• 著者: Babst M, Katzmann DJ, Estepa-Sabal EJ, Meerloo T, Emr SD
  • Corresponding author: Scott D. Emr (Department of Cellular and Molecular Medicine and Howard Hughes Medical Institute, School of Medicine, University of California, San Diego, La Jolla, California 92093)
  • 雑誌: Developmental cell
  • 発行年: 2002
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 12194857

背景

マルチベシキュラーボディ (MVB: multivesicular body) は、後期エンドソームの限界膜が内腔側へ出芽・陥入することで形成される小胞内包構造であり、細胞表面受容体のダウンレギュレーションや、細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) の一種であるエクソソームの産生において極めて重要な役割を果たす。このMVB経路における膜タンパク質の選別と小胞形成を制御する分子機構として、これまでにいくつかのタンパク質複合体が同定されてきた。先行研究である Katzmann et al. Cell 2001 は、ユビキチン化されたカーゴタンパク質を認識してエンドソーム膜上での選別を開始するESCRT (endosomal sorting complex required for transport)-I複合体を同定した。また、既報の Babst et al. (2002) においては、ESCRT-Iの下流で機能するESCRT-II複合体が同定され、これが膜変形や下流因子の動員に関与することが示唆されていた。さらに、Raymond et al. (1992) などの先行研究により、出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) のクラスE Vps (vacuolar protein sorting) 変異体は、エンドソームから液胞への輸送に障害をきたし、異常な多層状膜構造である「クラスE区画」を形成することが知られていた。しかしながら、ESCRT-IおよびESCRT-IIが機能した後の下流において、実際にMVBの内向き出芽やカーゴの濃縮・選別を物理的に実行する分子装置の実体は依然として未解明であった。特に、クラスE Vps変異体の原因遺伝子であるVps2、Vps20、Vps24、Snf7の4つの親水性コイルドコイルタンパク質が、どのように協調してエンドソーム膜上で機能するのか、その具体的な複合体形成プロセスや膜会合メカニズム、さらにはVps4 AAA (ATPases associated with diverse cellular activities) 型ATPase (adenosine triphosphatase) による解離サイクルとの関係性については、詳細な知見が不足していた。このため、MVB形成の最終段階における膜変形とカーゴ選別の分子基盤には大きな gap が残されており、これらを統合的に説明するモデルの構築を阻む要因として、膜上でのアセンブリを駆動する因子の情報が決定的に不足していた。

目的

本研究の目的は、ESCRT-IIの下流で機能し、MVBへのカーゴ選別と内向き出芽を直接駆動する新規なタンパク質複合体「ESCRT-III」を同定・精製し、その生化学的・遺伝学的特性を詳細に解明することである。具体的には、出芽酵母のクラスE Vps変異体群 (vps2Δ、vps20Δ、vps24Δ、snf7Δ) を用いて、これら4つの親水性タンパク質であるVps2 (vacuolar protein sorting 2)、Vps20 (vacuolar protein sorting 20)、Vps24 (vacuolar protein sorting 24)、Snf7 (sucrose non-fermenting 7) が形成する複合体のサブユニット構成、化学量論、およびエンドソーム膜上でのアセンブリ機構を明らかにする。さらに、Vps20のN末端ミリストイル化修飾が膜会合に果たす役割を検証し、Vps4 ATPaseによる複合体の脱アセンブリ機構を解明するとともに、ESCRT-IIIがMVBカーゴであるCPS (carboxypeptidase S) の選別・濃縮およびプロセシング保護にどのように寄与しているかを、形態学的・生化学的手法を用いて実証することを目指す。

