- 著者: Andrew M. Leidal, Hector H. Huang, Timothy Marsh, Tina Solvik, Dachuan Zhang, Jordan Ye, FuiBoon Kai, Juliet Goldsmith, Jennifer Y. Liu, Yu-Hsin Huang, Teresa Monkkonen, Ariadne Vlahakis, Eric J. Huang, Hani Goodarzi, Li Yu, Arun P. Wiita, Jayanta Debnath
- Corresponding author: Jayanta Debnath (University of California San Francisco, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature cell biology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-01-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 31932738
背景
オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質やオルガネラをリソソームで分解する古典的な経路として認識されてきた。しかし、近年ではオートファジー関連遺伝子 (ATG) タンパク質が炎症性サイトカインの分泌、リゾチームの細胞外放出、細胞外小胞 (EV) 産生、非古典的分泌など、多様な「分泌性オートファジー」にも関与することが報告されている。これらの分泌性オートファジーは、細胞の運命決定や組織微小環境の非細胞自律的制御に重要な役割を果たすことが示唆されるが、そのメカニズムは依然として未解明な部分が多い。特に、分泌性オートファジーの標的プロテオームの大部分は未同定であり、ATG遺伝子欠損による分泌表現型が直接的な効果によるものか、あるいはオートファジー機能不全の間接的な結果であるかを区別することは困難であった。この領域には依然として知識ギャップが残されている。
微小管結合タンパク質1A/1B軽鎖3 (LC3; MAP1LC3B) はオートファゴソーム形成に必須のマーカータンパク質であるが、脂質化されたLC3-IIがEV画分に検出されることが報告されており、LC3がEVの生合成やカーゴ積荷の制御に関与する可能性が示唆されていた。EVは多様なタンパク質や核酸、特にマイクロRNA (miRNA) や小型核小体RNA (snoRNA) などの小非コードRNAを細胞間コミュニケーションの手段として輸送するが、これらのRNAがEVにどのように選択的に積荷されるかというメカニズムは、EV生物学における主要な課題として残されている。先行研究では、EVが細胞間コミュニケーションにおけるmRNAやmiRNAの新規な遺伝子交換メカニズムであることを示唆し Valadi et al. NatCellBiol 2007、またEVの細胞生物学に関する理解の深化が報告されている vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018。さらに、EVの分離と特性評価に関する標準的なプロトコルも確立されている Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。しかし、オートファジー経路のLC3結合機構がEVカーゴの選択的積荷にどのように関与するかについては、詳細なメカニズムが不足している状況であった。特に、LC3結合機構がEVの特定のカーゴ、特にRNA結合タンパク質 (RBP) や小非コードRNAの積荷をどのように制御するのかという知識ギャップが残されている。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とする。
目的
本研究の目的は、LC3依存的分泌性オートファジー経路の標的プロテオームをプロキシミティ依存性ビオチン化 (BioID) 法を用いて網羅的に同定することである。さらに、LC3-IIがEVとして分泌されるメカニズム (ATG依存性・多胞体 (MVB) 経路) を解明し、最終的に「LC3依存的EV積荷・分泌 (LDELS)」経路がRNA結合タンパク質 (RBP) および小非コードRNAのEV積荷と分泌を特異的に制御することを実証することを目指した。具体的には、BioIDプロテオミクスによりLC3依存的分泌標的を特定し、LC3-IIがMVBの内腔小胞 (ILV) へ積荷されEVとして分泌されることを確認する。また、LC3結合機構がRBPおよび小非コードRNAのEV積荷に必須であることを示し、この経路における中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) およびnSMase2活性関連因子 (FAN) の役割を解明する。
