- 著者: Chieh Hsu, Yuichi Morohashi, Shin-ichiro Yoshimura, Natalia Manrique-Hoyos, SangYong Jung, Marcel A. Lauterbach, Mostafa Bakhti, Mads Grønborg, Wiebke Möbius, JeongSeop Rhee, Francis A. Barr, Mikael Simons
- Corresponding author: Mikael Simons (Max Planck Institute for Experimental Medicine, Göttingen, Germany)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 20404108
背景
エクソソームは直径50〜100 nmの細胞外小胞であり、多胞体 (MVB) 内腔で形成された後、MVBが形質膜と融合することで細胞外へ放出される。これらの小胞は、タンパク質代謝回転、細胞間シグナリング、mRNA転送、血管新生、腫瘍進展など、多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことが知られている (Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009; Thery et al. NatRevImmunol 2009; Valadi et al. NatCellBiol 2007)。しかし、エクソソーム産生を調節する細胞内経路、特にどのRab GTPaseがこのプロセスを支えているかについては、本研究当時ほとんど解明されていなかった。
Rab GTPaseは、各オルガネラの同一性を規定する膜輸送の主要な調節因子であり、GTP加水分解酵素活性化タンパク質 (GAP) がTBC (Tre/Bub2/Cdc16) ドメインを介してRabのGTP加水分解を促進することが知られている (Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009)。Rab GTPaseは特定の細胞内コンパートメントに局在し、小胞輸送の様々な段階を制御する。先行研究では、Rab5とRab7がエンドソーム系を介したリソソーム分解経路に必要であることが示されていたが、エクソソーム輸送に関わるRabについては知識が不足していた。
乏突起膠細胞 (オリゴデンドロサイト) はMVBを多量に含み、ミエリンタンパク質PLP (proteolipid protein) を伴うエクソソームを大量に分泌するモデル系として利用できることが報告されていた (Trajkovic et al. 2006)。特に、PLPは中枢神経系の主要なミエリンタンパク質であり、MVBに局在し、エクソソームとして細胞外に分泌されることが示唆されていた (Trajkovic et al. Science 2008)。本研究はこのOli-neu細胞 (オリゴデンドロサイト前駆細胞株) を用いて、エクソソーム分泌を調節するRab GAPと対応するRabを同定することを試みた。エクソソームの生合成と機能に関する知識は、神経疾患や腫瘍などの病態生理を理解する上で極めて重要であり、この分野における知識のギャップを埋めることが求められていた。
目的
本研究の目的は、38種類のRab GAPライブラリーのスクリーニングを通じて、エクソソーム分泌を触媒活性依存的に調節するRab GAPを同定することである。さらに、その標的となるRab GTPaseを特定し、同定されたRabがエクソソーム分泌のどのステップ (MVB輸送、形質膜へのドッキング、膜融合) を制御しているかを詳細に解明することを目指した。特に、Rab35がエクソソーム分泌経路において果たす具体的な役割と、その活性がどのように調節されるかを明らかにすることが重要な課題であった。この研究は、エクソソーム生合成の分子メカニズムに関する理解を深め、将来的な治療介入の標的を特定するための基盤を提供することを意図している。
結果
エクソソームプロテオーム中のRab35同定: LC-MS/MSを用いたOli-neu細胞由来精製エクソソームのプロテオーム解析により、301種類のタンパク質が同定された。これらのタンパク質の一部は、他の細胞種由来エクソソームで以前に報告されたものとオーバーラップしており、調製の純度が確認された。同定されたRab GTPase群の中で、EGFP-Rab35が最も高い相対存在量を示した (Fig. S1)。この知見は、Rab35がエクソソーム経路の候補調節因子である可能性を示唆する出発点となった。
TBC1D10A-CはRab35の特異的GAPとして機能する: 38種類のRab GAPライブラリーのスクリーニングにより、TBC1D10B、RN-tre、TBC1D10A、TBC1D10C、およびTBC1D15が、触媒活性依存的にPLP-EGFPエクソソーム分画を低下させることが判明した (Fig. 1)。特に、TBC1D10ファミリーの3種 (A/B/C) は、触媒不活性RA変異体では効果が消失し、真の触媒活性依存性であることが確認された。in vitro GAPアッセイでは、TBC1D10BがRab35に対して最強の特異的GAP活性 (>2,000 pmol/時のGTP加水分解) を示し、試験した他の多数のRabには有意な活性を示さなかった (Fig. 2)。TBC1D10AおよびTBC1D10Cも同様にRab35特異的GAP活性を示した。
