- 著者: Zhijun Wang, So Yeon Kim, Wei Tu, Jieun Kim, Alexander Xu, Yoon Mee Yang, Michitaka Matsuda, Lien Reolizo, Takashi Tsuchiya, Sandrine Billet, Alexandra Gangi, Mazen Noureddin, Ben A. Falk, Sungjin Kim, Wei Fan, Mourad Tighiouart, Sungyong You, Michael S. Lewis, Stephen J. Pandol, Dolores Di Vizio, Akil Merchant, Edwin M. Posadas, Neil A. Bhowmick, Shelly C. Lu, Ekihiro Seki
- Corresponding author: Ekihiro Seki (Cedars-Sinai Medical Center)
- 雑誌: Cell Metabolism
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-05-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 37172577
背景
大腸がん (CRC: colorectal cancer) は世界第3位の悪性腫瘍であり、がん関連死亡の第2位を占め、年間約90万人が死亡している。肝臓は腸管と門脈で直結する解剖学的・代謝的特性から CRC 最多の転移臓器であり、CRC 患者の70%が肝転移を来たし主要死因となる。肥満および non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD) は CRC の重要なリスク因子で、疫学研究は脂肪肝が CRC 肝転移の発生と切除後局所再発を増加させ予後を悪化させることを示してきた (Hamady et al. Br J Surg 2013, Wu et al. Cancer Causes Control 2019, Lv et al. Front Oncol 2020)。脂肪肝は肝の炎症・免疫微小環境を変えて動物モデルでも転移性腫瘍増殖を増強する (Ohashi et al. Hepatology 2019) が、細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) を介した分子機構は未解明であった。EV は miRNA・脂質・タンパクなどの生理活性分子を含み、腫瘍のオルガノトロピズムや転移前ニッチ形成に重要な役割を果たすことが知られている (Hoshino et al. Nature 2015, Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015, Zhang et al. NatCommun 2017)。脂肪肝下での EV 産生は Rab27a などのタンパクで調節される (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010) が、従来の EV 研究はもっぱら原発腫瘍由来 EV が標的臓器に届く方向に集中しており、転移臓器 (肝臓) 自体の脂肪化が EV を介して転移促進的微小環境を形成するという逆向きの概念はこれまで手薄で検証されておらず、その分子メカニズム解明が残された課題であった。
目的
転移先臓器である脂肪肝の肝細胞が産生する EV が miRNA を介して CRC 細胞の YAP (Yes-associated protein) シグナルを活性化し、CYR61 (cysteine-rich angiogenic inducer 61) 分泌を起点とする免疫抑制的腫瘍微小環境 tumor microenvironment (TME) の形成を通じて CRC 肝転移を促進する、という仮説を、マウスモデルとヒト検体の双方から検証すること。EV 産生制御因子 (Rab27a)、機能的 EV 内容物 (miRNA)、下流シグナル (LATS2-YAP-CYR61)、免疫細胞応答 (M2-TAM・CD8 T 細胞) を一連の軸として統合的に解明することを狙いとした。
結果
脂肪肝による EV 産生増加と転移腫瘍増殖促進:HFD 飼育マウス (n=10/群) では血清 EV 粒子数が LFD 群に比べ有意に増加 (p<0.001) し、肝転移腫瘍の数および最大腫瘍径も有意に増大した (p<0.0001) (Fig 1A-1C)。NAFLD 患者血清 EV (n=11) は健常対照 (n=9) より多く、肝脂肪含量と正に相関した (p<0.001)。in vitro では HFD マウス血清 EV および NAFLD 患者 EV が MC38・HCT116 CRC 細胞のコロニー形成・遊走・浸潤を EV 非添加対照より増強し、PA 処理肝細胞由来 EV も同様に悪性形質を増強した (n=4/群) (Fig 1D-1F)。
Rab27a を介した EV 分泌が転移を駆動:HFD 肝臓では Rab27a mRNA・タンパクが他の調節因子 (Rab27b、Smpd3 (sphingomyelin phosphodiesterase 3)) より著明に増加し、NAFLD 患者肝でも RAB27A 発現が有意に上昇した (GEO: GSE126848、健常 n=26 vs NAFLD n=31、p<0.05) (Fig 1G-1I)。Rab27a の shRNA サイレンシングは HFD マウスで EV 産生と転移腫瘍増殖を有意に抑制したが LFD 群では無効で、脂肪肝特異的な依存性を示した (Fig 1J-1N)。逆に Rab27a 過剰発現と PA 処理肝細胞 EV の外因性投与は肝転移を増強し、別の CMT93 細胞でも再現された。
