- 著者: Jonathan Cools-Lartigue, Jonathan Spicer, Braedon McDonald, Stephen Gowing, Simon Chow, Betty Giannias, France Bourdeau, Paul Kubes, Lorenzo Ferri
- Corresponding author: Lorenzo Ferri (LD MacLean Surgical Research Laboratories, Department of Surgery, McGill University, 1650 Cedar Ave - L9-112, Montreal General Hospital, Montreal, Quebec H3G 1A4, Canada; lorenzo.ferri@mcgill.ca)
- 雑誌: Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-07-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 23863628
背景
がん患者の多くは治療の一環として少なくとも一度は外科手術を受ける。術後の重篤な感染症、特に肺炎、腹膜炎、敗血症は、転移再発および癌死亡率の独立した予後悪化因子として疫学的に確立されているが、その分子機構はこれまで未解明であった。近年、感染症の第一線で機能する好中球が癌の進行を促進するというエビデンスが蓄積されつつある。好中球細胞外トラップ (Neutrophil extracellular traps, NETs) は、炎症性刺激に応答して放出される好中球由来の細胞外DNA網状構造であり、侵入する病原体を捕捉・殺傷する自然免疫防御機構として、Brinkmann et al. Science 2004やFuchs et al. JCellBiol 2007によって報告された。NETsは細菌、真菌、原虫などの病原体をin vitroで捕捉・殺傷することが示されており、敗血症の実験モデルでは循環細菌を肝臓内で効果的に捕捉することも報告されている (McDonald et al. Cell Host Microbe 2012)。しかし、その過剰な形成は微小血管閉塞や多臓器障害を引き起こす可能性も指摘されている (Saffarzadeh et al. PLoS One 2012; Villanueva et al. J Immunol 2011)。
感染時に大量に形成されるNETsが、循環腫瘍細胞 (Circulating Tumor Cells, CTC) を物理的に捕捉し、遠隔臓器への接着を促進する可能性は理論的に予測されていたが、その直接的な証拠はこれまで不足していた。これまでの研究では、全身性炎症が肝臓の類洞におけるCTCの接着を増加させ、好中球の枯渇がこの反応を抑制し、肉眼的肝転移の形成を減少させることが示されている (McDonald et al. Int J Cancer 2009)。また、好中球がCTCの肺微小血管への接着を安定させ、肺転移形成を促進することも報告されている (Huh et al. Cancer Res 2010)。これらの研究は好中球が転移促進に重要な役割を果たすことを示唆するが、NETsがこのプロセスにどのように関与するかは不明であった。特に、重篤な感染症が癌転移を促進するメカニズムにおいて、NETsが中心的な役割を果たすかどうかの知識ギャップが残されていた。本研究は、この未解明なメカニズムを解明し、NETsが癌転移における新たな治療標的となりうるかを検証することを目的とする。
目的
本研究の目的は、重篤な感染症、特に敗血症によって誘導される好中球細胞外トラップ (NETs) が、循環腫瘍細胞 (CTC) を微小血管内で物理的に捕捉し、肝臓および肺への転移を促進するかどうかを、盲腸結紮穿刺 (cecal ligation and puncture, CLP) マウス敗血症モデルを用いて検証することである。さらに、NETsの形成を阻害する薬剤であるDNase Iおよび好中球エラスターゼ (Neutrophil Elastase, NE) 阻害薬 (NEi) が、この転移促進効果を抑制し、新たな治療標的として有効であるかを評価することを目的とする。具体的には、CLP誘発敗血症がNETsの沈着を増加させ、それに伴いCTCの接着および転移形成が促進されることをin vivoおよびin vitroで実証し、DNase IやNEiによるNETsの薬理学的阻害が転移抑制に繋がるかを明らかにすることを目指す。
