• 著者: Tian T, Zhu YL, Hu FH, Wang YY, Huang NP, Xiao ZD
  • Corresponding author: Zhong-Dang Xiao (Southeast University, Nanjing, China)
  • 雑誌: Journal of cellular physiology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2012-12-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23254476

背景

エクソソームは多胞体 (MVB) とプラズマ膜の融合により細胞外に放出される40〜100 nmの小型膜小胞であり、タンパク質・脂質・mRNA・miRNAを包含して細胞間情報伝達を担う。赤血球、血小板、リンパ球、樹状細胞、上皮細胞、腫瘍細胞など多様な細胞種から分泌され、抗原提示・がん進展・免疫調節など多くの生理的・病理的プロセスに関与することが報告されてきた。Valadi et al. NatCellBiol 2007Skog et al. NatCellBiol 2008Thery et al. NatRevImmunol 2009

しかし、エクソソームが受容細胞と相互作用する際の動態——細胞膜への接触・内在化・細胞内輸送の各段階における挙動——は依然として未解明なままであった。受容体結合がエクソソーム取り込みを開始するとの報告はあったが、リアルタイムの直接証拠と動的な詳細は不足していた。エンドサイトーシスと膜融合の両者がエクソソームの内在化に関与する可能性が提唱されていたが、これらを明確に区別する手法も確立されていなかった。先行研究 (Tian et al., 2010) ではPC12細胞を用いたエクソソームの取り込みと細胞内輸送の基本的観察が行われていたが、プロセスの動的詳細は未解明であり、この点にギャップが残されている。

目的

PC12細胞由来エクソソームが受容細胞 (PC12細胞) に取り込まれる際の細胞膜への結合から細胞内輸送・最終局在に至る一連の動態を、リアルタイム蛍光顕微鏡とSingle Particle Tracking (SPT) によって直接解析し、内在化機構 (エンドサイトーシスか膜融合か) と細胞内輸送モードを明らかにすること。

結果

細胞膜上のエクソソームはアクチン依存的な緩慢漂流モードで移動する: DiI標識エクソソームを25°CでPC12細胞と30分間インキュベートして細胞膜に結合させ、その後37°Cに昇温してSPTを実施した。21細胞から60本の軌跡を解析した結果、細胞膜上のエクソソームはドリフト速度 v = 0.012 ± 0.004 µm/sec、拡散係数 D = 1.9×10⁻³ ± 0.8×10⁻³ µm²/sec で指向性移動 (γ > 1.1) を示した (Fig. 1E-H)。瞬間速度の分布は0.2 µm/sec以下に分布し、平均0.095 µm/secであった (Fig. 1I)。この速度は既報の後退アクチンフローの速度と一致することから、細胞膜上の受容体に結合したエクソソームがアクチンの後退流れによって輸送される「緩慢漂流モード」と判定した。 エクソソームが培地から細胞膜にドッキングする過程も観察された (Fig. 2A)。ステージI (t < 125 sec) では、より高速な速度 (0.18 ± 0.14 µm/sec) と揺動する蛍光強度を示す拘束拡散 (γ < 0.9) であった (Fig. 2C)。ステージII (t > 125 sec) では、速度が0.02 ± 0.01 µm/secに急低下し蛍光強度が突然増加する指向性移動 (v = 0.012 µm/sec、D = 5.7×10⁻⁴ µm²/sec) に転換した (Fig. 2D)。この転換がエクソソームの細胞膜ドッキングの瞬間を示した。

