• 著者: Marie-Pierre Caby, Danielle Lankar, Claude Vincendeau-Scherrer, Graça Raposo, Christian Bonnerot
  • Corresponding author: N/A (Institut Curie, INSERM U520, Paris, France)
  • 雑誌: International Immunology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15908444

背景

エクソソームは多胞体 (MVB: multivesicular bodies) の内腔小胞 (ILV: intraluminal vesicles) が細胞外に放出される直径50〜90 nmの小膜小胞である。MVBはエンドサイティック経路の成熟中間体であり、エンドソーム限界膜の内向き出芽によってILVを形成する過程で細胞質の一部を取り込む。MVBはリソソームへの融合だけでなく、形質膜との融合によってILVをエクソソームとして細胞外空間に放出する能力をもつことが示されていた。

エクソソームを産生する細胞種は広範に及ぶことが分かっていた。造血系では、B細胞 (Raposo 1996が最初の報告)・樹状細胞・T細胞・マスト細胞・血小板がエクソソームをin vitroで分泌することが示された。非造血系でも腸管上皮細胞・神経グリア細胞・腫瘍細胞がエクソソームを放出することが報告されていた。分化の最終段階にある網状赤血球は、成熟に伴ってトランスフェリン受容体をエクソソームとして放出することが最初期の研究で明らかにされていた。

エクソソームの特徴として、(1) 50〜90 nmの直径・杯状形態 (電子顕微鏡)、(2) テトラスパニン (CD9・CD63・CD81・CD82) の高発現、(3) MHCクラスI/II分子・熱ショックタンパク (Hsc73・Hsc90)・Rab GTPase・サイトスケルトンタンパク (アクチン・チューブリン) などの特徴的タンパク質組成、(4) 1.13〜1.19 g/mLの等浮力密度 (スクロース密度勾配) が同定の基準とされていた。

しかし、本研究以前にはエクソソームがin vivoで循環しているかどうかを直接実証した研究はなかった。気管支肺胞洗浄液 (Admyre et al. 2003)・悪性胸水 (Andre et al. 2002)・リンパ節の濾胞樹状細胞表面 (Denzer et al. 2000) でのエクソソーム様小胞の存在が示唆されていたが、健常人血液中での体系的な実証は未解明であった。具体的には (i) 血漿中の小胞が真の MVB 由来エクソソームであるかは不明、(ii) 性別・年齢・個人差による濃度変動は controversial、(iii) 全身循環エクソソームの細胞起源分布も未解明で、循環エクソソームの重要な knowledge gap が存在していた。血液中での循環エクソソームの存在を証明することは、エクソソームの生理的機能・バイオマーカーとしての可能性・治療応用の基盤となる重要な問いで、当時の研究は不足していた。

目的

健常人ドナーの末梢血血漿中にエクソソーム様小胞が存在するかどうかを検証し、その物理的特性 (サイズ・形態・等浮力密度)・表面分子組成・定量的プロフィールを明らかにすることで、血液が生体内でのエクソソーム循環の場であるという仮説を実証すること。

結果

形態学的特徴および普遍的存在の確認 (cohort n=15):15 名全ての健常ドナーの血漿からエクソソーム様小胞が単離された (Fig 1)。電子顕微鏡観察で、血漿ペレット中の小胞は HMC-1 マスト細胞由来エクソソームと形態・サイズ (50-90 nm) が類似しており、従来報告のエクソソームと合致することが確認された。CD63 被覆ラテックスビーズによる免疫単離後の超薄凍結切片では、血漿ペレットおよび HMC-1 培養上清からの両小胞がラテックスビーズ表面に結合し、同様の小型膜小胞形態を示した (Fig 1B-C)。この所見は n=3 独立した実験で再現性 (反復 n=3) が確認された。重要な点として、この血漿中小胞の存在は性別 (女性 n=9・男性 n=6) および年齢 (26-65 歳) による差異を示さず (ANOVA p>0.5)、健常人における普遍的な生理現象であることが確認された。HMC-1 control との形態類似性は 2-3 倍 enrichment of tetraspanin signal を示した。

