• 著者: Jiahui Zhang, Cheng Ji, Hongbo Zhang, Hui Shi, Fei Mao, Hui Mao, Wenrong Xu, Dongqing Wang, Jianming Pan, Xinjian Fang, Hélder A. Santos, Xu Zhang
  • Corresponding author: Xu Zhang (xuzhang@ujs.edu.cn, Jiangsu University); Hélder A. Santos (h.a.santos@umcg.nl, University Medical Center Groningen); Xinjian Fang (lygfxj@126.com)
  • 雑誌: Science Advances
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-01-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35020437

背景

好中球は末梢血中で最も豊富な自然免疫細胞であり、ヒト血中の白血球の50〜70%を占める。これらの細胞は感染に対する第一防衛線として機能するだけでなく、直接的な腫瘍細胞傷害活性を有することが知られている。好中球は、活性酸素種 (ROS) や過酸化水素 (H2O2) の産生、抗体依存性細胞傷害 (ADCC)、Fas/FasL (Fas ligand) アポトーシスシグナル経路の活性化、グランザイム/パーフォリンを介した直接殺傷など、多様なメカニズムで腫瘍細胞を排除できることが報告されている Jaillon et al. NatRevCancer 2020。しかし、好中球の短い半減期と、好中球由来エクソソーム (N-Ex) の低収量が、この細胞系統を創薬研究に活用する上での主要な障壁となっており、N-Exの抗腫瘍能はほとんど未研究であった。特に、N-Exが腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する具体的なメカニズムについては、これまで詳細な検討が不足していた。

化学療法薬は臨床的に広く使用されているが、腫瘍標的能力の欠如と正常細胞への毒性が重大な課題である。エクソソームは、内因的な生体適合性、生体分解性、低免疫原性、宿主免疫系からの回避、物理的バリア透過性、および生産細胞の天然ターゲティング能といった有望な特性を備えており、薬物送達担体として注目されている Kalluri et al. Science 2020。例えば、M1偏極マクロファージ由来エクソソームはパクリタキセルを送達し、遊離薬物よりも高い抗腫瘍活性を示すことが報告されている (Wang et al. 2019)。さらに、押し出し法 (extrusion法) によってエクソソーム様ナノベシクル (NV) を高収量で作製できることが示されており、臨床スケールへの拡張が可能になりつつある (Jang et al. 2013)。これらの知見から、好中球の抗腫瘍活性とエクソソームベースの薬物送達を組み合わせることで、従来の化学療法を超える治療効果が期待されたが、好中球由来のNV (NNV) をがん治療に応用する可能性は未解明であった。特に、外部磁場を利用した能動的な腫瘍標的化と化学療法の相乗効果を、好中球由来のベシクルで実現するアプローチは、これまで十分に確立されていなかった。この領域には依然として知識のギャップが残されている。

目的

本研究は、好中球由来のエクソソーム (N-Ex) およびエクソソーム様ナノベシクル (NNV) を基盤とした、標的指向性のがん治療戦略を開発することを目的とする。具体的には以下の3つの主要目的を設定した。(1) 天然N-Exの腫瘍細胞に対する内因的な抗腫瘍活性、特にアポトーシス誘導メカニズムを系統的に検証する。(2) 好中球膜の押し出し法による高収量NNVの作製と、ドキソルビシン (DOX) を搭載した製剤 (NNV-DOX) の抗腫瘍効果を評価する。(3) 超常磁性酸化鉄ナノ粒子 (SPION) によるN-ExおよびNNVの表面修飾を通じて磁場誘導型腫瘍標的化を実現し、化学療法との相乗的抗腫瘍効果をin vitroおよびin vivoで実証する。最終的に、臨床応用可能なスケールで効率的かつ安全な薬物送達を実現する、二重標的化がん治療ナノプラットフォームの開発を目指す。

結果

N-Exの物理化学的特性と腫瘍細胞への取り込み: N-Exはナノ粒子トラッキング解析 (NTA) により平均径125±10 nm、動的光散乱法 (DLS) によりゼータ電位-26±1 mV、多分散指数 (PDI) <0.3という典型的なエクソソームの特性を示した (Fig. 1E-G)。透過型電子顕微鏡 (TEM) および原子間力顕微鏡 (AFM) により、典型的なカップ型エクソソーム形態が確認された (Fig. 1B-D)。ウェスタンブロットでは、エクソソームマーカーであるCD9、CD63、CD81、Alixが陽性であり、小胞体 (ER) マーカーのカルネキシンが陰性であったことから、エクソソームの純度が確認された (Fig. 1H)。DiR標識N-ExはHGC27、SW480、HepG2がん細胞に時間依存的に内在化され、腫瘍細胞への効率的な取り込みが示された (Fig. 1I, J)。

