- 著者: Charles P. Lai, Edward Y. Kim, Christian E. Badr, Ralph Weissleder, Thorsten R. Mempel, Bakhos A. Tannous, Xandra O. Breakefield
- Corresponding author: Charles P. Lai (drcplai@gmail.com) および Xandra O. Breakefield (breakefield@hms.harvard.edu), Department of Neurology and Radiology, Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 25967391
背景
細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) は、エクソソーム・微小小胞・アポトーシス小体を総称した細胞間コミュニケーションの媒介物であり、脂質・糖タンパク質・核酸を近傍または遠隔の受容細胞へ水平転送する (Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013)。特にEV内包mRNAの機能的移送は Valadi et al. NatCellBiol 2007 により初めて報告され、エクソソームを介するmRNA・miRNAの細胞間遺伝情報交換という新概念が提示された。その後、グリオブラストーマ由来の微小小胞がRNAとタンパク質を転送して腫瘍増殖を促進し、さらに診断バイオマーカーとしての可能性も示されたことで (Skog et al. NatCellBiol 2008)、EV動態の正確な可視化技術の重要性が急速に高まった。
しかし既存のEV標識技術には重大な制限があり、EV研究に必要な可視化ツールが決定的に不足していた。PKH67 (ポリケタール系長鎖脂肪族蛍光膜色素; Sigma-Aldrich PKH67) 等の脂溶性蛍光色素は、EV以外の脂質実体 (ミセルや他の膜断片) も同様に標識してしまい偽陽性シグナルの原因となる。加えて、in vivoにおけるPKH色素の半減期は5〜100日以上と報告されており、EV自体の半減期 (大部分の組織で30分未満) と大きく乖離するため、EVの時空間的動態評価を誤りうる。一方、CD63-GFP (CD63: EV表面テトラスパニン) のようなEV高発現タンパク質との融合型蛍光レポーターは特定のEVサブポピュレーションしか標識できない。さらに、EV内包RNAカーゴを供与細胞の転写から受容細胞への取り込みおよび翻訳まで一貫してリアルタイムで追跡する技術が著しく手薄であり、特に「EV取り込み後どれほど早く外来mRNAが翻訳されるのか」という基本的な問いを直接検証する手段が不足していた。EV取り込み後のmRNA翻訳ダイナミクスはほぼ未解明であり、in vivoにおける腫瘍内EV動態も生体内リアルタイム観察が不可能であったため不明であった。また、当時の研究の大部分は一方向性のEV転送にのみ着目し、異なる細胞集団間での双方向的EV交換については技術的限界から検討が不十分であった。
目的
複数のEVサブタイプを包括的かつ特異的に標識し、(1) 蛍光EV膜レポーター (PalmGFP/PalmtdTomato) によるEV放出・取り込み・双方向交換の生細胞リアルタイムイメージング、(2) MS2バクテリオファージコートタンパク質 (MS2CP) を用いたEV-RNAカーゴ可視化、(3) 蛍光・生物発光マルチプレックスによるEV取り込みとmRNA翻訳の同時時系列モニタリング、(4) 多光子生体内顕微鏡 (MP-IVM: multiphoton intravital microscopy) による腫瘍内EV in vivoダイナミクスの4システムを確立し、EV介在細胞間コミュニケーションの時空間的全体像を解明することを目的とする。
結果
PalmGFP/PalmtdTomatoによるEV膜の特異的標識と性状解析:
GAP43 (growth-associated protein 43) 由来のパルミトイル化コンセンサス配列 (アミノ酸配列: MLCCMRRTKQ; Cys残基を介した脂肪酸パルミチン酸のチオエステル結合でプラズマ膜に係留) をEGFP (enhanced GFP; PalmGFP) またはtdTomato (タンデムダイマーTomato; PalmtdTomato) のNH2末端に遺伝子的に融合させた蛍光レポーターを構築し、レンチウイルスベクターで293T細胞に安定導入した (Fig 1)。PalmGFPの発現により、293T-PalmGFP細胞の細胞膜が均一に標識され、細胞表面の出芽様構造や細胞突起、さらに細胞周囲に放出された様々なサイズのPalmGFP陽性EVが3D共焦点顕微鏡によってリアルタイムに観察された。
