• 著者: Joseph Wolfers, Anne Lozier, Graça Raposo, Armelle Regnault, Clotilde Théry, Carole Masurier, Caroline Flament, Stéphanie Pouzieux, Florence Faure, Thomas Tursz, Eric Angevin, Sebastian Amigorena, Laurence Zitvogel
  • Corresponding author: Sebastian Amigorena (Institut Curie, Paris, France); Laurence Zitvogel (Institut Gustave Roussy, Villejuif, France)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2001
  • Epub日: 2001-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11231627

背景

T細胞介在性抗腫瘍免疫応答の開始には、樹状細胞 (DC) が腫瘍抗原を取り込み、MHC-I分子上にペプチドを提示してCD8⁺CTLをクロスプライミングするプロセスが必須である。しかし、腫瘍抗原がどのような経路でDCに効率的に転送されるかは長らく未解明であり、議論が続いていた。これまで、死にゆく腫瘍細胞 (照射細胞、アポトーシス小体、腫瘍溶解物、ヒートショックタンパク質) が腫瘍抗原の供給源として研究されてきたが、これらを用いた免疫化は一般に異なる腫瘍モデル間でのクロスプロテクションをもたらさなかったことが報告されている (Ramarathinam et al. 1995)。マウス移植腫瘍モデルでは、発癌剤誘発性腫瘍における変異ユニーク腫瘍抗原の役割が重視され、異なる組織型やMHCハプロタイプをまたぐ共有腫瘍拒絶抗原の臨床的関連性は否定的に見られていた (Klein et al. 1960, Old et al. 1962)。生細胞、アポトーシス細胞、腫瘍溶解物を用いた免疫化は効率的なクロスプロテクションを示さず、腫瘍細胞からDCへの効果的な抗原転送経路は不明のままであった。この点において、腫瘍抗原の効率的な転送経路の特定は、がん免疫療法の開発において重要な知識のギャップとして認識されていた。

先行研究では、Bリンパ球 (Raposo et al. JExpMed 1996) やDC (Zitvogel et al. NatMed 1998) が多胞体 (MVB) に由来する膜小胞であるエクソソームを分泌することが報告されていた。特に、Zitvogel et al. NatMed 1998 は、腫瘍ペプチドをパルスしたDC由来エクソソーム (dex) がT細胞依存性の抗腫瘍効果を示すことを実証したが、腫瘍細胞自体がエクソソームを分泌するか、それが腫瘍抗原転送に有効であるかについては未検討であった。また、エクソソームはMHC-I、MHC-II、共刺激分子、テトラスパン分子 (CD63、CD82) などの抗原提示に関わるタンパク質を特異的に発現し、CD11b、ラクタドヘリン、CD9などのエフェクター細胞ターゲティングに関与する分子が選択的に濃縮されていることが示されている (Thery et al. 1999, Escola et al. JBiolChem 1998)。これらの知見から、腫瘍細胞由来エクソソームが腫瘍抗原の新たな供給源となり、DCを介したCTLクロスプライミングを誘導する可能性が示唆されたものの、その実証には知識のギャップが残されていた。特に、異なる腫瘍タイプ間でのクロスプロテクションを誘導するメカニズムについては、これまでの免疫化戦略では有効な方法が不足していた。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。(1) マウスおよびヒト腫瘍細胞が構成的にエクソソームを分泌することを実証し、その形態学的・生化学的特徴を明らかにすること。(2) 腫瘍由来エクソソームが、樹状細胞 (DC) への腫瘍抗原転送を介してMHC-I拘束性CTLクロスプライミングを誘導することをin vitroヒトモデルで検証すること。(3) 腫瘍由来エクソソームが、同種、同系、および異系の複数の腫瘍モデルにおいて、異なる組織型やMHCハプロタイプをまたいで強力なクロスプロテクションを達成できるかどうかをin vivoで系統的に検証すること。特に、従来の免疫化戦略では達成できなかった、確立された腫瘍に対する治療的クロスプロテクションの可能性を評価することを目的とした。これらの目的を達成することで、腫瘍抗原のDCへの効率的な転送経路を解明し、新規がん免疫療法の基盤を確立することを目指した。

