• 著者: Thomas Wollert, James H. Hurley
  • Corresponding author: James H. Hurley (Laboratory of Molecular Biology, NIDDK / NIH, Bethesda, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-03-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20305637

背景

多胞体 (MVB: multivesicular body) バイオジェネシスは、ユビキチン化された膜タンパク質カーゴがESCRT複合体 (ESCRT-0・I・II・III) によって順次リクルートされ、エンドソーム限界膜が内向きに出芽して腔内小胞 (ILV: intralumenal vesicle) を形成する過程である。ILVはエクソソームの直接前駆体であり、MVBが形質膜と融合することで細胞外に放出される。ESCRT-IIIがin vitroで膜切断能を持つことは前報 (Wollert et al. Nature 2009) で示されたが、「どの複合体が膜を変形させて出芽を誘導するのか」という根本的な問いには未解明な点が残されていた。

一般には「ESCRT-IIIが出芽を誘導しILVを切り出す」という仮説が広く信じられていたが、ESCRT-III過剰発現系での知見が主であり、生理的濃度での機能解析が不足していた。また、ESCRT-0 (Vps27/Hse1) がカーゴ濃縮と出芽誘導の両方を担うのかどうかも不明であった。従来の細胞実験系では各ESCRT遺伝子の欠失がクラスE区画と呼ばれる異常積み重ねシスターナ構造を形成するため、各複合体の個別機能を分離して解析することが困難であった。このため、各ESCRT複合体の機能分担に関する詳細な分子メカニズムは未確立であった。

EGF受容体が刺激後数分以内にヒト細胞のMVBに局在するという観察が1979年に報告されて以来、MVBを経由したリソソーム分解経路の重要性は広く認識されていた (Haigler et al. 1979)。酵母遺伝学によってVPS遺伝子群 (vacuolar protein sorting) が同定され、現在ESCRT複合体として理解されている分子機構の基盤が確立されたが (Katzmann et al. Cell 2001; Babst et al. DevCell 2002)、各複合体の機能的役割の明確な分離は細胞系では困難であった。特に、ESCRT-IIIが膜出芽を誘導するというモデルは、ESCRT-IIIの過剰発現系やin vitro実験で観察された膜変形能に基づいていたが、生理的な状況下でのESCRT-IIIの役割については疑問が残されていた。この知識ギャップを埋めることが、MVB形成の正確な分子機構を理解するために不可欠であった。本研究は巨大単層小胞 (GUV: giant unilamellar vesicle) を用いた段階的無細胞再構成系という実験パラダイムによってこの問題に正面から取り組み、MVB形成におけるESCRT複合体の機能分担に関する知識ギャップを埋めることを目指した先駆的研究である。

目的

酵母Saccharomyces cerevisiae由来のESCRT-0 (Vps27/Hse1)・ESCRT-I (Vps23/Vps28/Vps37/Mvb12)・ESCRT-II (Vps22/Vps25/Vps36)・ESCRT-III (Vps20・Snf7・Vps24・Vps2) の全4複合体と膜タンパク質アクセサリーを精製し、蛍光標識ユビキチン化モデルカーゴを搭載したGUV上でMVBバイオジェネシスを段階的に再構成・可視化すること。各ESCRT複合体の独立した機能的役割 (カーゴ濃縮・膜変形・切断) を明確に分離同定し、機能分担の分子機構モデルを構築することを目的とする。特に、膜出芽を誘導する複合体を特定し、ESCRT-IIIの生理的役割を明確にすることを重要な目的とした。従来の細胞実験では困難であった各ESCRT複合体の機能分担を、無細胞再構成系によって分子レベルで解明し、MVB形成の全体像を理解するための基盤を確立することを目指した。また、ESCRT複合体が膜出芽・切断を細胞質側からどのように実行し、反応後にリサイクルされるのかというメカニズムを明らかにすることも重要な目的であった。