Rab35活性型変異体はエクソソーム分泌を促進する: GTP固定型Rab35 Q67AをTBC1D10Bと共発現させると、コントロール比で約2倍のPLP-EGFPがエクソソーム画分に回収された (p<0.05)。一方、ヌクレオチドフリー型Rab35 N120I (優性陰性変異体) は分泌を有意に低下させた (Fig. 3C, F)。Rab35 siRNAによる2段階ノックダウン (KD) でも、PLPのエクソソーム画分への回収が有意に減少し、RNAiとPLP回収率の低下は独立実験4回の平均でも再現された (p<0.05) (Fig. 3D-F)。
Rab35は形質膜に局在し後期エンドソームへのリダイレクトを防ぐ: 共焦点顕微鏡観察により、野生型Rab35およびQ67A変異体は形質膜に局在することが示された (Fig. 4A)。これに対し、S22NおよびN120I変異体は細胞質とPLPおよびLamp-1陽性小胞に局在した。Rab35 KD後、細胞内PLP含有小胞の総数が約35%増加したが、小胞サイズは変化しなかった (n=80細胞、3独立実験) (Fig. 5A-C)。増加した小胞はLamp-1陽性であり、リソソーム系への蓄積が確認された。Rab7の優性陰性変異体 (T22N) と異なり、Rab35 N120IはPLP/Lamp-1陽性オルガネラの肥大をきたさず、EGF分解にも影響しなかったことから (Fig. S3)、Rab35はリソソーム分解経路を制御しないことが示唆された。
TIRF顕微鏡による小胞ドッキング解析: 活性型Rab35 Q67Aを発現させた細胞では、不活性型S22Nと比較して、エバネッセント場 (形質膜直下約120 nm) のLysoTracker標識小胞数が約50%増加した (p<0.001、n=70細胞、3独立実験) (Fig. 5E, F)。時系列TIRF解析では、Q67A発現細胞で小胞の固定化 (immobilization) が不活性型より有意に増加しており (Fig. 5G)、Rab35がGTP依存的に小胞ドッキング/テザリングを促進することが示された。
電気生理学的解析で即時放出プールの低下を実証: ホールセルパッチクランプによるCa²⁺光放出誘発エクソサイトーシス実験で、野生型Rab35発現細胞の即時放出プール (RRP) 静電容量は1.12±0.12 pF (n=15) であったのに対し、GDP固定型Rab35 S22N発現細胞では0.48±0.10 pF (n=11、p<0.001、Mann-Whitney検定) と有意に低下した (Fig. 5I)。RRP放出速度定数 (時定数76.9±13.1 ms vs. 73.4±21.8 ms、p>0.05) は変化せず、プールサイズのみが低下した。遅延持続成分の時定数はS22N発現細胞で有意に延長し (535.9±81.2 ms vs. 1,300.4±344.1 ms、p<0.05)、Ca²⁺依存的な膜融合経路全体がRab35によって制御されることが示された。
ミエリンへのRab35局在: 精製マウスミエリンおよびサブフラクション (軽質・重質) のWB解析で、Rab35は重質ミエリン分画に局在し、パラノード接合部のコンタクチンと共存した (Fig. 4D)。免疫電子顕微鏡では、コンパクトミエリンの細胞質チャネル (非コンパクト領域) にMVBを多数確認し、MVB内にPLPが局在することを示した (Fig. 4F)。これは、オリゴデンドロサイトのプロセスおよびミエリン内でもエクソソームが産生・放出される可能性を示唆する。
考察/結論
主要知見の統合と先行研究との違い: 本研究は、Rab35とそのGAPであるTBC1D10A-Cがオリゴデンドロサイトにおけるエクソソーム分泌を触媒活性依存的に制御することを示した初めての報告である。Rab35がGTP結合型で形質膜に局在し、エンドサイティック小胞を形質膜近傍にドッキング/テザリングさせることでエクソソーム分泌を促進するモデルが提案される。TBC1D10A-CによるGAP活性でRab35がGDP型に移行すると形質膜局在が失われ、MVBが後期エンドソーム/リソソーム系へ蓄積してエクソソーム分泌が抑制されると考えられる。先行研究では、Rab35はHeLa細胞でのトランスフェリンリサイクルやC. elegansでの卵黄受容体リサイクルを制御する「速い」リサイクル経路に関与することが知られていた。本研究は、Rab35が後期エンドソーム/MVBにも作用することを示し、エンドサイティックリサイクル以外の新たな機能 (エクソソーム産生) を同定した点で、これまでの報告とは異なる知見を提供する。C. elegansでのRab35・Rab11の二重KDが劇的な細胞内蓄積を引き起こすことから、両者がエクソソーム生合成で協調的役割を担う可能性が示唆される。