結果

腫瘍細胞によるエクソソームの構成的分泌: 検討した全てのマウス腫瘍株 (TS/A、P815、MC38、AK7、L1210) およびヒト原発腫瘍培養物が、直径60-90 nmの膜性小胞を構成的に分泌することが確認された (Fig. 1a-c, Fig. 1d)。これらの小胞は、MHC-IおよびLAMP1を含有し、ERマーカーであるカルネキシンは検出されなかった。スクロース密度勾配遠心では、DC由来エクソソームと同様に密度1.14 g/mlの画分に浮遊した。代謝標識実験では、腫瘍由来エクソソームが全細胞膜画分とは異なる離散的なタンパク質組成を示すことが明らかになった (Fig. 1d)。シスプラチンやUV照射によるアポトーシス誘導はエクソソーム産生を低下させ、エクソソームが生細胞由来であることが示された。これは、エクソソームがアポトーシス小体とは異なるメカニズムで産生されることを裏付ける。

予防的免疫実験 — 自家エクソソームの優れた免疫原性: 致死量TS/A腫瘍細胞で攻撃したBALB/cマウスの予防モデルにおいて、TS/A由来エクソソーム (20 μg) による免疫では90%の腫瘍フリーを達成した (Fig. 2a)。これに対し、照射TS/A腫瘍細胞 (1×10⁶ cells) 免疫では60%の腫瘍フリーに留まり (p<0.05)、エクソソームの優位性が示された。等タンパク量 (20 μg) の腫瘍細胞全タンパク質では防御効果は認められず、エクソソームの質的な差異が重要であることが示唆された。この実験には各群n=15 miceが用いられた。

異系エクソソームによる強力なクロスプロテクション: 異系MC38 (H-2b、大腸癌) 由来エクソソームの皮内免疫は、TS/A (H-2d、乳腺癌) 腫瘍に対して、自家TS/A由来エクソソームと同等の予防効果を示した (いずれも約90%の腫瘍フリー、Fig. 2b)。一方、照射MC38腫瘍細胞ではクロスプロテクションは全く認められなかった。この結果は、腫瘍エクソソームが組織型やMHCハプロタイプを超えた共有腫瘍拒絶抗原を含むことを強く示唆した。MC38由来エクソソームによる予防効果は、MC38腫瘍細胞溶解物では観察されず、エクソソームの特異的な抗原提示能力を示している。

DCパルスによる治療的クロスプロテクション — 完全かつ双方向的: Day 3に確立されたTS/A腫瘍を有するBALB/cマウスへの自家TS/AエクソソームパルスBM-DC投与により、33%の治癒率が達成された (DC単独または生理食塩水投与群では0%治癒、Fig. 3a)。さらに、異系MC38エクソソームパルスBM-DCでも40%の治癒率が達成された (13 μgのエクソソームが必要であり、1 μgでは不十分であった、Fig. 3b)。このクロスプロテクションは完全かつ双方向的であり、TS/AエクソソームがMC38腫瘍に対してもMC38エクソソームと同等の効果を示した (Fig. 3c)。AK7中皮腫エクソソームもMC38腫瘍に対して有効であり (Fig. 3d)、P815エクソソームパルスBM-DCは40%のP815長期生存をもたらした (Fig. 3e, f)。また、半同種Ba/F3 (H-2d、BALB/c) 由来エクソソームは、P815腫瘍に対して60%の完全クロスプロテクションを示した (Fig. 3f)。これらの結果は、腫瘍由来エクソソームが、照射腫瘍細胞や壊死細胞では免疫原性を示さないマウス腫瘍移植モデルにおいて、効率的な予防的および完全かつ双方向的な治療的腫瘍間クロスプロテクションを可能にすることを示した。これらの治療実験においても、各群n=15 miceが使用された。

T細胞依存性とCD8⁺/CD4⁺T細胞の必須性: エクソソームパルスBM-DCによる抗腫瘍効果はヌードマウスでは消失し (Fig. 4a, b)、T細胞が不可欠であることが確認された。MC38エクソソーム→TS/AモデルのクロスプロテクションはCD8⁺T細胞除去により廃絶され (Fig. 4c)、予防的クロスプロテクションもCD4⁺T細胞除去により消失した (Fig. 4d)。このことから、in vivoでのクロスプライミングと腫瘍間クロスプロテクションには、CD4⁺とCD8⁺の両T細胞サブセットが必須であることが示された。CD8⁺T細胞除去には抗CD8α抗体YTS-169 4.2.1 (300 μg/mouse) が、CD4⁺T細胞除去には抗CD4抗体YTS-191 (300 μg/mouse) が使用された。

