逆相関が存在することを定量的に確認した。著者らは、1,000 ntのRNA(約40 nm楕円体構造)が小型EV(40〜100 nm)内に0.7〜11分子収容可能という物理的容積計算を提示し、RNAに結合するタンパク質を考慮するとこの容量はさらに制限されると指摘した。この物理的制約が短いRNAの優先的なEV搭載を説明する一因であると考えられる。本実験はn=3 replicatesで実施され、統計学的に有意な差が確認された。
内在性RNA転写産物の絶対コピー数: 5種の細胞株(HEK293、ES-2、U373、HepG2、A549)由来EVにおける内在性RNAの絶対定量を実施した。U6 snRNA (pol III) は0.7〜4.2分子/EVで、全細胞株・全RNA中最も豊富であった。Y1 RNA (pol III) は0.2〜1.9分子/EV、U1 snRNA (pol II、poly(A)なし) は0.02〜1.9分子/EVであった。GAPDH mRNA (pol II、poly(A)あり) は0.57〜6.8分子/EVで検出された (Figure 3b)。特にU373細胞ではGAPDH mRNAが9分子/EV近い値を示す場合があったが、これは後続の末端修飾解析でその性状が明らかになる。5種の細胞株間で顕著な差はなく、RNAのEV包含は低コピー数という性質が普遍的であることが示された。U6 snRNAは安定的に高存在量を示したことから、ハウスキーピングEV-RNAの候補として提唱された。これらの結果は、EVあたりに搭載されるRNA分子数が非常に少ないことを示しており、EVが大量の機能的RNAを伝達するという従来の仮説に疑問を呈するものである。本定量的解析はn=3 replicatesのデータセットに基づいている。
GAPDH mRNAのEV内での末端修飾異常: GAPDH mRNA of EVの性状を詳細に解析した。ES-2細胞とEVのGAPDH mRNAについて、oligo(dT)プライマーとランダムヘキサマープライマー (dN6) を用いた逆転写RT-PCRを比較した結果、EVのGAPDH mRNAはoligo(dT)アプローチでシグナルが著明に低下した (Figure 4a,b)。これはEV内のGAPDH mRNAが正常なpoly(A)尾部を欠くことを示唆する。ノーザンブロット解析では、EVのGAPDHシグナルは細胞のGAPDHシグナル(予測サイズ約1.6 kb)より短縮したバンドとして検出された (Figure 4c)。EV内のGAPDH mRNAは細胞内のものと比較して約1.4 kbの短縮型として観察された。Xrn1エキソリボヌクレアーゼ処理によりEV内GAPDH mRNAは消化されたが(5’モノリン酸、すなわちm7Gキャップなし)、細胞内のGAPDH mRNAは消化されなかった(m7Gキャップで保護) (Figure 4d)。U6 snRNA(γ-モノメチルキャップ)もXrn1に耐性であり、Y1 RNAも安定であった。これらの結果は、EV内GAPDH mRNAが5’キャップ欠失、3’poly(A)尾部欠失、短縮型という通常のmRNAとは根本的に異なる性状を持つことを明確に示した。この異常な末端修飾は、EV内のGAPDH mRNAが翻訳鋳型としては機能しない可能性が高いことを示唆する。本解析はn=3 replicatesの独立したサンプルで再現性が確認された。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの多くの研究がEVが機能的なRNAを豊富に伝達すると仮定してきたのに対し、本研究はレポーターシステムと内在性RNAの絶対定量という系統的なアプローチを用いて、EVへのRNA搭載が驚くほど非効率であることを定量的に示した。この結果は、EVが大量の機能的RNAを伝達するという従来の報告とは対照的な見解を提示する。特に、Chevillet et al. ProcNatlAcadSciUSA 2014 や Jeppesen et al. Cell 2019 の化学量論的推定に基づく類似の結論と整合的であるが、本研究はより詳細な分子規定因子の解析と複数細胞株での定量的実証によってその知見を強化した。
新規性: 本研究で初めて、RNAポリメラーゼの種類(pol III転写産物の優先的包含)とRNAの長さがEVへのRNA搭載効率を決定する主要な分子規定因子であることを明確に同定した。また、EV内のGAPDH mRNAが5’キャップと3’poly(A)尾部を欠失した短縮型として存在するという新規な発見は、EVが運ぶmRNAの機能的意義に関する従来の認識を大きく変えるものである。これらの知見は、EV-RNAの生物学的役割を再評価するための重要な基盤を提供する。