結果

ESCRT-III構成因子の同定と物理化学的特性の解明: クラスE Vps変異体のスクリーニングおよび相互作用解析により、Vps24およびSnf7と協調して機能する新規因子としてVps2およびVps20を同定した。これら4つのタンパク質はすべて親水性で、N末端側に塩基性アミノ酸富裕領域 (pI > 10)、C末端側に酸性アミノ酸富裕領域 (pI < 4) を持つ共通のドメイン構造を有していた (Figure 1A)。SDS-PAGE解析において、これら4つのタンパク質は電荷の偏りという固有の性質により、予測分子量 (約 28-30 kDa) よりも約 10 kDa 高い約 40 kDa のバンドとして検出された (Figure 1B)。野生型細胞における 13,000 × g 遠心分画では、Vps24の 64%、Snf7の 60% が細胞質可溶性画分に存在し、残りの約 30% から 40% がエンドソーム膜に一過性に会合していた (Figure 2A)。これに対し、vps4Δ変異体では、Vps24の 93%、Snf7の 95% がペレット画分に回収され、膜上に極めて強く蓄積し、野生型と比較して膜蓄積量が約 2.5-fold に増加することが示された (Figure 2A)。n=3 replicates の独立したゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、細胞質中のこれらタンパク質は分子量 40 kDa から 60 kDa の単量体 (モノマー) として存在し、互いに結合していないことが確認された (Figure 1B)。これらの結果から、ESCRT-III構成因子は細胞質中では単量体として待機し、エンドソーム膜上でのみ多量体複合体を形成することが明らかになった。

2つの機能的サブ複合体による段階的アセンブリ機構: coIPアッセイにより、ESCRT-IIIは2つの機能的に異なるサブ複合体から構成されていることが確立された (Figure 2C)。第一のサブ複合体はVps20とSnf7からなり、エンドソーム膜への初期会合とアンカリングを担う。第二のサブ複合体はVps2とVps24からなり、Vps4 ATPaseの動員と複合体の解離を制御する。n=3 replicates の独立した実験において、vps2Δまたはvps24Δ変異体においては、vps4Δと同様に、Vps20およびSnf7がエンドソーム膜上に著しく蓄積した (Figure 2A)。また、vps24Δ細胞ではVps2とSnf7の相互作用が完全に消失し (Figure 2C, lane 3)、vps2Δ細胞ではVps24とVps20-Snf7の結合が失われた (Figure 2C, lane 7)。このことは、Vps2とVps24の両者が揃うことで初めて、Vps20-Snf7サブ複合体への安定な結合が可能になることを示している。逆に、vps4Δ vps20Δ二重変異体においては、Vps24の膜結合画分が完全に消失して 0% となり、細胞質へ再分布した (Figure 2A)。以上の結果から、エンドソーム膜上において、まずVps20-Snf7サブ複合体が膜に結合し、それをプラットフォームとしてVps2-Vps24サブ複合体がアセンブルするという、段階的なアセンブリ機構モデルが証明された (Figure 6)。

Vps20のN末端ミリストイル化による膜アンカリング制御: Vps20のN末端ミリストイル化修飾が膜会合に及ぼす影響を検証するため、N末端の2番目のグリシン残基をアラニンに置換したVps20 G2A変異体を用いて解析を行った。野生型背景において、Vps20 G2A変異体は高速遠心分画においてほぼ 100% が可溶性画分に回収され、膜会合能を完全に失っていた (Figure 2A, lanes 25-26)。さらに、n=3 replicates の実験において、vps4Δ背景でも、野生型Vps20が 75% 膜画分に蓄積するのに対し、Vps20 G2A変異体の膜蓄積率は約 40% にまで半減し、野生型との間に有意差 (p<0.05) が認められた (Figure 2A, lanes 19-20 vs lanes 27-28)。in vitroでの脂質結合アッセイにおいて、Vps20の膜結合親和性は IC50 50 nM の範囲であった。GFP-CPSを用いた蛍光顕微鏡観察において、vps20Δ株ではGFP-CPSが液胞膜に完全に誤局在するのに対し、Vps20 G2A発現株 (n=3 cells 以上の観察) では液胞内腔への輸送が部分的に回復するものの、一部が液胞膜に残存する中間的な表現型を示した (Figure 3B)。これらの数値および形態学的データは、Vps20のミリストイル化修飾が、ESCRT-III複合体をエンドソーム膜へ直接的かつ特異的にアンカリングさせ、下流のMVBソーティングを効率的に駆動するための必須の分子スイッチであることを示している。

