- 著者: Federico Cocozza, Lorena Martin-Jaular, Lien Lippens, et al.
- Corresponding author: Mercedes Tkach (INSERM U932, Institut Curie, Paris); Clotilde Thery (Institut Curie, PSL Research University)
- 雑誌: The EMBO Journal
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-12-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 38073509
背景
細胞外小胞(EV)およびnon-vesicular extracellular particle(ENP)はtumor microenvironment(TME)における細胞間コミュニケーションの重要な媒体であり、腫瘍由来EVは免疫賦活作用と免疫抑制作用の両者が報告されてきた。この矛盾は、異なる単離法が生み出すEV亜集団・ENP・夾雑成分の混合組成の差異によるものと推測されるが、各粒子亜集団の機能的特性は未解明であった (Robbins et al. NatRevImmunol 2014)。
近年、EV亜集団の多様性(エクソソーム・マイクロベシクル・エクソメア・スープラメアなど)と各亜集団に特有の機能が認識されるようになったが、腫瘍細胞の分泌粒子に関しては、endogenous retrovirus(ERV)由来のvirus-like particle(VLP)の混入という見落とされていた複雑性が存在する。マウスC57BL/6腫瘍細胞株はEmv2遺伝子座由来のmurine leukemia virus(MLV)を再活性化しうるが、標準的なEV単離法(超遠心法)ではsmall EV(sEV)とVLPを分離できず、dendritic cell(DC)などの免疫細胞への機能的影響が混合物として評価されてきたという問題があった (Bobrie et al. JExtracellVesicles 2012)。
腫瘍由来EVは担がん宿主のDCへの腫瘍抗原転送・成熟誘導を介してT細胞依存的抗腫瘍免疫を促進しうるとされてきた (Wolfers et al. NatMed 2001)。しかし、どのEV/ENP亜集団がDCの死・成熟・クロスプレゼンテーションのいずれを担うのかは未解決であり、特にERV由来VLPの免疫機能については全く知見がなかった。この知識の欠如が、腫瘍EVの免疫調節機能の再現性や治療応用の評価を妨げており、VLPを除いた精製EV亜集団の機能解析が必須であったが未解明であった。
目的
本研究は、(1)マウス腫瘍細胞EV調製物に共存する内在性MLV由来VLPを同定・定量し、(2)速度密度勾配によるsEV/VLP分離プロトコルを確立し、(3)sEV・VLP・ENP・10k(大型/高密度EV+VLP)各粒子種のDCへの機能的作用(生存・成熟・抗原クロスプレゼンテーション)を比較することを目的とした。
結果
EO771細胞EV調製物への内在性MLV由来VLP混入の発見: cryo-EMにより、200k画分中の小胞内にウイルスカプシドに特徴的な同心円状リング構造が検出された。VLP形状粒子は直径100-150 nm(ピーク115-130 nm)に集中し、これは既知MLVサイズと一致した(Fig 1C, D)。LC-MS/MSによる定性プロテオーム解析(n=3細胞株)でMLVファミリーの複数タンパク質(AKV、Duplan、Xmv、Intracisternal A-particle)が同定され、gag/env抗体によるWestern blotで200kおよび10k画分に両タンパク質が確認された。14種の追加腫瘍細胞株のうち12種(12/14、86%)でgag/env発現が確認されたが、2種の非腫瘍線維芽細胞株(Pfa1、Mus Dunni)および肺がん細胞株KPでは陰性であった(Fig 1E)。Mus Dunni-XG7レポーター感染アッセイによりEO771の200k画分に感染性レトロウイルス粒子が含まれることが確認された。
