- 著者: Sebastian Hoepfner, Fedor Severin, Alicia Cabezas, Bianca Habermann, Anja Runge, David Gillooly, Harald Stenmark, Marino Zerial
- Corresponding author: Marino Zerial (Max-Planck Institute for Molecular Cell Biology and Genetics, Dresden, Germany)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2005
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 15882625
背景
内エンドサイトーシス系はearly endosome、recycling endosome、late endosome、lysosomeからなる形態・機能的に異なるオルガネラ群で構成され、成長因子・栄養素の取り込み・リサイクル・分解という核心的な生物機能を担う。各オルガネラは細胞内に特徴的な定常分布を示し、actin・微小管細胞骨格との協調によって維持される。マイナス端モーターであるdynein-dynactin複合体がendosome・lysosomeの核周囲局在化とearly-to-late endosome輸送を担うことは確立されていたが(Burkhardt 1997、Aniento 1993)、early endosome自体のプラス端輸送を担うkinesinモーターの実体は長年不明であった。Early endosome上のGTPaseであるRab5はPI3-kinaseであるhVPS34 (human vacuolar protein sorting-34)/p150を活性化してPI(3)P (phosphatidylinositol 3-phosphate) を生成し、FYVE (phosphoinositide-binding zinc finger domain) またはPX (PhoX homology) ドメインを持つエフェクター群を集積させることで双方向的な微小管モーター輸送を調節することが示唆されていた。PI(3)Pを含有する脂質マーカーとしてEEA1 (early endosome antigen 1) やFYVEドメイン融合蛋白質が確立されており (Gillooly et al. EMBOJ 2000)、Rab5はPIキナーゼ活性を介してエフェクターの膜標的化を制御することが知られていた。Late endosome輸送においてはRab7エフェクターのRILP (Rab7-interacting lysosomal protein) がdynein-dynactin複合体を招集するという機序が示されており (Jordens et al. CurrBiol 2001)、RabGTPaseがモーター蛋白質を間接的に制御するパラダイムが成立しつつあった。また他のオルガネラでは、Rab11やRab27 (Rab GTPase) がmyosinモーターの膜リクルートを制御することも報告されていた (Wu et al. NatCellBiol 2002)。しかし、early endosomeのプラス端motilityを直接担うkinesinは同定されておらず、Rab5/PI(3)Pシグナルがいかにしてプラス端輸送を制御するかという知識のgap in knowledgeが存在した。さらに、PI(3)P結合能を持ちながらearly endosomeを標的とするkinesinが存在するか否かも不明であり、そのような分子が受容体のリサイクル経路と分解経路のバランスをどう規定するかは手薄な領域であった。
目的
ゲノムデータベース検索でPI(3)P結合モチーフ(FYVEまたはPXドメイン)を持つkinesinを同定し、その構造的特性・分子運動特性・early endosomeへの局在機序・Rab5/hVPS34依存性・受容体リサイクルおよびEGFR分解バランスへの機能的役割を包括的に解明することを目的とした。
結果
KIF16BはPXドメインとkinesin-3ファミリー特有の構造を持つ新規プラス端モーター:
ゲノムデータベース検索の結果、C末端にPXドメインを持つヒトKIF16B (kinesin family member 16B、accession BX647572) が同定された。KIF16Bは1318 aaの152 kDa蛋白質で、N末端にkinesin motor superfamily catalytic domain (KISc、aa 1-355)、stalk領域にFHA (forkhead-associated) domain、C末端にPXドメインを持つドメイン構造を示した (Fig. 1A)。Kinesin-3ファミリーに属し、最近縁のKIF1AとはモータードメインでSsequence identityが59%と高い相同性を持つ。COILS (coiled-coil prediction algorithm) によるcoiled-coil予測では、KIF16BのstalkはKIF1Aよりも顕著に高いcoiled-coil形成能を示し、dimeric DdKIF1AやKHCに類似した二量体構造が示唆された (Fig. 1D)。