新規性とRab27との関連: 本研究とほぼ同時期に報告されたOstrowski et al. NatCellBiol 2010によって、Rab27a/bもエクソソーム分泌調節に関与することが示された。Rab27はメラノソーム生合成にも機能するが、本研究のRab35はメラノソーム経路とは独立した軌跡を持ち、エクソソーム分泌に複数のRabが異なるステップで関与する可能性を示唆する。これは、エクソソーム分泌経路の複雑性と多様性を示す新規な発見である。また、オリゴデンドロサイトのエクソソームの軸索・ミエリンへの移行がMVBの非コンパクトミエリン局在と整合的であり、グリアから軸索へのカーゴ転送という生理学的機能が提案される。
臨床応用と生物学的意義: エクソソームはプリオン病、腫瘍増殖、薬剤抵抗性への関与が示されているため、Rab35機能の阻害によってエクソソーム産生を制御する戦略は、病理モデル研究の新たなツールとなる可能性がある。特に神経系において、オリゴデンドロサイト由来エクソソームが軸索トロフィック支持に関与する可能性は、脱髄疾患の病態生理解明にも重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、Rab35のエフェクタータンパク質の同定、Rab11とRab35の分担機構の詳細な解明、ドッキングから膜融合への移行に必要な分子 (SNARE等) とRab35の連携メカニズム、そしてin vivoでのRab35依存的エクソソーム産生の生理的意義の検証が挙げられる。これらの課題を解決することで、エクソソーム生合成と機能に関する理解がさらに深まると考えられる。
方法
エクソソームプロテオーム解析: Oli-neu細胞から精製したエクソソームを4-12% Bis-Tris勾配NuPAGEゲルで分離し、トリプシン消化後にLC-MS/MS (液体クロマトグラフィー結合タンデム質量分析) で解析した。同定された301種類のタンパク質のうち、Rab GTPase群の相対存在量を評価するため、同定されたRab GTPaseをEGFP融合タンパク質として発現させ、エクソソーム画分での存在量を比較した。
Rab GAP スクリーニング: 38種類のEGFP融合Rab GAP cDNAライブラリーをPLP-EGFP (proteolipid protein-enhanced green fluorescent protein) と共発現させた。16時間後に無血清培地条件下で4時間培養した条件培地を連続遠心 (100,000×g ペレット) で分画し、ウェスタンブロット (WB) でPLP-EGFP量を定量した。コントロール比60%未満に分泌を低下させたGAPを正候補とした。正候補については、触媒不活性アルギニン→アラニン (RA) 変異体を並行評価し、野生型でのみ分泌抑制が認められる場合を触媒活性依存性の証拠とした。
in vitro Rab GAP 活性アッセイ: 大腸菌で発現・精製したhexahistidine-GST標識ヒトRab GTPaseとhexahistidine標識TBC1D10 (Tre/Bub2/Cdc16 domain family member 10) ファミリータンパク質を用い、37°Cで60分間のアッセイでγ-[32P]GTP加水分解量 (pmol/時) を測定した。これにより、TBC1D10ファミリーのRabに対する特異性を評価した。
Rab35機能解析: GTP固定型 (Q67A)、GDP固定型 (S22N)、ヌクレオチドフリー型 (N120I) の各Rab35変異体をOli-neu細胞に発現させ、共焦点顕微鏡でPLPおよびLamp-1 (後期エンドソームマーカー) との共局在を評価した。Rab35のRNAi (RNA interference) ノックダウンは、Rab35を標的とする4種のプールsiRNA (small interfering RNA) を二段階ヌクレオフェクションで導入し、ノックダウン効率をWBで確認した。
TIRF (全内部反射蛍光) 顕微鏡解析: 全内部反射蛍光 (TIRF) 顕微鏡を用いて、形質膜直下約120 nmのエバネッセント場にあるLysoTracker標識小胞をリアルタイム追跡した。小胞の数と運動性 (Pearson相関係数) を比較し、Rab35が小胞のドッキング/テザリングに与える影響を評価した。画像解析にはMATLAB (The MathWorks, Inc.) を用いたアルゴリズムを使用した。
電気生理学的解析: ホールセルパッチクランプ法により静電容量測定 (capacitance measurement) を実施した。NP-EGTA (nitrophenyl-EGTA、ケージドCa²⁺) と二種類のカルシウム感受性色素 (Fura-4FおよびFuraptra) を細胞内に透析投与し、UVフラッシュ照射によるCa²⁺光放出 (光解離法) でエクソサイトーシスを誘発した。変化した静電容量を即時放出プール (RRP) バースト成分と遅延持続成分に分けて解析し、Rab35変異体発現細胞と野生型Rab35発現細胞間で比較した。統計解析にはMann-Whitney検定を用いた。
免疫電子顕微鏡: 成熟マウス脊髄のミエリンを4%パラホルムアルデヒドと0.2%グルタルアルデヒドで固定後、PLP抗体とプロテインA金 (10 nm) で標識し、LEO EM912 Omega (Carl Zeiss, Inc.) で観察した。これにより、ミエリン内のMVBにおけるPLPの局在を確認した。