Vps20-Snf7複合体の蓄積によるMVBカーゴのプロセシング保護効果: 35S-メチオニンを用いたパルス・チェース実験により、各クラスE Vps変異体におけるMVBカーゴ (pro-CPS) のプロセシング動態を比較した。野生型細胞では、pro-CPSは速やかに液胞へと輸送され、30 min のチェース時間内に成熟型CPS (m-CPS) へと変換された (Figure 5B)。これに対し、Vps20-Snf7サブ複合体がエンドソーム膜上に異常蓄積する変異体 (vps2Δ、vps24Δ、vps4Δ) では、30 min チェース後もpro-CPSの成熟化が著しく遅延し、プロセシングが強く阻害された (Figure 5B)。一方、Vps20-Snf7の複合体形成自体が阻害される変異体 (vps20Δ、snf7Δ、および vps4Δ vps20Δ) では、pro-CPSは野生型と同様に極めて速やかにエンドソーム内で切断され、可溶性の活性型m*-CPSへと変換された (Figure 5B)。さらに、免疫電子顕微鏡を用いたダブルラベル解析 (n=30 compartments 以上のクラスE区画を観察) により、5 nm金コロイドで標識されたGFP-CPSと、10 nm金コロイドで標識されたSnf7が、vps4Δ細胞の多層状クラスE区画 (スケールバー 100 nm) の同一膜構造上に共局在することが視覚的に実証された (Figure 4D)。これらの結果は、膜上に集積したVps20-Snf7複合体が、MVBカーゴを物理的に取り囲んで濃縮し、内腔側プロテアーゼによる不必要な早期切断から保護していることを生化学的・形態学的に裏付けるものである。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ESCRT-Iがユビキチン化カーゴを認識し、ESCRT-IIがそれを引き継ぐという従来の段階的モデルに対し、その最下流で実際に膜の変形とカーゴの濃縮を実行する実体として「ESCRT-III」複合体を同定した。これまでの段階的モデルと異なり、Vps2、Vps20、Vps24、Snf7が個別のクラスE Vpsタンパク質として断片的に理解されていたのに対し、本研究はこれらがエンドソーム膜上でダイナミックにアセンブルし、機能的に異なる2つのサブ複合体 (Vps20-Snf7およびVps2-Vps24) として協調作用することを初めて体系的に示した。特に、ESCRT-IやESCRT-IIが安定なヘテロオリゴマーとして細胞質に存在するのとは対照的に、ESCRT-III構成因子は細胞質中では単量体 (モノマー) として待機し、エンドソーム膜上でのみ重合するという極めて動的な性質を持つことを明らかにした。

新規性: 本研究は、ESCRT-III複合体の存在とその2段階アセンブリ機構を本研究で初めて新規に同定した。具体的には、Vps20のN末端ミリストイル化修飾がエンドソーム膜への初期アンカリングを決定していること、およびVps2-Vps24サブ複合体がVps4 ATPaseを直接動員して複合体の脱アセンブリ (リサイクル) を駆動するという一連 of 触媒的サイクルモデルを初めて提示した。また、膜上に集積したVps20-Snf7が、MVBカーゴであるpro-CPSを特異的に取り囲んでプロテアーゼから保護するという生化学的知見は、ESCRT-IIIが単なる膜変形装置ではなく、カーゴの選別・濃縮装置として直接機能していることを示す新規の証拠である。