脳優位性の高い他の多くのKIFファミリーと対照的に、KIF16Bは腎・肝・腸・胎盤・白血球・心・骨格筋など多様な組織でNorthern blot・Western blot解析により発現が確認された。In vitro微小管gliding assayでは、n=28微小管のうち24本 (86%) がマイナス端方向に移動し、KIF16Bがプラス端指向性モーターであることが実証された (Fig. 2A)。運動速度はvelocity distributionで0.175-0.275 µm/sと計測され (Fig. 2B)、HeLa細胞内でRab5陽性early endosomeが示す長距離移動速度 (約0.3 µm/s) と一致する。Conventional KHC (kinesin heavy chain) が示す約2-3倍高い速度とは異なり、KIF16Bはearly endosomeの低速運動帯域に特化した輸送特性を持つと考えられる。
PI(3)P・Rab5依存的なearly endosome標的化と脂質結合の分子機序:
Surface plasmon resonance解析により、GST-KIF16B-PXドメインはPI(3)PへKD=28 nMで結合し、PI(3,4)P2へKD=40 nM、PI(3,4,5)P3へKD=99 nMで結合することが示された (Fig. 2C)。これらの親和性はHrsのFYVEドメインのPI(3)P結合 (KD=38±19 nM) と同等であり、PI(3)Pが主要な生理的リガンドと考えられる。一方、KIF1A/Unc104が結合するPI(4,5)P2への結合は検出されず、KIF16BはPI(3)P優先性の脂質特異性を持つ。細胞内局在解析では、内在性・外因性KIF16BともにPI(3)Pプローブ2xFYVE-mycとほぼ完全に共局在し、PI(3)P陽性early endosomeへの局在が確認された (Fig. 3A-B)。Wortmannin (100 nM) 処理によりKIF16B-YFPはendosomeから解離してdiffuse cytosolicパターンに変化し (Fig. 3C-D)、dominant-negative Rab5S34N発現でも同様のendosome解離が生じた (Fig. 3E-F)。In vitro liposome motility assayでは、2 mol% PI(3)P含有liposomesはKIF16B存在下で微小管に結合してdisplacement >3 µmの連続輸送を示したが、PI(3)P非含有liposomesは微小管への結合も輸送も示さなかった (Fig. 4)。以上の結果はKIF16BがPXドメイン-PI(3)P相互作用によりearly endosomeに標的化され、Rab5はPI(3)P産生を通じて間接的にKIF16Bの膜リクルートを制御することを示す。
Cell-free assayにおけるearly endosome plus-end motilityの生化学的制御:
精製early endosome画分のWestern blot解析により、内在性KIF16BはEEA1・Rab5と共精製され、early endosome画分に濃縮されることが確認された (Fig. 5A)。Wortmannin前処理細胞由来の画分ではEEA1・KIF16B量が減少し、KIF16B過剰発現細胞由来では増加した。Cell-free motility assayでは精製endosomesが0.05-0.3 µm/sec (n≥3 movies/sample、mean ± SD) の速度範囲でmicrotubule上を移動し (Fig. 5B-C)、組換えKIF16B添加によりmotility event頻度が有意に増加した (Fig. 5E)。RabGDI (Rab GDP-dissociation inhibitor) 添加、LY294002、抗hVPS34 function-blocking抗体いずれでもmotility eventが減少し (Fig. 5D)、Rab5-GDI複合体添加では増加した (Fig. 5F)。KIF16BΔN (catalytic domain欠失ドミナントネガティブ) または抗KIF16B抗体の添加でmotilityは強く抑制され、抗体抑制は過剰量のrecombinant KIF16Bタンパク質添加でrescueされた (Fig. 5E)。さらに、recombinant KIF16B存在下でもendosome motilityはRab-GDI・Rab5-GDI複合体への応答性を保持しており (Fig. 5F)、KIF16BがRab5/hVPS34調節下に置かれたplus-end motilityの分子モーターとして機能することが確立された。
In vivoにおける早期エンドソーム分布・受容体リサイクル・EGFR分解の調節:
HeLa細胞でKIF16B-YFPを過剰発現すると、EEA1標識early endosomesが顕著に細胞辺縁 (cell periphery) へ再配置された (Fig. 6A)。これに対し、KIF16BΔN-YFP・KIF16B-S109A-YFPの発現またはesiRNA knockdown (~90%) ではendosomesが核周囲領域に集積し、いずれの操作も微小管ネットワーク形態には影響しなかった (Fig. 6B-F)。KIF16B ablation細胞では、Alexa568標識transferrinの細胞内蓄積がmock処理細胞に比べ加速され (Fig. 6G-H)、ビオチン化Tfnの定量アッセイでも2 min短時間loadingによるearly endosomeからのrecyclingが遅延することが確認された (n=4独立実験、mean ± SD、Fig. 6J)。各条件n≥50細胞を3回の独立した生物学的反復実験 (n=3 biological replicates per condition) で解析し、結果の再現性を確認した。一方、1 hr saturation loadingによるrecycling endosome経由のrecyclingには差がなく (Fig. 6K)、KIF16BはearyEndosomeからの直接的なrecycling経路に特異的に関与することが示された。EGF (0.1 µM) + cycloheximide (10 µg/ml) 刺激実験では、mock細胞・KIF16B-S109A細胞では6 hr後にEGFRがほぼ完全に分解されるのに対し、KIF16B過剰発現細胞ではEGFRが細胞辺縁のearly endosomeに持続して局在し分解が強く抑制された (Fig. 7A-C、n=3、mean ± SD)。EGFRのearly endosome残存は共焦点顕微鏡によるRab5・EEA1・PI(3)Pとの共局在、LAMP1 (lysosome-associated membrane protein 1) 陰性により確認された。逆に、KIF16B ablationではEGFR分解が加速した (Fig. 7D)。これら一連の結果は、KIF16Bが制御するearly endosomeの細胞内位置が受容体リサイクル経路と分解経路のいずれが選択されるかを規定するという機能的証拠を提供する。
考察/結論
本研究は、PI(3)P結合PXドメインを持つkinesin-3ファミリーのKIF16Bを、early endosomeのplus-end微小管モーターとして本研究で初めて同定し、Rab5/PI(3)Pシグナルが膜融合機構と運動機能の両者を統合して制御するという新規のパラダイムを提示した重要な原著論文である。KIF16BはPI(3)PへのKD=28 nMという高親和性結合、in vitro microtubule gliding速度0.175-0.275 µm/s、in vivoでのearly endosome局在、cell-free assayでの機能再構成という4段階の証拠によってearly endosomal kinesinとして確立された。
既報との相違:これまでの研究ではdynein-dynactinがearly-to-late endosome transportを専ら担い、recycling endosomeからの細胞表面輸送に別のkinesinが関与するという二段階モデルが支持されていた。本研究はこの既報の理解と異なり、KIF16Bが制御するplus-end motilityそのものがearly endosomeの細胞内位置を決定し、dyneinとの力学的バランスを通じてearly-to-late endosome transitioを間接的に規定することを示した。KIF1AがPI(4,5)P2結合により神経軸索輸送に特化するのと対照的に、KIF16BはPI(3)P親和性PXドメインと全身発現パターンにより細胞内のearly endosome輸送を普遍的に担う機能的相違がある。また、GolgiでのRab6とkinesin連携 (Echard et al. Science 1998) と並ぶ発見として、Rab-kinesin協調による細胞内輸送の一般原理の理解を前進させた。
新規性:本研究で初めてPI(3)P結合PXドメインを介してearly endosomeに標的化される新規なplus-end kinesinとしてKIF16Bが同定された。PI(3)Pを介したkinesin膜標的化という本機序は、Rab5が同一シグナルドメイン内で膜融合エフェクターと運動機能を協調させるという新規な統合制御モデルを提案する。これまで報告されていないPI(3)P-PXドメインによるkinesin-endosome連結は、KIF1A/Unc104がPI(4,5)P2-PHドメインで神経小胞を輸送する機構と平行進化した脂質結合型輸送の新たな実例であり、lipid-motor coupling の生物学に新たな機軸を加えた。また、endosome位置の決定が受容体のfate (recycling vs degradation) を規定するという概念は、従来のsortingシグナル中心的解釈を超えた新規な空間的制御機序を提示する。
臨床的意義と橋渡し:Early endosome上での受容体滞在時間の延長はEGFRを含む発癌性受容体の下流シグナル持続を促進し、細胞増殖・生存シグナルの増強につながる可能性がある。KIF16Bの機能増進は受容体を分解経路から保護するため、KIF16Bを標的とした阻害戦略が発癌性EGFR・HER2等の選択的分解促進に臨床応用上の意義を持ちうる。また、DrosophilaオーソログKLP98AがWingless (Wnt) シグナルに関与することとの類推から、KIF16BはWntリガンドの細胞内trafficking調節を通じて発生・腫瘍形成に寄与する可能性も持つ。bench-to-bedsideの観点から、KIF16Bと特定の受容体チロシンキナーゼ系の関係をin vivo腫瘍モデルで検証することは臨床的含意を持つ次のステップとなる。Exosome生物学との接点として、KIF16BによるMVB (multivesicular body) 前駆体であるearly endosomeの位置制御はMVB形成効率と細胞辺縁への輸送を通じてexosome分泌量・timing に影響する可能性があり、EVバイオロジーとの橋渡しという観点でも重要な知見を提供する。