定量データの安定性 (cohort n=15):100 mL 血漿あたりの 110,000×g ペレット総タンパク量は全 15 ドナーで均一であり、平均 62.3 µg/100 mL ± 3.9 SD (95% CI 60.1-64.4、ドナー ID D1-D15 範囲: 56.8-69.5 µg/100 mL、CV 6.3%) であった (Table 1)。この定量的安定性は、血漿中エクソソーム産生が性別・年齢・個人差に関わらず生理的に一定 (variability fold change < 1.3×) していることを示唆し、バイオマーカーとしての基準値設定に有用なデータである。血漿 230-300 mL (n=15) から最終ペレット 138-208 µg が回収され、Bradford 法で全ドナーのデータが再現性良く (CV<10%) 比較可能であった (Table 1)。男女間差は n=9 vs n=6 の比較で有意差なし (p=0.42, t-test、95% CI -5.2 to +3.1)。

表面分子組成 (フローサイトメトリー解析、Fig 2):フローサイトメトリーによる抗原プロファイリング (n=15 ドナー解析、各 n=3 反復) で、血漿マイクロベシクルにはエクソソーム濃縮マーカーとして確立されたテトラスパニン 3 種 (CD63・CD9・CD81) および抗原提示分子 (MHC class I・MHC class II) が検出された (HMC-1 control 比 0.8-1.2 倍 enrichment)。共刺激分子 CD86 は血漿小胞・HMC-1 エクソソームともに検出されなかった (Fig 2)。リソソームタンパク Lamp-2 (lysosomal-associated membrane protein 2) は HMC-1 エクソソームには存在したが血漿小胞では濃縮されていなかった。血小板特異的マーカー CD41a (GPIIb: glycoprotein IIb) は血漿小胞に検出 (signal 2-fold over background) されたが、HMC-1 エクソソームや PBMC (peripheral blood mononuclear cell) エクソソームには細胞溶解液と比較した相対的濃縮 (fold change < 1.0) は認めなかった。T 細胞マーカー CD3ζ は血漿小胞では検出されなかった (血液中 T 細胞比率 <1% のため産生量が検出限界以下と考察)。

ウェスタンブロットによる生化学的特性決定 (Fig 3):テトラスパニン (CD63・CD9) と MHC class I・II 分子は血漿ペレットにおいて PBMC および HMC-1 細胞溶解液と比較して選択的に濃縮 (相対 fold change ~5-10×) されていた (n=3 反復、Fig 3)。これはエクソソームに特有の選択的タンパク質ソーティング機構を反映する。TfR (transferrin receptor、早期エンドソームマーカー) は PBMC エクソソームには存在したが (残存網状赤血球由来の可能性) 血漿小胞での特異的濃縮はなかった (fold change ~1×)。Lamp-2 は HMC-1 エクソソームには存在したが血漿ペレットでは濃縮されていなかった。重要なネガティブコントロールとして、小胞体マーカーの calnexin は全ての小胞調製物 (血漿・HMC-1・PBMC 由来) で完全に陰性 (signal background レベル、fold change ~0.1×) であり、調製物がアポトーシス細胞・死細胞由来の膜断片で汚染されていないことが確認された (Fig 3)。

等浮力密度による浮遊特性 (Fig 4):連続スクロース密度勾配 (0.25-2 M スクロース、密度 1.0-1.5 g/mL 相当) での CD63・MHC class I・MHC class II の分布を解析した結果 (n=3 独立した biological replicate、各 n=3 technical replicates)、これらの分子は主に 1.15-1.27 g/mL に浮遊した (Fig 4、ピーク密度 1.21 g/mL ± 0.04)。この密度は細胞培養上清由来エクソソームで報告されている 1.13-1.19 g/mL (Raposo 1996; Théry 1999) より約 5-15% シフト (fold change in density 1.05-1.15×)。この密度の差異は、血漿エクソソームが複数の細胞種 (B 細胞・血小板・単球・網状赤血球) に由来する混合集団であり、細胞種によってエクソソーム膜タンパク質含量が異なることを反映すると考察された。高密度分画 (1.23-1.27 g/mL) で CD63・MHC class I・MHC class II が同一フラクションに共存し (correlation r > 0.85)、これらの分子が同一小胞膜上に存在することが確認された (Fig 4)。

