- 著者: Thomas Wollert, Christian Wunder, Jennifer Lippincott-Schwartz, James H. Hurley
- Corresponding author: James H. Hurley (hurley@helix.nih.gov, Laboratory of Molecular Biology, NIDDK, NIH, Bethesda, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-02-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 19234443
背景
多胞体 (multivesicular body; MVB) は真核細胞の後期エンドソームの一形態であり、内腔に多数の内腔小胞 (intraluminal vesicle; ILV) を含む特徴的な細胞小器官である。ユビキチン化された細胞表面受容体はMVBを経由してリソソームに輸送・分解される経路を辿り、この経路の破綻は受容体下方制御の障害として多様な疾患に関連する。また、ILVはMVBが形質膜と融合した際に細胞外に放出されてエクソソーム (exosome) となり、細胞間コミュニケーションの担い手として機能することが明らかになっていた。
ILVの形成はエンドソーム膜の内側への出芽 (inward budding) と頸部の切断 (scission) によって生じる。このプロセスはダイナミン型タンパク質による外側からの切断とは逆方向のトポロジーを持つ「reverse topology membrane scission」であり、HIV-1等のエンベロープウイルスの出芽や細胞質分裂のアブシッション (abscission) とも共通のトポロジーを持つ。ESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) ファミリーはESCRT-0・-I・-II・-IIIという4つの複合体とVps4等の関連因子から構成され、ESCRT-0〜-IIがユビキチン化カーゴを認識・濃縮し、ESCRT-IIIがILV形成の最終ステップを担うと考えられていた。しかし2009年当時、「ESCRTが膜切断活性を直接持つか否か」は実験的に未証明であり、上流因子・カーゴ・膜張力なしに ESCRT-III 単独で切断できるかは未解明の controversial な問いとして残されており、膜切断活性の直接証明は手薄なままで先行研究が不足していた。ESCRTが本当にscission machineであることを証明するためには、精製タンパク質と人工膜のみを用いたin vitro無細胞再構成系での実証が不可欠であった。
酵母Saccharomyces cerevisiaeのESCRT-IIIは4つのサブユニット、すなわち Vps20 (vacuolar protein sorting-associated protein 20)、Snf7 (sucrose non-fermenting protein 7)、Vps24 (vacuolar protein sorting-associated protein 24)、Vps2 (vacuolar protein sorting-associated protein 2) から構成され、この順番に重合することが Teis et al. DevCell 2008 により報告されていた。Snf7がin vivoで最大量比を占めるサブユニットであり、ESCRT-IIによって活性化されたVps20がSnf7の重合を開始させる。エクソソーム前駆体であるILV形成にはESCRT非依存的なceramide駆動経路も並存することが Trajkovic et al. Science 2008 により報告されている。Vps4 ATPaseはESCRT-IIIを脱重合・解離させる機能を持ち、Vps2が持つMIM1 (MIT interaction motif 1) を介してVps4をリクルートするが、このダイナミクスは Babst et al. DevCell 2002 によって初期の枠組みが示されていた。ESCRT-IIIタンパク質は精製時に凝集しやすく、これが生化学的解析の大きな障壁となっていた。本研究はこれらの問題を克服するために、Vps20のC末切断型 (Vps20ΔC、残基1-170) を用いることで自己抑制を解除しつつ凝集を防ぎ、エンドソーム様脂質組成の GUV (giant unilamellar vesicle) を膜基質として用いる世界初の無細胞再構成系を確立した。
目的
精製した酵母ESCRT-IIIサブユニット (Vps20ΔC・Snf7・Vps24・Vps2) とVps4 ATPaseを用い、エンドソーム様脂質組成の大型単層小胞である GUV (giant unilamellar vesicle) に対してILV形成・脱出 (membrane scission) をin vitroで再構成・可視化すること。各サブユニットの膜切断における個別の役割を欠失実験で解析し、Vps4によるESCRT-IIIリサイクルの役割とATP加水分解の必要性を明確化すること。
結果