ヒトメラノーマ抗原のDCへの転送とMHC-I依存性クロスプレゼンテーション: HLA-A2⁻のMel-888メラノーマ由来エクソソームをHLA-A2⁺のMD-DCにパルスすると、MART-1 (27-35) 特異的CTLクローンのIFN-γ産生がMHC-I依存的に誘導された (Fig. 5b)。このクロスプレゼンテーション活性は、スクロース密度勾配でエクソソーム密度 (1.12-1.18 g/ml) に一致し、プロテアーゼK処理に耐性であった (Fig. 6a)。同等量のMel-888腫瘍溶解物ではCTL活性化は誘導されず (Fig. 5c)、エクソソームに特有の抗原転送能が実証された。エクソソーム内にMART-1タンパク質がHSP70 (構成的HSP) やMHC-I分子とともに蓄積していることをウエスタンブロットで確認し (Fig. 6b)、チロシナーゼ関連タンパク (TRP) の膜外面への発現も免疫電子顕微鏡で示した (Fig. 6c)。HLA-A2⁺のFon由来エクソソームは、直接CTLを活性化しなかったが、HLA-A2⁺MD-DCにロードすると、合成MART-1ペプチド (60 μM) と同等のIFN-γ産生を誘導した (Fig. 5a)。これは、エクソソームがMHC-I-ペプチド複合体および/または完全な抗原をDCに転送する能力を持つことを示唆する。この実験にはn=3 independent experimentsからプールされたデータが使用された。

考察/結論

本研究は、腫瘍細胞が構成的に分泌するエクソソームが、HSP70などの抗原シャペロンやMART-1、TRPなどの腫瘍分化抗原を含む「共有腫瘍拒絶抗原のカプセル」として機能し、樹状細胞 (DC) に効率的に取り込まれることでMHC-I拘束性CTLクロスプライミングを誘導することを初めて実証した重要な論文である。

先行研究との違い: これまでの研究では、照射腫瘍細胞、アポトーシス小体、腫瘍溶解物を用いた免疫化では、異なる腫瘍タイプやMHCハプロタイプ間でのクロスプロテクションはほとんど観察されなかった。しかし、本研究では、これらの従来の免疫化戦略とは対照的に、腫瘍由来エクソソームのみが、組織型やMHCハプロタイプを超えた強力な双方向的クロスプロテクションをもたらすことを示した。これは、腫瘍抗原のDCへの転送経路におけるエクソソームの新規な役割を明確に区別するものである。特に、照射腫瘍細胞がMC38 (H-2b) からTS/A (H-2d) へのクロスプロテクションを全く誘導できなかったのに対し、MC38由来エクソソームはTS/A腫瘍に対して約90%の予防効果を示した点が決定的な違いである。

新規性: 本研究で初めて、生きた腫瘍細胞が構成的にエクソソームを分泌し、これらがHSP70やMART-1などの腫瘍抗原を内包していることを明らかにした。さらに、これらのエクソソームがDCに取り込まれることで、MHC-I拘束性のCTLクロスプライミングを誘導し、in vivoで確立された腫瘍に対する治療的効果と、異なる腫瘍モデル間での完全かつ双方向的なクロスプロテクションを可能にすることを新規に実証した。これは、腫瘍由来エクソソームが、これまで報告されていない効率的な抗原転送メカニズムを持つことを示唆する。特に、エクソソームが腫瘍溶解物よりもはるかに低いタンパク質濃度でCTL活性化を誘導したことは、エクソソームの抗原転送効率の新規性を示している。

