• 著者: Linda Bojmar, Han Sang Kim, Gabriel C. Tobias, Fanny A. Pelissier Vatter, Serena Lucotti, Kofi Ennu Gyan, Candia M. Kenific, Zurong Wan, Kyung-A Kim, DooA Kim, Jonathan Hernandez, Virginia Pascual, Todd E. Heaton, Michael P. La Quaglia, David Kelsen, Tanya M. Trippett, David R. Jones, William R. Jarnagin, Irina R. Matei, Haiying Zhang, Ayuko Hoshino, David Lyden
  • Corresponding author: Haiying Zhang (Weill Cornell Medicine); Ayuko Hoshino (Tokyo Institute of Technology); David Lyden (Weill Cornell Medicine)
  • 雑誌: STAR protocols
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-12-22
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 33786456

背景

細胞外小胞・粒子 (EVP: extracellular vesicles and particles) は、エクソソーム、マイクロベシクル、エクソメアなど多様なサブポピュレーションを含む不均一な集団であり、腫瘍生物学、転移機構、バイオマーカー開発において急速に注目が高まっている。EVPは腫瘍細胞間のシグナル伝達、臓器特異的転移 (オルガノトロピズム)、免疫調節等において重要な役割を担うが、これらを機能的に研究するためには再現性の高い精製プロトコルが不可欠である。特に、エクソメアのような小型EVPの分離・解析は、その生物学的意義の解明において重要な課題となっている。

EVPは細胞株、組織、体液など多様なサンプルソースから単離されるが、それぞれのサンプル特性 (複雑性、組織構造、細胞外マトリックスの有無等) に応じた最適化されたプロトコルが求められる。特に、Hoshino et al. Cell 2020 で示されたEVPオルガノトロピズムの解析では、ヒト外科切除腫瘍組織から再現性よくEVPを精製する方法が技術的課題であった。従来の細胞株由来EVPプロトコルでは組織の複雑な構造を適切に扱えず、腫瘍マイクロ環境に存在する腫瘍間質細胞・浸潤免疫細胞由来のEVPを包括的に捕捉できなかった。このため、組織由来EVPの効率的かつ高純度な分離法が未確立であり、その生物学的役割の解明を妨げる知識ギャップが残されていた。

差次超遠心 (dUC: differential ultracentrifugation) 法はThery et al. JExtracellVesicles 2018 が規定する標準的EVP単離法の一つであり、「中程度回収・中程度特異性」に位置づけられる。化学物質を使用せずEVPの完全性を保てること、再現性が高いこと、特殊装置が不要であることから、多施設共同研究のゴールドスタンダードとして機能してきた。一方で、Zhang et al. NatCellBiol 2018 が開発した非対称フロー場フロー分画 (AF4: asymmetric-flow field-flow fractionation) によってエクソメア (<50 nm) を含む高解像度サブポピュレーション分離が可能となり、従来dUCのみでは分離困難であった粒子サイズ分画が実現した。しかし、これらの技術を多様な生体サンプルに適用し、特に組織由来EVPの収量を最大化するための統合的かつ標準化されたプロトコルは不足していた。

本プロトコルはWeill Cornell Medicine (WCM)、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)、延世大学 (YCC) 等の多機関共同で開発され、Hoshino et al. Cell 2020 の技術基盤として位置づけられる。

目的

本研究の目的は、ヒト・マウスの (1) 細胞株コンディション培地、(2) 外科切除腫瘍組織および正常隣接組織 (ヒト腫瘍組織を対象とした初のプロトコル)、(3) 血液・リンパ液・胆汁等の体液という3種類の主要サンプルソースに対応した差次超遠心 (dUC) ベースの統合EVP精製プロトコルを確立し、AF4による高解像度サブポピュレーション分画を含む包括的なワークフローを提供することである。特に、組織細切り化によるEVP収量改善効果を定量的に実証し、プロテオミクス等の下流解析に適したEVP調製の標準操作手順を提示することを目的とした。これにより、EVP研究の再現性と比較可能性を向上させ、EVPの生物学的機能解明およびバイオマーカー開発を促進することを目指した。

