• 著者: Gilar Gorji-Bahri, Hamid Reza Moghimi, Atieh Hashemi
  • Corresponding author: Atieh Hashemi (Shahid Beheshti University of Medical Sciences, Tehran, Iran)
  • 雑誌: Journal of cellular biochemistry
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-11-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33225526

背景

RAB5Aは、Rasがんタンパクスーパーファミリーのサブグループである小型Rab GTPaseファミリーの一員であり、形質膜、細胞質、およびエンドソームに局在し、エンドサイトーシスの主要な調節因子として広く認識されている。RAB5Aは、肝細胞がん (HCC)、大腸がん、乳がん、肺がん、胃がんなど、複数のがん種で高発現することが報告されており、腫瘍形成にも関与することが示されている。例えば、HCCではRAB5Aの発現が上昇し、上皮成長因子 (EGF) シグナル伝達に関与する可能性が示唆されている Fukui et al. Hepatol Res 2007。また、乳がんではRAB5Aが腋窩リンパ節転移と関連することが報告されている Yang et al. Cancer Sci 2011

エクソソームは、多胞体 (MVB) 由来の脂質二重膜ナノ小胞 (30〜150 nm) であり、細胞間コミュニケーションの主要なメディエーターとして40年以上にわたり研究されてきた。エクソソームは、自己免疫疾患、代謝疾患、神経変性疾患、心血管疾患、およびがんの進展と関連することが明らかにされている Anel et al. Cells 2019 Huang-Doran et al Howitt et al. J Biol Chem 2016。Rab GTPaseファミリーはエクソソーム分泌の調節において重要な役割を担い、Rab27、Rab35、Rab11などが具体的な制御因子として同定されている Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 Hsu et al. JCellBiol 2010。RAB5AはエクソソームのMVBとしての起源 (エンドソーム由来) との接点を持つが、RAB5Aがエクソソーム分泌関連遺伝子と具体的にどのような相互作用ネットワークを形成するかは、特にGEO/AEにRAB5A KDの遺伝子発現プロファイルデータが存在しなかったため、体系的に検証されていなかった。この点において、RAB5Aとエクソソーム分泌経路との直接的な関連性は未解明な部分が多かった。

本研究では、マイクロアレイやRNA-seqデータが入手できない状況でも信頼性の高いバイオインフォマティクスアプローチを確立すること、およびSTRINGデータベースのcombined score (スコアリング体系) の実験的妥当性を検証することという二つの方法論的目標も設定した。従来のバイオインフォマティクス解析では、高スコアの相互作用のみを重視する傾向があり、低スコアの相互作用の生物学的関連性が不足しているという知識ギャップが存在した。

目的

本研究の目的は以下の3点である。(1) CTD (Comparative Toxicogenomics Database)、GeneMANIA、COREMINE (text mining database) を組み合わせたバイオインフォマティクスアプローチを用いてRAB5A相互作用遺伝子を収集し、文献由来のエクソソーム分泌関連遺伝子との重複遺伝子をSTRINGデータベースでPPIネットワーク化すること。(2) 安定RAB5Aノックダウン (KD) Huh7細胞を用いたRT-qPCRおよびエクソソーム機能解析により、バイオインフォマティクス予測を実験的に検証すること。(3) STRINGデータベースのcombined scoreカテゴリー (低・中・高・最高信頼) の実験的妥当性を定量的に評価すること。これにより、RAB5Aがエクソソーム分泌に与える影響と、バイオインフォマティクス解析におけるSTRINGスコアの解釈に関する新たな知見を得ることを目指した。

結果

バイオインフォマティクス解析:37遺伝子のRAB5A-エクソソーム分泌交叉ネットワーク同定: CTD、GeneMANIA、COREMINEの3つのバイオインフォマティクスツールから重複を除去した結果、合計966遺伝子がRAB5A相互作用遺伝子として収集された。内訳はCOREMINEから871遺伝子、CTDから164遺伝子、GeneMANIAから20遺伝子であった (Figure 1)。一方、文献レビューによりエクソソーム分泌関連遺伝子として76遺伝子が同定された。FunRichツールを用いた解析により、これら2つの遺伝子リスト間で37遺伝子の重複が検出された (Figure 2A)。これらの遺伝子はRAB5Aと関連し、かつエクソソーム分泌経路に関与する。STRINGデータベースを用いたPPI (Protein-Protein Interaction) ネットワーク解析では、RAB5Aとこれら37遺伝子間の相互作用が可視化された (Figure 2B)。combined scoreが0.9以上を示した上位15遺伝子には、RAB7A、RAB27A、RAB27B、RAB2B、RAB14、RAB35、RAB3D、RAB11A、RAB9A、VAMP7、HGS、STAM、CTTN、PIK3C3、WASLが含まれた。これらの遺伝子は、エクソソーム分泌調節において既知の機能を持つ遺伝子群と一致しており、RAB5Aがエクソソーム分泌経路と密接に関連していることが示唆された。