EVの特異性確認として、293T-PalmGFPおよび293T-PalmtdTomato細胞から分離したEVをスクロース密度勾配遠心分画に供すると、PalmGFPおよびPalmtdTomatoシグナルはいずれもエクソソーム/微小小胞マーカーであるAlix (95 kDa) が検出されるフラクション3〜5に特異的に集積した (Fig 1c, d)。透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた免疫金標識では、PalmGFP/PalmtdTomatoはEVの内腔ではなくEV膜上に標識されていることが確認された (Fig 1e, f)。ドットブロット解析により、両レポーターはEV内膜に優位に局在し、界面活性剤 (Tween-20; ポリソルベート20, 非イオン性界面活性剤, 0.1% v/v) 添加時のみ抗体が結合して検出されることが示された。この局在はEV表面プロテオームへの擾乱を最小化するという観点で有利である。
さらに、PalmtdTomato陽性EVは0.22μmおよび0.8μmフィルター通過後のサンプル双方から検出され、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis) により0.22μmフィルター通過サンプルは0.8μmフィルター通過サンプルに比べ粒子数が有意に少なかった (p<0.001, n=14 independent replicates, two-tailed t-test; p<0.05, n=6 independent replicates, NTA; Fig 2)。この結果は、PalmGFP/PalmtdTomatoが40〜100 nmのエクソソームから100〜1,000 nmの微小小胞に至る複数のEVサブタイプを包括的に標識できることを示す (Fig 2b–e)。
PKH67色素との比較:PalmtdTomatoのEV特異性の優位性:
PKH67 (細胞膜脂質二重層への脂肪族鎖挿入による染色; 非イオン性長鎖脂肪族蛍光色素) によるEV標識の特異性を評価したところ、EVを除去した培養培地 (EV-depleted medium, negative control) をPKH67で染色した際、293T-PalmtdTomato細胞由来のEVをPKH67染色した際よりも高いシグナルが検出された (p<0.05, repeated measures ANOVA followed by Tukey post hoc test, n=4 independent replicates; Fig 2f–h)。
この結果は、PKH67が細胞外空間に存在する他の脂質含有実体 (ミセル・膜断片等) を非特異的に標識し、EV超遠心分離操作においてこれら人工産物がEVペレットと共沈するため偽陽性シグナルが生じることを示している。また、PalmtdTomato陽性EVとPKH67非重複シグナルの小集団が観察されたが、これはPalmtdTomatoタンパク質がEVと共精製されたこと、または画像取得中のブラウン運動によるチャンネル間の空間的ずれによるアーティファクトと解釈された。さらに、PalmGFP陽性EVのin vitroでの半減期は受容細胞内で24時間未満であり、in vivoでは30分未満 (most tissues) であることが示された。PKH色素の半減期 (5〜100日以上) との乖離は、長時間後の蛍光シグナルをEVと誤認させる危険性を孕んでいる。
二方向性EV交換の可視化と高解像度in vivoイメージング:
差次的標識した2種の細胞 (293T-PalmtdTomato + 原発性グリオブラストーマ GBM 20/3-PalmGFP) を共培養し、共焦点顕微鏡でリアルタイムに観察したところ、PalmGFP陽性EV (GBM由来) が293T細胞内に、PalmtdTomato陽性EV (293T由来) がGBM細胞内に移入するという双方向性EV交換が直接可視化された (Fig 3a)。また、細胞から延長する最大60μm長、約200nm径の細い突起が両細胞種で観察され、一部の突起先端にEV様構造が認められた。これはナノチューブを介したEV放出という新たなメカニズムの示唆と解釈された。
293T-PalmGFP細胞にPalmtdTomato陽性EVを暴露したtime-lapse共焦点イメージング (18秒間隔, 0〜3分; 1分間隔, 3〜10分) では、EVの細胞膜への接着から内化まで1分以内に追跡でき、4μm以上の大型EV様構造 (オンコソームの可能性) も同レポーターで標識されることが示された (Fig 3b, c)。
腫瘍内EVのin vivo動態解析として、EL4-PalmGFP マウス胸腺腫細胞をC57BL/6マウスの背部皮膚チャンバー (DSFC: dorsal skinfold chamber) に移植し9日後に多光子生体内顕微鏡 (MP-IVM: multiphoton intravital microscopy; 赤外域の超短パルスレーザーで生体組織深部を非侵襲的に観察する顕微鏡法) で撮像した (Fig 5)。腫瘍内でのPalmGFP陽性小胞の密度分布は部位により大きく異なり、腫瘍実質と間質の境界 (T細胞や骨髄系抗原提示細胞が豊富な領域) で最も高密度のEVが観察されたのに対し、腫瘍中心部では低密度であった (Fig 5b, c)。サイズ300nm以下に精製したPalmGFP陽性EVを非蛍光EL4腫瘍に注射すると、60分後にDSFC内でEV取り込みが確認された (Fig 5f, g)。
