- 著者: Qing Ji, Lihong Zhou, Hua Sui, Liu Yang, Xinnan Wu, Qing Song, Ru Jia, Ruixiao Li, Jian Sun, Ziyuan Wang, Ningning Liu, Yuanyuan Feng, Xiaoting Sun, Gang Cai, Yu Feng, Jianfeng Cai, Yihai Cao, Guoxiang Cai, Yan Wang, Qi Li
- Corresponding author: Guoxiang Cai (Department of Colorectal Surgery, Fudan University Shanghai Cancer Center, Shanghai, China); Yan Wang (Shuguang Hospital, Shanghai University of Traditional Chinese Medicine, Shanghai, China); Qi Li (同)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 32139701
背景
大腸がん (CRC) は世界的に最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、局所原発性疾患のCRC患者の5年生存率は約90%である。しかし、患者の約70.4%がリンパ節転移または遠隔転移を有し、12.5%の患者が診断時に遠隔転移を伴うことが報告されている。CRCの転移は術後の生存率に決定的な影響を与えるため、そのメカニズムの解明は極めて重要である。
「seed-and-soil (種と土壌)」仮説が提唱されて以来、腫瘍転移を支配するメカニズムの解明に向けて多くの進展があった。近年、原発腫瘍と遠隔転移部位との間に複雑なコミュニケーションメカニズムが存在することが明らかになってきている。炎症細胞、免疫細胞、肝細胞などが転移ニッチの形成に関与し、転移性腫瘍の増殖を支持することが知られている Peinado et al. NatRevCancer 2017。特に、腫瘍由来の細胞外小胞 (EVs) は、原発腫瘍と転移巣間の分子コミュニケーションを媒介する重要な役割を担うことが注目されている。EVsは、通常直径30-100 nmの小さな膜小胞であり、タンパク質、脂質、RNA、DNAなどの様々な機能性生体分子を含み、これらが受容細胞に水平伝達されることが示されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。EVs中のインテグリンα6β4およびαvβ5は、臓器特異的転移の予測マーカーとなることが報告されている Hoshino et al. Nature 2015。
Integrin beta-like 1 (ITGBL1) は、骨芽細胞cDNAライブラリーから最初にクローニングされ、特徴づけられたタンパク質である。これは10個のインテグリンEGF様繰り返しドメインを含むタンパク質をコードするが、RGD (Arg-Gly-Asp) 結合ドメインや膜貫通ドメインを持たないため、他のインテグリンとは異なる機能を持つ可能性が示唆されている。ITGBL1は、転移性骨がん細胞で過剰発現していることが報告されており、乳がん患者の骨転移を媒介することも報告されている。これらの先行研究は、ITGBL1ががん転移の発生に寄与する可能性を示唆している。しかし、CRCにおけるITGBL1を豊富に含むEVsの役割と分子メカニズム、特に前転移ニッチ形成におけるその機能はこれまで未解明であった。腫瘍由来EVsが間質細胞を教育し、転移を促進するという「腫瘍-間質クロストーク」の観点から、ITGBL1を介したEVsの役割は依然として知識ギャップが残されている。本研究では、CRCの転移におけるITGBL1を介したEVsの役割と、それが線維芽細胞を活性化して前転移ニッチを形成し、転移性腫瘍の増殖を促進するメカニズムを詳細に解明することを目指した。
目的
本研究の目的は、大腸がん (CRC) 原発腫瘍が放出するITGBL1を豊富に含む細胞外小胞 (EVs) が、遠隔臓器の線維芽細胞を活性化し、前転移ニッチを形成することで転移性腫瘍の増殖を促進する分子メカニズムを解明することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- CRC患者におけるITGBL1の発現レベルと臨床病理学的特徴、特に転移および予後との関連性を評価する。
- CRC患者の血漿EVs中のITGBL1レベルが、遠隔転移の有無や患者の予後と相関するかを検証する。
- ITGBL1の転写およびEVsへの積載が、Runt-related transcription factor 2 (RUNX2) によってどのように制御されるかを解明する。