安定RAB5A KD細胞の確立: RAB5Aの安定的なノックダウン細胞を確立するため、まず一過性トランスフェクション実験で2種類のshRNA (937-RAB5A shRNAと1154-RAB5A shRNA) の効果を評価した。その結果、937-RAB5A shRNAが3回の独立した実験のうち2回でより高いサイレンシング効果を示したため、これを安定細胞作製に採用した (Figure 3A)。RT-qPCR解析により、安定RAB5A KD Huh7細胞ではRAB5A mRNA発現がモック細胞と比較して約1/4に有意に低下した (p<0.0001)。一方、スクランブル細胞では有意な変化は認められなかった (p>0.05) (Figure 3B)。ウェスタンブロッティング解析でも、3つの独立した安定RAB5A KDポリクローナルプール全てにおいてRAB5Aタンパク質レベルの有意な低下が確認された (p<0.0001) (Figure 3C, D)。これらの結果は、設計されたRAB5A shRNAコンストラクトがmRNAおよびタンパク質レベルの両方でRAB5Aの発現を効果的にノックダウンすることに成功したことを示している。

STRING combined scoreの実験的検証:低スコア相互作用も有効: RT-qPCRを用いてRAB5A KD後の候補遺伝子の発現変化を定量的に評価した結果、STRINGデータベースのcombined scoreの実験的妥当性に関する重要な知見が得られた (Figure 5)。combined scoreが最高信頼度 (>0.9) の5遺伝子 (RAB27A、RAB27B、HGS、STAM、CTTN) のうち、有意な発現変化を示したのはRAB27AとHGSの2遺伝子のみであった。具体的には、RAB27Aは有意に発現が低下し (p=0.0285)、HGSは有意に発現が上昇した (p=0.0194)。RAB27B、STAM、CTTNは有意な変化を示さなかった (p>0.05)。対照として、STRINGデータベースに実験的証拠を持つRAB7Aは有意な発現上昇を示した (p=0.0447)。さらに重要な発見として、combined scoreが低〜中程度の3遺伝子すべてが有意な発現変化を示した。NDRG1 (combined score 0.201) は有意に低下し (p=0.0006)、SNAP23 (combined score 0.454) も有意に低下し (p=0.0429)、PIKFYVE (combined score 0.681) も有意に低下した (p=0.0017)。これらの結果は、STRINGデータベースのcombined scoreに依存したカットオフを設けることの限界を提起し、低スコアの相互作用も実験的有効性を持ちうることを明確に示した。この検証は、n=4 replicatesのRT-qPCR実験により実施された。

エクソソーム特性評価:TEM・SEM・DLS・WBによる単離確認: RAB5A KDがエクソソーム分泌に与える影響を評価する前に、単離されたエクソソームの特性評価を行った。TEMおよびSEM解析により、単離されたエクソソームは典型的な杯型形態を示した (Figure 6A, B)。DLSによるサイズ分布解析では、エクソソームのサイズは30〜150 nmの範囲内であり、これは一般的に受け入れられているエクソソームのサイズ範囲と一致した (Figure 6C)。ウェスタンブロッティングにより、エクソソームマーカーであるCD63およびAlixの陽性発現が確認された。また、超遠心分離後の上清にはCD63およびAlixのバンドが検出されず、エクソソーム単離手順の効率性が確認された。これらの包括的な特性評価により、エクソソームが成功裏に単離されたことが実証された。

RAB5A KDによるエクソソーム分泌の有意な減少: 等細胞数 (n=10x10^6 cells) から単離したエクソソームの総タンパク質量は、RAB5A KD細胞由来のエクソソームでスクランブル対照細胞由来のエクソソームと比較して有意に低下した (p<0.05) (Figure 7A)。ウェスタンブロッティング解析では、エクソソームマーカーであるCD63のバンド強度がRAB5A KD細胞由来のエクソソームで有意に低下し (p<0.01)、Alixのバンド強度も有意に低下した (p<0.05) (Figure 7B, C)。一方、同等量の全細胞溶解液を用いたウェスタンブロッティングでは、CD63およびAlixの発現に有意な変化は認められなかった。このことは、エクソソーム分泌の低下が細胞内でのマーカー発現減少によるものではなく、エクソソーム放出の障害を反映していることを示唆する。これらの実験的知見は、RAB5Aがエクソソーム分泌の調節因子として機能することを明確に実証した。

