- 著者: Xin Su, Ariane Brassard, Alexandra Bartolomucci, Iqraa Dhoparee-Doomah, Qian Qiu, Thupten Tsering, Ramin Rohanizadeh, Olivia Koufos, Betty Giannias, France Bourdeau, Lixuan Feng, Julia Messina-Pacheco, Sabrina Leo, Veena Sangwan, Daniela Quail, James Tankel, Jonathan Spicer, Julia Valdemarin Burnier, Swneke Donovan Bailey, Lorenzo Ferri, Jonathan Cools-Lartigue
- Corresponding author: Xin Su; Jonathan Cools-Lartigue (RI-MUHC, McGill University, Montreal, Canada)
- 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
- 発行年: 2023
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 37563798
背景
リンパ節 (LN) は固形がんの最初の転移部位となることが多く、LN転移は患者予後を予測する最も強力な因子の一つである。転移のための環境が整備される転移前ニッチ形成には、リンパ管新生や免疫細胞の活性化が関与するが、その分子機序は未解明であった。我々のグループは以前、好中球細胞外トラップ (NET) が遠隔転移を促進することを示していた Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。腫瘍由来細胞外小胞 (EV) がLNリンパ管内皮細胞 (LEC) に選択的に取り込まれることが報告されており Peinado et al. NatRevCancer 2017、EVを介した一次腫瘍とLN炎症環境の接続がNET形成を介してLN転移を促進する可能性が仮説として提示されていたが、その直接的な証拠は不足していた。また、EVが直接NET形成を誘導することは報告されているものの、LN転移におけるEVを介したNET産生の役割を示す直接的な証拠はこれまで報告されておらず、LN転移を誘発する微小環境の変化について、より詳細な理解が課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、胃食道腺がん (GEA) 患者のLNにおけるNET沈着と患者予後の関連性を確認すること、動物モデルを用いてNETとLN転移の因果関係を実証すること、そして腫瘍EVがLECを介して好中球を招集し、NET形成を誘導することでLN転移前ニッチを形成するカスケードを解明することである。
結果
LN好中球・NET沈着と患者生存の相関: TMA解析の結果、腫瘍陽性LN (N+met) における好中球数 (CD66b/NE二重陽性細胞) は、腫瘍陰性LN (N+neg) (137.0 vs 51.77, p = 0.0033) およびリンパ節陰性患者 (N0) (137.0 vs 21.23, p < 0.0001) と比較して有意に高かった (Figure 1c)。また、N+negの好中球数もN0より有意に高かった (51.77 vs 21.23, p < 0.0001)。NET沈着面積 (%H3Cit陽性面積) は、N+metとN+negのいずれもN0より有意に高かった (N+met vs N0: 0.1663 vs 0.05134, p = 0.0372; N+neg vs N0: 0.1330 vs 0.05134, p = 0.0401) (Figure 1e)。高LN NET量は予後不良と関連し、N+met群ではハザード比 (HR) 2.633 (中央生存期間 604日 vs 1415.5日, p = 0.0014)、N+neg群ではHR 1.680 (中央生存期間 688日 vs 1161日, p = 0.03) であった (Figure 1f)。血液NLR (好中球-リンパ球比) > 4の患者はLN NLRも有意に高く (0.02430 vs 0.01374, p = 0.0451)、全身炎症とリンパ管好中球集積の動的相関が示された。