臨床応用: 本知見は、治療用途でのEV-RNA送達システム開発において重要な臨床的含意を持つ。現在のEV自体のRNA積載能は非常に低く、人工的な積載強化なしには十分な用量を実現できないことが示された。これは、合成ナノ粒子に対するEVの相対的優位性を再評価する必要があることを示唆する。また、診断バイオマーカーとしてのEV-RNA利用においても、EVから直接検出されるRNAが修飾・短縮型である可能性に注意が必要であり、その検出方法や解釈に影響を与える可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 選択的RNA包含に関与する具体的なRNA結合タンパク質や配列モチーフの同定、(2) EV表面への外部結合型RNAとEV内部への封入型RNAの比率評価(Xrn1処理で一部外部結合型と内部封入型を区別できる可能性)、(3) CMV・U6以外のプロモーターシステムや他の細胞株でのEV積載能の向上策の探索、が挙げられる。また、EV内RNAの断片化メカニズムや、短縮型RNAが受容細胞で何らかの機能を持つ可能性についても、さらなる研究が必要である。
方法
レポーターコンストラクトとして3種を設計・構築した。これらは、(1) pol II/poly(A) (polymerase II-polyadenylation) コンストラクト(CMV (cytomegalovirus) プロモーター + poly(A)シグナル (AATAAA) を含むmRNA様転写産物)、(2) pol II/U1-3’box (polymerase II-U1 small nuclear RNA 3’ box) コンストラクト(CMVプロモーター + U1-3’ボックス (poly(A)尾部なし))、(3) pol III/U6-term (polymerase III-U6 small nuclear RNA terminator) コンストラクト(U6 snRNAプロモーター + U6終結シグナル (γ-モノメチルキャップ・poly(A)尾部なし))である。RNA長依存性を検討するため、pol IIIプロモーター制御下の80、120、200、360、680 nt (nucleotides) 長のコンストラクトも作製した。
HEK293 (human embryonic kidney 293) 細胞にこれらのコンストラクトをトランスフェクション後48時間、EV精製を実施した。EVは差次遠心、限外ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、最終超遠心という多段階プロトコルで精製され、Thery et al. JExtracellVesicles 2018に準拠した。EV特性解析は、CD63、ALIX、FLOT1 (flotillin-1) に対するウェスタンブロット、ナノフローサイトメトリー (NanoFCM; 平均57 nm)、および透過型電子顕微鏡 (TEM) で実施した。NanoFCMでは、CD81、CD9、CD63のテトラスパニンマーカーを用いた単一粒子解析も行った。
RNAの絶対定量には、in vitro転写標準品を用いた絶対RT-qPCR (quantitative reverse transcription PCR) 法を使用し、各レポーターおよび内在性RNA(U6 snRNA、Y1 RNA、U1 snRNA、GAPDH mRNA)の増幅効率(pol III/U6-termで1.97、pol II/U1-3’boxで1.96、pol II/poly(A)で1.94、GAPDH mRNAで1.91)を算出した。データはn=4 replicatesでmean ± SDとして提示した。統計解析には one-way ANOVA (analysis of variance) を使用した。内在性RNA定量では、5種の細胞株(HEK293、ES-2 (ovarian clear cell adenocarcinoma)、U373 (glioblastoma)、HepG2 (hepatocellular carcinoma)、A549 (lung adenocarcinoma))由来EVを解析した。GAPDH mRNAの末端修飾解析には、ノーザンブロット(グリオキサルゲル)、オリゴdT/ランダムヘキサマープライマー比較RT-PCR、およびXrn1エキソリボヌクレアーゼ処理(5’モノリン酸RNA選択的分解)を使用した。統計解析には、相対定量にΔΔCt法を用い、Y1 RNAとvault RNAで正規化した。Xrn1処理後のRNA精製にはMonarch RNA Cleanup Kitを使用し、逆転写にはqScript cDNA synthesis kitを用いた。