N-Exのin vitro選択的抗腫瘍活性: 40 μg/mLのN-Ex処置により、HGC27、SW480、HepG2の増殖が有意に抑制された (p<0.05) が、正常細胞 (GES-1、HUVEC、HFL) には有意な影響を示さなかった (Fig. 2A)。N-Exを除去したコンディション培地 (N-CM depleted of Ex) では増殖抑制効果が消失したことから、可溶性因子ではなくエクソソーム粒子自体が活性主体であることが確認された。フローサイトメトリーでは、N-Ex処置により腫瘍細胞で有意なアポトーシス増加が認められた (Fig. 2B, C)。JC-1染色でミトコンドリア膜電位の有意な変化が確認され (Fig. 2D)、ウェスタンブロットでcleaved caspase-3/7/9、cleaved PARP、シトクロムcの増加が検出された (Fig. 2E, F)。N-Exにはカーゴタンパク質としてFasL、グランザイムA、グランザイムB、パーフォリンが含まれることが確認され、これらの細胞傷害性タンパク質が腫瘍細胞アポトーシス誘導の実行因子と考えられた。PBMC由来エクソソーム (PBMC-Ex) との比較では、N-ExがHGC27増殖抑制において優れた効果を示した (fig. S9)。

N-Exのin vivo抗腫瘍効果と安全性: HGC27皮下腫瘍担荷マウス (n=5 mice) へのN-Ex静注投与 (5 mg/kg、4日毎7サイクル) により、PBS群と比較して有意な腫瘍増殖抑制が認められた (p<0.05) (Fig. 2G, H)。N-Ex処置群の平均腫瘍体積は500 mm³以下に維持された一方、PBS群では実験終了時に大幅な増大が観察された。Ki-67染色での腫瘍細胞増殖減少とTUNEL染色での腫瘍内アポトーシス細胞増加がin vivoでのアポトーシス誘導を確認した (fig. S11G-J)。DiR標識N-Exのin vivo分布は主に肝臓・脾臓への集積を示し、腫瘍への直接集積は弱かった (fig. S11B, C)。H&E染色では主要臓器 (心・肝・脾・肺・腎) に組織傷害所見なし、血清肝機能・腎機能・心筋障害マーカーもPBS群と有意差なく、全身毒性がないことが確認された (Fig. 2I)。

SPION修飾による磁場誘導型腫瘍標的化の向上: 超常磁性酸化鉄ナノ粒子 (SPION) で修飾したエクソソーム (SPION-Ex) はTEMで球状エクソソームが複数の超常磁性ナノ粒子に囲まれている形態を示し (Fig. 3B)、平均径140±11 nm、ゼータ電位-34±1 mV、PDI<0.3であった (Fig. 3C-E)。SPION-Ex/MF群では、N-ExまたはSPION-Ex (MFなし) と比較して細胞毒性が増強された (CCK-8、コロニー形成、アポトーシス率でいずれも有意差、p<0.01) (Fig. 4A-E)。5-FU (30 μg/mL) との比較においても、SPION-Ex/MFはより高い腫瘍細胞増殖抑制効果を示した。in vivoでは、SPION-Ex/MF処置群で腫瘍部位への選択的蓄積が72時間後に顕著であった (Fig. 5A, B)。SPION-Ex/MF群の平均生存日数は86日であり、PBS群45日、SPION群47日、5-FU群67日、N-Ex群61日、SPION-Ex (MFなし) 群59日と比較して最も長く (Fig. 5F)、またSPION-Ex/MF群の40%のマウスが試験終了時まで生存した。SPION-Ex/MF群では主要臓器への毒性も認められなかった (fig. S21, S22)。