臨床応用: 本知見は、腫瘍由来エクソソームをDCにパルスするという、自家エクソソームベースの個別化がん免疫療法の概念的枠組みを確立するものであり、その臨床応用への道を開くものである。エクソソームは、免疫原性の低い腫瘍からの抗原を効率的にDCに提示し、強力な抗腫瘍免疫応答を誘導できるため、新規の腫瘍抗原の特性評価や、自家または同種異系のがん免疫療法におけるDCローディングの効率的な方法として臨床的有用性が期待される。特に、共有腫瘍拒絶抗原の存在は、幅広い腫瘍タイプに対するワクチン開発の可能性を示唆する。例えば、異なるMHCハプロタイプを持つ患者間でも有効な治療法となる可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームがDCに効率的に取り込まれるメカニズム、およびDCの活性化やMHC-Iクロスプレゼンテーション経路を促進する分子機構のさらなる解明が残されている。また、エクソソームが免疫抑制にも寄与する可能性 (例: PD-L1搭載) が後続研究で示唆されており、エクソソームの免疫調節機能の双面性を詳細に解析する必要がある。in vivoでの腫瘍細胞によるエクソソーム放出の生理学的関連性や、腫瘍微小環境におけるエクソソームの役割についても、今後の研究で検証されるべきlimitationである。さらに、エクソソームが含有する全ての共有腫瘍拒絶抗原の同定も重要な課題である。

方法

腫瘍エクソソームの精製と性状解析: マウス腫瘍株 (TS/A乳腺癌 H-2d、P815マスト細胞腫 H-2d、MC38大腸癌 H-2b、AK7中皮腫 H-2b、L1210白血病 H-2d) およびヒトメラノーマ株 (Fon HLA-A2⁺/MART-1⁺、Mel-888 HLA-A2⁻/MART-1⁺、Giam HLA-A2⁻/MART-1⁻) の培養上清 (48時間) から、差次的超遠心法 (300 g→800 g (×2)→10,000 g→100,000 g) を用いてエクソソームを精製した。通常、10⁶細胞あたり48時間で0.3-0.5 μgのエクソソームが得られた。精製されたエクソソームは、電子顕微鏡観察、不連続スクロース密度勾配遠心、代謝標識、およびウエスタンブロットにより性状解析を行った。特に、MHC-I、LAMP1、カルネキシン、HSP70、gp96の発現を評価した。アポトーシス誘導剤 (シスプラチン、UV照射) を用いて、エクソソーム産生が生細胞由来であることを確認した。

予防的・治療的免疫実験: マウスの予防的免疫実験では、致死量のTS/A腫瘍細胞を攻撃するモデルにおいて、TS/A由来エクソソーム (10-20 μg) 免疫と、照射TS/A腫瘍細胞 (1×10⁶ cells) 免疫、または腫瘍細胞全タンパク質 (20 μg) 免疫の効果を比較した。異系クロスプロテクションの評価では、MC38 (H-2b、大腸癌) 由来エクソソームによるTS/A (H-2d、乳腺癌) 腫瘍への予防効果を検討した。治療的免疫実験では、確立された腫瘍 (Day 3-4のTS/A、MC38、AK7、P815腫瘍) を有するマウスに対し、腫瘍由来エクソソームをパルスした骨髄由来DC (BM-DC) を皮内投与した (5×10⁵ BM-DC/mouse、1回または2回投与)。各群n=15 miceを使用し、3回繰り返し実験を行った。抗腫瘍効果のT細胞依存性を確認するため、CD8⁺T細胞除去 (抗CD8α抗体YTS-169 4.2.1、300 μg/mouse) およびCD4⁺T細胞除去 (抗CD4抗体YTS-191、300 μg/mouse) 実験、ならびにathymicヌードマウスを用いた実験を実施した。統計解析にはFisher’s exact methodを用いた。

ヒトでのクロスプレゼンテーション解析: HLA-A2⁺単球由来MD-DCに、HLA-A2⁺ (Fon) またはHLA-A2⁻ (Mel-888) メラノーマ由来エクソソームをパルスし、MART-1 (27-35) 特異的HLA-A2制限CTLクローン (LT11/LT12) のIFN-γ産生をELISAで評価した。MHC-I中和抗体 (W6.32) ブロッキング実験により、MHC-I依存性を確認した。エクソソーム内の腫瘍抗原を同定するため、スクロース密度勾配分画後のMART-1ウエスタンブロット解析、およびチロシナーゼ関連タンパク (TRP) の免疫電子顕微鏡解析を行った。また、同等量の腫瘍溶解物との比較も行った。MD-DCの培養はSallusto & Lanzavecchia (1994) の方法に準拠した。