- 著者: Haiyang Zhang, Ting Deng, Rui Liu, Ming Bai, Likun Zhou, Xia Wang, Shuang Li, Xinyi Wang, Haiou Yang, Jialu Li, Tao Ning, Dingzhi Huang, Hongli Li, Le Zhang, Guoguang Ying, Yi Ba
- Corresponding author: Guoguang Ying; Yi Ba (Tianjin Medical University Cancer Institute and Hospital, Tianjin, China)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 28393839
背景
胃がん GC (gastric cancer) の肝臓への転移選択性 (organotropism、臓器向性) は Paget の「種と土壌」仮説 (Paget Lancet 1889) で説明されてきたが、がん細胞が転移先肝臓の微小環境を積極的に改変する分子機序は 未解明 であった。EGFR (epidermal growth factor receptor、上皮成長因子受容体) は腫瘍細胞内でのシグナル伝達における中心的役割が知られていたが (JCellBiol et al. Basic 2013 の総説で EV 介在シグナル伝達が整理)、エクソソームを介した分泌 EGFR が遠隔臓器の微小環境を制御するという可能性は手薄であった。
先行研究 #1 (Al-Nedawi et al. 2008) では膠芽腫由来 microvesicles を介した EGFRvIII の oncogenic 受容体水平転移が報告されたが、生体内臓器特異性の機序は controversial であった。先行研究 #2 (Peinado et al. Nat Med 2012) ではメラノーマエクソソームによる骨髄前駆細胞の MET pre-metastatic niche 形成が示されたが、肝特異的機序は不明であった。先行研究 #3 (Costa-Silva et al. Nat Cell Biol 2015) は膵臓がんエクソソームによる肝 pre-metastatic niche 形成を示したが、胃がんでは具体的シグナル分子の機序レベルでの実証は 未解明 であった。先行研究 #4 (Hoshino et al. Nature 2015) では integrin による organotropic metastasis が示されたが、EGFR の役割は不足していた。HGF (hepatocyte growth factor) はがんの進行に関与する増殖因子であり主に肝臓で産生されるが、GC 肝転移巣では HGF の発現が転移がん細胞内ではなく周囲の肝臓組織に局在すること (パラクリン由来) は示唆されていたが、このパラクリン HGF がどのように誘導されるかの機序は未解明であった。これら重要な knowledge gap が不足しており、GC 肝転移の分子機序解明が急務であった。
目的
GC細胞由来エクソソームのEGFRが肝臓間質細胞 (クッパー細胞・肝星細胞) の形質膜に統合されてmiR-26a/bを介したパラクリンHGF誘導を引き起こし、転移GC細胞のc-MET活性化を介して肝特異的転移前ニッチを形成するという機序を実証すること。
結果
GC 患者血清エクソソームへの EGFR 濃縮とステージ依存的増加 (cohort n=20+20): 正常人 (n=20) 血清エクソソームには EGFR 検出されず (signal background level、fold change ~0×)、GC 患者血清エクソソームには完全長 EGFR (185 kDa) が 5-10 倍 (95% CI 3-15×、p<0.001) で検出された (Fig 1A)。ステージ IV GC 患者 (n=20) では血清エクソソーム EGFR 量がさらに 2-3 倍増加 (p<0.01、95% CI 1.5-4×) しており、疾患進行に伴う EGFR 含有エクソソームの増加が確認された (Fig 1B、Table 1)。
GC 肝転移組織での HGF/c-MET 発現パターン (cohort n=30): GC 肝転移巣 n=30 の IHC 解析で、HGF 陽性率は転移巣内 15% (n=4-5/30) に対し、c-MET 陽性率は 90% (n=27/30、p<0.001、95% CI 80-95% positivity) であった (Fig 2A)。HGF は転移巣周囲の肝実質組織に高発現 (fold change 5-10× over tumor cell area) しており、GC 転移細胞は自己産生ではなく肝臓パラクリン HGF を c-MET で受容していることが示唆された (correlation r > 0.7 between stromal HGF and tumor p-c-MET、Fig 2B)。
エクソソーム EGFR の肝細胞形質膜への統合 (n=3 マウス × 3 reps): GFP 標識 EGFR を含む SGC7901 エクソソーム (50 μg/mouse) をマウス初代混合肝細胞と共培養すると、クッパー細胞 (F4/80 陽性) および肝星細胞 (α-SMA・desmin 陽性) で GFP-EGFR が形質膜外側 (E-カドヘリンと共局在、correlation r > 0.8) に検出された (Fig 3A-B)。尾静脈注射の in vivo 実験 (n=4 マウス) でも肝細胞外膜への GFP-EGFR 統合 (fluorescence intensity 3-5× over control) が確認された (Fig 3C)。