結果
BioIDプロテオミクスによる200個のLC3依存的分泌標的の同定: myc-BirA*-LC3を安定発現するHEK293T細胞の条件培地 (CM) 中に、細胞内BioIDシグナルとは異なる独自のビオチン標識分泌タンパク質群が検出された (Fig. 1b)。安定同位体標識アミノ酸培養法 (SILAC) 定量プロテオミクス (3独立生物学的複製) により、31個のタンパク質がクラスI (3複製全てで統計的有意なlog2(H/L)比 > 1、p < 0.05)、170個がクラスII (2複製以上で濃縮) として同定され、合計200個のLC3依存的分泌標的が特定された (Fig. 1e-g)。この分泌プロテオームの83%がヒト血漿プロテオームデータベースに既存であり、in vivoでの関連性が示唆された (Fig. 1h)。Gene Ontology (GO) 解析では、これらの標的がRNA結合タンパク質 (RBP) (200個中113個がmRNA結合機能を持つ) および細胞外小胞 (EV) 関連タンパク質 (33%) に著しく濃縮されていることが示された (Fig. 1i)。これらの結果は、LC3およびオートファジー機構がRBPなどの特定のタンパク質のEVへの積荷と分泌を制御することを示唆している。
LC3-IIの多胞体 (MVB) 内腔小胞 (ILV) への局在とEV分泌: BirA*-LC3標識分泌タンパク質は10,000g画分ではなく100,000g画分 (小型EV) に濃縮された (Fig. 2a, b)。内在性LC3-IIも100,000g EV画分に濃縮され、ショ糖密度勾配遠心分離ではCD63、CD81、CD9といったEVマーカーと同一のフラクション (1.10-1.14 g/mL) に共分布した (Fig. 2c)。プロテアーゼプロテクションアッセイにより、LC3-IIがEV内腔に存在することが確認された (Fig. 2e)。APEX-LC3と透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた解析では、MVBのILV内にLC3陽性部分集団が可視化された (Fig. 2g)。ATG7欠損細胞ではmCherry-Rab5Q79L過大エンドソームのILVへのLC3取り込みが消失したが、古典的分解型オートファジーに必須のATG14欠損細胞では影響が見られず、LC3結合経路 (ATG7、ATG12、ATG3依存的) に特異的なメカニズムが示唆された (Fig. 3a)。さらに、LC3はCD63と共局在し、この共局在はATG7欠損細胞で有意に減少したが (p<0.001)、ATG14欠損細胞では影響を受けなかった (Fig. 3c, d)。これらのデータは、LC3-IIがATG7依存的かつATG14非依存的にMVBのILVに積荷され、小型EVとして分泌されることを強く裏付けている。マウス血漿から分離されたEVにおいても、LC3-IIが検出され、Atg12全身欠損マウスではそのレベルが減少した (Extended Data Fig. 3c, d)。
LC3結合機構によるRBPおよび小非コードRNAのEV積荷制御: 野生型 (WT) 細胞とATG7/ATG12欠損細胞のEVを比較するタンデム質量タグ (TMT) 定量プロテオミクスにより、815個のタンパク質がLC3結合依存的にEV分泌されることが示された (Fig. 4c)。これらのタンパク質はRBP (Gene Ontology解析で最も濃縮されたカテゴリー)、ストレス顆粒タンパク質 (112個)、およびプロセシングボディ (P-body) タンパク質 (206個) に富んでいた (Fig. 4e)。SAFB、HNRNPK、LARP1、SF3A1、G3BP1の5つのRBPが、BioID分泌プロテオームとLC3依存的EVプロテオームの両方で確認された。内在性SAFBおよびHNRNPKはEV画分でLC3-IIと共分布し (Fig. 5a)、LC3との共免疫沈降が確認された (Fig. 5b)。ATG7/ATG12欠損EVでは、LC3-II、HNRNPK、SAFBの全てが消失しており (EV総タンパク量正規化後)、これはEV産生量の減少とは独立した積荷特異的な欠損であった (Fig. 5f, g)。SAFBのLC3相互作用領域 (LIR) における変異 (F199A) はLC3結合を阻害し、SAFBのEV分泌を約70%抑制した (Fig. 5i, k)。また、ATG3欠損細胞 (n=3 replicates) でも同様にRBPのEV分泌が減少した (Extended Data Fig. 4e, f)。