結果

ESCRT-0によるユビキチン化カーゴのクラスター化 (膜変形能なし): ESCRT-0 (Vps27/Hse1) を単独でGUVに添加すると、膜表面でユビキチン化カーゴを直径最大5 μmのパッチ状ドメインに濃縮した (Fig 1a)。ESCRT-0の5価以上のユビキチン結合能 (3 UIMs + 2 VHSドメイン) による多価アビディティによりカーゴを集積させた。カーゴドメインのサイズと数はESCRT-0のみで増強されたが、Ub-I44D変異 (UBD結合障害) ではカーゴクラスター化が完全に阻害された (Fig 1b)。これは、ESCRT-0のユビキチン結合ドメインとユビキチンのIle44パッチとの直接的な相互作用によるものであった。一方、ESCRT-0単独では膜変形・出芽は一切観察されなかった。ESCRT-IまたはESCRT-IIを単独で添加した場合も出芽は生じなかった (Fig 2c)。ESCRT-0ドメイン内のカーゴの約半数が交換可能な動的クラスターを形成し、蛍光回復後50秒以内に約50%の蛍光回復率を示した (Fig 2d, e)。これは「カーゴ濃縮」と「膜変形」が完全に独立した工程であることを示す最初の直接証拠である。

ESCRT-IとESCRT-IIの協働スーパーコンプレックスによる膜出芽誘導とカーゴ封入: ESCRT-I (Vps23/Vps28/Vps37/Mvb12) とESCRT-II (Vps22/Vps25/Vps36) を同時に15 nMずつ添加すると、GUV膜が複数の出芽を形成した (Fig 2a, b)。単独添加では出芽が生じないにも関わらず、2複合体の組み合わせのみで出芽が誘導される協働性は、高アフィニティ相互作用に基づく機能的スーパーコンプレックスの形成を示唆する。ESCRT-IおよびESCRT-IIはいずれも出芽のバッドネック (neck) に濃縮局在し、バッドの内腔膜には検出されなかった (Fig 3a, b)。この観察は、ESCRT-I+IIが「内側コート」ではなくネックを安定化させる独特の機構で出芽を誘導することを示す。FRAP実験ではバッド内のカーゴが蛍光回復をほぼ示さず (蛍光回復率 < 5%)、バッドネックが開いているにも関わらず、ラテラル拡散による交換が抑制されてカーゴがバッド内に封入・拘束されることが示された (Fig 2d, e)。ESCRT-0のΔP(S/T)XP変異 (ESCRT-I結合障害) ではESCRT-0ドメインとバッドの共局在が著明に低下し (Fig 4b, c)、ESCRT-0→ESCRT-I→バッドへの連続リクルートを示した。ESCRT-IとESCRT-IIは、酵母細胞内の推定濃度よりも低い濃度 (15 nM) で出芽を誘導した。ESCRT-IとESCRT-IIの存在下では、ESCRT-0ユビキチン化ドメインの蛍光回復の可動性画分の交換速度が約3倍遅延した。

ESCRT-IIIのバッドネック局在と効率的な膜切断: Vps20 (ESCRT-IIIのESCRT-II結合サブユニット) はESCRT-I+II誘導バッドのネックに局在したが (Fig 5a)、単独ではILVの切断・放出を引き起こさなかった。Snf7 (ESCRT-IIIの主要切断因子) をVps20存在下で添加すると、ネックに濃縮局在し多数のILVがGUV内腔に放出された (Fig 5b, c)。このILV放出反応は、ESCRT-IIIのみを用いた前報に比べて格段に低い蛍光タンパク質濃度 (Snf7 15 nM) で達成された (従来は200 nM以上、すなわち13〜40倍の過剰量が必要だった)。産生されたILVにはカーゴ (Ub-CFP) が封入されていたが、Snf7は完全に除外されていた。これはESCRT-IIIがバッドの内腔側ではなく外側から切断を実行し、反応後にリサイクルされることを意味する。Vps24 (第3のESCRT-IIIサブユニット) をさらに添加すると切断効率が最大化され、ほぼすべてのILVが限界膜から分離した (ILV分離率 > 90%)。Vps4 ATPaseはESCRT-IIIをリサイクルして次のサイクルを可能にする役割を担い、その欠失または触媒不活性型 (E228Q) ではESCRT-IIIが膜上に蓄積した。