EV 内 miRNA が LATS2 抑制を介し YAP を活性化:5コホート共通の6種上昇 miRNA のうち miR-103・miR-25・miR-92a が肝細胞由来 EV の上位3 miRNA であった (Fig 2A)。これら mimic は CRC 細胞のコロニー形成・遊走・浸潤を増加させ (50 nM、n=4/群、p<0.001)、2〜3種同時阻害した EV では腫瘍形成効果が減弱した (Fig 2B-2E)。luciferase アッセイと3’UTR 変異体により3種 miRNA が LATS2 の3’UTR に直接結合して発現を抑制することが確認され (Fig 3D-3E)、その結果 MC38・HCT116 で核内 YAP が増加し phospho-YAP が減少した。3種 miRNA の複合阻害は LATS2 を回復させ YAP 核移行を減少させた (Fig 3F-3G)。
GSEA と YAP 標的遺伝子の脂肪肝特異的活性化:腫瘍 bulk RNA-seq の GSEA で HFD 腫瘍は YAP シグネチャーと oncogenic 遺伝子セット (epithelial-mesenchymal transition、cell cycle、angiogenesis、E2F・MYC ターゲット、TGFβ・KRAS シグナル) が有意に濃縮された (YAP Cordenonsi NES 1.68、P=0.005、FDR=0.006) (Fig 4A)。HFD 腫瘍では核内 YAP と標的遺伝子 (Ankrd1 (ankyrin repeat domain 1)、Axl、Ccn2、Ccn1 (cellular communication network factor 2 / 1)) が増加し LATS2 (Lats1 (large tumor suppressor kinase 1) は不変) が低下、HFD 群の LATS2 は LFD の0.54倍 (0.54-fold) に減少した。肝細胞 Rab27a サイレンシングはこの LATS2 低下と核内 YAP 増加を可逆的に是正した (Fig 4B-4F)。CRC 細胞での Yap1 (Yes-associated protein 1) ノックダウンは LFD・HFD いずれでも腫瘍増殖と oncogenic シグネチャーを低下させた (n=7-8/群) (Fig 4G-4J)。
CYR61 を介した免疫抑制的 TME の形成:YAP 標的の分泌型走化因子 CYR61 (Ccn1 遺伝子産物) は HFD 腫瘍で著明に上昇し、Yap1 サイレンシングは CYR61 発現と M2 腫瘍関連マクロファージ (M2-TAM: M2 tumor-associated macrophage) 浸潤を有意に減少させた (p<0.001) (Fig 5A-5D)。Ccn1 サイレンシングは肝マクロファージ遊走と M2 分極を in vitro で抑制し、in vivo でも HFD マウスの転移腫瘍増殖と M2-TAM 浸潤を有意に抑制したが LFD 群では無効であった (n=8-9/群) (Fig 5E-5H)。Ccn1 過剰発現は逆に腫瘍増殖と M2-TAM 浸潤を増加させた。
scRNA-seq・IMC による免疫微小環境の解像:CD45 陽性細胞15,141個の scRNA-seq で22クラスター (M1 系2・M2 系4・CD8 T 系2 を含む) を同定した (n=3/群)。M2-TAM 総数は HFD で不変だが M2a・M2b 様亜型が濃縮され、これらはほぼ scar-associated macrophage (SAM) および lipid-associated macrophage (LAM) であった。HFD 腫瘍の M2 亜型では Vegfa・Tgfb3 (transforming growth factor beta 3)・Il1b (interleukin 1 beta)・Havcr2 (TIM3)・Cd274 (cluster of differentiation 274, PD-L1)・Vsir (VISTA) が亜型特異的に増加し、PD1 陽性 CD8 T 細胞では Pdcd1lg2 (programmed cell death 1 ligand 2, PD-L2)・Ctla4・Lag3・Cxcr6 (chemokine receptor 6) が増加した。Yap1 サイレンシングはこれら免疫抑制遺伝子を低下させた (Fig 6A-6G)。脂肪肝合併 CRC 肝転移患者 (n=16) では非脂肪肝群 (n=18) に比べ核内 YAP (p<0.05)・CYR61 (p<0.05)・M2-TAM 蓄積が有意に上昇し、核内 YAP 陽性細胞数と CYR61 陽性面積が相関した (r=0.3935、p<0.05)。147,328個の免疫細胞を解析した IMC (steatosis n=13 vs 非 n=17) では M2-TAM・免疫チェックポイント分子 (PD-L1、galectin-9、TIM3) が NAFLD 群で濃縮され、空間解析で M2-TAM は YAP 陽性腫瘍に近接し CD8 T 細胞は遠位に分布した。背景因子は BMI 以外に有意差なく、TME の相違は脂肪肝に起因すると解釈された (Fig 7A-7J)。