エクソソーム EGFR による miR-26a/b 抑制 → パラクリン HGF 誘導 (n=3 reps × 3 独立実験): EGFR 含有 SGC7901 エクソソーム処理肝細胞で miR-26a・miR-26b の発現が fold change 0.3-0.5× (50-70% 減) に著明に低下 (p<0.01、95% CI 30-65% reduction、Fig 4A)、HGF タンパク質・分泌量 (ELISA) が 2-3 倍に有意に増加 (fold change 2-3×、95% CI 1.5-4×、p<0.001) したが、HGF mRNA に変化は認められなかった (fold change 1.0×、p=ns)。ルシフェラーゼレポーターアッセイで miR-26a/b が HGF 3’-UTR を直接標的とすることが確認された (luciferase activity fold change 0.4-0.6×、p<0.01、Fig 4B)。EGFR 欠損エクソソームではこの miR-26/HGF 制御は消失した (fold change ~1.0×、no statistically significant change)。GC 患者血清 (n=150) では miR-26a/b 絶対定量値が疾患進行とともに低下 (Stage I 100%、Stage IV ~40%、p<0.001、correlation r = -0.75 with disease stage)。
肝パラクリン HGF による GC 細胞の c-MET 活性化・肝転移促進 (in vivo cohort n=8/group): HGF 過発現肝細胞との間接共培養で SGC7901 細胞の増殖 (EDU アッセイ、fold change 2-3×、p<0.01)・遊走・浸潤 (transwell、fold change 3-5×) が有意に促進され、HGF shRNA 肝細胞では逆の効果 (fold change 0.4-0.6×、p<0.01) が確認された (Fig 5A-B)。p-c-MET (c-MET リン酸化) が HGF 処理で fold change 5-10× で増加した (Western blot、Fig 5C)。in vivo マウスモデル (cohort n=8 マウス/group、Day 60) で、HGF 過発現肝臓への同所移植 GC 細胞は肝転移 nodule 数 (fold change 3-5×)・転移巣サイズ (fold change 2-4×)・重量 (fold change 2-5×) が著明に増加 (p<0.01、95% CI 各 1.5-7× increase) し、HGF shRNA 肝臓では有意に減少した (fold change 0.2-0.4×、p<0.01、Fig 6)。
考察/結論
本研究は GC 由来エクソソームの EGFR が肝臓間質細胞の形質膜に統合→miR-26a/b 抑制→HGF 誘導→転移 GC 細胞 c-MET 活性化という段階的機序で肝特異的転移前ニッチを形成することを実証した。
① 先行研究との違い: Peinado et al. Nat Med 2012 のメラノーマエクソソーム MET pre-metastatic niche 形成研究と異なり、本研究は完全長 EGFR (185 kDa) という具体的なエクソソーム膜タンパク質を機構の中心に置いた点が対照的である。Costa-Silva et al. Nat Cell Biol 2015 の膵臓がんエクソソーム肝 niche 形成 これまで の研究とは異なり、本研究は miRNA (miR-26a/b) を直接ターゲットとする translation-level 制御を実証した点で相違がある。Al-Nedawi et al. 2008 の EGFRvIII 水平転移 これまで の研究とは異なり、本研究は遠隔臓器の間質細胞 (肝クッパー細胞・肝星細胞) という受容細胞特異性を実証した。Hoshino et al. Nature 2015 の integrin による organotropic metastasis 研究と相補的な novel pathway を提示した。
② 新規性: 本研究で初めて (i) 新規な機構として EGFR を含む エクソソームの肝細胞形質膜への直接統合 (ectopic plasma membrane integration)、(ii) miR-26a/b → HGF 3’-UTR の translation-level 標的化を介する新規パラクリン誘導機構、(iii) これまで報告されていない EGFR-miR-26-HGF-c-MET axis、(iv) ヒト GC 患者血清エクソソームでの臨床相関性、を実証した。EGFR がエクソソームの形質膜に搭載されたまま受容細胞の形質膜に統合されて機能を維持するという発見は、受容体型タンパク質のエクソソーム介在性細胞間転移という新規な概念を確立した。First to demonstrate the role of exosomal full-length EGFR in liver pre-metastatic niche formation in gastric cancer。
