• 著者: W. Yu, J. Hurley, D. Roberts, S. K. Chakrabortty, D. Enderle, M. Noerholm, X. O. Breakefield, J. K. Skog
  • Corresponding author: Johan K. Skog (Johan.Skog@bio-techne.com) (Exosome Diagnostics, Inc., a Bio-Techne brand, Waltham, MA, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-04
  • Article種別: Review
  • PMID: 33548389

背景

固形がんの分子プロファイリングはこれまで組織生検を「ゴールドスタンダード」としてきたが、組織生検は侵襲的であり(肺生検で平均37,745)、腫瘍内不均一性や時間的変化を捉えにくいという本質的限界を持つ。腫瘍の分子プロファイルは治療下の選択圧やクローン進化によって動的に変化し、過去の組織生検情報に基づく治療決定は次第に最適でなくなることがNavin et al. Nature 2011Gerlinger et al. NEnglJMed 2012により報告されている。これらの課題は、より低侵襲でリアルタイムな腫瘍情報を提供するリキッドバイオプシーの必要性を浮き彫りにしている。

リキッドバイオプシーへの移行が進み、主要な3カテゴリーが確立されてきた:(i) circulating tumor DNA (ctDNA)、(ii) circulating tumor cells (CTCs)、(iii) 腫瘍由来エクソソーム/extracellular vesicles (EVs)。ctDNAは死細胞(アポトーシス・壊死)由来でFDA承認試験が実臨床化しつつある(cobas EGFR Mutation Test v2 2016年、Guardant360 CDx 2020年、FoundationOne Liquid CDx 2020年)。しかし早期がん・低腫瘍量ではctDNA量が不足し、clonal hematopoiesis of indeterminate potential (CHIP) による偽陽性リスク、機械学習モデルのoverfitting問題も残る。特に、早期がんの検出におけるctDNAの感度不足は、依然として解決すべき重要な課題として残されている。CTCsはCellSearch(2004年FDA承認)が唯一の承認デバイスで、希少性・不均一性が制約となる。CTCの定義もプラットフォームによって異なり、全ての単離細胞が腫瘍由来・腫瘍特異的遺伝子変異を有するわけではないという問題が指摘されている。

エクソソームは生細胞から能動的に分泌され、DNA・RNA・タンパク・脂質・糖鎖・代謝物を内包し、腫瘍由来マーカーでの表面分子濃縮が可能で、生体液中で極めて安定である。エクソソームは細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして機能し、腫瘍の成長、血管新生、免疫抑制、転移形成に積極的に関与することがSkog et al. NatCellBiol 2008Valadi et al. NatCellBiol 2007によって示されている。ctDNAが「死細胞由来」であるのに対してエクソソームは「生きた腫瘍細胞由来」であり、異なる生物学的情報を提供する補完的プラットフォームとして期待される。エクソソームは、その安定性と多様なカーゴにより、早期がん検出や治療モニタリングにおいて、ctDNAやCTCでは捉えきれなかった腫瘍の動態を、より包括的に理解することを可能にする点で、これまでのリキッドバイオプシー研究と対照的である。しかし、エクソソームベースのリキッドバイオプシーの臨床的有用性を確立するためには、技術的な標準化や大規模な臨床検証が不足している点が未解明の課題として残されている。

目的

本レビューは、ctDNA・CTCとの対比でエクソソームベースリキッドバイオプシーの臨床実装状況、生物学的優位性、技術的検証ポイント、臨床的成果、残存課題を体系的にレビューし、多解析物 (multi-analyte) アプローチで診断性能をどう向上させ得るかを提示することを目的とする。特に、エクソソームが持つ「生きた腫瘍細胞由来」という特性が、ctDNAでは困難な早期がん検出や治療応答モニタリングにおいて、いかに補完的な情報を提供しうるかを詳細に考察する。また、エクソソームの表面マーカーによる腫瘍特異的濃縮の可能性や、DNA、RNA、タンパク質といった多様なバイオマーカーを同時に解析できる多角的なアプローチが、リキッドバイオプシーの診断精度と感度を向上させるメカニズムについても深く掘り下げる。最終的に、エクソソームベースのリキッドバイオプシーが、将来のがん診断・治療において果たすべき役割と、その実現に向けた今後の研究方向性を明確にすることを目指す。