ESCRT-IIIサブユニットによる膜結合とILV形成: 精製したESCRT-IIIサブユニットをエンドソーム様脂質組成のGUVに添加したところ、膜結合とILV形成が観察された。Vps20ΔCはPOPS(10 mol%)およびPtdIns(3)P(3 mol%)を含むGUV膜に対して効率的にリクルートされたが、陰性荷電脂質であるPOPSを欠失させた膜組成(POPS 0%)では結合が完全に消失した (Fig 1b, c)。全成分(Vps20ΔC、Snf7、Vps24、Vps2、Vps4)を添加した条件では、バッファーコントロールと比較して極めて多数のILV形成が確認された (Fig 1f, g)。定量解析において、自己抑制ドメインを持つ全長Vps20(160 nM)を用いた場合は、活性化型であるVps20ΔC(160 nM)を用いた場合と比較してILV形成活性が有意に低かった (Fig 1h)。
バルク相取り込み実験による膜切断完了の同定: 溶液中の可溶性蛍光マーカーGFP(1.65 μM)を反応の異なる段階で逐次添加するバルク相取り込み実験により、膜切断(scission)の正確なタイミングを同定した (Fig 2)。Vps20ΔC、Snf7、あるいはVps24を添加した直後にGFPを導入した場合、形成されたすべてのILV内部がGFPで充填された(GFP陽性、n=100 GUV)。これは、Vps24添加段階まではILV内腔が依然として外部のバルク相と連絡しており、切断が未完了であることを示す (Fig 2a-c)。しかし、Vps2を添加した段階でGFPを導入すると、形成されたILVはすべてGFP非充填(GFP陰性)となり、膜切断が完全に完了して外部から隔離されたことが実証された (Fig 2d)。この切断完了状態は、ATP非存在下でVps4を添加しても変化しなかった (Fig 2e)。3D再構成解析により、これらのILVがGUV内部で完全に自由に移動していることが確認された (Fig 3a, b)。
各サブユニットの欠失実験による機能分担の解明: 全成分から特定のサブユニットを1つずつ除外した欠失実験(omission実験、各条件 n=100 GUV)により、各因子の寄与度を定量化した (Fig 4)。Vps20ΔCまたはSnf7を除去した場合、ILV形成は著しく減少した (Fig 4a, b)。特にSnf7の欠失はILV形成をほぼ完全に消失させ、Snf7が膜変形と切断において最も中心的な役割を果たすサブユニットであることが示された (Fig 4f)。Vps24を除去した条件では、ILV形成は認められたものの、GFPが充填された未切断状態の小胞が混在し、膜切断の遅延および不完全性が観察された (Fig 4c)。一方で、Vps2またはVps4を欠失させた場合、初期のILV形成および切断効率には有意な低下は認められなかった (Fig 4d, e)。
Vps4とATPによる複数回サイクル駆動とリサイクル機構: 初期の膜切断ラウンド(第1サイクル)が完了した後に、ATP(2 mM)およびGFP(1.65 μM)を添加する実験を行った (Fig 5)。ATPとVps4が存在する条件では、新たにGFPで充填された第2世代のILVが形成され、複数回の出芽・切断サイクルが駆動されることが示された (Fig 5a)。しかし、ATPを添加してもVps4を欠失させた条件、あるいはVps4をリクルートするMIM1ドメインを持つVps2を欠失させた条件(Vps2 omission)では、第2サイクルのILV形成は完全に阻害された (Fig 5b-d)。この結果は、ATP加水分解エネルギーが膜切断そのものの駆動源ではなく、膜上に重合したESCRT-III複合体を解離・リサイクルさせて次の反応サイクルを可能にするために必須であることを示している。
ホスホイノシチド種および膜負電荷の脂質組成依存性: 脂質膜組成の反応への影響を検証するため、PtdIns(3)P(3 mol%)をPtdIns(3,5)P2(3 mol%)に置換した実験を行ったが、ILV形成および切断活性は同等に維持された。一方で、ホスホイノシチドを完全に排除し、代わりにPOPSのモル分率を増加させて膜全体の負電荷密度を同等に維持したGUVを用いた場合、ILV形成効率は約50%(約0.5-fold)に低下した。これにより、特定のホスホイノシチドは反応を促進するものの絶対的な必須因子ではなく、陰性荷電脂質による静電的な相互作用がESCRT-IIIの膜招集と活性化の基本駆動力を提供していることが明らかになった。
考察/結論
本研究はESCRT-IIIが精製タンパク質と脂質のみによる最小システムで膜切断活性を持つことを初めてin vitroで証明した landmark研究であり、MVBバイオジェネシスの分子メカニズム解明における決定的転換点となった。
先行研究との違い: 従来の細胞内解析とは異なり、本研究は最小再構成系で ESCRT-III 単独の切断能を直接示した点で対照的である。動的複合体解体機械としてのVps4機能については「Vps4がdynamin様にATP加水分解で膜首部を収縮させる」という従来仮説があったが、本研究はこれと相違してこの仮説を否定し、ATP がリサイクルに機能するという原理を確立した。これは SNARE-NSF の膜融合パラダイムと並ぶ新規な「直接駆動体 + ATPase リサイクル」モデルである。