残された課題とlimitation:本研究ではKIF16BとRab5の直接的蛋白質-蛋白質相互作用はin vitroで確認されず、Rab5によるKIF16B制御はPI(3)P産生を介した間接的機序と提案されているが、その詳細な生化学的制御カスケードは今後の検討を要する。FHA (forkhead-associated) ドメインを介したリン酸化による活性調節機構、極性上皮細胞でのtranscytosis・apical/basolateral間選別輸送への機能的寄与、ヒト疾患(神経変性・癌)でのKIF16B変異/発現異常の機能的意義についても今後の研究が必要である。また、KIF16Bとdyneinのbalanceを規定する上流調節機構(例: phosphorylation、ユビキチン化)や、early endosomeが細胞辺縁に位置する際にどのような分子マーカーが分解経路への移行をブロックするかは将来の検討課題として残されている。本研究のcell-free assayが生理的細胞内環境をどこまで再現しているかというlimitationも認識すべき点である。
方法
ゲノム配列データベース検索によりPXドメインを持つkinesin候補として、D. melanogaster DmKLP98AおよびFugu T. rubripes JGI32205のオーソログを同定した。ヒトKIF16B (kinesin family member 16B) (accession BX647572) をHeLa細胞 (ATCC CCL-2) mRNAから特異的プライマーを用いてクローニングし (1318 aa、152 kDa)、pEYFP-N1ベクターへサブクローニングしてKIF16B-YFP (yellow fluorescent protein) 融合蛋白質を作製した。Dominant-negative変異体として、catalytic domainを欠失したKIF16BΔN-YFP (aa 396-1318)、およびATP結合モチーフに点変異を導入したリガーモーターKIF16B-S109A-YFPを作製した。バキュロウイルスシステムを用いてHIS標識full-length KIF16Bを精製し、polarity-marked microtubules (蛍光標識plus端) を用いたin vitro微小管gliding assay (n=28微小管) で運動方向性を評価した。Surface plasmon resonance (センサーチップに各種PI含有リポソームをコート) でGST (glutathione S-transferase) 融合PXドメイン (GST-CtermPX) のPI結合親和性 (KD値) を定量した。HeLa細胞を用いた共焦点蛍光顕微鏡観察では、PI(3)Pプローブ2xFYVE-myc・抗EEA1抗体・抗KIF16B抗体で内在性および外因性KIF16Bの局在を評価した。Wortmannin (100 nM、20 min処理) によるPI3-kinase阻害、またはdominant-negative Rab5S34N過剰発現によるPI(3)P産生抑制の効果を検証した。In vitro liposome motility assay (DOPC (dioleoylphosphatidylcholine) + 2 mol% PI(3)P、0.5 mol% TRITC-DHPE (rhodamine-labeled fluorescent phospholipid)) にてKIF16BによるPI(3)P-liposomeの微小管輸送を再構成した。Cell-free early endosome motility assayでは、rhodamine-transferrin標識early endosomesを精製し、各種試薬 (recombinant KIF16B、RabGDI、LY294002、抗hVPS34抗体、抗KIF16B抗体、KIF16BΔN) の効果を定量した (mean ± SD、n≥3 movies/sample)。KIF16B特異的esiRNA (enzymatically-generated siRNA) によるknockdown (~90%)、過剰発現・dominant-negative変異体発現を用いたgain/loss-of-function解析を行い、ビオチン化transferrin (Tfn) のuptake (n=4、mean ± SD、2独立実験) ・recyclingアッセイ、およびEGF (0.1 µM) + cycloheximide (10 µg/ml) 処理によるEGFR分解実験 (n=3、mean ± SD) をbiochemical・共焦点顕微鏡の両面から定量評価した。群間比較にはStudent’s unpaired t-test (two-tailed) を用い、有意水準p<0.05とした。全定量データはmean ± SDで表示した。