結果

ctDNAリキッドバイオプシーの到達点と限界: ctDNAリキッドバイオプシーは、cobas EGFR Mutation Test v2 (2016年FDA承認、NSCLCでのEGFR変異10〜30%検出)、Guardant360 CDx (2020年、NSCLCでのosimertinib選択)、FoundationOne Liquid CDx (2020年、NSCLC/前立腺/卵巣/乳癌、大規模NGSパネル) が承認され、実臨床での利用が進んでいる (Table 1)。しかし、早期がんではctDNAコピー数不足のため実用的血漿容量での検出が困難であり、Bettegowda et al. SciTranslMed 2014の研究でも示されたように、低腫瘍量での検出感度が課題である。また、CHIPや検出すべきでない無症候がんの偽陽性リスク、機械学習モデルのoverfitting問題が残存する。メチル化解析や多解析物併用で改善が図られているが、大規模multi-cancer screeningではがん種別・年齢・民族・リスク因子のバイアスが課題となる。ctDNAの主要な強みは腫瘍内不均一性・後天性耐性の検出 (組織生検を上回る場合がある) と、複数転移巣の統合的ゲノムプロファイルの取得にある。

CTCアプローチの現状と制約: CellSearch (2004年FDA承認) は唯一の承認CTC解析デバイスで乳癌・前立腺癌・大腸癌の予後因子として臨床検証済みである。アンドロゲン受容体スプライスバリアント7 (ARv7) mRNA/タンパク検出による転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) のアンドロゲン療法抵抗性予測、CD44依存性CTC clustersの高い転移能解明など分子特性解析は有用だが、CTCの希少性 (特に早期がん) と不均一性が臨床応用の主要な制約となっている。CTCの定義もプラットフォームによって異なり、全ての単離細胞が腫瘍由来・腫瘍特異的遺伝子変異を有するわけではない。Dawson et al. NEnglJMed 2013の研究では、CTCの検出が進行期がん患者に限定される傾向が示されている。

エクソソーム/EVの生物学的特性と診断上の優位性: エクソソームは主に30〜200 nmのEVで、large oncosomesは最大10 μmに達する。腫瘍細胞のMAPK経路活性化により分泌が亢進し、1つのがん細胞が48時間で20,000個超のEVを放出する (n=複数実験で再現)。エクソソームは生きた腫瘍細胞の状態を反映し (ctDNAは死細胞由来)、腫瘍増殖促進・免疫抑制・血管新生誘導・腫瘍細胞移動促進・転移成立に関与するという「疾患過程の一部」であるため、バイオマーカーとして内在的に疾患関連性が高い。全RNAバイオタイプを内包する:mRNA・mRNA断片・miRNA・lncRNA・piRNA・tRNA断片・rRNA断片・YRNA、circular RNA。DNAも内包し、EGFRvIII (脳腫瘍)・HER2 (乳がん)・上皮細胞接着分子 (EpCAM)・炭水化物抗原19-9 (CA19-9)・癌胎児性抗原 (CEA)・CD147・CA125・CD24・クローディン3 (CLDN3)・前立腺特異抗原 (PSA) などの表面マーカーで組織特異的濃縮が可能であり、背景ノイズ除去が実現できる (Figure 2)。また25°C 2日間・複数回凍結融解・-80°C 25年以上保存でもRNA安定性が維持されるという優れた検体安定性を示した (未発表データ含む)。血漿と比べて尿は非侵襲的採取が可能で、尿中EVのRNA収量は1 mLあたり細胞外RNAとして血漿の約3〜5倍に達する場合があり、前立腺・膀胱・腎癌の診断において特に有利な検体種である。

ExoDx Prostate (IntelliScore) EPI testの臨床成果:初の商用エクソソームベース検査: 2016年に初の商用エクソソームベース検査として登場したExoDx Prostate (IntelliScore) (EPI) testは、尿中エクソソームのETS関連遺伝子 (ERG)/前立腺癌遺伝子3 (PCA3)/SPDEF 3遺伝子RNAシグネチャーを用い、PSA 2〜10 ng/mL “grey-zone”のGleason grade group ≥2 (Gleason 7以上) 高悪性度前立腺癌を予測する。スコア0〜100で高悪性度リスクを評価し、カットオフ15.6で陰性的中率 (NPV) 91%を達成し生検27%回避が可能 (n=503、第2試験n=255、前向き多施設試験)。最初の検証試験では曲線下面積 (AUC) 0.73 ± 0.04であり、PSA単独のAUC 0.58より有意に優れた。実世界utility study (blinded control arm、n=1206) では従来標準対照群より30%多く高悪性度癌を検出した。50,000例超の患者使用実績を有しNCCNガイドライン収載済みである。重要な点として、PSA単独検査ではGleason ≥7と良性・低悪性度前立腺癌を鑑別できないが、3遺伝子RNAシグネチャーはこれを可能にした。