結果

細胞株別EVP収量ベンチマーク: 主要細胞株での典型的EVPタンパク質収量は以下の通りであった (Table 1)。T175フラスコで培養したMDA-MB-231 (n=2.0×10⁶細胞、25〜30 mL培地) から14.0 μg、MDA231-LM2-4175 (n=1.8×10⁶細胞) から17.0 μgのEVPタンパク質が得られた。また、150 mmディッシュで培養した4T1 (n=2.0×10⁶細胞) から50.0 μg、PANC-1 (n=8.3×10⁶細胞) から20.4 μg、AsPC-1 (n=9.0×10⁶細胞) から26.0 μgのEVPタンパク質が回収された。さらに、MDA-MB-231 (n=2×10⁶細胞・4日培養・25 mL培地) から約15 μg、マウスメラノーマB16-F10 (n=1.5×10⁶細胞・3日培養・15 mL培地) から35 μgというベースライン値が提供された。これらのデータは、細胞株の種類と培養条件によってEVP産生量が大きく異なることを示している。

組織細切り化によるEVP収量の大幅な改善: n=5匹のBALB/cマウスを用いた比較実験において、組織を2 mm角に細切りする工程が全組織タイプでEVPタンパク質収量 (BCAアッセイ) を有意に向上させた (Table 2)。代表的な改善幅は以下の通りである。マウス肺では11.1 ng/μLから209.8 ng/μLへと約19倍の増加を示した。マウス白色脂肪組織では0.2 ng/μLから1,299.6 ng/μLへと約6,500倍という劇的な増加が観察された。マウス脳では29.1 ng/μLから329.4 ng/μLへと約11倍、マウス肝臓では83.1 ng/μLから247.2 ng/μLへと約3倍の増加が認められた。ヒト大腸組織でも同様の改善が確認され、BCA収量は353.3 ng/μLから741.8 ng/μL (約2倍) へと増加し、NTA粒子数は1.3×10⁸ particles/mLから3.1×10⁸ particles/mL (約2.4倍) へと増加した (Figure 3A)。これらの結果は、組織細切り化が組織由来EVPの回収効率を大幅に改善する効果的な前処理であることを明確に示している。

EVP形態の維持と小型粒子収量の増加: NTAによる粒径分析では、細切り化の有無にかかわらず、全条件でEVPの平均粒径はほぼ同等であった (Table 2)。例えば、ヒト大腸組織では細切り化前が109 nm、細切り化後が107 nmであり、マウス肺では細切り化前が120 nm、細切り化後が115 nmであった。これは、細切り化がEVPの形態やサイズ分布に悪影響を与えないことを示唆している。TEMによる形態確認でも、正常肺および転移巣肺の両方において、細切り化後に良好な小胞構造が保持されていることが確認された (Figure 5B)。BCAによるタンパク質収量の増加がNTAによる粒子数増加よりも顕著であったことから、細切り化による収量改善はNTA検出限界以下 (<50 nm) の粒子 (エクソメア相当) の増加を多く含む可能性が示唆された。この知見は、組織細切り化が特に小型EVPサブポピュレーションの放出を促進することを示唆している。

AF4によるEVPサブポピュレーションの高解像度分離: B16F10細胞由来EVPのAF4分画プロファイルでは、エクソメア (Rh <50 nm)、小型エクソソーム (Exo-S)、大型エクソソーム (Exo-L) が時系列で明確に分離された (Figure 6A)。各分画のTEM画像では、対応するサイズの小胞・粒子形態が確認され、エクソメア分画では50 nm未満の粒子が、Exo-SおよびExo-L分画ではそれぞれ小型および大型のエクソソームが観察された (Figure 6B)。AF4はdUC法では分離困難であったエクソメアと各エクソソームサブポピュレーションの高解像度分離を実現し、EVPの不均一性を詳細に解析する能力を示した。