ESCRT複合体の機能的分業の統合モデル: 全4複合体を組み合わせた完全再構成系では、ESCRT-0がカーゴリザーバーとしてクラスターを形成し、ESCRT-I+IIがその境界でバッドを形成してカーゴを封入し、ESCRT-IIIがネックを切断してILVを放出するという逐次的プロセスが再現された (Fig 6)。バッドと共局在するESCRT-0ドメインは全体の80%に達し (ESCRT-0のΔP(S/T)XP変異体では著明に低下)、ESCRT-0が「カーゴリザーバー」としてESCRT-I+IIバッドの複数サイクルにカーゴを供給するモデルが支持された。ILVは直径約2 μmであり、細胞内のILVサイズ (酵母で平均24 nm) とは異なるが、ESCRT複合体がILVサイズをテンプレートするわけではないことが示唆された。本研究は、MVB形成におけるESCRT複合体の機能分担を明確にし、各複合体が協調して膜変形と切断を細胞質側から実行するメカニズムを分子レベルで解明した。

考察/結論

本研究はMVBバイオジェネシスの完全な無細胞再構成を世界で初めて達成し、ESCRT複合体間の厳密な機能分業を直接実証した。最大の発見は「膜出芽を誘導するのはESCRT-IIIではなくESCRT-I+IIの協働スーパーコンプレックスである」という従来の定説を覆す知見である。ESCRT-IIIによる出芽は過剰発現系での人工産物であり、生理的濃度では切断機能に特化していることが明確になった。

先行研究との違い: 本研究は、ESCRT-IIIが膜出芽を誘導するという広く信じられていたモデルと異なり、上流複合体 (ESCRT-I+II) が出芽の実行者であることを確立した。これは、ESCRT-IIIの膜切断活性を実証した前報 (Wollert et al. Nature 2009) の知見を補完しつつ、ESCRT-IIIの出芽機能を否定する点で、当初は驚きを持って受け入れられた。ESCRT-IとESCRT-IIの協調的な作用は、それらの高い親和性 (Gill et al. EMBOJ 2007) と共集合性 (Kostelansky et al. 2007) に合致する。

新規性: 本研究で初めて、ESCRT-0がユビキチン化カーゴをクラスター化するが膜変形は誘導しないこと、ESCRT-IとESCRT-IIが協働して膜を出芽させカーゴを内部に閉じ込めること、そしてESCRT-IIIがバッドネックに局在し効率的に膜を切断してILVを形成するという、MVB形成におけるESCRT複合体の逐次的な役割と、膜出芽・切断が細胞質側から行われるメカニズムを分子レベルで新規に説明した。ESCRT-I+IIが「内側コート」ではなくネックを安定化させることで出芽を誘導するというメカニズムはこれまで報告されていない。このメカニズムは、ESCRT複合体がILV内に取り込まれることなく効率的にリサイクルされるという細胞内観察と一致する。

分子機構への考察: ESCRT-I+IIはその剛直なストーク構造 (ESCRT-IにおけるMvb12の剛直スペーサー、ESCRT-IIにおけるY字構造) と複数の膜結合部位により、15 nm程度の膜ネックの形成・安定化に寄与すると考えられる。ESCRT-IIIはこのネックにコンファインされ、外側からの切断を実行する。ESCRT-0は平坦なクラスリン-ESCRT-0コートとしてエンドソーム表面に広がり、カーゴリザーバーとして機能する一方、バッドはESCRT-0コートの境界で形成されるというモデルが提唱された。ESCRT-0ドメインがカーゴリザーバーとして機能し、ESCRT-I-ESCRT-IIバッドがその境界で形成されるというモデルは、細胞内でのMVB形成におけるカーゴ供給の動態を説明する。