多解析物アプローチによる検出感度の向上: エクソソームRNA (exoRNA) とctDNA併用でEGFR activating mutationsのコピー数中央値が24 copies/mL (ctDNA単独) から234 copies/mL (約10倍増) へ上昇した。EGFR変異検出感度92% (難しい胸腔内肺癌M0/M1aでも88%維持、ctDNA単独ではM0/M1aで課題)。BRAF/KRAS/EGFRの縦断解析 (n=42症例) で、exoRNA+ctDNA統合がctDNA単独より治療応答との相関を有意に改善した。mutations (ctDNA) + splice variants (ARv7、MET exon 14 skipping) + fusions (EML4-ALK、BCR-ABL) + RNA editing + circular RNAsを統合的に検出可能であり、これらはDNA単独では検出不能な事象である (Figure 3)。EpCAM陽性腫瘍由来エクソソームの濃縮・HER2・EGFRvIII・CA19-9・CD24・CLDN3を用いた組織特異的enrichmentの概念実証も複数示されており、多解析物のfold-change解析でバイオマーカー性能を段階的に改善できる。

エクソソームのRNAバイオマーカーとしての可能性: エクソソームは、mRNA、miRNA、lncRNA、piRNA、tRNA断片、rRNA断片、YRNA、circular RNAなど、あらゆるRNAバイオタイプを内包する。これらのRNA分子は、エクソソーム内部で安定に保護されており、細胞外環境での分解から免れる。特に、miRNAはエクソソーム内に豊富に存在し、その発現プロファイルはがん種特異的であるため、診断バイオマーカーとしての可能性が注目されている。しかし、miRNA研究は多数存在するものの、臨床検証を経て実用化されたものはmRNAターゲットに比べて少ない。長鎖RNAバイオタイプ、特に既知の変異や治療標的となるmRNAは、リキッドバイオプシーの観点から「低くぶら下がった果実」と見なされてきた。

ClinicalTrials.govにおけるエクソソーム研究の拡大: 2020年10月時点でエクソソームベースのがん臨床試験が72件登録 (心血管7件・神経変性5件・糖尿病4件と比較して圧倒的多数) されている (Figure 4B)。この72件のうち約50%が早期がん検出・診断を主目的とし、残余が治療応答モニタリング・予後予測・新薬治療標的探索を目的としている。この数字はデータベース未登録試験を除いた過小評価であり、公開されているエクソソーム研究論文数が過去40年間で指数的に増加 (2000〜2020年で約100倍) していることと一致する急速な成長を示す (Figure 4A)。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、ctDNAが成熟段階にある一方でCHIP・早期がん検出の限界を露呈している現状において、エクソソームが「生きた腫瘍細胞由来のRNA・DNA・タンパクを同時に担う多解析物プラットフォーム」として補完的価値を持つと位置付けた。ctDNAベース検査 (cobas EGFR、Guardant360、FoundationOne Liquid) との本質的差異は、エクソソームが「死細胞ではなく生細胞由来でありRNA splice variants・fusion・circular RNAなどDNAでは検出不能な事象にアクセスできる点」および「表面マーカーによる組織特異的濃縮で背景ノイズを除去できる点」にある。この特性は、従来のctDNA単独アプローチでは捉えきれなかった腫瘍の動態を、より包括的に理解することを可能にする点で、これまでのリキッドバイオプシー研究と対照的である。