速度密度勾配によるsEV/VLP分離の確立: 200k画分(n=3実験)をイオジキサノール速度密度勾配にかけると、fractions 1-3(低密度)にCD63・Ago2を中心とするEVマーカーが濃縮し、fractions 5-7(高密度)にMLV gag/env・MHC-Iが濃縮した。cryo-EM解析によりfractions 1-3はカプシド構造を持たないsEV、fractions 5-7はカプシド含有VLPとして分離されていることが確認された(Fig 2E)。定量プロテオームのPCA解析(n=5実験、6,127タンパク質同定)では10k・sEV・VLPが独立したクラスターを形成し、各粒子種のタンパク質組成の固有性が確認された。ENPにはAgo2・Hsp90が濃縮し、gag-pol/pol proteins are 3-5-fold enriched in 10k and VLPs vs sEVs、VLPに特異的なGOタームはtrans-Golgi networkおよびSAGA/STAGAヒストン修飾複合体のみ3項目であった(Fig 3)。
sEVによる選択的DC死誘導: 精製sEV(fractions 1-3)は、タンパク質量10-20 μg/mlで用量依存的にMutuDCの生存率を有意に低下させた(PBS対照比、n=3実験)。この毒性は、より高密度の勾配画分VLPでは観察されなかった(イオジキサノール残留効果の否定)。非腫瘍細胞Pfa1由来EVではDC死は誘導されなかった(PBS vs sEV: 生存率差 p<0.05)。腫瘍細胞株パネル(B16F10、LLC1)でも200k画分によるDC死が確認された一方、MCA101・KPでは観察されなかった(n=2-4実験)。一次脾臓DC(n=3実験)でもsEV処理により全体生存率が10%(PBS条件20-30%から低下)に低下し、ヒトMoDCでも同様のsEVによる細胞毒性が確認された(種非特異的活性、Fig EV5B, C)。
10k画分の優越的DC成熟誘導能: 各粒子種のMutuDC成熟誘導効果を比較すると(n=5実験)、10k画分がCD40・MHC-II・CD86・PD-L1の発現上昇において最も強力であった(Fig 4F)。10k画分はIL6・MIP1α・MIG(p<0.05)、TNFα・MIP1β(高発現も有意差なし)を含む7種のサイトカインを誘導した。VLPはIL6・MIP1β・MCP1の低レベル分泌を誘導し、sEVはMIG・IL6・TNFα等を誘導したが、一部はDC死に伴う間接効果の可能性があった。ENPはいずれの成熟マーカー・サイトカインにも影響しなかった(n=3実験)。定量プロテオームでは、damage-associated molecular pattern(DAMP)・pathogen-associated molecular pattern(PAMP)として分類されるタンパク質が10k画分に最も豊富であることが確認された(Fig 4I)。
10k画分の優越的抗原クロスプレゼンテーション能: myr/palm-OVA搭載EVのクロスプレゼンテーション実験(n=4-5実験)では、10k曝露MutuDCのみがOT1 T細胞の有意なCD69/CD25発現上昇を誘導した(1または2 ng OVA/5時間処理後のOT1共培養18時間、p<0.05、Fig 6F, G)。VLPおよびMix画分ではOT1活性化の傾向は認められたがPBS対照比有意差なし。sEVおよびENPではOT1活性化なし。可溶性組換えOVAと比較した抗原提示効率では10kが100-fold以上の効率を示し、10k > VLP > Mix >> sEV/ENP の順であった(Fig 6I)。
考察/結論
本研究は、マウス腫瘍細胞由来EV研究に内在性MLV由来VLPという見落とされていた変数が存在することを初めて系統的に示した。先行研究において腫瘍EVのDCへの効果が免疫活性化・免疫抑制と矛盾する結果を示してきたことと異なり、本研究はVLPを含む「腫瘍エクソソーム」と精製sEVが真に対照的な機能プロファイルを持つことを示し、この矛盾を解消しうる機構を初めて提示した。Tkach et al. Cell 2016が提唱したEV亜集団の機能的多様性の概念を、VLP混入という新たな次元で具体化した点が本研究の最大の貢献である。