好中球・NET沈着のLN転移先行性 (マウスモデル): H59およびB16F10両モデルにおいて、転移前ステージ (Day 7/10) から対照群と比較して有意な好中球 (Ly6G) およびNET (H3Cit) の増加が確認された (Figure 2d)。この転移前ステージのLNにはGFP標識腫瘍細胞は検出されず (GFP area = 0)、転移後ステージ (Day 14) にGFP腫瘍細胞が出現し、好中球およびNET量がピークまたは維持された。低転移性B16F1細胞株では、LN好中球浸潤やNET沈着の増加は観察されず、腫瘍の悪性度との相関が示唆された (Figure S3a-c)。マウス n = 10 で解析された。
好中球・NET阻害によるLN転移抑制: 好中球枯渇 (抗Ly6G抗体投与) により、循環好中球が8.359%から2.755%へ有意に減少し (p = 0.023)、LN好中球浸潤面積 (2276 vs 236)、NET沈着面積 (2109 vs 294)、および腫瘍面積 (1155 vs 229.3) が全て有意に減少した (全p < 0.0001) (Figure 3d)。NET形成不能なPAD4-/-マウス (好中球数は正常) では、B16F10モデルにおいて好中球面積が2123から854.6へ (p < 0.0001)、NET面積が2195から831.6へ (p < 0.0001)、腫瘍面積が1061から302.8へ (p = 0.0026) 有意に減少した (Figure 3f)。好中球エラスターゼ阻害剤 (NEi) Sivelestat治療でも同様に、LN NET沈着および転移性疾患負荷が有意に抑制された (全p < 0.0001) (Figure 3h)。各実験はマウス n = 10 で実施された。
腫瘍EVのLN NET形成および転移への必須性: TCGA食道腺がんデータ解析では、EV合成関連遺伝子 (Rab5a, PRKD1, VAMP7) がリンパ節転移陽性患者で有意に高発現していた (Rab5a: 16.61 vs 18.96, p = 0.0361; PRKD1: 0.2598 vs 0.4705, p = 0.0240; VAMP7: 17.23 vs 20.91, p = 0.0019) (Figure 4a)。特にVAMP7の高発現は予後不良と独立して相関した (HR 2.31, 中央生存期間 495日 vs 1599日, p = 0.008) (Figure 4b)。B16F10由来EVの前処置 (10µg 皮内注射) により、LN好中球浸潤面積 (568.3 vs 1238, p = 0.0006)、NET沈着面積 (974.1 vs 1821, p = 0.0261)、LN転移腫瘍面積 (779.0 vs 1387, p = 0.0132) が全て有意に増加した (Figure 4e)。EV分泌を抑制するRab27a shRNA KDにより、EV分泌量が787.0から450.0へ減少し (p = 0.0022) (Figure 4g)、LN好中球浸潤面積 (1508 vs 447.1)、NET沈着面積 (2259 vs 199.8)、LN転移腫瘍面積 (914.4 vs 144.0) が全て有意に減少した (全p < 0.0001) (Figure 4i)。各実験はマウス n = 10 で実施された。
EV→LEC→CXCL8→好中球動員経路の解明: A549 (肺がん) 由来EVのLEC (lymphatic endothelial cells) への取り込みは、正常気道上皮細胞BEAS-2B由来EVと比較して劇的に高かった (CFSE蛍光面積比 0.7436 vs 0.02310, p < 0.0001) (Figure 5c)。A549 EV処理LECの条件培地 (CM) はBoydenチャンバーアッセイにおいて好中球遊走を有意に誘導した (24.93 vs 18.64 × 10^6 好中球, p = 0.0489) (Figure 5e)。多重ELISA解析により、LECからのCXCL8産生がA549 EV処理後に1865 pg/mLから4447 pg/mLへ選択的に増加した (p = 0.0004) (Figure 6b)。EV単独では好中球に直接作用しないことを確認した。非腫瘍マウスへのB16F10 EV単独注射でも、量依存的にLN好中球浸潤、NET沈着、および転移前マーカーであるVEGFR3発現が増加した (Figure 5f, g)。さらに、A549 EV処理LEC CMによるNET形成は、CXCL8阻害抗体によって有意に減弱した (NET形成好中球の割合 79.63% vs 24.64%, p < 0.0001) (Figure 7c)。GEA患者由来好中球は、健常対照者由来好中球と比較して、A549 EVに対するNET形成傾向が有意に高かった (SYTOX Green相対蛍光強度 39.71 vs 23.36, p = 0.0040) (Figure 7e)。
