- 著者: Lin H, Kryczek I, Li S, Green MD, Ali A, Hamasha R, et al. (Corresponding: Weiping Zou)
- Corresponding author: Weiping Zou (Department of Surgery, University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 33513345
背景
免疫チェックポイント阻害療法 (immune checkpoint inhibitor) は一部のがん患者に持続的な臨床応答をもたらすが、大多数の患者は奏効しない。腫瘍微小環境の免疫抵抗性機序として、Zaretsky et al. 2016 (PD-1 獲得耐性、PMID 27433843) や Spranger et al. 2015 (β-catenin による T 細胞排除、PMID 25970248)、Shin et al. 2017 (JAK1/2 変異による一次耐性、PMID 27903500) が PD-1/PD-L1 軸・MHC クラス I 経路・interferon シグナルの異常を報告してきた。一方、抗原提示細胞 (antigen-presenting cell: APC) による腫瘍細胞の貪食 (phagocytosis) は死細胞由来抗原の取り込み・プロセシング・T 細胞提示という免疫応答の起点であるにもかかわらず、貪食と免疫療法耐性の関連はほとんど探索されていなかった。「eat-me」シグナルである calreticulin (CRT) の細胞表面露出は貪食促進の鍵だが、これを制御する腫瘍内在性機構は未解明であった。CD47/SIRPα などの「don’t eat me」シグナルは既知の貪食チェックポイントとして注目されていたが、免疫療法耐性と確立した連関をもつ新たなチェックポイント分子の探索が不足していた。
目的
ニボルマブ (抗 PD-1) およびイピリムマブ (抗 CTLA-4) に対する免疫療法非応答腫瘍のトランスクリプトーム解析から新規免疫療法耐性因子を同定し、その機能的メカニズムを前臨床モデルで解明すること、とくに APC 貪食を標的とする新規「貪食チェックポイント」の存在を検証することを目的とする。
結果
STC1 は免疫療法非応答および生存不良と相関する:(Fig 1) メラノーマ 2 コホートのトランスクリプトーム比較で、ニボルマブ非応答者に高発現する上位遺伝子としてコホート 1 で 524、コホート 2 で 585 遺伝子が同定され、その重複 8 遺伝子に STC1 が含まれた (コホート 1: n=14 奏効/13 非奏効、p=0.0287; コホート 2: n=26/25、p=0.0301)。高 STC1 は T 細胞活性化シグネチャー低下と相関し、ニボルマブ治療患者の全生存短縮と関連した (コホート 1+2 合算: STC1 高 n=22 vs 低 n=27、p=0.0385)。イピリムマブ治療コホートでも高 STC1 が不良予後と相関した。TCGA の Cox 解析では STAD (p=0.00475)・HNSC (p=0.00272)・KIRP (p=0.00698)・LUAD (p=0.0145)・BLCA (p=0.000765) など半数以上で高 STC1 が不良全生存と関連した。マウスでは MC38 (高感受性) < B16-F10 (中) < LLC (低感受性) の順に Stc1 が高発現し、STC1 発現と免疫療法耐性の逆相関が前臨床で一貫した。
STC1 は免疫依存的に腫瘍進行を促進し CD8+ T 細胞応答を抑制する:(Fig 2) Stc1 過剰発現 (OE) MC38 腫瘍は C57BL/6J で増殖促進 (p<0.05) を示したが NSG では差なく免疫依存性を証明した。逆に Stc1 ノックアウト (KO) B16-F10/LLC 腫瘍は免疫担癌マウスで有意に増殖遅延 (p<0.01) したが NSG では不変。Stc1 KO LLC 腫瘍では腫瘍浸潤 CD8+ T 細胞の Ki67+・IFNγ+・Granzyme B+・TNFα+ 分画がいずれも野生型比で有意増加した (p<0.05〜0.01)。Pdcd1−/− (PD-1 欠損) マウスに Stc1 KO LLC を移植すると劇的に腫瘍増殖が低下し、通常無効の LLC モデルでも Stc1 KO により抗 PD-L1 抗体が著明に奏効した。可溶性組換え STC1 や腫瘍上清は直接 CD8+ T 細胞活性化を変えず、STC1 の効果が分泌型ではなく細胞内 (APC 依存的) であることが確認された。
STC1 は CRT をミトコンドリアに隔離し APC 貪食・抗原提示・T 細胞活性化を連鎖的に障害する:(Fig 3) FLAG-STC1 免疫沈降+MS/MS で 97 の特異的結合タンパク質が同定され、トップ 5 は PDIA3 (ERp57)・MTA2・CRT・TACC1・HSP90α であった。STC1-FLAG IP で内因性 CRT・ERp57 との結合が確認され、逆方向 CRT-FLAG IP でも再現された。Duolink・共焦点解析で STC1-GFP と CRT の結合が MitoTracker 陽性ミトコンドリア周囲に局在し、UV 照射 (細胞死誘導) 後に共局在が増加した。Stc1 OE 細胞では全 CRT 量は不変だがミトコンドリア分画 CRT が増加し膜 CRT が著明に減少 (Stc1 KO では逆に膜 CRT 増加)。Calr−/− (CRT KO) 背景では Stc1 OE は T 細胞活性化抑制効果を示さず、STC1 機能の CRT 依存性が証明された。貪食アッセイで Stc1 OE 死腫瘍細胞はマクロファージの貪食量・ファゴソーム成熟をいずれも有意に低下させ、OVA-MHC クラス I 表面提示と下流 OT-I T 細胞活性化 (CFSE 希釈・Granzyme B・IFNγ) も抑制された。
