- 著者: Janusz Rak
- Corresponding author: Janusz Rak (McGill University and the Research Institute of the McGill University Health Centre, Montreal, Canada)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-01-28
- Article種別: Commentary
- PMID: 31992866
背景
細胞外小胞 (EVs: extracellular vesicles) は脂質二重膜に囲まれた小胞であり、タンパク質・脂質・核酸など多様な生体分子を内包して細胞間コミュニケーションを担う。2007年に Valadi et al. NatCellBiol 2007 が、エクソソームにmRNAやmiRNAが封入されて細胞間で機能的に転送されることを初めて報告して以来、EV随伴細胞外RNA (exRNA: extracellular RNA) の生物学的重要性への認識が急速に高まった。ほぼ同時期には腫瘍細胞由来微小胞にmRNAが含まれることも確認されており (Baj-Krzyworzeka et al. 2006)、「細胞が自らのRNA情報を外部へ放出する」という概念は研究者に衝撃をもって迎えられた。
その後の十数年で、EVsや他のRNA担体が血液などの体液中に放出されることで、細胞内トランスクリプトームに非侵襲的・反復的・リアルタイムにアクセスできるという知見が蓄積した。これはがん・心血管疾患・免疫疾患・神経疾患・感染症などRNA情報が重要な疾患における液体生検 (liquid biopsy) への大きな期待をもたらした。EV随伴RNAは個体間・生物界をまたいで輸送されることも示されたが (Samuel et al. 2015)、その機序は不明な点が多かった。
しかし、EVへのRNA積荷機序については大きな知識ギャップが残されていた。核酸はもともと細胞質や核深部の多分子複合体内で機能すると考えられていたため、EVカーゴとして放出されることは当初予想外であった。RNA存在量・特定配列モチーフ・3’ウリジル化・ジップコードなどの部分的な手がかりが報告されてきた。RNA結合タンパク質 (RBP: RNA-binding protein) がRNAをEV生成機構へシャペロンするという仮説も浮上し、例えば Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 はスモイル化hnRNPA2B1が配列モチーフを認識してmiRNAをエクソソームへ積荷することを示したが、包括的な積荷機序の解明には手薄な部分が残されていた。また、細胞がタンパク質を分解するか分泌するかを決定する「分泌性オートファジー (secretory autophagy)」の分子実体とEV生物学との接点は、知識の gap in knowledge として長年未解明のままであった。
目的
本Commentaryは、同号掲載の Leidal et al. NatCellBiol 2020 によるLC3 (MAP1LC3B: microtubule-associated 1A/1B light chain 3B protein) 依存的EV積荷・分泌 (LDELS: LC3-dependent EV loading and secretion) 経路の発見を解説することを目的とする。EV-RNA研究の歴史的文脈においてLDELS経路の生物学的意義を位置づけ、オートファジー中心タンパク質LC3がエクソソーム生合成との交差点においてRBPおよび小非コードRNAのエクソソーム積荷・分泌をいかに制御するかを詳述する。さらに、LDELS経路の液体生検への示唆と今後の課題について論じる。
結果
BioID法によるLC3接触分泌タンパク質の同定とRBP濃縮: Leidal et al. NatCellBiol 2020 は、LC3-BirA*融合BioID法を用いて分泌性オートファジーの標的プロテオームを網羅的に解析した。最も驚くべき発見は、細胞内でLC3と相互作用するタンパク質と、細胞外への分泌後にビオチン標識を持つタンパク質の組成が全く異なることであった (Fig. 1)。細胞外ビオチン標識タンパク質はRNA結合タンパク質 (RBP) に著明に富んでおり、SAFB (scaffold attachment factor B) やHNRNPK (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K) など複数の特定RBPが同定された。これらのRBPはLC3と相互作用した後に細胞外へ分泌されることが確認され、LC3が単なるオートファジー基質の認識分子にとどまらず、特定のRBP群を選択的に細胞外分泌へ振り分ける新たな機能を持つことが初めて明らかになった。細胞内でLC3と相互作用しても分泌されないタンパク質群と、分泌されるRBP群が明確に区別されたことは、LC3依存的分泌の経路特異性を示す重要な証拠である。この結果は14件の参考文献のうち、ref. 3 (Leidal et al.) の中核的な発見として位置づけられる。