- ITGBL1を豊富に含むEVsが、遠隔臓器(特に肺と肝臓)の線維芽細胞や肝星細胞を活性化し、炎症性サイトカインの産生を誘導することで前転移ニッチを形成するメカニズムを明らかにする。
- ITGBL1を介した線維芽細胞の活性化が、腫瘍壊死因子 (TNF) α誘導性タンパク質3 (TNFAIP3) を介したNFκBシグナル経路によって媒介されることを実証する。
- 活性化された線維芽細胞がCRC細胞の幹細胞性、悪性度、および上皮間葉転換 (EMT) を促進するメカニズムを解明する。
- これらの知見に基づき、EVs-ITGBL1-CAFs-TNFAIP3-NFκBシグナル軸が転移性疾患の治療標的となり得るかを考察する。
結果
本研究では、大腸がん (CRC) の転移におけるITGBL1を豊富に含む細胞外小胞 (EVs) の役割と、その分子メカニズムを詳細に解析した。
ITGBL1の高発現とCRC患者の予後不良との相関: RNAシーケンス解析により、ITGBL1が転移性CRCの原発腫瘍および転移部位において、対応する正常組織と比較して最も過剰発現している遺伝子の一つとして同定された (Fig. 1b)。124例のCRC患者組織を用いたリアルタイムPCR分析では、転移性CRC(n=46)におけるITGBL1 mRNAレベルは、非転移性CRC(n=78)および隣接正常組織と比較して有意に高かった (Fig. 1c, p<0.05)。Kaplan-Meier生存解析の結果、ITGBL1 mRNA発現レベルが低いCRC患者は、高い患者と比較して有意に優れた全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) を示した (Fig. 1d, e, p<0.05)。組織マイクロアレイ (TMA) を用いた免疫組織化学 (IHC) 染色でも、CRC腫瘍組織でITGBL1タンパク質が高発現しており、その高発現はOSおよびDFSの不良と逆相関することが確認された (Fig. 1f)。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA) データセット(n=467のCRC患者)の解析でも、ITGBL1 mRNAの高発現がOS不良と有意に相関することが示された (Supplementary Fig. 2a-c)。
患者血漿EVs中のITGBL1高値と遠隔転移の相関: 124例のCRC患者および32例の健常ボランティアから精製された血漿EVs(HSP70, CD63, CD9陽性、直径50-200 nm)のITGBL1レベルをELISAで定量した。その結果、CRC患者の血漿EVs中のITGBL1レベルは健常者と比較して有意に高く (Fig. 1j, p<0.01)、特に遠隔転移(肺転移n=11、肝転移n=35)を有する患者でさらに高値を示した (Fig. 1k)。血漿EVs中のITGBL1高値は、CRC患者のOSおよびDFS不良と有意に相関しており (Fig. 1l, m, p<0.05)、多変量Cox回帰分析により、ITGBL1 EVsレベルが遠隔転移とともに独立した予後不良因子であることが明らかになった (Supplementary Table 3)。
RUNX2によるITGBL1発現およびEVs分泌の転写制御: TCGAデータセットおよび本研究の124例のCRC患者データにおいて、ITGBL1と転写因子RUNX2のmRNA発現が強く共発現していることが示された (Fig. 2a, Pearson相関)。デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイにより、RUNX2がITGBL1プロモーター領域(-825/+36 bp)のRUNX2結合部位を介してITGBL1の転写を活性化することが確認され、この結合部位の変異は活性化効果を消失させた (Fig. 2b, c)。クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイにより、RUNX2がITGBL1プロモーターの当該領域に直接結合することが実証された (Fig. 2d)。RUNX2の過剰発現は細胞内ITGBL1 mRNAおよびタンパク質レベルを増加させ、EVs中のITGBL1量およびEVs総数を増加させた一方、RUNX2のノックダウンは逆の効果を示した (Fig. 2e-g, Fig. 2k)。具体的には、RUNX2過剰発現群ではEVs中のITGBL1量が対照群と比較して約2.5-fold増加した (p<0.01)。さらに、RUNX2は中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) をコードするSmpd3遺伝子のプロモーターも活性化し、セラミド依存的なEV分泌経路を制御していることが示唆された (Fig. 2l-n)。nSMase2の過剰発現またはノックダウンは、EVs中のITGBL1レベルおよびEVs総数に同様の影響を与えた (Fig. 2o, p)。セラミド生合成阻害剤GW4869の投与は、EVs中のITGBL1レベルを用量依存的に減少させ、10 μM GW4869処理群では対照群と比較してITGBL1レベルが約60%減少した (Fig. 2q, p<0.001)。これらの結果は、RUNX2がnSMase2を介したセラミド依存的な経路を介してITGBL1を積載したEVsの分泌を制御することを示している。