MS2 RNAレポーター系によるEV内包mRNAの同時可視化:
EV膜とEV-RNAカーゴを同時可視化するため、PalmtdTomato転写産物の3’UTRにMS2 RNA結合配列 (24× repeats: MS24X) を挿入した構築物と、MS2コートタンパク質-GFP融合タンパク質 (MS2CP-GFP; MS2CP = bacteriophage MS2 coat protein, RNAと高親和性に結合するRNA結合ドメインを持つファージ外被タンパク質) に核局在シグナル (NLS: nuclear localization signal) を付加した構築物を共発現させた (Fig 4)。NLSにより未結合のMS2CP-GFPは核内に隔離されるため、EV内に移行したMS2CP-GFPはPalmtdTomato-MS24X mRNAと結合したものに限られ、バックグラウンドが低減される。
Gli36グリオーマ細胞でPalmtdTomato-MS24X + MS2CP-GFPを共発現させて分離したEVでは、PalmtdTomato (EV膜) とMS2CP-GFP (EV-mRNA複合体) の共局在が明確に確認されたのに対し、MS24Xタグなし (negative control) では共局在は観察されなかった (Fig 4c)。また、蛍光標識siGLO RISC-free siRNAを293T-PalmGFP細胞にトランスフェクションすることで外来核酸のEV内包も可視化され、顕微鏡の回折限界は200〜300nmと評価された。
EV取り込みおよびEV-mRNA翻訳の時系列ダイナミクス:
EV膜蛍光レポーター (PalmGFP) と生物発光EV膜レポーター (EV-GlucB: Gaussia luciferase B をEV膜に結合させた融合タンパク質) を組み合わせたデュアルレポーター系を用いて、EV取り込みとEV由来mRNA翻訳を平行してモニタリングした (Fig 6)。293T-PalmGFP/GlucB細胞由来EVをGli36-mCherry受容細胞に4℃遠心でドッキングさせた後、37℃インキュベーション下で時系列回収した。
フローサイトメトリー解析では、PalmGFP陽性EV取り込みは0〜3時間で増加し、3〜12時間で低下、12〜24時間でプラトーに達した (Fig 6b)。重要なことに、GlucB reporter assayによるEV由来mRNAの翻訳モニタリングにおいて、EVへの暴露後1時間という早期から GlucBシグナルの上昇が観察され、翻訳の開始がEV取り込みと同時的に起きることが実証された (Fig 6c)。GlucBシグナルは12時間でピークに達した後12〜24時間で低下し、この時系列はEV取り込み動態と直接相関した。タンパク質翻訳阻害剤シクロヘキシミド (CHX; 20μg/ml) 処理によりGlucBシグナルは一貫して有意に低下し、Click-iT HPG標識/フローサイトメトリーによりCHX処理が新生タンパク質合成を抑制することも確認された (Fig 6d)。この結果は、EV取り込みから1時間以内に受容細胞が外来mRNAを翻訳できることを直接証明しており、リポソームによるmRNA送達 (transfection後1時間以内に翻訳開始) と同等の迅速性を示す。
さらに、293T-EVsを処理した293T-NFkB-Gluc reporter細胞では24〜72時間後にNFkBシグナルが有意に上昇し、96時間後に低下した。EV由来RNAを単独でトランスフェクションしても、24〜72時間後に用量依存的なNFkB活性上昇が再現されたことから、EV-RNAそのものが受容細胞のNFkBシグナリング (炎症・腫瘍発生の主要メディエーター) を活性化できることが確認された。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本研究が開発したPalmGFP/PalmtdTomatoは、CD63-GFPのようなEV特異タンパク質融合型レポーターと異なり、エクソソーム・微小小胞・大型オンコソームを含む複数のEVサブタイプを生体膜のパルミトイル化機構を利用して包括的に標識できる点で本質的に優れている。CD63-GFPはテトラスパニンを介するエクソソーム経路に偏るため、微小小胞などの他サブタイプへの適用は制限される。これまでの研究の多くは一方向性のEV転送のみを解析していたが、本研究では差次的蛍光標識を用いることで、異なる細胞集団間の双方向的EV交換を中間精製ステップなしに直接可視化することに初めて成功した。また、PKH67色素の非特異性を定量的に示し、EV in vivo半減期との乖離も明確化した点は、EV研究の方法論上の重要な警鐘である。