LDELS経路の確立: MVBを経るATG7依存的エクソソーム分泌機構: Leidal et al. NatCellBiol 2020 はさらに、LC3と相互作用する分泌RBPの細胞内経路を追跡した。脂質化型LC3 (LC3-II) が多胞体 (MVB) の内腔小胞 (ILV) に取り込まれ、MVBが細胞膜と融合する際にエクソソームとして細胞外へ放出されることが明らかになった (Fig. 1)。この過程はATG7依存的・ATG14非依存的であり、分解型オートファジーとは独立した「分泌型LC3コンジュゲーション経路」として「LDELS」と命名された。SAFBおよびHNRNPKなどのLC3相互作用RBPがMVBおよびエクソソームに選択的に濃縮されることが示され、これらがLDELS経路を通じてエクソソームへ特異的に収束する機序が確立された。また、LDELS経路はエクソソーム生合成に関与するnSMase2の活性にも依存することが判明した。nSMase2は膜脂質 (セラミド) を修飾してMVB内のILV形成を促進することが既知であり (Trajkovic et al. Science 2008)、LDELS経路がこのエクソソーム形成の既存経路と密接に連携していることが示された。このことは、LDELSが完全に新規な独立経路ではなく、エクソソーム生合成の既存の分子機械 (nSMase2依存的ILV形成) と共役しながら選択的な積荷制御を実現するという機能的設計を意味する。
LDELS依存的な小非コードRNAの選択的エクソソーム輸出: LDELS経路がRBPをエクソソームへ積荷するという発見から、この経路がRBPと結合する小ncRNAのEV輸出をも制御する可能性が検証された。LDELS活性を消失させた細胞 (ATG7欠損またはATG12欠損; n=2 遺伝子欠損条件で再現) から単離したEVのRNAシーケンス解析を行ったところ、miRNAおよびsnoRNA (small nucleolar RNA) を含む複数の小非コードRNAバイオタイプのEVへの輸出が著明に減少した (Fig. 1)。対照的に、大型RNAのEV含有量は相対的にほぼ変化しなかった。この結果は、LDELS経路が小ncRNAの選択的輸出に特異的であり、EVsの積荷組成を大型RNAと小型ncRNAで異なる機序で制御することを示す。さらに、LDELS活性欠損細胞でもEVの産生量は若干減少するものの完全には消失しなかった。これはLDELS経路が小型EV産生そのものとは部分的に独立して、その積荷の分子組成を選択的に制御することを意味し、エクソソームの生成と積荷選択が分離して調節されうることを初めて示した。なお、nSMase2の活性阻害はLDELS経路を通じたRNA輸出を減少させることも確認され、膜脂質修飾とRNA積荷の機能的な連動が裏付けられた。
エクソソームの不均一性とLDELS経路の位置づけ: LDELS経路の同定は、エクソソームRNA分泌機序の「全容解明」を意味するものではない。Leidal et al. (ref. 3) のプロテオーム解析の結果は、複数のエクソソーム様EVサブセットが存在し、LDELS経路によって制御されるのはその一部にすぎない可能性を示唆する (Choi et al. 2019, ref. 14)。残るEVサブセットの特性・制御機序の解明は今後の課題として残されている。また、LDELS経路以外のEV-RNA積荷経路、例えばY-box protein 1依存的な機序や Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 によるスモイル化hnRNPA2B1依存的miRNA配列認識機構なども存在しており、異なる経路による補完的な積荷制御が全体の複雑性を形成している。特に、特定のsnoRNAがLDELS経路の主要な標的として同定されたことは、snoRNA生物学における新たな知見であり、snoRNAのEV輸送が細胞間コミュニケーションに果たす役割について新たな問いを提起する。
考察/結論
BioID戦略の独創性とLDELS概念の新規性: Leidal et al. NatCellBiol 2020 が採用したBioID戦略は、細胞内タンパク質相互作用解析を細胞外分泌プロテオーム解析へ拡張するという新規の応用であった。これまでの研究でBioIDが分泌タンパク質の起源追跡に利用された例はなく、「LC3と接触してから分泌されたタンパク質」という概念自体が新規に定義された。このアプローチにより分泌性オートファジーの分子実体が初めて体系的に明らかにされ、LC3がオートファジーの中心因子であると同時に選択的分泌のゲートキーパーとしても機能するという本研究で初めて示された二重の役割が確立された。