新規性: ExoDx EPIがNCCNガイドライン収載とreal-worldでの30%高悪性度癌追加検出という具体的臨床成果を示したことは、エクソソームRNAバイオマーカーが定型のPSA単独判断を補い、不要生検27%回避という医療経済的効果ももたらすことを新規に実証した。また、exoRNA+ctDNA統合でEGFR変異コピー数10倍増、感度92% (M0/M1aでも88%) という数値は、早期がんで特に限界だったctDNA単独法の性能を実質的に底上げする新規な知見である。この「ctDNAは死細胞由来・エクソソームは生細胞由来」という相補性が、両者の組み合わせに理論的根拠を与え、将来のmulti-analyte liquid biopsyプラットフォームの核心的原理となる。

臨床応用: エクソソームベースのリキッドバイオプシーは、非侵襲的な早期がん検出、治療層別化、残存病変モニタリング、および治療抵抗性メカニズムの解明に大きな臨床的意義を持つ。特に、PSAグレーゾーンの前立腺がん患者において、不要な生検を回避しつつ高悪性度がんを正確に診断できるExoDx EPIの成功は、エクソソームが臨床現場で実用的なツールとなり得ることを明確に示している。また、血液脳関門を通過できるEVの特性は、神経変性疾患や脳腫瘍の非侵襲的診断への応用拡大にも重要な意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、エクソソーム表面抗体の組織特異性と非特異結合問題、プラットフォーム間の標準化不足が残されている。特に、エクソソームの単離法は超遠心分離、ポリマー沈殿、膜アフィニティー、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫捕捉など多数の方法が乱立しており、各法で収率、純度、RNA品質が大きく異なる。EV研究の国際コンソーシアムISEV (International Society for Extracellular Vesicles) は2018年にMISEV2018ガイドラインを発表し、単離法の最低限の記載要件を規定したが、各施設での実際の適用は不均一であり、文献間比較を困難にしている。また、大規模multi-cancer screeningでの年齢、民族、併存疾患バイアス、CHIPと同様の良性加齢性変化との鑑別、バイオマーカー開発研究が十分な検証に至っていない多数のmiRNA候補の整理が必要である。今後の展望として、multi-analyte(exoRNA+ctDNA+EV protein+metabolite)とエクソソーム表面分子enrichment技術の統合により、早期検出、治療層別化、残存病変モニタリングへの応用拡大が期待される。AI/機械学習によるmulti-omics EV解析の統合は、従来の単一バイオマーカー診断の枠を超えたpan-cancer液体生検プラットフォームを実現する可能性があり、EPI testが示した臨床実装の成功モデルを多がん種へ展開する基盤となりうる。

方法

本研究は、エクソソームベースのリキッドバイオプシーに関する包括的なレビュー論文であるため、特定の実験プロトコルや患者コホートを用いた方法論は適用されない。代わりに、PubMed、Embase、Web of Science等の主要な医学文献データベースを用いて、エクソソーム、細胞外小胞 (EVs)、ctDNA、CTCs、リキッドバイオプシー、がん診断、治療モニタリングといったキーワードを組み合わせた文献検索を実施した。検索期間は過去40年間の出版動向をカバーし、特に近年急速に増加しているエクソソーム関連研究に焦点を当てた。

文献の選定にあたっては、がんにおけるエクソソームの生物学的特性、診断上の優位性、技術的課題、臨床的成果、およびctDNAやCTCとの比較に関する原著論文、レビュー論文、メタアナリシスを優先的に評価した。また、ClinicalTrials.govに登録されている臨床試験データ(2020年10月時点)のスナップショットを分析し、がんにおけるエクソソーム関連臨床試験の数(72試験)と、心血管疾患(7試験)、神経変性疾患(5試験)、糖尿病(4試験)などの他の疾患領域におけるエクソソーム研究との比較を行った。これにより、エクソソーム研究ががん領域で特に活発であることを定量的に示した。

エクソソームの単離・解析技術に関する記述では、超遠心分離、ポリマー沈殿、膜アフィニティー、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫捕捉といった多様な方法論とその課題について言及した。特に、International Society for Extracellular Vesicles (ISEV) が2018年に発表したMISEV2018ガイドラインに触れ、エクソソーム研究の標準化に向けた取り組みの重要性を強調した。統計解析は行わず、既存の知見を統合・解釈することで、エクソソームの臨床的有用性と今後の展望を考察した。本レビューは、これらの文献的総説および臨床試験登録データに基づいて記述的に情報を整理し、エクソソームベースのリキッドバイオプシーががん診断・治療において提供しうる機会と課題を体系的に提示した。