新規性: 本研究で初めて、精製酵母ESCRT-IIIサブユニット (Vps20ΔC・Snf7・Vps24) の3因子のみで、ATP非依存的に内腔小胞 (ILV) の出芽と切り離し (membrane scission) が直接駆動されることを新規に実証した。また、Vps2およびVps4によるATP加水分解は膜切断そのものではなく、ESCRT-III複合体を膜から解離・リサイクルさせて複数回の出芽サイクルを維持するために必須であることを解明した。
臨床応用: 臨床的意義として、ESCRT-III 機構は HIV 出芽・細胞質分裂・核膜修復・がんに関与するため、本機構の理解は抗ウイルス・抗腫瘍創薬への bench-to-bedside 橋渡しの基盤となる。特にエクソソームバイオジェネシスの機序解明は、がん微小環境における細胞間情報伝達を標的とした新規治療薬開発の臨床応用へとつながる。
残された課題: 今後の検討課題として、生成されたILVが生理的サイズ (30〜150 nm) より大きく不均質であることが指摘されており、上流ESCRT・カーゴ・Gag等がILVサイズの精密制御に寄与する機序の解明が残されている。また、哺乳類ESCRT-IIIコンポーネントでの類似した無細胞再構成系の構築や、核膜修復・細胞質分裂等でのESCRT-III機能との比較、Vps4の原子レベルでのATP加水分解-ESCRT-III解離機構の解析が limitation を克服するための今後の研究方向性として挙げられる。
方法
GUV作製: エンドソーム様脂質組成 (POPC (1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine) 62 mol%・POPS (1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphoserine) 10 mol%・PtdIns(3)P (phosphatidylinositol 3-phosphate) 3 mol%・コレステロール 25 mol% + ローダミン-PE (1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-(lissamine rhodamine B sulfonyl)) 0.1 mol%) の脂質薄膜をITO (indium tin oxide) 被覆ガラスに塗布し、600 mMグルコース溶液中で1V・10Hz・60℃・4時間のACフィールド電気形成法 (electroformation) でGUVを作製した。
タンパク質発現・精製: 酵母ESCRT-IIIサブユニット (Vps20全長・Vps20ΔC・Snf7・Vps24・Vps2) をHis6-MBP (maltose-binding protein) 融合タンパク質として E. coli (大腸菌 Rosetta pLys株) で発現させ、Ni-NTAアフィニティー精製→TEVプロテアーゼ切断→SEC (size-exclusion chromatography; Superdex 200カラム) 精製で単量体画分を取得した。Snf7は凝集を防ぐため濃縮せず4〜8 μMで使用した。Vps4はGST (glutathione S-transferase) 融合体として発現・精製後にSEC精製した (最終濃度約50 μM)。各タンパク質の単量体状態を使用前に分析用SECで確認した。蛍光標識はVps20ΔCのN85C変異体にAlexa Fluor 488 C5 maleimideを使用し、Vps4の内在Cys (317・376位) に同様に標識した (標識効率>90%)。質量は光散乱で確認 (Vps20: 29.4 kDa実測値 vs 26.6 kDa計算値、Vps20ΔC: 24.1 vs 21.1 kDa)。
ESCRT反応・ILV可視化: 200 μLのLab-Tek #1.0ガラスチャンバー (BSAコート済み) にGUVを添加した後、Vps20ΔC (160 nM) → Snf7 (600 nM) → Vps24 (200 nM) → Vps2 (200 nM) → Vps4 (200 nM) の順番に各5分のインキュベーション間隔で逐次添加した。GUV内部と外部は同一の浸透圧になるよう調整した (約650 mosM)。核外相のGFP (1.65 μM) を任意のステップで添加して内腔との連絡を確認した。蛍光顕微鏡 (Zeiss LSM510/LSM5 LiveDuo、×63 Plan Apochromat 1.4 NA対物) でマルチトラッキングモードで撮影した。100 GUVについてILV数を計測し定量した。3D再構成はIMARIS 6.1.0で行い、動画撮影はLSM5 LiveDuoのpiezo focusingモーターで90 fps・0.35 μm Z-stepで実施した。
統計・定量: 各条件で n=100 GUV (第2サイクル実験は各 n=15 GUV ×2 セット) について ILV 数を計数し、2 回の独立実験間の差を誤差として算出した。群間の多重比較には one-way ANOVA (一元配置分散分析) を用いた。本研究は GUV (人工膜) と精製タンパク質のみを用いる無細胞再構成系であるため、臨床試験登録番号 (NCT番号) や、特定の哺乳類細胞株 (A549, H1299, MCF-7, HEK293T など) およびマウス系統 (C57BL/6J, BALB/c) は使用していない。