既報知見との相違と概念的意義: これまでの研究においては、EVへのRNA積荷は主にRNA配列モチーフ・ジップコード・スモイル化RBP (Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013) あるいはnSMase2依存的膜脂質修飾 (Trajkovic et al. Science 2008) という各個別の要因によって説明されていた。これに対照的に、LDELS経路はオートファジータンパク質LC3という単一の分子がRBPとその結合小ncRNAを同時にエクソソームへ積荷するという統合的な機序を提示し、既報の個別知見を一つの概念的枠組みの傘下に統合する新規な視点を提供した。また、LC3-IIがMVBのILVに直接取り込まれATG14非依存的に機能するという経路特性は、既知の分解型オートファジー経路と異なる分子ロジックを持ち、LC3の生物学的機能の多様性を拡張する重要な知見である。
臨床的意義と液体生検への橋渡し: 細胞外RNAが液体生検バイオマーカーとして機能するためには、体液中のEV-RNA組成を規定する分子機序の理解が不可欠である。LDELS経路の同定は、がんなどの病態でEV landscape (EV組成・分布) が大きく変動するという知見 (Valadi et al. NatCellBiol 2007) と組み合わせることで、がん細胞でのLDELS活性変化が体液中miRNA/snoRNAシグネチャーに反映されうるという臨床的含意を持つ。病態特異的なLDELS活性をバイオマーカーとして活用すること、あるいはLDELS経路を介したEV-RNA産生を制御することで治療薬搭載EVを設計するといった bench-to-bedside の橋渡し研究の可能性が開かれた。特に、snoRNAなど従来は液体生検マーカーとして注目されてこなかったRNA種がLDELS経路の標的であることは、体液中RNA診断の対象を拡張する新しい臨床的含意を持つ。
残された課題と今後の研究の展望: LDELS経路の発見は重要な前進であるが、残された課題も多い。第一に、LDELS依存的EVsの生物学的受容機能 — 輸送されたmiRNA/snoRNAが受容細胞において果たす役割 — は未解明であり、更なる検討を要する。第二に、LDELS経路以外のEVサブセットを制御する積荷機序の全体像のマッピングが課題として残されており、エクソソームの不均一性 (heterogeneity) の解明が求められる。第三に、がん・炎症・代謝疾患などの病態においてLDELS活性がどのように変化し、それが体液中RNA組成に与える影響は不明であり、future research の重要なテーマである。第四に、LDELS経路を介した細胞間コミュニケーションの生理的意義 — 細胞恒常性への寄与か多細胞システムの統合的調節か — も解明されていない。limitation として、プロテオーム解析が予測する複数のLDELS独立的なEVサブセットの制御機序が本研究では解明されておらず、exRNA分泌の全体像の理解にはさらなる研究が必要である。これらの問いの解決が、LDELS経路の全容解明と液体生検・EV-RNA医療への臨床応用の実現に向けた重要な今後の研究課題である。
方法
本論文は Leidal et al. NatCellBiol 2020 の原著研究を解説するCommentaryであり、独自の実験手法を持たない。解説対象のLeidal et al. では以下の方法が採用された。
BioID近接ラベリングプロテオミクス: LC3のN末端に細菌由来ビオチンリガーゼBirA*を融合させたBioID融合タンパク質を用い、LC3と接触または近接するタンパク質をビオチン化により標識・同定した。この方法は通常は細胞内タンパク質-タンパク質相互作用の解析に用いられるが、本研究では細胞外分泌タンパク質の解析へ拡張するという独創的な設計が採用された。具体的には、細胞内でLC3と相互作用するタンパク質と、細胞外へ分泌された後にビオチン標識を持つタンパク質を区別し、分泌性オートファジーの標的プロテオームを定義した。
EVの単離・品質評価: エクソソームを含む小型EVは超遠心分離法 (ultracentrifugation) により培養上清から分離された。国際細胞外小胞学会の MISEV2018ガイドライン (Théry et al. J Extracell Vesicles 2018) に準拠し、EVの品質評価にはテトラスパニン (tetraspanin: CD63・CD9・CD81) などの表面マーカータンパク質の同定が実施された。エクソソームは多胞体 (MVB: multivesicular body) に由来し、内腔小胞 (ILV: intraluminal vesicle) がMVBと細胞膜の融合により細胞外へ放出されたものと定義された。
遺伝子欠損細胞モデルとRNAシーケンス解析: LDELS経路の機能解析には、LC3の分泌機能 (LDELS活性) に必須のATG7またはATG12を欠損させた細胞株 (n=2 遺伝子ターゲット) が用いられ、対照細胞との比較でEVのRNA組成を評価した。EVから抽出したRNAをRNAシーケンス解析にかけることで、miRNA・snoRNAなど複数の小非コードRNA (small ncRNA) バイオタイプと大型RNAの積荷量が定量的に比較された。また中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2: neutral sphingomyelinase 2) の活性阻害実験も実施され、膜脂質修飾とLDELS経路の関連が検討された。