② 新規性: 本研究で初めて実証されたことは、EV取り込み後わずか1時間以内に外来mRNAの翻訳が受容細胞内で開始するという翻訳ダイナミクスの直接的な時系列実証である。また、蛍光EV膜レポーターと生物発光EV-mRNA翻訳レポーターを多重化することで、1つの実験系内でEV取り込みとmRNA翻訳を同時にモニタリングするという新規な実験設計を確立した。さらに、MP-IVMとDSFCを組み合わせて腫瘍内EVの動態を生体内でリアルタイム可視化した点も新規であり、腫瘍辺縁 (実質-間質界面) でEV密度が最高となるという生物学的知見を得た。
③ 臨床応用: EV-RNA送達が1時間以内に受容細胞でのタンパク質産生に結びつくことは、EVをRNA治療薬 (siRNA・mRNA) の天然送達ビークルとして活用するための基礎的エビデンスとして重要な臨床的意義を持つ。EVはターゲッティング分子を表面に提示できること、および免疫原性が低い可能性があることから、合成ナノ粒子に代わる送達ベクターとして注目されている (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。本研究が示したEV-RNA→NFkB活性化の連鎖は、腫瘍微小環境におけるEVを介した免疫調節と炎症促進の機序としての臨床的含意もあり、EVを標的とする治療戦略の開発における標的バリデーションとして寄与する。
④ 残された課題: 今後の課題としては、受容細胞の種類によりどのEV取り込みメカニズム (エンドサイトーシス、膜融合、マクロピノサイトーシス等) が優位であるかを解明すること、EV内包RNAの中でNFkBを活性化する責任RNA種の同定、腫瘍辺縁に高密度のEVを取り込む非腫瘍細胞 (腫瘍浸潤免疫細胞等) の同定と機能的意義の解析、そして生体内条件下でのEV-mRNA翻訳動態の直接検証が挙げられる。また、ナノチューブ様細胞突起を介したEV放出メカニズムの詳細や、腫瘍細胞クローン間のEV交換が治療耐性・転移において果たす役割も今後の研究方向性として残されている。
方法
研究デザインと細胞系: 基礎研究 (in vitro機能実験 + マウスin vivo腫瘍モデル)。使用細胞: ヒト胎児腎臓293T細胞 (ATCC)、Gli36グリオーマ細胞 (UCLA提供)、原発性GBM 20/3細胞、EL4マウス胸腺腫細胞 (ATCC)。レポーター遺伝子はレンチウイルスベクター (CSCGW2ベクター、GAP43パルミトイル化配列融合) またはポリエチレンイミン (PEI) を用いてトランスフェクション/形質導入した。
EV分離 (ISEV2023準拠): EV depleted FBS含有培地で48時間コンディション後の培養上清を、300g × 10分 → 2,000g × 10分 (4°C) → 0.8μm (または0.22μm) フィルター通過 → 100,000g × 90分 (4°C) の差次遠心法で分離し、0.22μmフィルター滅菌PBSに再懸濁した (differential ultracentrifugation)。
EV特性解析: スクロース密度勾配遠心分画 (8-30-45-60% PBS, 232,500g × 30分) によるエクソソームマーカーAlix (95 kDa) との共沈確認 (Western blot);TEM免疫金標識 (抗GFP/抗dsRed抗体 + 5/10 nm protein A-gold; Tecnai G2 Spirit Bio TWIN);NTA (Imaris software);FACS (BD LSRII Multi-Laser Analyser)。
ライブイメージング: LSM510共焦点顕微鏡 (Zeiss、63× Plan-APOCHROMAT油浸 NA 1.4 または100× NA 1.46; 37°C, 5% CO2)。MP-IVM: C57BL/6マウスDSFC、腫瘍移植9日後に撮像 (10^6 EL4-PalmGFP細胞, 50μl HBSS)、ケタミン/キシラジン麻酔。
EV-RNA翻訳アッセイ: PalmGFP + GlucB共発現EVを293T細胞から分離後、Gli36-mCherry細胞に1,800 rpm (最大回転半径19.2 cm) × 90分 (4°C) でドッキング後、37°Cで0〜24時間インキュベーション。GlucBレポーターアッセイ: MLX Microtiter plate luminometerでcoelentrazine (8 ng/ml) を自動注入して発光測定。新生タンパク質合成は Click-iT HPG標識 (メチオニン非含有培地、30分) + Alexa Fluor 488 azide結合 + FACS定量。統計解析: two-tailed t-test (NTA, EV定量)、repeated measures ANOVA + Tukey post hoc test (PKH67比較)。