体液由来EVPの安定精製と収量: 血漿1 mLから数μg〜20 μgのEVPタンパク質が得られた。胆汁は血漿の約2倍のEVPタンパク質 (約1×10⁸ EVPs/mL) を含んでいた。体液由来EVPの収量は健康状態、がん病期、治療状況等に依存して変動するが、複数施設間での高い再現性が確認された。最低1 mLの体液量があれば、BCA、NTA、EM、プロテオミクスなどの下流解析に十分なEVP量が得られることが示された。これは、臨床検体からのEVPバイオマーカー探索において、実用的なサンプル量で解析が可能であることを意味する。

考察/結論

先行研究との違い: 本プロトコルは細胞株、組織、体液というすべての主要サンプルタイプに対応した統合EVP精製標準プロトコルとして確立された。特にヒト腫瘍組織由来EVP精製という新しいサンプルタイプに対応した初のプロトコルである点が先駆的意義を持ち、Hoshino et al. Cell 2020 の臓器特異的EVPオルガノトロピズム研究の技術基盤を提供した。本研究は、従来の単純な細胞株EVP精製プロトコルとは異なり、腫瘍組織・正常隣接組織の細切りexplant培養という新規サンプルソースに対応し、その細切り化によるEVP収量改善効果を定量的に実証した点で新規性がある。また、AF4との統合によりエクソメアを含む高解像度サブポピュレーション分離を可能にし、複数施設・複数サンプルタイプにわたる再現性を検証した点も、これまでのプロトコルにはない特徴である。

新規性: 本研究で初めて、組織を2 mm角に細切することで、特に小型EVPサブポピュレーションの放出が促進され、EVPタンパク質収量が大幅に増加することを示した。例えば、マウス肺組織ではEVPタンパク質収量が約19倍に増加し、マウス白色脂肪組織では約6,500倍の増加が観察された。この知見は、組織由来EVPの効率的な回収と、エクソメアのような小型粒子の研究を可能にする点で新規性が高い。

臨床応用: 本プロトコルは、ヒト外科切除腫瘍組織や体液からEVPを安定して高効率に分離できるため、がんの早期診断、予後予測、治療効果モニタリングのためのEVPバイオマーカー探索に大きく貢献する臨床的意義を持つ。特に、少量の体液 (最低1 mL) からも十分なEVP量が得られることは、臨床現場での液体生検への応用可能性を広げる。

残された課題: 本プロトコルの技術的限界として、(1) 組織細切り化によるEVPカーゴ変化の可能性 (組織生物学的変化が完全に除外できない)、(2) 患者間EVP収量変動の要因が複合的で標準化が困難、(3) 各超遠心機固有の性能差による収量変動 (可能な限り同一機器使用を推奨)、(4) 体液サンプルではリポタンパクやアルブミン等の共存汚染が不可避、が挙げられる。MISEV2018ガイドラインがdUCを「中程度回収・中程度特異性」と定義しているように、高純度解析には密度クッションやSEC (size-exclusion chromatography)、免疫親和性捕捉などの追加精製工程が必要となる。今後の検討課題として、患者内・患者間変動の系統的定量化、患者由来オルガノイドを用いたEVP単離への拡張、および臨床液体生検への応用に向けたさらなる精製法最適化が求められる。

方法

細胞株由来EVP精製 (培養時間: 3〜4日、精製時間: 3.5〜4時間) すべての細胞株はマイコプラズマ検査実施済みのものを使用した。EVP除去FBS (100,000×g、70分超遠心後0.2 μmフィルター、または市販品 Gibco A2720801 を使用可) を含有する培地で各細胞株を37°C・5% CO₂・3〜4日培養後、コンディション培地を回収した (典型的条件: T175フラスコまたは150 mmディッシュ、25〜30 mL培地、80%コンフルエントで回収)。細胞生存率は回収時にtrypan blue法または死細胞識別フローサイトメトリーで確認することを推奨した。CRITICAL: EVP除去FBSのロット間差異の影響を排除するため、比較試験では同一バッチを使用することとした。