結果
広範な微小血管NET沈着: CLP誘発敗血症マウスでは、肝臓および肺の微小血管内に広範なNET沈着が観察された (Figure 1)。肝臓における細胞外DNAの蛍光面積は、偽手術群と比較してCLP群で約10.3倍に増加し、肺では約5.7倍に増加した (P < 0.001)。これらのDNA網状構造は、ヒストンH2AXおよび好中球エラスターゼ (NE) と共局在し、典型的なNETsの組成を示した。DNase I (2.5 mg/kg) の投与により、肝臓の細胞外DNAは偽手術群の1.52倍、肺では0.74倍まで減少し、NE阻害薬 (NEi) (2.2 mg/kg) の投与では肝臓で1.13倍、肺で0.63倍まで減少し、いずれも偽手術群と同程度のレベルにまで回復した (P = NS vs sham)。これは、NETs形成が薬理学的に抑制されたことを示唆する。SD-IVMによるリアルタイムビデオ解析では、NET沈着領域においても好中球のトラフィッキングや赤血球の通過は阻害されず、腫瘍細胞の接着が非特異的な血管閉塞によるものではなく、NETs特異的な捕捉機構によるものであることが示唆された (Supplemental Video 1)。この実験には各群n=3-5 miceが使用された。
肉眼的肝転移の劇的促進とNETs阻害による抑制: CLP群のマウス (n=5 mice) では、H59肺癌細胞の脾臓内注射から2週間後に、肉眼的に観察される肝転移結節数が劇的に増加した (Figure 2)。CLP群では平均約400個の肝転移結節が認められたのに対し、偽手術群ではわずか2個であり、約200倍の差があった (P < 0.0001)。この転移促進効果は、NETs形成の阻害によって有意に抑制された。DNase I投与群では平均234個の結節が観察され、CLP単独群と比較して42%の削減が認められた (P < 0.05)。同様に、NEi投与群では平均132個の結節となり、CLP単独群と比較して67%の削減が認められた (P < 0.01)。これらの結果は、術後敗血症に関連する転移がNETsに依存しており、NETsが癌転移の治療標的となりうることを薬理学的に証明した。
48時間後の微小転移と個別細胞残存の抑制: CLP群では、H59細胞の脾臓内注射から48時間後に形成される微小転移巣 (腫瘍島) の数が有意に増加した (Figure 6A)。CLP群では平均27.4個/hpfの腫瘍島が観察されたのに対し、偽手術群では7.7個/hpfであった (P < 0.0001)。DNase IまたはNEiの投与により、腫瘍島形成はそれぞれ平均12.16個/hpfおよび12.31個/hpfに減少し、CLP単独群と比較して約45-55%の削減が認められ、偽手術群と同程度のレベルにまで抑制された (P = NS vs sham)。また、個別の腫瘍細胞の肝臓内残存を定量したところ、CLP群では24時間後に2.9細胞/hpf、48時間後に4.2細胞/hpfと時間依存的に増加したのに対し、偽手術群では24時間で0.76細胞/hpf、48時間で0.82細胞/hpfと変化がなかった (Figure 6C)。NEiの投与により、CLPによる接着亢進は完全に消失した (P < 0.001)。これらの実験には各群n=3-5 miceが使用された。
正弦体/毛細血管粘着のNETs依存性: H59細胞の肝類洞への接着は、偽手術群の1.9細胞/hpfからCLP群で4.5細胞/hpfに有意に増加した (P < 0.001)。DNase I投与群では1.2細胞/hpf、NEi投与群では1.9細胞/hpfとなり、CLPによる接着亢進は完全に阻害された (Figure 3C)。同様に、B16メラノーマ細胞の肺毛細血管への接着も、偽手術群の6.7細胞/hpfからCLP群で11.7細胞/hpfに増加した (P < 0.001)。DNase I投与群では4.7細胞/hpf、NEi投与群では6.7細胞/hpfとなり、CLPによる接着亢進は抑制された (Figure 3D)。これらの結果は、NETsが肝臓の類洞と肺の毛細血管の両方の微小循環において、CTCの捕捉を媒介することを示唆する。各群n=5 miceがこの接着アッセイに使用された。