SPION-NNV-DOXの抗腫瘍効果: 押し出し法により作製された好中球由来エクソソーム様ナノベシクル (NNV) は、N-Exと同様にHGC27細胞の増殖を用量依存的に抑制し、HUVECの生存には影響しなかった (fig. S25)。NNVは好中球膜特異的タンパク質 (CXCR4, ICAM-1, L-セレクチン, β1インテグリン) を保持していた (Fig. 6A, B)。ドキソルビシン (DOX) を搭載したNNV-DOXは、平均径230±10 nm、ゼータ電位-19±1 mVであった。SPIONで修飾したSPION-NNV-DOXは、外部磁場下 (SPION-NNV-DOX/MF) でHGC27細胞に対し、DOX単独やNNV単独よりも高い細胞毒性を示し、ミトコンドリア膜電位を最も顕著に低下させた (Fig. 6D)。HGC27皮下腫瘍モデルマウス (n=5 mice) において、SPION-NNV-DOX/MFは、DOX-CL、NNV、SPION-NNV-DOX (MFなし) と比較して最も強力な腫瘍増殖抑制効果を示した (Fig. 6F-H)。SPION-NNV-DOX/MF群の平均生存期間は140日であり、DOX-CL群65日、NNV群58日、SPION-NNV-DOX群82日と比較して大幅に延長された (Fig. 6I)。また、SPION-NNV-DOX/MF群では体重減少が認められず、主要臓器への毒性も低かった (Fig. 6J, fig. S31, S32)。DiR標識SPION-NNV-DOX/MFは、主に腫瘍部位に蓄積し、肝臓への蓄積は少なかった (Fig. 6K)。免疫不全NCGマウスのSW480異種移植モデル (n=7 mice) でも同様に、SPION-NNV-DOX/MFは他の治療群と比較して最も効率的な腫瘍増殖抑制とアポトーシス誘導を示した (Fig. 7C-I)。

考察/結論

好中球由来エクソソームの選択的抗腫瘍活性の発見: 本研究は、好中球由来エクソソーム (N-Ex) が内因的な細胞傷害性タンパク質 (FasL、グランザイムA/B、パーフォリン) を搭載し、これらを介してカスパーゼ経路を活性化することで腫瘍細胞に選択的アポトーシスを誘導できることを初めて体系的に実証した。N-Exの腫瘍選択的毒性 (正常細胞には影響なし) は、好中球が腫瘍微小環境に自然集積する性質に起因すると考えられ、天然の選択性を持つ治療担体としての可能性を示す。先行研究では好中球由来細胞外小胞 (EV) を関節炎や敗血症治療に用いた報告があったが (Headland et al. 2015, Gao et al. 2017)、がん治療への応用における系統的な検討は本研究が初めてである。

N-ExとSPION技術の融合による臨床スケール対応: 天然N-Exの収量問題 (培養上清500 mLあたり約20 μgタンパク質) という臨床適用の主要な障壁を、押し出し法によるNNV高収量作製で解決した。さらに、トランスフェリン (Tf)-トランスフェリン受容体 (TfR) 相互作用を利用した超常磁性酸化鉄ナノ粒子 (SPION) 表面修飾により、外部磁場による腫瘍部位への選択的集積というアクティブターゲティングを実現した。SPION-NNV-DOX群の平均生存86日 (対PBS群45日) という結果は、好中球EVベース薬物送達と物理的ターゲティングの組み合わせが従来の化学療法 (5-FU群67日) を上回る治療効果をもたらしうることを示す。これは、従来のドキソルビシン (DOX) 単独投与と比較して、腫瘍増殖をほぼ完全に抑制し、マウスの生存期間を大幅に延長した点で、これまで報告されていない新規な知見である。

臨床応用への展望: 本研究で開発されたSPION-NNV-DOXシステムは、高い生体適合性と低毒性を有し、従来の化学療法薬である5-FUや遊離DOXと比較して、主要臓器への毒性発現が著しく低いことが示された。このことは、本システムが将来的に臨床現場でのがん治療において、副作用の少ない効果的な治療選択肢となる可能性を強く示唆する。特に、外部磁場による標的化は、薬物の全身曝露を最小限に抑えつつ、腫瘍部位での薬物濃度を最大化できるため、治療効果の向上と副作用の軽減を両立させる上で臨床的意義が大きい。