エクソソームはエンドサイトーシスを介して取り込まれリソソームに輸送される: R18標識エクソソームを37°CでPC12細胞に24時間添加し時系列観察した。3時間後、エクソソームは大量にFM4-64陽性エンドサイティック小胞に取り込まれていた (Fig. 3E)。一方、ミトコンドリアとの共局在は観察されなかった。R18を細胞膜に直接挿入した場合には3時間後に明確なミトコンドリア蓄積が認められる (Fig. 3B)。この差は、エクソソーム膜と細胞膜の融合 (膜融合経路) は起きておらず、エンドサイトーシス経路が主要な取り込み経路であることを示す。 定量的評価では、4°C処理でエクソソーム取り込みが89.6%阻害され (対照比)、サイトカラシンD (アクチン重合阻害剤) 処理で91.1%阻害された (Fig. 3I,J)。これらのデータはエクソソームの内在化がエネルギー依存的かつアクチン細胞骨格依存的であることを確証する。CFSE標識エクソソームを6時間取り込ませた後の共局在解析では、エクソソームはEEA1陽性早期エンドソームおよびLysoTracker陽性リソソームと共局在したが、カルネキシン陽性小胞体との共局在は認められなかった (Fig. 3K)。これはエクソソームがエンドリソソーム経路を経由してリソソームに最終的に輸送されることを示す。

細胞内エクソソームは拘束拡散と急速指向性移動の2つの運動モードを示す: DiI標識エクソソームを37°Cで3時間PC12細胞に取り込ませ、9細胞から100本の細胞内軌跡を解析した (Fig. 4A)。細胞内エクソソームは2つの明確な運動モードを示した。フェーズI (拘束拡散): γ < 0.9、拡散係数 D₁ = 0.028 ± 0.031 µm²/sec、平均速度0.095 µm/sec (Fig. 4B,C,F,H)。フェーズII (急速指向性移動): γ > 1.1、ドリフト速度 v = 0.058 ± 0.069 µm/sec、D₂ = 0.054 ± 0.13 µm²/sec、平均速度0.21 µm/sec (Fig. 4D,E,G,I)。 フェーズIの拘束拡散は、細胞質中の細胞小器官・細胞骨格・大型高分子による局所微小環境内での拡散に起因する。大部分は核周囲領域の大型酸性小胞内に捕捉されていた。フェーズIIの急速指向性輸送は、アクチンフィラメントまたは微小管に沿った能動輸送によるものと考えられる。急速輸送は断続的で20秒以下で停止・方向転換を繰り返すため、平均速度・拡散係数はキネシン・ダイニンによる報告値より小さかった。

細胞外から細胞内までの完全な運動モード変化を実時間追跡した: Movie S4では1粒子を10秒/フレームで650秒間追跡し、半自由拡散 (細胞外) → 緩慢漂流 (細胞膜上、v = 4.2×10⁻³ µm/sec) → 拘束拡散 (内在化過程) → 急速指向性移動 (細胞内、v = 0.01 µm/sec) の4段階遷移を一粒子レベルで実証した (Fig. 5A,B)。160本の軌跡から作成したγ-D散布図では、3つのクラスターが明確に分離され、細胞膜上の緩慢漂流モード・細胞内拘束拡散モード・細胞内急速指向性移動モードの3群を確認した (Fig. 4J)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はリアルタイム蛍光顕微鏡とSPTを組み合わせてエクソソームが細胞外拡散から細胞内リソソーム輸送に至るまでの一連のプロセスを特性化した初の研究である。細胞膜上のエクソソームは、ドリフト速度が後退アクチンフロー (Caspi et al., 2001報告値) と一致する緩慢漂流モードで移動した。これは以前報告された受容体結合 (Tim4などのホスファチジルセリン受容体) によるエクソソームの捕捉モデルを支持する。膜貫通受容体はアクチンフローに連動して移動することが知られており、受容体に結合したエクソソームも同様に輸送される。R18アッセイはエクソソームの内在化がエンドサイトーシスによることを直接実証し、膜融合経路が主要ではないことを示した点で、これまでの研究と異なり、内在化機構の明確な区別を可能にした。低温・アクチン阻害による≥89%の阻害は、アクチン依存的なエネルギー消費型エンドサイトーシスが支配的な経路であることを確証する。この特性はウイルス粒子やリポプレックスの内在化と類似している。