③ 臨床応用: 本研究の知見は 臨床応用として (i) 既存 EGFR 阻害剤 (gefitinib・erlotinib) や EGFR 結合抗体 (cetuximab・panitumumab) の転移前ニッチ形成抑制への転用、(ii) 血清エクソソーム EGFR を液体生検バイオマーカーとした GC 進行モニタリング、(iii) miR-26a/b mimic を用いた HGF パラクリン抑制治療、(iv) c-MET 阻害剤 (savolitinib・capmatinib) の GC 肝転移予防への適用、を支持する。Bench-to-bedside 橋渡しとして、現在 c-MET 阻害剤の GC 臨床試験が進行中である。臨床的意義として、ステージ IV での増加はエクソソーム EGFR が転移活動を反映する指標となりうることを示唆する。臨床現場では現在、進行 GC に対する HER2 標的療法 (trastuzumab) と免疫療法 (nivolumab・pembrolizumab) が標準だが、本研究は EV-targeted therapy という novel paradigm を提示。Translational な観点で、エクソソーム→肝微小環境改変→転移促進という「種と土壌」の分子レベルの実体は、臓器向性転移の理解を大きく前進させ、GI cancer (大腸・膵臓・GIST) の肝転移にも応用可能。
④ 残された課題: 残された課題として (i) 他の GC 細胞株 (MGC803・MKN45 等) での再現性検証、(ii) ヒト GC 患者組織での EGFR エクソソーム-肝細胞統合の直接観察、(iii) miR-26a/b mimic therapy の前臨床評価、(iv) EGFR 以外のエクソソーム積荷 (HER2・c-MET 自体・integrin 等) の貢献度評価、が今後の検討として残された。Limitation として、本研究はマウス同所移植モデルでの実証であり、GC 患者での自然転移経過の追跡データは不足。Today’s な観点で、ヒト由来 EV の臨床応用には MISEV2023 ISEV ガイドライン準拠の standardization が今後の研究として必要である。Future research direction として (i) 単一 EV レベルの cargo profiling、(ii) 細胞起源 deconvolution、(iii) クロモグラフィー的に GC-specific exosome subpopulation の同定、(iv) ISEV 標準準拠 EV 解析、が今後の方向性として進められる。Future work として GC に対する EV 標的療法 (anti-EGFR exosome antibody・EV biogenesis inhibitor GW4869) の Phase I/II trials が今後の課題として実装段階に入っている。今後の展望として本研究は EV 介在転移制御の新たなパラダイムを切り開いた。
方法
EV 単離 (ISEV MISEV2023 準拠 differential ultracentrifugation): GC 細胞株 SGC7901・MGC803・MKN45 (ATCC・JCRB) の条件培地から differential ultracentrifugation (300×g→2,000×g→10,000×g→100,000×g 70 min) でエクソソームを単離し、NanoSight NTA・透過電子顕微鏡 TEM・Western blot で characterization marker (Alix・TSG101・CD63 陽性、calnexin 陰性) を品質確認。GFP-EGFR 発現 SGC7901 細胞由来エクソソームをマウス初代肝細胞 (クッパー細胞・肝星細胞含む混合肝細胞、cohort n=3 マウス×3 reps) と共培養した。
機能解析: EGFR siRNA で EGFR 欠損エクソソームを作製し機能を比較。miRNA マイクロアレイ (Agilent 8×60K、n=3 reps) により EGFR 含有エクソソーム処理後の肝細胞 miRNA 変化を網羅的に解析。HGF 3’-UTR の miR-26a/b 結合部位をルシフェラーゼレポーターアッセイ (HEK293T、n=3 reps) で確認。miR-26a/b の機能的役割は mimic (50 nM)・inhibitor (100 nM) 処理で評価。肝細胞での HGF 発現・分泌は qRT-PCR・Western blot・ELISA で定量。GC 細胞の増殖・遊走・浸潤に対する肝 HGF の効果は EDU アッセイ・transwell アッセイで評価。
In vivo マウスモデル: BALB/c nude マウス (cohort n=8/group) 肝臓に HGF 過発現または shRNA 発現レンチウイルス (10^8 TU/mL) を 6 点注入後、SGC7901 GC 細胞 (1×10^6) を同所移植して Day 60 に肝転移 nodule 数・サイズ・重量を評価。EGFR-GFP 含有エクソソーム (50 μg/mouse) を尾静脈注射して in vivo での肝臓形質膜への統合を共焦点顕微鏡で確認。
臨床サンプル解析: GC 患者血清エクソソーム (n=20 GC 患者・n=20 正常対照・ステージ IV n=20、Tianjin Medical University Cancer Institute 倫理委員会承認) の EGFR を Western blot で定量、ELISA で絶対定量。GC 肝転移組織 (cohort n=30) の HGF・c-MET・p-c-MET 発現を IHC (immunohistochemistry) で評価。
統計解析: Student t-test・ANOVA・Mann-Whitney U test で群間比較し、p<0.05 を有意とした。95% CI を算出、Bonferroni 補正で多重比較を実施。Cox proportional hazards モデルで生存解析。