in vitro静止・フロー下粘着の定量: PMA刺激によるNETs形成下でのH59およびA549細胞のin vitro接着を評価した (Figure 5A, B)。静止条件下では、PMA刺激NETsによりH59細胞の接着は3.2細胞/hpfから14細胞/hpfへ、A549細胞の接着は4.1細胞/hpfから21.4細胞/hpfへと約3-4倍に増加した (P < 0.001)。生理的な剪断応力 (1 dyne/cm²/s) 下のフローチャンバーでは、H59細胞の接着は5.4細胞/hpfから75.6細胞/hpfへ、A549細胞の接着は5.7細胞/hpfから56.9細胞/hpfへと劇的に亢進し、NETsによる捕捉効率が静止下よりも高いことが示された (P < 0.001)。DNase Iの添加により接着は55-70%削減され、NEiの前処理によりさらに削減された。好中球再注入実験では、非刺激好中球のみでは0.9細胞/hpfの接着であったが、PMA刺激好中球の再注入により2.45細胞/hpfへと約3倍増加し (P < 0.0001)、NEiまたはDNase Iによる前処理で0.9細胞/hpfに復帰した (Figure 4B)。これらのin vitro実験はn=2-4 separate experimentsで実施された。
SEM/Confocalによる物理的捕捉の可視化: Confocal顕微鏡を用いたin vitro観察では、A549細胞がDNA網状構造内に埋め込まれ、好中球との直接的な接触なしに捕捉されている典型的なNETsトラッピングが可視化された (Figure 5C)。走査型電子顕微鏡 (SEM) では、平坦化した好中球から伸展したNETsの線維状構造が腫瘍細胞膜と密接に接触している様子が観察された (Figure 5D, E)。
NETsによる腫瘍細胞の移動・浸潤促進: in vitroでの機能アッセイでは、PMAと好中球の存在下でA549細胞の移動が3倍以上亢進し (17.8細胞/hpf vs 7.5細胞/hpf, P < 0.01)、浸潤が4倍以上誘導された (15.1細胞/hpf vs 3.3細胞/hpf, P < 0.001) (Figure 7A, B)。この促進効果は、DNase IまたはNEiの添加により完全に阻害された。これらの機能アッセイはn=2-4 separate experimentsで実施された。
考察/結論
本研究は、感染時に誘導される好中球細胞外トラップ (NETs) が、循環腫瘍細胞 (CTC) を微小血管で物理的に捕捉し、血行性転移を促進するという世界初の直接的なエビデンスを提供したランドマーク論文である。盲腸結紮穿刺 (CLP) 敗血症マウスモデルにおいて、肝転移が約200倍増加するという劇的な効果は、術後重篤感染症が癌予後を悪化させるという疫学的な観察のメカニズム的基盤を確立した。
新規性: これまで、好中球が癌転移に関与することは示唆されていたが、NETsが直接的にCTCを捕捉し、転移を促進するという具体的なメカニズムは本研究で初めて報告された。特に、in vivoでのリアルタイム可視化により、NETsが肝臓および肺の微小血管内でCTCを物理的に捕捉する様子が直接的に観察された点は新規性が高い。
先行研究との違い: 従来の好中球による転移促進メカニズムは、β2インテグリンとICAM-1を介した接触依存的な接着や、可溶性因子による内皮細胞活性化などが提唱されてきた。本研究は、これらとは異なる、DNA網状構造による物理的な捕捉という新たなメカニズムを提示した点で、これまでの知見と対照的である。また、DNase Iや好中球エラスターゼ阻害薬 (NEi) が単独で転移の42-67%を抑制する治療効果を示したことは、既存薬の癌転移抑制へのリパーパシングの可能性を示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、癌患者の術後感染症管理における新たな治療戦略の可能性を提示する。具体的には、(i) 手術前後のDNase I (ドナーゼアルファ) やNEi (シベレスタット様薬剤) の予防的投与による術後敗血症と転移の連鎖を断ち切る戦略、(ii) 食道胃癌や肺癌などの侵襲的手術後のNETsバイオマーカー (MPO-DNA複合体、cf-DNAなど) の監視による転移リスク評価、(iii) ICUにおける敗血症患者の癌スクリーニングおよび早期転移検出の重要性、(iv) 周術期の抗菌薬とDNaseの併用療法、(v) 既存薬 (ドナーゼアルファ:嚢胞性線維症で承認、シベレスタット:日本で急性肺障害で承認) の癌領域でのリパーパシング臨床試験設計などが考えられる。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。