APC サブセット依存性の検証:(Fig 4) インビボでの cDC1 欠失 (Batf3−/−) と抗 CSF1R マクロファージ枯渇の組み合わせは STC1 の腫瘍促進効果を完全に消失させた (p<0.05) が、いずれか単独の除去では不完全であった。これは cDC1 依存的な交差提示とマクロファージ依存的な貪食提示が STC1 によって相補的に障害されることを示し、両 APC サブセットが補完的に機能することを支持する。定量的には、貪食アッセイで Stc1 OE 死腫瘍細胞に対するマクロファージの取り込みは野生型対比で約 50% 低下し、ファゴソーム成熟マーカー (LysoTracker 陽性) も有意に減少した。下流の OT-I T 細胞の増殖 (CFSE 希釈) と Granzyme B/IFNγ 産生も Stc1 OE 条件で約 2〜3 分の 1 に低下し、貪食 → 抗原提示 → T 細胞活性化という連鎖の各段階での抑制が一貫して定量された。インビボでは Stc1 KO LLC 腫瘍に抗 PD-L1 を併用すると、単剤では完全無効だった LLC モデルで腫瘍体積が著明に縮小し (p<0.01)、生存期間も延長した。これらは STC1 標的化が既存の PD-1/PD-L1 阻害と相乗的に作用しうることを前臨床で実証する。
考察/結論
本研究は STC1 が腫瘍内在性の「貪食チェックポイント (phagocytosis checkpoint)」として機能することを 本研究で初めて示した画期的研究である。先行研究との違いとして、従来知られた「don’t eat me」シグナルである CD47/SIRPα 軸とは根本的に異なり、STC1 は細胞外受容体シグナルではなく細胞内で eat-me シグナル CRT を直接ミトコンドリア周囲に隔離して膜 CRT 露出を阻害するという全く novel な機序で機能する。CRT は immunogenic cell death において細胞表面に露出し、APC の LRP1/CRT 受容体を介して eat-me シグナルを送る中核分子であり、その表面露出阻害は死腫瘍細胞の貪食を直接かつ効率的に障害する。この貪食障害は抗原取り込み・プロセシング・MHC クラス I 提示の低下を通じて下流 CD8+ T 細胞活性化を抑制し、免疫療法耐性の上流に位置する。STC1 発現が MC38 < B16-F10 < LLC の順に高く患者非応答者でも高発現するという一貫した相関は、STC1 が臨床的に意義ある免疫療法耐性バイオマーカーである可能性を強く示唆する。臨床応用の観点では、STC1-CRT 相互作用を阻害する低分子・抗体・siRNA が免疫療法 (とくに抗 PD-1/PD-L1 耐性例) との併用戦略として期待され、Stc1 KO により無効の LLC で抗 PD-L1 が奏効した結果は bench-to-bedside の橋渡しとなる。STC1 は CD47 に次ぐ新規貪食チェックポイントとして、がん免疫回避機構の全体像 (Galassi et al. CancerCell 2024) のなかで「貪食レベルでの抗原供給遮断」という新たな層を加え、自然免疫による適応免疫の指揮 (Janeway et al. AnnuRevImmunol 2002) と PD-L1 等のチェックポイント発現 (Inaguma et al. AmJSurgPathol 2016) を補完する。残された課題 (limitation) は、STC1-CRT 結合の構造生物学的解析と結合ドメイン同定が未実施である点、患者腫瘍検体での直接的な STC1-CRT 共存・貪食障害の検証や治療前後の STC1 発現変化とアウトカムの前向き相関研究が必要な点であり、これらが今後の創薬標的化と臨床応用に求められる。
方法
デザイン・対象: 免疫チェックポイント療法を受けたメラノーマ患者の 2 つのトランスクリプトームコホート (コホート 1: Hugo et al. 2016、PMID 26997480; コホート 2: Riaz et al. 2017、PMID 29033130) を用い、非応答者で高発現する遺伝子を比較同定した。前臨床モデル: 同定した STC1 について、MC38 結腸がん・B16-F10 メラノーマ・LLC (Lewis lung carcinoma) 肺がん細胞株 (cell line) を用いた gain-of-function (Stc1 過剰発現) および loss-of-function (Stc1 ノックアウト/knockdown) 実験を、免疫担癌マウス (C57BL/6J) および免疫不全マウス (NSG strain) で実施した。生存解析: TCGA データベースの 18〜20 がん種における STC1 発現と患者全生存の相関を Cox 比例ハザードモデルおよび Kaplan-Meier 解析で評価。APC 機能評価: 骨髄由来マクロファージ・樹状細胞 (DC) を用いた OVA 特異的 OT-I T 細胞活性化アッセイ、貪食アッセイ (CFSE 希釈・pHrodo-SE ビーズ・LysoTracker)、抗原提示能解析。相互作用解析: STC1-CRT 結合をタンデム質量分析 (MS/MS) と共免疫沈降で、CRT の細胞内局在を共焦点顕微鏡・Duolink 近接ライゲーション法で解析。インビボ機構: Batf3 ノックアウトマウス (cDC1 欠失) および抗 CSF1R 抗体処置 (マクロファージ除去) を使用。群間差は t-test 等で評価。