ITGBL1を豊富に含むEVsによる線維芽細胞・肝星細胞の活性化と前転移ニッチ形成: in vivoでのEVs分布解析では、CRC由来EVsは肝臓および肺に特異的に蓄積し、α-SMA陽性肝星細胞、筋線維芽細胞、S100A4陽性線維芽細胞、F4/80陽性マクロファージ細胞に選択的に取り込まれることが明らかになった (Fig. 3a, b)。正常結腸上皮細胞NCM-460由来EVsはこれらの細胞型に効率的に取り込まれなかった。ITGBL1を豊富に含むEVsで処理した線維芽細胞および肝星細胞では、IL-6, IL-8, IL-1β, TGFβ, α-SMA, CXCL12などの炎症性サイトカインおよび線維化マーカーのmRNAおよびタンパク質レベルが有意に増加した (Fig. 3c, d, p<0.05)。マウスの肝臓および肺において、ITGBL1を豊富に含むEVsの処置により、α-SMA陽性肝星細胞、筋線維芽細胞、フィブロネクチン (FN) 沈着、F4/80陽性マクロファージ、Ly6G陽性骨髄系細胞の増加が観察された (Fig. 3e, f)。これらの変化は、ITGBL1を豊富に含むEVsが肝臓および肺における前転移ニッチ形成を確立することを示唆している。
ITGBL1を豊富に含むEVsによる転移促進効果: ITGBL1を豊富に含むEVsで3週間前処置したマウス(n=6 mice/group)にHCT116 CRC細胞を静脈内注射すると、in vivoイメージングにより肺転移腫瘍の増殖が有意に促進されることが示された (Fig. 4a, p<0.05)。組織学的解析でも、ITGBL1を豊富に含むEVsが肺転移巣数を増加させることが確認された (Fig. 4b)。同様に、実験的肝転移モデルおよび直腸盲腸端移植オルソトピックモデルにおいても、ITGBL1を豊富に含むEVsが肝転移腫瘍の増殖を促進することが示された (Fig. 4c-f, p<0.05)。転移巣における免疫蛍光染色では、ITGBL1を豊富に含むEVsの処置によりα-SMA陽性のがん関連線維芽細胞 (CAFs) が増加していることが確認された (Fig. 4g)。これらのCAFsは、IL-6, IL-8, IL-1β, α-SMA, TGFβ, CXCL12などの高レベルのmRNAを発現していた (Fig. 4h-j)。
ITGBL1 EVsを介したTNFAIP3-NFκBシグナル経路による線維芽細胞活性化: ITGBL1を豊富に含むEVsで刺激した線維芽細胞において、TNFAIP3の発現上昇とNFκBのリン酸化亢進が確認された (Fig. 6g-j)。共免疫沈降 (Co-IP) と液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) の結果、TNFAIP3がITGBL1の直接的な結合パートナーであることが同定された (Fig. 6a-d)。免疫蛍光解析でもITGBL1とTNFAIP3の共局在が示された (Fig. 6e, f)。TNFAIP3のノックダウン (n=3 replicates) は、ITGBL1誘導性のNFκB活性化(IKKα/βのリン酸化およびp65のリン酸化)およびIL-6/IL-8産生を抑制し、転移促進効果を消失させた (Fig. 6g-k, p<0.01)。これらの結果は、ITGBL1-TNFAIP3-NFκBシグナル経路が線維芽細胞の活性化を媒介することを示している。
活性化線維芽細胞によるCRCの進行促進: ITGBL1を過剰発現させた線維芽細胞または肝星細胞は、IL-6およびIL-8の分泌を増加させた (Fig. 7a, b)。これらの細胞のコンディショニング培地 (CM) でHCT116細胞を処理すると、幹細胞関連遺伝子の発現が増加し、スフェロイド形成能が亢進した (Fig. 7c-f, p<0.05)。IL-6またはIL-8の中和抗体による阻害は、スフェロイド形成能の亢進を部分的に逆転させた (Fig. 7g, h)。CMで前処理したHCT116細胞をヌードマウスに皮下移植すると、腫瘍形成能が促進され、腫瘍体積が対照群と比較して約3-fold増加した (Fig. 7i, j, p<0.01)。さらに、CM処理によりHCT116細胞のEMT関連遺伝子(E-cadherinの減少、Vimentin, Snail, FNの増加)の発現が変化し、遊走能が亢進した (Fig. 8a-d)。in vivo実験では、CMで前処理したHCT116細胞は肺および肝臓への転移を促進し、肝転移腫瘍の増殖も加速させた (Fig. 8e-h, p<0.05)。