新規性: 本研究で初めて、エクソソームが細胞外拡散から細胞膜へのドッキング、細胞内取り込み、そしてリソソームへのターゲティングに至るまでの動的なプロセスを一粒子レベルで詳細に可視化し、その運動モードの遷移を実時間で追跡した。細胞内エクソソームの2段階輸送モード——拘束拡散 (局所微小環境での拡散) と急速指向性輸送 (細胞骨格上の能動輸送)——は、既報のインフルエンザウイルス輸送 (Lakadamyali et al., 2003) や金ナノ粒子 (Ruan et al., 2007) の輸送とよく対応し、エンドサイティック経路における輸送の普遍的メカニズムを反映している。本研究のSPT技術の適用は、エクソソーム研究において方法論的革新をもたらした。

臨床応用: 本知見は、治療担体としてのエクソソーム応用において、取り込み効率とエンドソーム脱出の最適化が鍵であることを示唆する。アクチン動態制御やエンドリソソーム経路への介入が、エクソソームを基盤としたドラッグデリバリーシステムの臨床応用における戦略となりうる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究はPC12細胞という単一細胞モデルに限定されており、他の細胞種での検証が必要である。エクソソーム内容物 (mRNA・miRNA) がリソソーム分解を免れて機能を発揮する機序については未解明であり、量子ドットによる長時間高精度追跡や多色追跡による内在化関連分子との同時観察が今後の課題として挙げられる。また、細胞膜融合経路が完全に排除されるかどうかも、より精密な手法による検証が必要である。

方法

エクソソームの単離と標識: PC12細胞 (ラット褐色細胞腫) を175 cm²フラスコで4日間培養した培養上清から、逐次遠心法 (300 g → 1,200 g → 10,000 g → 200,000 g) によりエクソソームを精製した。透過型電子顕微鏡で40〜100 nmの二重膜小胞であることを確認した (Fig. S1A,B)。蛍光標識には親油性色素DiI・DiD・CFSE、R18 (octadecyl rhodamine B chloride) を使用した。エクソソームの標識は電子顕微鏡でも確認された (Fig. S1C,D)。対照として、0.5% BSA溶液を同様に超遠心分離し、標識後に蛍光顕微鏡で検出した (Fig. S1E-H)。

ライブセルイメージング: スピニングディスク共焦点システム (Revolution XD, Andor Technology) を搭載したNikon Ti-E倒立顕微鏡を使用し、PFS (Perfect Focus System) で焦点面を維持した。40倍・60倍油浸対物レンズ (NA 1.30〜1.49)、EMCCD (Electron-Multiplying Charge-Coupled Device) カメラで撮影した。ステージ上インキュベーターで37°C/5% CO₂を維持してライブセルイメージングを実施した。

Single Particle Tracking (SPT): PolyParticleTracker (Matlabプログラム) で蛍光粒子を追跡した。平均二乗変位 (MSD) を時間の関数として算出し、拡散係数 (D) とドリフト速度 (v) を決定した。MSD-時間プロットの形状からγ値を求め、γ < 0.9: 拘束拡散、0.9 < γ < 1.1: 自由拡散、γ > 1.1: 指向性移動と分類した。

R18を用いた内在化機構の識別: R18は親油性カチオン色素であり、膜融合が起きると細胞のミトコンドリアに蓄積する。これを指標としてエンドサイトーシスと膜融合を区別した。低温実験 (4°C) とアクチン重合阻害剤サイトカラシンD (cytoD; 10 µM) 処理で内在化の依存性を検討した。

共局在解析: CFSE (carboxyfluorescein diacetatesuccinimidyl ester) 標識エクソソームを6時間取り込ませ、固定後にEEA1 (早期エンドソームマーカー)・LysoTracker (リソソームマーカー)・カルネキシン (小胞体マーカー) で染色し共焦点顕微鏡で評価した。統計解析にはカスタムMatlabルーチンが用いられた。