臨床応用: 本研究がILV (エクソソーム前駆体) の形成に必要な最小コンポーネントを明確に定義し、ESCRTに依存する経路と非依存する経路 (セラミド経路・ESCRT非依存的ILV形成) の基準点を提供したことの臨床的意義は大きい。「ESCRT-0がカーゴ濃縮を担いESCRT-I+IIが膜変形を担う」という機能分離は、特定のカーゴが特定のILV形成経路を優先的にリクルートするという「カーゴ主導モデル」の分子的基礎を与えるものであり、エクソソームのカーゴ選別機構の理解と、将来的な疾患診断・治療への臨床応用につながる可能性がある。方法論的観点では、GUVを用いた段階的無細胞再構成系という実験パラダイムは複雑な膜リモデリング反応を分析するための強力なツールとして後続研究に広く採用されており、ESCRT研究のみならず膜輸送研究全般への波及効果が大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、ESCRT-I+IIのネック形成の詳細な構造基盤、生体条件下での各ESCRT複合体のリサイクル機序、哺乳類ホモログでの検証が挙げられる。また、ESCRT-0ドメインからバッドへのカーゴ移動の駆動力や、ILVのサイズがin vitroとin vivoで異なる理由など、膜張力や曲げ弾性率といった物理的要因の役割も今後の研究で明らかにする必要がある。本研究は、ESCRT複合体が細胞質側から膜を切断するメカニズムを明らかにしたが、このユニークな切断様式の詳細な分子メカニズムについてはさらなる研究が残されている。

方法

タンパク質精製と蛍光標識: ESCRT-0複合体 (Vps27/Hse1) は酵母 Saccharomyces cerevisiae (DDY1810株) 発現系からNi-NTAアフィニティー精製とゲルろ過精製で取得した (7 μMに濃縮)。ESCRT-I・II・Vps20・Snf7はEscherichia coliでHis6タグ融合体として発現し、Ni-NTA精製、TEVプロテアーゼ切断、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) 精製で単量体画分を取得した。ESCRT-0・I・IIはネイティブCys残基をAlexa Fluor 488 C5 maleimideで、Vps20 (N85C変異体) とSnf7 (N末端Cys導入) は導入Cys残基を標識した (標識効率>90%)。モデルカーゴとして、C末端Ubをヒスチジンタグ付きGFP/CFPに融合させNi-NTA-DOGS含有GUV膜に係留した (His6-GFP-Ub/His6-CFP-Ub、130 nM)。

GUV作製: POPC (57 mol%)・POPS (10 mol%)・コレステロール (25 mol%)・PI(3)P (3 mol%)・Ni-NTA-DOGS (5 mol%) + ローダミン-PE (0.1 mol%) の脂質薄膜をITO被覆ガラスに塗布し、600 mMショ糖溶液中で1V・10Hz・60℃・4時間の電気形成法でGUVを作製した。前報と比較し、Ni-NTA-DOGSを5 mol%追加してユビキチン化カーゴ係留を可能にした。GUV溶液の浸透圧は電気形成中の水分蒸発により約650 mosMに調整された。

ESCRT反応・可視化: 200 μLのLab-Tek #1.0チャンバー (5 mg/ml BSAコート済み) にHis6-CFP-Ub搭載GUVを添加後、各ESCRT複合体を15 nMずつ段階的に添加した。全ステップで5分のインキュベーション間隔を設けた。バッファーとタンパク質溶液はGUV溶液の浸透圧に合わせた。共焦点蛍光顕微鏡 (Zeiss LSM510/Confocor、×63 Plan Apochromat 1.4 NA) でマルチトラッキングモードで撮影した。各条件につき80〜100 GUVを解析し、3独立実験で再現を確認した。膜出芽とILVの数は、ランダムに選択された視野のGUVをz方向にスキャンしてカウントした。統計解析には、各実験条件で得られたGUVのデータを用いて、Mann-Whitney U testが適用された。

FRAP実験: His6-GFP-Ubを用い、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡 (124×124 pixel、×63 対物、開放ピンホール) でGFP蛍光を漂白後 (488/458/514 nm、100%出力、20反復) 、149 ms間隔で少なくとも50秒間の回復を観察した。各条件で10 GUVから10個のバッドまたはクラスターを解析した。蛍光強度はLSM Examinerソフトウェアを用いて決定された。FRAPデータは、移動性画分と回復速度を決定するために非線形回帰分析を用いて解析された。

変異体・欠失実験: Ub-I44D変異 (UBD結合障害)、ESCRT-0のΔP(S/T)XP (ESCRT-I結合障害) 変異体を作製して機能喪失実験を実施した。これらの変異体は野生型と同様に精製された。Escherichia coli BL21(DE3)株がタンパク質発現に用いられた。