考察/結論

RAB5Aのエクソソーム分泌調節因子としての位置づけ: 本研究は、RAB5Aがエンドサイトーシス調節以外にエクソソーム分泌の調節因子としても機能することを示す初の包括的報告である。RAB5AはGTP結合状態でエフェクターをリクルートし、MVBの形成および成熟の初期段階で機能すると考えられる。その下流のエクソソーム分泌調節因子 (RAB27A、HGSなど) の発現に影響を与えることで、間接的にエクソソーム分泌を制御する可能性が示唆される。この知見は、RAB5Aが細胞内輸送ネットワークにおいて多面的な役割を担うことを示しており、これまでのRAB5Aに関する研究とは異なる新規な機能的側面を提示する。

RAB27AとHGSの発現変化の解釈: RAB5A KDによりRAB27Aの発現が低下することは、RAB5Aが早期エンドソームからMVBへの成熟過程を通じて、後期エンドソーム/MVBと形質膜融合を制御するRAB27Aシグナルに上流から影響を与えることを示唆する。HGS (Hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) はESCRT-0複合体の構成要素としてユビキチン化カーゴのMVB経路への選別に関与するが、RAB5A KDでHGSの発現が上昇した理由については、補償的フィードバック機構の可能性や、ESCRT依存性およびESCRT非依存性エクソソーム経路のバランス変化が考えられる。NDRG1、SNAP23、PIKFYVEの発現低下は、エクソソーム分泌カスケードのさらに下流のステップに対するRAB5Aの影響を示唆する。これらの複雑な相互作用は、エクソソーム生合成経路におけるRAB5Aの多段階的な関与を反映している。

方法論的貢献:低スコアインタラクションの価値: 本研究の最も重要な方法論的発見は、STRINGデータベースのcombined scoreが0.9未満のインタラクション (NDRG1: 0.201、SNAP23: 0.454、PIKFYVE: 0.681) が実験的に有意な発現変化を示したことである。これは、これまでのバイオインフォマティクス解析で高スコアインタラクションのみを対象とすることが多かった慣例と対照的である。本研究は、combined scoreに関わらず全てのインタラクションを静的PPIネットワーク解析に含めることの重要性を示した。この結果はSTRINGデータベースのスコアリング体系の限界を明らかにし、将来の計算生物学的アプローチに重要な示唆を与える。

CTD・GeneMANIA・COREMINEの補完的組み合わせ: GEO/AEにRAB5A KDの遺伝子発現データが存在しない状況で、CTD、GeneMANIA、COREMINEの3種のバイオインフォマティクスツールを組み合わせてRAB5A相互作用遺伝子を予測し、その後STRINGでPPIネットワークを構築するアプローチは、特定遺伝子の特定機能 (エクソソーム分泌) における役割を大規模実験なしに探索する有効な手法として提案される。特に、COREMINEのテキストマイニングアプローチ (871遺伝子と最大の寄与) の独自性が重要であり、従来の実験的相互作用データベースでカバーされない文献的証拠を補完する。

がんにおけるRAB5A過剰発現との臨床的関連性: RAB5Aは肝細胞がん、大腸がん、乳がん、肺がんなどで過剰発現することが知られている。本研究から、RAB5Aがエクソソーム分泌を促進する可能性が示唆されるため、これらの悪性腫瘍においてエクソソーム分泌の増加を通じて腫瘍形成や転移に寄与する可能性がある。RAB5Aの過剰発現がエクソソーム分泌を増加させ、がん微小環境を改変するという経路は、将来的な治療標的として検討する価値があるかもしれない。これは、bench-to-bedsideの観点から臨床応用への道を開く可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、RAB5AがエクソソームMVB形成のどのステップ (初期エンドソームからMVBへの成熟、MVB内腔小胞形成、MVB-PM融合) を直接制御するかの詳細な機序解明が残されている。また、RAB5AとRAB27Aの相互作用機序が直接的か間接的かの検証も必要である。本研究がHuh7細胞のみを用いたことから、他の細胞種での検証、そしてRAB5Aの発現量とエクソソーム分泌量の相関がin vivoで成立するかどうかの動物モデルでの検証が重要である。さらに、エクソソーム分泌に直接関与するRAB5Aエフェクタータンパク質の同定も今後の研究方向性として挙げられる。