組織由来EVP精製 (培養時間: 16〜18時間、精製時間: 3.5〜4時間) 外科切除組織 (腫瘍・隣接組織) をPBSで3回洗浄後、2 mm角 (概ね 2 mm³) に細切りした (6ウェルプレート最大10片・10 cmディッシュ最大15片)。血清フリーRPMI培地 (ペニシリン100 U/mL・ストレプトマイシン100 μg/mL) で16〜18時間のexplant培養 (37°C・5% CO₂) 後、培養上清を回収してEVP精製ステップへ進めた。組織重量による収量正規化を推奨した。CRITICAL: 1 ディッシュあたり15片を超えないこと (組織生存能維持のため)。n=5匹のBALB/cマウスから臓器を採取し、心臓左室への30 mL PBS/5 mM EDTA注入による灌流を実施し、血液由来汚染を排除した。ヒト組織はMemorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) およびYonsei Cancer Center (YCC) で外科的に治療された患者から取得し、倫理委員会承認 (IRB 11-033A, 16-774, 16-1514, and 15-015, MSKCC; IRB 0604008488, WCM; IRB 4-2019-0811, YCC) を得た。マウス実験はWeill Cornell Medicine animal protocol 0709-666Aに従い実施した。

体液 (血液・リンパ液・胆汁) 由来EVP精製 (処理時間: 4時間) EDTA管 (紫色) で採血し逐次遠心分離で前清澄化を実施した。具体的には500×g・10分 (血球・細胞除去) → 上清回収 → 3,000×g・20分 (血小板除去) → 12,000×g・20分 (アポトーシスボディ・大型小胞除去) を4°C下で実施した。CRITICAL: 遠心後ペレットを乱さず回収すること。溶血は414 nmのヘモグロビン吸光度ピーク消失を分光計で確認可能。最低1 mLの体液量があれば下流解析に十分なEVP量が得られることが示された。

dUC (differential ultracentrifugation) によるEVP精製 (共通最終ステップ) 逐次遠心で清澄化したサンプルを100,000×g・70分・10°Cで固定角ローター (Beckman Coulter 50.4Ti/70Ti/45Ti等) にて超遠心した。ペレット位置をチューブ底部にマーキングし、上清をデカントまたは注意深くピペットで除去。ペレットを500 μL冷PBSで再懸濁し、新しい超遠心チューブに移し、PBS (チューブサイズに応じた量) を加えて再度100,000×g・70分で洗浄・回収した。最終ペレットを100 μL PBSに再懸濁し-80°Cで保存した (NTA・TEM・BCA用に10 μLアリコートを確保)。CRITICAL: 超遠心チューブの正確な重量バランスが必須であり、不均衡はローター破損・実行失敗リスクがある。

蔗糖/重水素酸化物 (D₂O) 密度クッション精製 (オプション) 組織サンプル等の複雑サンプルで凝集物が多い場合、30%蔗糖/D₂O混合液 (密度1.210 g/cm³、pH 7.4) 上にEVP懸濁液を重層し100,000×g・70分・10°C超遠心することで純度向上が可能であった。ただし最大50%のタンパク質収量損失が予測されるため、収量が十分な場合にのみ適用した。

AF4 (asymmetric-flow field-flow fractionation) による高解像度EVPサブポピュレーション分画 (オプション) Eclipse AF4 (Wyatt Technology)、短チャンネル (144 mm)、10 kDa MWCO再生セルロース膜 (490 μmスペーサー) を使用した。EVP 40〜100 μgを0.4〜1.0 μg/μLに調整後注入した。AF4実行条件: フォワードチャネルフロー1 mL/min、フォーカス・注入・溶出の各ステップを実施し、クロスフローを0.5 mL/minから0 mL/minへの線形勾配 (45分) で溶出させた。リアルタイムQELS (動的光散乱)・MALS (多角度光散乱)・UV (280 nm) 検出によりサブポピュレーションをサイズに基づき分離した。0.5分間隔で96ウェルプレートに分画収集後、Amicon Ultra-15 (30 kDa MWCO) で濃縮した。

下流解析: TEM (透過型電子顕微鏡、形態・純度確認)、NTA (nanoparticle tracking analysis、粒径・粒子数)、BCA (bicinchoninic acid) アッセイ (タンパク質定量)、LC-MS/MSプロテオミクスに対応する標準プロトコルを適用した。統計解析には、群間比較にt検定またはMann-Whitney U検定を用い、p<0.05を有意とした。