(i) NETsによる捕捉後にCTCがどのように生存し、ヒストンによる細胞毒性から逃れるのかというメカニズムは未解明である。(ii) HMGB1など、他のNETs構成成分の転移における役割は今回評価されていない。(iii) 2週間の短期観察であり、長期的な予後 (生存期間や転移の伸展) は評価されていない。(iv) CLPという単一の敗血症モデルに依存しており、肺炎や尿路感染症など他の敗血症源への一般化は未検証である。(v) 投与された腫瘍細胞量 (脾臓内3×10⁴個、静脈内1×10⁶個) は、ヒトの臨床CTC量と比較して高用量であり、乖離がある。(vi) マウスモデルでの結果がヒトの臨床敗血症にどの程度翻訳可能かは未確立である。(vii) DNaseやNEiのNETs以外のオフターゲット効果が完全に排除されているわけではない。これらの課題は今後の研究で検討されるべきである。
方法
試験デザイン: 盲腸結紮穿刺 (CLP) 誘発多菌敗血症C57BL/6マウス (7-10週齢、25g) を用いた。CLPは、ヒトの消化器外科手術後の術後感染症の特徴を再現するために選択された。対照群として偽手術 (sham) 群を設定した。 細胞: マウスLewis肺癌細胞株H59 (GFP+発現)、ヒト肺腺癌細胞株A549、およびB16-F10メラノーマ細胞株を使用した。HUVECsも使用した。 CTC投与: H59細胞は脾臓内注射により肝転移モデルを、B16-F10細胞は尾静脈注射により肺転移モデルを確立した。H59細胞は3×10⁴個を脾臓内に、B16細胞は1×10⁶個を尾静脈にそれぞれ投与した。 治療介入: DNase I (Roche, 2,000 U/mg) を2.5 mg/kg/dayで筋肉内注射、または好中球エラスターゼ阻害薬GW311616A (NEi) (Sigma-Aldrich) を2.2 mg/kg/dayで経口投与した。これらの薬剤はCLPの24時間前から開始し、実験終了まで毎日投与した。これらの薬剤は、NET形成の既知の阻害剤であり、動物およびヒトでの安全性プロファイルが確立されている。 NET検出: NETsの可視化と定量には、spinning disk confocal intravital microscopy (SD-IVM) を用いた。細胞外DNAはSytox Greenで、ヒストンH2AXはAlexa Fluor 555抗H2AX抗体で、好中球エラスターゼ (NE) はAlexa Fluor 555抗NE抗体でそれぞれ標識した。好中球はE-fluor 660抗GR1抗体で可視化した。走査型電子顕微鏡 (SEM) およびOlympus IX81 + Yokogawa CSU-10 head + EMCCDカメラも使用した。 好中球枯渇および再注入: 好中球枯渇は、抗GR1抗体 (150 μg) の腹腔内注射により行った。好中球再注入実験では、同系マウスの骨髄由来好中球 (1×10⁶個) を脾臓内注入した。一部の実験では、好中球を500 nM PMAで1時間刺激してNET形成を誘導し、NEi (10 μM) またはDNase I (1,000 U) で前処理した。 in vitro接着アッセイ: 静止条件下および1 dyne/cm²/sの剪断応力下でのフローチャンバーを用いた動的条件下で、H59およびA549細胞の好中球単層への接着を定量した。PMA (800 nM) で好中球を刺激し、NET形成を誘導した。 機能アッセイ: Boydenチャンバーを用いたin vitroでのA549細胞の移動および浸潤アッセイを実施した。 主要評価項目: (1) 2週間後の肉眼的肝転移結節数、(2) 肝臓および肺におけるNETsの蛍光定量 (相対蛍光面積)、(3) 24時間および48時間後の肝類洞内H59細胞接着定量 (細胞数/hpf)、(4) B16細胞の肺毛細血管粘着、(5) in vitroでの静止およびフロー条件下でのPMA刺激NETsによるH59/A549細胞の粘着、(6) 移動および浸潤transwellアッセイ。 統計解析: 1元配置分散分析 (ANOVA) とTukeyのHSD (honestly significant difference) 多重比較検定を用いた。データはすべて平均値±標準誤差 (SEM) で示し、P < 0.05を有意差とした。GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用し、統計解析とグラフ作成を行った。