考察/結論
本研究は、大腸がん (CRC) の転移における新たな分子メカニズムを解明し、原発腫瘍と遠隔臓器の線維芽細胞との間の細胞外小胞 (EVs) を介したクロストークの重要性を明らかにした。
先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍細胞自律的な転移促進メカニズムや、EVs中のインテグリンが臓器特異的転移を決定することが報告されてきた Hoshino et al. Nature 2015。しかし、ITGBL1を豊富に含むEVsが遠隔臓器の線維芽細胞を活性化し、前転移ニッチを形成するという具体的なメカニズムはこれまで報告されていなかった。本研究は、腫瘍由来EVsが間質細胞を教育し、転移を促進するという「腫瘍-間質クロストーク」の新たなパラダイムを提供する点で、これまでの知見と異なる。特に、ITGBL1がインテグリンのEGF様繰り返しドメインを持つが、RGD結合ドメインや膜貫通ドメインを持たないため、その機能が他のインテグリンとは異なる可能性が示唆されており、本研究はその独自性を明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、CRC原発腫瘍がITGBL1を豊富に含むEVsを循環血中に放出し、これが遠隔臓器の線維芽細胞や肝星細胞を活性化することで、転移性腫瘍の増殖を促進する新規シグナル連鎖を確立した。この活性化は、TNFAIP3を介したNFκBシグナル経路を刺激し、IL-6やIL-8などの炎症性サイトカイン産生を誘導することで前転移ニッチを形成する。さらに、ITGBL1の転写およびEVsへの積載が、転写因子RUNX2とnSMase2を介したセラミド依存的な経路によって制御されることも新規に同定された。このEVs-ITGBL1-CAFs-TNFAIP3-NFκBシグナル軸は、CRC転移における重要な新規メカニズムである。
臨床応用: 本研究の知見は、CRCの転移性疾患に対する新たな診断および治療戦略の開発に臨床的意義を持つ。患者血漿EVs中のITGBL1レベルがCRC患者の独立予後不良因子であることが示されたことから、ITGBL1は液体生検バイオマーカーとして、転移リスクの層別化や治療効果のモニタリングに有用である可能性が期待される。また、RUNX2/nSMase2軸を介したITGBL1 EVs分泌の制御は、GW4869のようなEVs分泌阻害剤やITGBL1中和抗体を用いた前転移ニッチ形成の阻止が、転移性疾患の治療標的となり得ることを示唆する。このアプローチは、腫瘍細胞だけでなく、間質細胞を標的とすることで、より効果的な転移抑制に繋がる可能性がある。
残された課題: 本研究は免疫不全ヌードマウスモデルを用いており、Tリンパ球の欠損が腫瘍細胞の生着や増殖、転移に影響を与える可能性があるというlimitationがある。C57BL/6マウスを用いた実験では同様の結果が得られたものの、免疫担当マウスにおけるEVsの取り込み、融合、前転移ニッチ形成、および腫瘍転移増殖に対するITGBL1を豊富に含むEVsの正確な調節効果については、宿主免疫系の影響を考慮したさらなる検討が今後の課題である。また、ITGBL1とTNFAIP3の結合メカニズムの詳細な構造生物学的解析や、ITGBL1が他のインテグリンとどのように相互作用するか、あるいはしないかについても、さらなる研究が必要である。さらに、IL-6やIL-8以外のサイトカインや、EVsに含まれる他の分子が転移に与える影響についても、今後の研究で解明すべき点が残されている。
方法
本研究では、CRCの転移メカニズムを多角的に解析するため、臨床検体、細胞株、および動物モデルを用いた包括的な実験デザインを採用した。
臨床検体の収集と解析: 上海中医薬大学曙光病院および復旦大学上海がんセンターにて、2006年から2015年の間に収集された78例の非転移性CRC原発組織、46例の転移を伴うCRC原発組織および対応する転移組織(肝臓または肺)の合計124例のCRC患者組織を収集した。また、32例の健常ボランティアから血清サンプルを採取した。これらの組織および血漿サンプルは、RNAシーケンス、リアルタイムPCR、組織マイクロアレイ (TMA) を用いた免疫組織化学 (IHC) 染色、およびELISAによるEVs中のITGBL1定量に供された。Kaplan-Meier法による生存解析(全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS))と多変量Cox回帰分析を用いて、ITGBL1発現と患者予後との関連性を評価した。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA) データセット(467例のCRC)の解析も行った。