考察/結論
先行研究との違い:従来の EV 研究は原発腫瘍由来 EV が標的臓器に到達して転移前ニッチを形成する方向性を扱ってきた (Peinado et al. NatMed 2012, Hoshino et al. Nature 2015, Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015)。本研究はこれまでの研究とは対照的に、転移臓器である肝臓自体の代謝異常 (脂肪肝) が EV シグナルを通じて転移促進的微小環境を作るという逆向きの軸を実証した点で既報と一線を画す。宿主肝細胞由来 EV が転移がん細胞に直接 miRNA を送達し、腫瘍内因性増殖と免疫逃避の両面を同時に駆動するという機構は、原発腫瘍 EV モデルでは説明できない新たな枠組みである。
新規性:EV-miRNA (miR-25/92a/103) → LATS2 抑制 → YAP 核活性化 → CYR61 分泌 → M2-TAM 動員 → 免疫抑制という分子カスケードが脂肪肝特異的に作動することを、本研究で初めて一連の軸として実証した点がnovelである。さらに M2-TAM が均一集団ではなく M2a・M2b など複数の様亜型に分かれ亜型ごとに異なるサイトカイン・免疫チェックポイント分子を発現することを scRNA-seq で示し、これまで報告されていない脂肪肝 TME の免疫抑制ネットワークの解像度を上げた。M2-TAM の主体が SAM/LAM である点も NAFLD 背景での転移に特有の新規な知見である。
臨床応用:成人の約25%が NAFLD を有しその有病率が増加し続ける現状を踏まえると、本研究の臨床的意義は大きい。脂肪肝合併 CRC 肝転移患者の層別化と個別化治療への臨床応用が期待され、同定された Rab27a・miR-25/92/103・YAP・CYR61・M2-TAM 軸は脂肪肝を背景とする肝転移に対する新たな治療標的候補となる。免疫チェックポイント阻害薬の効果が脂肪肝で減弱しうる点は、bench-to-bedside の橋渡しとして治療抵抗性の機序解明にも資する。
残された課題:本研究は脂肪肝由来 EV の肝臓内転移促進機能を示したが、原発巣を含む遠隔部位への影響は検討していない。IMC では NAFLD 患者の原発 CRC でも YAP 発現と TME 変化が示唆され、脂肪肝シグナルが原発がんの転移能に及ぼす影響は今後の検討課題である。脂肪組織や血球由来 EV の循環 EV プールへの寄与、miRNA 以外の脂質・タンパクなど他の EV 内容物の転移促進効果も今後の研究で明らかにする必要がある。M2-TAM・T 細胞の機能的役割についてはマクロファージ欠損マウスや免疫不全マウスを用いた実験的検証が更なる検討を要する limitation として残る。
方法
C57BL/6J 野生型マウスを low-fat diet (LFD) または high-fat diet (HFD) で6〜8週間飼育後、脾臓内に MC38 または CMT93 (mouse rectal carcinoma cell line) シンジェニック CRC 細胞を注入して肝転移モデルを確立した (n=8-10/群)。EV は培養上清および血清から ISEV ガイドライン準拠の示差超遠心 differential ultracentrifugation (低速遠心で細胞・デブリ除去後、100,000×g 超遠心) で単離し、CD9・CD63・TSG101 の EV マーカー陽性と肝細胞マーカーの存在を免疫ブロットで確認、粒径分布と粒子数は nanoparticle tracking 計測で定量した。EV 産生制御因子として Rab27a に着目し、アデノウイルス発現 short hairpin RNA (shRNA) で肝細胞特異的にサイレンシングした (GFP タグで標的細胞を検証)。脂肪蓄積モデルには遊離脂肪酸 palmitate (PA) 処理肝細胞 (マウス初代肝細胞・Huh7) を用いた。EV 内 miRNA は5コホート (ヒト血清・マウス血清・腫瘍担持マウス血清・初代肝細胞・PA 処理肝細胞) の定量的 miRNA PCR アレイで解析し、共通上昇 miRNA として miR-25・miR-92a・miR-103 を同定した。標的遺伝子は3種の in silico 予測アルゴリズム (TargetScan・miRDB・PicTar) と Gene Ontology・KEGG データベースの統合で絞り込み、luciferase レポーターアッセイと3’UTR 変異体 (mutagenesis) で LATS2 への直接結合を確認した。腫瘍の bulk RNA-seq で gene set enrichment analysis (GSEA) を行い、免疫細胞の single-cell RNA sequencing (scRNA-seq、22クラスター同定) と imaging mass cytometry (IMC、29タンパク質の空間的多重イメージング) を実施した。ヒト検体は NAFLD 有無の CRC 肝転移患者の組織 (免疫組織化学・tissue microarray) と血清を用い、両群の臨床背景因子を Table S2 で比較した。統計は two-tailed Student t-test、one-way ANOVA with Tukey post hoc、Mann-Whitney U test を用い、有意水準は p<0.05 とした。