考察/結論
本研究は、腫瘍由来細胞外小胞 (EV) がリンパ管内皮細胞 (LEC) に取り込まれ、CXCL8/2の分泌を誘導し、これが好中球のリンパ節 (LN) への動員と好中球細胞外トラップ (NET) 形成を促進することで、LN転移前ニッチを形成し、最終的にLN転移を駆動するという新規カスケードを、患者データ、動物モデル、およびin vitro実験で多面的に実証した。
先行研究との違い: これまでの研究では、NETが遠隔転移を促進することが示されていたが Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013、本研究は、LNにおけるNET沈着が転移腫瘍細胞の着床に先行し、LN転移が腫瘍細胞単独ではなく宿主免疫細胞の炎症応答によって事前に準備されるという点で、これまでの知見と異なる。また、腫瘍EVがLNの炎症環境を形成するメカニズムとして、LECを介したCXCL8/2分泌という具体的な経路を同定した点は、これまで報告されていない。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍EVがLNリンパ管内皮細胞に特異的に取り込まれ、CXCL8/2の分泌を誘導することで好中球のLN動員とNET形成を促進し、LN転移前ニッチを形成するという新規の免疫-血管インターフェースを解明した。また、胃食道腺がん患者において、LNにおける高NET量が予後不良と独立して関連すること、およびEV合成関連遺伝子VAMP7の高発現が予後不良と相関することも新規に示した。
臨床応用: 好中球エラスターゼ阻害剤 (NEi) であるSivelestatは、現在自己免疫疾患や呼吸器疾患の臨床治験中で経口投与可能な化合物であり、本研究の知見は、LN転移抑制へのNEiの臨床応用可能性を示唆する。また、VAMP7が予後不良の独立予測因子であり、EV分泌抑制がLN転移を抑制したことから、VAMP7がLN転移の新規治療標的となる臨床的意義があると考えられる。EV→LEC→CXCL8という新規経路は、他のがん種における転移前ニッチ研究や、LN転移を標的とした新たな治療戦略の開発に繋がる臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトとマウスのLN好中球動員パターンの不一致や、PAD4-/-マウスおよびNEi治療マウスでLN好中球動員が減少するメカニズムのさらなる解明が残されている。また、腫瘍由来の可溶性因子とEVの相乗効果、およびがん環境における好中球機能の可塑性についても、今後の研究で詳細に検討する必要がある。長期的な生体内イメージングやLNの空間シーケンシングを用いて、LN転移前ニッチ形成の全プロセスを捉えることも今後の方向性である。
方法
胃食道腺がん (GEA) 患者175例の外科的切除LNから組織マイクロアレイ (TMA) を作製した。免疫染色により、CD66b/NE二重陽性細胞 (好中球)、H3Cit (NET)、CK7 (上皮) を評価し、腫瘍陽性LN (N+met, n=71)、腫瘍陰性LN (N+neg, n=91)、リンパ節陰性患者 (N0, n=13) の3群間で比較した。動物実験では、C57BL/6マウスおよびPAD4-/-マウスにH59 (肺がん) またはB16F10 (メラノーマ) 細胞250kをフランク注射し、転移前 (Day 7/10) および転移後 (Day 14) のLNを免疫蛍光およびフローサイトメトリーで解析した。NET形成阻害のため、好中球枯渇 (抗Ly6G抗体)、PAD4遺伝子欠損、または好中球エラスターゼ阻害剤 (NEi) Sivelestat (2.2 mg/kg) を用いた。腫瘍EV (B16F10、A549由来) は、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、ウェスタンブロットにより特性評価し、MISEV2018ガイドライン Thery et al. JExtracellVesicles 2018に準拠した。LEC (lymphatic endothelial cells) (PromoCell C-12216) へのEV取り込みをCFSE標識EVで評価し、Boydenチャンバーアッセイで好中球遊走能を測定した。多重ELISA (RayBioTech CXCLパネル) で化学走性因子を測定し、Rab5a shRNAによるEV分泌抑制実験も実施した。統計解析にはMann-Whitney t test、One-Way ANOVA、Kruskal-Wallis testを用いた。