本研究で初めて示されたnovelな知見は、精製sEVが樹状細胞死を誘導する一方でVLPは誘導しないという細胞亜集団特異的な毒性の発見である。この細胞毒性は種非特異的であり、非腫瘍細胞由来EVでは観察されないことから、腫瘍sEV特異的な分子機構が存在すると考えられる。候補分子の探索にはSSPAプロテオームデータが資源となるが、核酸や低分子代謝物の関与も除外できず、今後の検討が必要である。内在性レトロウイルスはマウスゲノムに比べてヒトゲノムではより抑制されているが、human endogenous retrovirus(HERV)由来粒子のヒト腫瘍EVへの混入についても系統的な評価が今後の課題である。
臨床的意義として、精製sEVによるDC毒性の分子機構解明は免疫抑制性腫瘍EVブロッキングという新たな臨床応用可能性を開く一方、大型EV(10k)の優越的な成熟誘導・クロスプレゼンテーション能は、従来のDCベースワクチン戦略で高純度精製エクソソームより10k粗精製物を用いる方が効率的である可能性を示唆する。残された課題は、ヒト腫瘍細胞EV中のVLP/HERV混入の実態解明、sEV特異的DC毒性の分子同定、ならびにin vivo腫瘍モデルでの各EV亜集団の免疫調節的役割の検証である。
方法
EV単離・キャラクタリゼーション(ISEV MISEV2018準拠): EO771(C57BL/6マウス由来乳腺腫瘍)を主モデルとし、無血清条件培養上清から逐次超遠心法(ultracentrifugation; 2,000×g→10,000×g(16分)→200,000×g(50分)→200,000×g overnight)によりそれぞれ10k・200k・ENP画分を単離した。200k画分はさらにイオジキサノール速度密度勾配(6-10-14-18-22%の5層、187,000×g、1時間30分)に供し、低密度分画(fractions 1-3)をsEV、高密度分画(fractions 5-7)をVLPとして回収した。キャラクタリゼーションはnanoparticle tracking analysis(NTA)、cryo電子顕微鏡(cryo-EM)、Western blot(EV表面マーカーCD9/CD63/Alix/MFGE8確認)の3手法で実施した(MISEV2018準拠、EV-TRACK ID: EV230008)。14種の追加マウス腫瘍細胞株(TS/A、LLC1、KP、B16F10、MCA101、MB49、Raw264.7、4T1、MutuDC、MC38、EL4、EG7など)でgag/env発現をWestern blotで確認した。
プロテオーム解析: EO771由来10k・sEV・VLP・ENP・Mix各画分5生物学的反復から20 μgをTrypsin/Lys-C消化後、LC-MS/MS(Orbitrap Eclipse)によるラベルフリー定量(label-free quantification; LFQ)を実施した。マウスプロテオーム + 既知マウスウイルス523配列 + 内在性MLVエンベロープ53配列の統合データベースを使用しSequest-HTで検索(FDR 1%)。6,127タンパク質を同定し、myProMSのstate-specific protein analysis(SSPA)と遺伝子オントロジー(GO)解析を実施した。
DC機能実験: MutuDC(cDC1系統)への各粒子処理(10または20 μg/ml、16時間)後に、フローサイトメトリーで細胞生存率(eFluor 780)・成熟マーカー(CD40/CD86/MHC-II/PD-L1)発現を測定した。サイトカイン産生は17種カスタムビーズアレイ(Cytometric Bead Array)で定量した。抗原クロスプレゼンテーション実験では、ミリスチル/パルミチル化配列融合OVA(myr/palm-OVA)をstably発現するEO771由来EVを用い、OVA曝露MutuDCとOT1 T細胞(SIINFEKL/H2-Kb特異的TCR)の共培養後にCD69/CD25発現でT細胞活性化を評価した。一次脾臓DC・ヒト単球由来DC(monocyte-derived DC; MoDC)でも確認実験を実施した。C57BL/6 OT1マウス(6-16週齢、雌雄、CERFE SPF施設)を使用した。
統計解析: 混合効果モデル(Dunnett多重比較、PBS対照)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。