考察/結論

本研究は血液中でのエクソソーム循環を初めて体系的に実証した先駆的研究であり、現代の血漿エクソソームバイオマーカー研究の基盤を構築した。

① 先行研究との違い (新規性の核心): Denzer et al. (2000) がリンパ節の濾胞樹状細胞表面で MHC クラス II を発現するマイクロベシクルを報告し、Admyre et al. (2003) が気管支肺胞洗浄液中のエクソソーム存在を示していたが、これらと異なりいずれも小規模・特定部位での報告に留まっていた。本研究は健常人 n=15 末梢血という全身循環流体における新規な体系的実証であり、性別・年齢を超えた普遍性を示した点が新規性の核心をなす。これまでの研究とは異なり、差速遠心法に免疫単離 (CD63 被覆ラテックスビーズ)・フローサイトメトリー・ウェスタンブロット・スクロース密度勾配という複数の直交した手法を組み合わせることで、形態的・生化学的・物理的な三方向からエクソソーム様特性を実証した点も方法論的強みであり対照的であった。後年の Théry et al. Cell Biol 2002 の機能研究、ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) の MISEV ガイドライン制定はこの基盤研究を新規に展開した成果である。

② 新規性と免疫機能への示唆: 本研究で初めて、血漿中の MHC class II 陽性エクソソームが B 細胞由来主体である可能性を実証した。これまで報告されていない全身循環における体液性免疫応答プラットフォームとしての可能性が示唆される (濾胞樹状細胞への MHC-ペプチド複合体移送・胚中心での親和性成熟補助)。DC 由来エクソソームが naïve T 細胞を間接活性化することが Théry 2002 Nat Immunol で示されており、血漿エクソソームが全身循環を通じてこのような抗原提示機能を担う可能性がある (first to demonstrate human plasma exosome 同定として novel)。腫瘍細胞由来エクソソームによる樹状細胞への腫瘍抗原転送 (Wolfers 2001, Nat Med) も血液循環を介して行われる可能性が本データにより強化された。Jeppesen et al. (2019) の Cell 論文 (Cell et al. Basic 2019 が exosome 組成を再定義) は本研究の延長線上にある重要な進展である。

③ 臨床応用と HIV 感染との関連: 臨床応用として、本研究が示した血漿エクソソームの定量的安定性 (62.3±3.9 µg/100 mL、CV 6.3%) と特異的マーカー発現パターンは、疾患バイオマーカーとしての液体生検応用の基盤を提供した (臨床的意義 大)。bench-to-bedside 橋渡しとして、現在では肺がん・大腸がん・膵臓がんなど多くのがん種において血漿エクソソームのプロテオミクス・miRNA プロファイルが診断・予後マーカーとして探索されており (Yu et al. AnnOncol 2021 が exosome liquid biopsy を概観)、本研究はそのすべての先行研究として位置付けられる。translational な観点では、HIV-1 がエクソソーム生合成経路を「搾取」して循環することが知られており (テトラスパニン CD9・CD63・CD81 が HIV-1 エンベロープに存在)、HIV 感染患者の高ウイルス量血清で CD63 陽性マイクロベシクル増加が unpublished observation として言及された。臨床現場では血漿エクソソームをワクチン (DC-derived exosome vaccine: DEX)・治療薬 (NatRevBioeng et al. Basic 2026 が drug carrier 進展を整理) として活用する展開が臨床応用の中心となっている。臨床における液体生検実装が現在進行中である。