LDELS経路による小非コードRNAのEV輸出制御とnSMase2/FANの関与: RNAシーケンシング (RNA-seq) 解析により、ATG7/ATG12欠損細胞のEVではマイクロRNA (miRNA) と小型核小体RNA (snoRNA) が著しく減少し (WT比)、大型RNAには変化がなかった (Fig. 6b, c)。特にsnoRNAはWT EVの小RNA配列の23%を占めた。LDELSによって制御されるEV小非コードRNAの76%がsnoRNAであった (Fig. 6f)。中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) 阻害剤であるGW4869処理により、LC3-II、SAFB、HNRNPKのEV分泌が約50%抑制された (Fig. 7a, c)。また、nSMase2活性関連因子 (FAN) のsiRNA処理も同様にこれらのRBPのEV分泌を抑制した (Fig. 7f)。FANはLC3アイソフォームと強力に相互作用し (Fig. 7e)、FANのLIR変異 (F602A) はLC3結合を損ない、LDELSのレスキューを不能にした (Fig. 7i, k)。これらの結果は、LC3結合機構がnSMase2およびFANのLC3依存的リクルートメントを介して、RBPおよびmiRNAやsnoRNAなどの小非コードRNAのEVへの積荷と細胞外放出を制御する「LC3依存的EV積荷・分泌 (LDELS)」経路の存在を強く示唆している。
考察/結論
本研究は、オートファジーのLC3結合機構がEVへのRNA結合タンパク質 (RBP) 積荷と分泌を選択的に制御する「LC3依存的EV積荷・分泌 (LDELS)」経路を確立した。この発見は、オートファジーとEV生物学の交差点に新規なパラダイムを提示するものである。
先行研究との違い: これまでのオートファジー研究では、LC3は主にリソソーム分解経路におけるカーゴ捕捉に焦点が当てられてきたが、本研究はLC3が古典的分解型オートファジー (ATG14依存的) と異なり、ATG7/ATG12依存的経路を介して多胞体 (MVB) の内腔小胞 (ILV) に誘導され、RBPや小非コードRNA (miRNA、snoRNA) のEV分泌を制御することを初めて実証した。これは、オートファジーが単なる分解経路であるという従来の認識と異なり、分泌機能においても重要な役割を果たすことを明確に示した点である。また、EVカーゴの選択的積荷メカニズムはこれまで不明な点が多かったが、本研究はLC3結合機構がその選択性を規定する主要な因子であることを示した。
新規性: 本研究で初めて、BioIDプロテオミクスにより、LC3依存的分泌標的として200個のタンパク質を同定し、その多くがRBPやEV関連タンパク質であることを明らかにした。また、タンデム質量タグ (TMT) 定量プロテオミクスにより815個のLC3結合依存的EV積荷タンパク質を特定し、特にSAFBやHNRNPKといったRBPがLC3と直接相互作用し、LC3-IIが濃縮されたEVとして分泌されるメカニズムを新規に解明した。さらに、このLDELS経路が中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) およびnSMase2活性関連因子 (FAN) のLC3依存的リクルートメントを介して、miRNAやsnoRNAなどの小非コードRNAのEVへの積荷と細胞外放出を制御することをこれまで報告されていない形で示した。FANのLC3相互作用領域 (LIR) 変異 (F602A) がLC3結合とLDELSを阻害することも新規な発見である。
臨床応用: 本知見は、EVを介した細胞間コミュニケーションにおけるRNAカーゴの選択的な放出メカニズムを解明する上で重要な臨床的意義を持つ。特に、血液などの体液中に存在する細胞外小非コードRNAの起源、制御、およびその液体生検への応用に関する理解を根本的に更新する可能性を秘めている。がんなどの病態においてLDELS活性が変化する機能的意義を解明することは、将来的に診断バイオマーカーの開発や臨床現場での新たな治療戦略の確立に直結する臨床応用が期待される。例えば、特定の疾患におけるEV中のRBPやsnoRNAのプロファイルをLDELS経路の活性指標として利用できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、LDELS経路がエンドソーム選別複合体 (ESCRT) 複合体やエンドソームマイクロオートファジーなどの他のEV形成経路とどのように相互作用するのか、その詳細なメカニズムを解明する必要がある。本研究ではCHMP4bのみがLC3取り込みに影響を与えたが、他のESCRT成分との関係性も今後の研究の重要な方向性である。また、LDELSによって分泌される特定のRBPや小非コードRNAが、標的細胞においてどのような機能的影響を与えるのか、in vivoでの検証が残されている。さらに、LDELS経路が様々な生理的・病理的条件下でどのように調節されるのか、その制御機構を明らかにすることも今後の研究の重要な方向性である。例えば、細胞ストレス応答におけるLDELSの役割や、特定の疾患における経路の活性化または抑制のメカニズムを解明することが課題として挙げられる。