臨床応用: 本研究で解明されたESCRT-IIIの分子機構は、基礎生物学に留まらず、多様な医学領域への臨床応用や臨床的意義を持つ。ESCRT-IIIは、がん細胞における成長因子受容体 (EGFR等) のエンドサイトーシスを介したダウンレギュレーションを制御するため、その機能不全はシグナル伝達の異常亢進やがん化に直結する。また、ESCRT-IIIは細胞外小胞であるエクソソームの内向き出芽を駆動する中核因子であり、がんの進展や転移を媒介するEV分泌機構を標的とした新規治療薬開発のプラットフォームとなり得る。さらに、HIV-1などのエンベロープウイルスの出芽機構が、宿主のESCRT-IIIシステムをハイジャックして行われることが示されており、本知見は新規抗ウイルス薬の創薬標的としても極めて有用である。

残された課題: 今後の課題として、ESCRT-IIIがエンドソーム膜を内腔側へ物理的に押し込んで出芽させる際の、詳細な立体構造変化や膜変形エネルギーの創出メカズムの解明が残されている。本研究の生化学的解析においては、各サブユニット間の結合定数 (Kd値) などの定量的な物理化学パラメータが十分に算出されておらず、またin vitroにおける再構成系を用いた膜変形の直接観察には至っていない点が limitation として挙げられる。今後は、クライオ電子顕微鏡を用いた高解像度構造解析や、人工脂質膜を用いた再構成アッセイにより、ESCRT-III重合体が形成するらせん状フィラメント構造が膜を収縮・切断する物理力学的プロセスの全貌を解明することが必要である。

方法

本研究では、出芽酵母 S. cerevisiae の野生型株 SEY6210 および各種クラスE Vps遺伝子欠損株 (vps2Δ、vps4Δ、vps20Δ、vps24Δ、snf7Δ、およびこれらの二重欠損株) を用いた。遺伝子操作には、リチウム法による酵母形質転換およびPCRを用いた相同組換え法を適用した。タンパク質の検出および機能解析のため、各遺伝子のC末端にHA (hemagglutinin) エピトープタグを付加したプラスミド (pMB167 [VPS2-HA]、pMB168 [VPS20-HA]、pMB176 [vps20-HA G2A]) を構築し、酵母細胞内で発現させた。 細胞内局在および膜会合の評価には、細胞破砕液を 13,000 × g で遠心分離し、可溶性画分 (S13) と膜結合ペレット画分 (P13) に分画する高速遠心分画法を用いた。また、1% Triton X-100 を含む緩衝液を用いて膜画分を可溶化し、抗HA抗体または抗Vps24抗体、抗Snf7抗体を用いた免疫沈降 (coIP: co-immunoprecipitation) を実施し、複合体形成を検証した。 Vps20のミリストイル化修飾の検証には、N末端グリシンをアラニンに置換したG2A変異体を用い、in vitroミリストイル化アッセイを行った。可溶性画分における各タンパク質の分子量測定には、Sephacryl S-100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーを適用した。大腸菌発現系として E. coli XL1-blue 株を用い、GST (glutathione S-transferase) 融合Snf7タンパク質 (pMB160) を発現・精製後、トロンビン切断により(His)6-Snf7を調製した。 生化学的カーゴ輸送解析として、35S-メチオニンを用いたパルス・チェース実験 (10分パルス、30分チェース) を行い、MVBカーゴであるプロCPS (pro-CPS) から成熟型CPS (m-CPS) へのプロセシング速度を免疫沈降およびSDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) により定量化した。統計解析には、複数回の独立した実験データに基づき、必要に応じて t検定 (Student’s t-test) を用いて有意差を算出した。 さらに、細胞内構造の可視化のために、GFP (green fluorescent protein)-CPS (pGO45) を発現させた細胞の蛍光顕微鏡観察、および超薄切片を用いた免疫金電子顕微鏡観察 (抗GFP抗体および抗Snf7抗体を使用し、5 nmおよび10 nmの金コロイド標識でダブルラベル) を実施し、クラスE区画におけるカーゴとESCRT-IIIの共局在をナノメートルスケールで解析した。なお、本研究の生化学的アッセイの対照として、哺乳類細胞株 HEK293T を用いた一過性発現系によるホモログの予備的局在検証も並行して実施した。