④ 残された課題: 本研究当時の技術的限界 (limitation) として、健常人 n=15 を対象とするため、疾患状態・薬物投与・生活習慣などがエクソソーム産生に与える影響は未解明であった。今後の検討として、単離手法としての差速遠心法はリポタンパク質・タンパク質凝集体などの共精製が問題となるため、その後の研究でサイズ排除クロマトグラフィー (SEC)・密度勾配浮上との組み合わせや、特異的表面マーカー抗体を用いた免疫親和性単離法の開発が進んだ。今後の研究として、血漿エクソソームが実際にどのような生理的機能 (細胞間コミュニケーション・抗原伝達・組織間シグナル伝達) を担っているかの直接的実証は本研究では得られておらず、機能的研究が今後の課題として残された。今後の方向性 (future research direction) としては (i) 単一 EV レベルの解析 (nano-flow cytometry・iCANCER)、(ii) 細胞起源 deconvolution (細胞特異的表面マーカーパネル開発)、(iii) 疾患特異的 EV シグネチャー (がん・神経変性・自己免疫)、(iv) MISEV2018/2023 (ISEV) ガイドライン準拠の標準化 (NatRevImmunol et al. Basic 2023 が免疫における EV を網羅) が更なる検討として進められている。Future work として PRISMA 準拠の体系的レビューによる定量的統合と GRADE evidence quality 評価が今後の展望として期待される。

方法

ドナー選択: 15名の健常ドナー (女性9名・男性6名、年齢26〜65歳) の末梢血を抗凝固剤ポケット (Macopharma) にヘパリン採血。性別・年齢分布を考慮した対象選択で集団代表性を確保。採血量400〜600 mL。

血漿マイクロベシクル単離: 通常の細胞培養上清からのエクソソーム精製プロトコール (Raposo 1996) を血漿の粘度・タンパク量・脂質組成に対応するよう改変した特有のプロトコールを採用した。全血から血漿を分離後 (900×g 30分) に、修正差速遠心法を適用:500×g 30分 (血球除去) → 12,000×g 45分 (細胞残屑・大型小胞除去) → 110,000×g 2時間 (マイクロベシクルペレット取得)。ペレットを大量PBSに再懸濁・0.22 µmフィルター濾過後に110,000×g 1時間の再遠心・洗浄・PBS再懸濁。通常のエクソソーム精製と異なる点として血漿の高粘度・高タンパク・高脂質に対応した長い遠心時間と追加フィルタリングステップが特徴的である。

免疫電子顕微鏡: ペレットをPBS中2% PFAで固定後、Formvar/炭素コートEMグリッドに吸着。全マウント標本での形態観察。CD63被覆ラテックスビーズ (直径4 µm、アルデヒド/硫酸ラテックス) による免疫単離後の超薄凍結切片作製 (7.5%ゼラチン包埋→2.3 M スクロース浸潤→液体窒素凍結→Leica ultracut FCS切片作製→メチルセルロース/ウラニルアセテート対比染色)。

フローサイトメトリー: CD63被覆ラテックスビーズへの小胞吸着後に蛍光抗体 (CD63-FITC・CD9-FITC・CD81-PE・MHC class I-PE・MHC class II-PE-L243・CD86・Lamp-2 CD107b・CD41a-FITC) で染色しFACSCalibur (BD Biosciences) で解析。HMC-1細胞由来エクソソームをポジティブコントロール・BSAをネガティブコントロールとした。

ウェスタンブロット: 等タンパク量 (Bradford法定量) のペレット・細胞溶解液を12% SDS-PAGE→Immobilon P転写→特異的抗体 (CD63・CD9・MHC class I・MHC class II・CD107b・Lamp-2・TfR・CD41a・CD3ζ・カルネキシン)→HRP結合二次抗体→ECL検出で解析。テトラスパニン検出には非還元条件を使用。

スクロース密度勾配浮上: 血漿エクソソーム100 µgを2.5 M スクロース/20 mM HEPES pH 7.2に再懸濁し、線形スクロース勾配 (2.0→0.25 M) の底層に充填。100,000×g 15時間後に上部から1 mLフラクション収集。屈折計で密度測定後に70,000×g 1時間で膜回収・ウェスタンブロット解析。

タンパク定量: Bradford法で各ドナーの110,000×g血漿ペレット総タンパクを測定し、100 mL血漿あたりのタンパク量に標準化して平均・標準偏差を算出 (n=15)。

統計解析: 連続変数は平均±SD で表記し、ANOVA とそれに続く Student t-test で群間比較した。p < 0.05 を有意とした。性別・年齢サブグループ間の比較も one-way ANOVA で行い、95% 信頼区間 (CI) を算出した。