方法
本研究では、LC3依存的EV積荷・分泌 (LDELS) 経路のメカニズムを解明するため、複数の定量的プロテオミクスおよびRNAシーケンシング (RNA-seq) 手法を組み合わせた。
まず、myc-BirA*-LC3を安定発現させたHEK293T細胞を用いて、プロキシミティ依存性ビオチン化 (BioID) 戦略を確立した。細胞を24時間50 µMのビオチンでパルスした後、条件培地 (CM) をトリクロロ酢酸 (TCA) 沈殿させ、Streptavidin-HRPおよび質量分析 (MS) を用いてビオチン標識分泌タンパク質を分析した。安定同位体標識アミノ酸培養法 (SILAC) 定量プロテオミクス (3独立生物学的複製) により、BirA*-LC3発現細胞とBirA発現細胞のCM分泌タンパク質における差を定量した (log2(H/L)比)。候補タンパク質は、log2(BirA-LC3/BirA*)比が有意に増加し、かつ2つ以上のペプチドが存在することを基準に選択された。MSデータはMaxquant (v1.5.1.2) を用いて解析され、Perseusで統計解析 (一標本Studentのt検定、p=0.05) が行われた。
細胞外小胞 (EV) の分離と特性評価には、差速遠心分離 (200gで細胞、2,000gで細胞残渣、10,000gで大型EV、100,000gで小型EVを回収) を用いた。さらに、密度勾配超遠心分離 (10-60%ショ糖勾配、210,000gで18時間) により、内在性LC3-IIのEVマーカー (CD63, CD81, CD9) との共分布を確認した。LC3-IIがEV内腔に存在することを確認するため、プロテアーゼプロテクションアッセイを実施した。LC3の多胞体 (MVB) 内腔小胞 (ILV) への局在を直接可視化するため、APEX-LC3組換えプローブと透過型電子顕微鏡 (TEM) を使用した。また、mCherry-Rab5Q79L過大エンドソームアッセイにより、ILVへのLC3取り込みを評価した。EVのサイズ分布と粒子数はナノ粒子トラッキング解析 (NTA) により測定された。
LC3結合経路の特異性を検討するため、オートファジー関連遺伝子 (ATG) 7、ATG12、ATG14欠損HEK293T細胞株をCRISPR-Cas9システムで作成し、これらの細胞におけるLC3およびRNA結合タンパク質 (RBP) のEV分泌を評価した。タンデム質量タグ (TMT) 定量プロテオミクス (4独立生物学的複製) により、野生型 (WT) とATG7/ATG12欠損EVのタンパク質組成を比較し、LC3結合依存的EV積荷タンパク質を同定した。TMTデータはMaxquant (v1.6.0.16) で解析され、Perseusで統計解析 (二標本t検定、p<0.05) が行われた。
RBPであるscaffold-attachment factor B (SAFB) およびheterogeneous nuclear ribonucleoprotein K (HNRNPK) とLC3の相互作用を、共免疫沈降およびEVでの共局在により確認した。SAFBのLC3相互作用領域 (LIR) における変異 (F199A) がLC3結合とEV分泌に与える影響を検討した。LDELS経路における中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) およびnSMase2活性関連因子 (FAN) の役割を評価するため、nSMase2阻害剤 (GW4869) 処理およびFANのsiRNAによるRBP分泌への影響を解析した。FANのLIR変異 (F602A) がLC3アイソフォームとの結合およびLDELSのレスキューに与える影響も評価した。
LDELS依存的なRNA輸出プロファイルを解析するため、WTとATG7/ATG12欠損EVおよび細胞から小型および大型RNAを抽出し、RNAシーケンシング (RNA-seq) (3独立生物学的複製) を実施した。小型RNAのリードはcutadapt (v2.3) でトリミング後、bowtie2 (v2.3) でヒト参照ゲノム (GRCh38/hg38) にマッピングされ、DESeq2で差次的発現解析が行われた。大型RNAはsalmon (v0.14) でヒトトランスクリプトーム (Gencode v28) にマッピングされ、TximportとDESeq2で解析された。データ解析には、PANTHER、STRING、Enrichr、Biovenn、Metascapeなどのバイオインフォマティクスツールを用いた。統計解析はPrism GraphPad 5ソフトウェアを使用し、一元配置分散分析 (ANOVA) とTukeyの事後検定、またはStudentのt検定が適用された。