細胞外小胞 (EVs) の精製と特性評価: CRC患者の血漿および各種細胞株(HCT116, Caco2, LoVo, SW480, SW620, NCM-460)の培養上清から、順次超遠心法によりEVsを精製した。精製されたEVsは、電子顕微鏡、LM10ナノ粒子追跡システム (NTA) を用いてサイズと粒子数を評価し、ウェスタンブロット (WB) によりEVsマーカー(HSP70, CD63, CD9)の発現を確認した。ITGBL1のELISAキットを用いて、血漿EVs中のITGBL1濃度を定量した。EVsの定義には、Lötvall et al. (2014) のMinimal Experimental Requirements for Definition of Extracellular Vesicles (MISEV) ガイドラインを参照した。
遺伝子発現制御の解析: RNAシーケンス解析により、転移性CRCにおいてITGBL1が過剰発現している遺伝子の一つとして同定された。RUNX2によるITGBL1プロモーターの制御を調べるため、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ、クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイ、およびRUNX2のノックダウン (KD) または過剰発現 (OE) 実験を行った。RUNX2が中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) をコードするSmpd3遺伝子のプロモーターも活性化し、セラミド依存的なEV分泌経路を制御しているかを検証するため、同様のルシフェラーゼアッセイとKD/OE実験を行った。セラミド生合成阻害剤であるGW4869の投与により、ITGBL1 EVsの分泌が用量依存的に減少するかを評価した。
EVsのin vivo分布と細胞取り込み: DiR標識したCRC由来EVsをマウスに尾静脈注射し、蛍光イメージングにより肝臓、肺、脳、骨髄におけるEVsの分布を追跡した。免疫蛍光染色を用いて、肝臓および肺におけるα-SMA陽性肝星細胞、筋線維芽細胞、S100A4陽性線維芽細胞、F4/80陽性マクロファージ、CD31陽性内皮細胞へのEVsの取り込み効率を評価した。実験には6-8週齢の雌ヌードマウス (BALB/c) およびC57BL/6マウスを用いた。
前転移ニッチ形成と転移促進の評価: ITGBL1を豊富に含むEVsで前処置したマウス(3週間)に、ルシフェラーゼ標識したHCT116細胞を尾静脈または脾臓に注射し、in vivoイメージングおよび組織学的解析により肺および肝臓の転移腫瘍数を評価した。直腸盲腸端移植オルソトピックモデルも用いて、肝転移促進効果を検証した。
シグナル伝達経路の解析: ITGBL1を豊富に含むEVsで刺激した線維芽細胞および肝星細胞において、TNFAIP3の発現、NFκBのリン酸化、およびIL-6, IL-8, IL-1β, TGFβ, α-SMA, CXCL12などの炎症性サイトカインおよび線維化マーカーのmRNAおよびタンパク質レベルをqPCRおよびELISAで測定した。TNFAIP3のKDがNFκB活性化および炎症性サイトカイン産生に与える影響を評価し、転移促進効果が消失するかを検証した。共免疫沈降 (Co-IP) と液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) を組み合わせて、ITGBL1とTNFAIP3の直接的な結合を同定した。
活性化線維芽細胞によるCRC細胞への影響: ITGBL1を過剰発現させた線維芽細胞または肝星細胞のコンディショニング培地 (CM) を用いて、HCT116細胞の幹細胞性(スフェロイド形成能、幹細胞関連遺伝子発現)、上皮間葉転換 (EMT) 関連遺伝子発現、および遊走能をin vitroで評価した。IL-6またはIL-8中和抗体による阻害実験も行った。CMで前処理したHCT116細胞をヌードマウスに皮下移植または尾静脈/脾臓内注射し、腫瘍形成能および転移促進効果をin vivoで評価した。
統計解析: 統計解析にはSPSS 22.0およびGraphpad Prism 8.0を用いた。群間の差はt検定、Mann-Whitney U検定、または反復測定ANOVA検定で評価した。相関関係はPearson相関分析で解析した。OSおよびDFSはKaplan-Meier法とログランク検定で算出し、多変量Cox回帰モデルを用いて独立予後因子を特定した。p値が0.05未満を有意差ありとした。