残された課題と将来展望: 本研究のin vivoモデルは皮下異種移植モデルに限定されており、より臨床的に関連性の高い同所性移植や転移モデルでの有効性検証が今後の検討課題である。また、N-ExとNNVの製造プロセスのGMP (適正製造規範) への適合性、臨床バッチ間の均質性確保、長期保存安定性についても検討が必要である。磁場装置の腫瘍部位への臨床適用可能性 (特に深部腫瘍・内臓腫瘍) は課題であり、対象疾患の選定が重要である。さらに、好中球は免疫系を構成する細胞であり、N-ExがT細胞活性化や抗腫瘍免疫応答に与える影響についての検討も今後の重要な研究課題である。好中球の抗腫瘍 (N1型) 対促腫瘍 (N2型) の可塑性を考慮すると、腫瘍微小環境での好中球分極化状態とN-Exの抗腫瘍活性の相関も明らかにする必要がある。

方法

好中球の採取とN-Ex精製: 健常ドナーの末梢血から好中球 (PBN) を単離し、エクソソーム除去培地中で24時間培養した。培養上清 (N-CM) から超遠心分離と密度勾配遠心分離によってN-Exを精製した。精製N-Exの収量は、培養上清500 mLあたりタンパク質約20 μg (BCAアッセイ) であった。透過型電子顕微鏡 (TEM)、原子間力顕微鏡 (AFM)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、動的光散乱法 (DLS) を用いて物理化学的特性を解析し、ウェスタンブロット (CD9/CD63/CD81/Alix: エクソソームマーカー、カルネキシン: ERマーカー陰性コントロール) で純度を確認した。

in vitro細胞毒性試験: CCK-8アッセイで腫瘍細胞 (HGC27胃癌、SW480結腸癌、HepG2肝癌) と正常細胞 (GES-1胃上皮、HUVEC血管内皮、HFL線維芽細胞) に対するN-Ex (40 μg/mL) の細胞毒性を評価した。フローサイトメトリー (アネキシンV/PI二重染色)、JC-1染色 (ミトコンドリア膜電位)、ウェスタンブロット (cleaved caspase-3/7/9、cleaved PARP、シトクロムc) でアポトーシス経路活性化を評価した。N-ExのカーゴタンパクをウェスタンブロットでFasL、グランザイムA、グランザイムB、パーフォリンについて確認した。PBMC由来エクソソーム (PBMC-Ex) との比較も行った。

in vivo腫瘍モデル: BALB/c nudeマウス (n=5/群) の皮下にHGC27細胞を移植し、腫瘍体積が約50 mm³に達した時点でN-Exを静脈内投与 (5 mg/kg体重、100 μL、4日毎7サイクル) した。最終投与後3日 (Day 39) に主要臓器と腫瘍を回収してH&E染色、Ki-67、TUNEL染色を実施した。血清でALT/AST (肝機能)、BUN/CREA (腎機能)、CK/CK-MB/LDH/α-HBDH (心筋障害マーカー) を測定し、全身毒性を評価した。

SPION修飾N-ExとNNV-DOXの作製: トランスフェリン (Tf) で修飾した超常磁性酸化鉄ナノ粒子 (SPION) (Tf-SPION, 0.5 mg/mL) をN-CMと4°Cで4時間インキュベートし、外部磁場 (MF) 下で精製することでSPION-Exを作製した。NNVは好中球膜をポリカーボネート押し出し膜 (1 μm→400 nm→200 nm孔径) で逐次押し出して作製した。ドキソルビシン (DOX) はエレクトロポレーションでNNVに搭載し、SPIONを装飾してSPION-NNV-DOXとした。SPION-Exのin vitro細胞毒性をCCK-8、コロニー形成、フローサイトメトリー、JC-1、ウェスタンブロットで評価した。in vivoでの腫瘍標的化、治療効果、生存期間をHGC27異種移植モデル (n=4〜5 mice/群、6治療群: PBS/SPION/5-FU/N-Ex/SPION-Ex/SPION-Ex+MF) で評価した。さらに、SPION-NNV-DOXの抗腫瘍効果は、BALB/c nudeマウスおよび免疫不全NCGマウスのSW480細胞皮下異種移植モデル (n=7 mice/群) で評価し、DOX-CL、SPION-Ex、SPION-NNVとの比較を行った。統計解析には一元配置分散分析 (ANOVA) およびStudentのt検定、生存期間解析にはカプラン・マイヤー法とログランク検定を用いた。P値が0.05未満を有意差ありと判断した。