方法

RAB5A相互作用遺伝子の収集: ヒト細胞におけるRAB5A相互作用遺伝子を収集するため、まずGEO (Gene Expression Omnibus) およびArrayExpress (AE) データベースでRAB5A KDまたは過剰発現ヒト細胞のマイクロアレイおよびRNAシーケンスデータを検索したが、適切なデータセットは存在しなかった。このため、代替として3つの公開オンラインツール、すなわちCTD、GeneMANIA、およびCOREMINEを並行して使用した。CTDからは手動キュレーションされたRAB5A遺伝子-遺伝子相互作用を収集し、GeneMANIAは4つのデータベース (GEO、BioGRID、IRefIndex、I2D) を統合し、物理的相互作用、共発現、共局在、経路、遺伝的相互作用、タンパク質ドメイン共有の7チャネルに基づく予測を提供した (スコア≤0.05)。COREMINEはテキストマイニングベースで健康、医学、生物学情報を統合した (スコア≤0.05)。これら3つのツールから重複を除去し、合計966遺伝子をRAB5A相互作用遺伝子リストとして抽出した。

エクソソーム分泌関連遺伝子の収集: エクソソーム分泌関連遺伝子を収集するため、2019年12月までに公表された研究論文をPubMed、Google Scholar、Microsoft Academicなどの複数の検索エンジンを用いて詳細にレビューした。その結果、エクソソーム分泌に関連すると報告された76種類の遺伝子を同定した。

PPIネットワーク構築: FunRichツールを用いて、966種類のRAB5A相互作用遺伝子と76種類のエクソソーム分泌関連遺伝子の間の重複を検出し、37遺伝子を同定した。次に、STRINGデータベース (全7チャネルを選択) を使用して、RAB5Aとこれら37遺伝子の静的PPIネットワークを構築した。ネットワーク図はcombined scoreに基づいて作成され、低信頼 (0.15)、中信頼 (0.4)、高信頼 (0.7)、最高信頼 (0.9) の閾値が用いられた。

安定KD細胞の作製: RAB5Aのサイレンシングに最適な標的部位を特定するため、siDirect、siDesign、Block-It RNAi Designer、およびIDTなどの複数のプログラムと既報の標的部位を検討した。最終的に、RAB5A mRNA転写バリアント1 (NM_004162.4) のORF領域にある2つの標的配列 (937-RAB5A shRNA: 937〜955 nt、1154-RAB5A shRNA: 1154〜1172 nt) を選択した。これらのshRNA (small hairpin RNA) 配列をpSilencer 2.1 U6 Neoベクターにクローニングし、線状化後にHuh7細胞 (肝細胞がん株) にエレクトロポレーション導入した。G418選択 (400 µg/mlで2週間、その後1 mg/mlで安定ポリクローナル集団を確立) を行い、3つの独立したプール (KD1、KD2、KD3) を得た。

RT-qPCR: 遺伝子発現の信頼性の高い正規化のため、8種類の候補参照遺伝子 (GAPDH、ACTB、HPRT、YWHAZ、TBP、18S、UBC、B2M) の安定性をgeNorm、BestKeeper、NormFinder、delta-Ct、RefFinderの5つのアルゴリズムで評価した。RefFinderの包括的ランキングに基づき、ACTBおよびHPRTが最適な参照遺伝子として選択された (RefFinderスコア1.57および2.38)。ΔΔCt法を用いて、RAB5AおよびRAB27A、RAB27B、HGS、RAB7A、STAM、CTTN、NDRG1、SNAP23、PIKFYVEの発現変化を定量した (n=4 replicates)。PCR効率は標準曲線の傾きから計算され、全てのプライマーペアで高い効率が確認された (Table 2)。統計解析にはGraphPad Prism 8ソフトウェアを使用し、2群間の比較にはStudent’s t検定、3群以上の比較には一元配置分散分析 (ANOVA) 後にDunnettの多重比較検定を用いた。p値が0.05以下を統計的に有意と判断した。

エクソソーム単離と評価: 80%コンフルエンスに達したHuh7細胞に10%エクソソーム除去FBS含有培地を添加し、48時間培養した。その後、条件培地を連続遠心分離 (300 g、2000 g、10,000 gの各段階) と0.22 µmフィルタリングに供し、最終的に100,000×gで70分間の2段階超遠心分離によりエクソソームをペレット化した Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。動的光散乱 (DLS) でサイズ分布を評価し、透過型電子顕微鏡 (TEM) および走査型電子顕微鏡 (SEM) で杯型形態を確認した。ウェスタンブロッティング (WB) でCD63およびAlixマーカーの発現を等細胞数あたりで評価し、BCAアッセイで総タンパク質量を定量した。