• 著者: Inaguma S, Wang Z, Lasota J, Sarlomo-Rikala M, McCue PA, Ikeda H, Miettinen M
  • Corresponding author: Shingo Inaguma, MD (Laboratory of Pathology, National Cancer Institute, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: American Journal of Surgical Pathology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27158757

背景

PD-1/PD-L1 軸 (programmed cell death-1 / programmed cell death ligand-1) は末梢免疫応答の調節と自己免疫寛容の維持に不可欠な役割を担う。PD-1 (CD279) は CD28/CTLA-4 ファミリーに属する 288 アミノ酸残基の I 型膜タンパクであり (CTLA-4 と 28% の配列相同性)、主に活性化 T 細胞に発現する。PD-1 がリガンドに結合すると SHP-2 ホスファターゼを介して T 細胞活性化キナーゼを阻害する。Nishimura et al. 1999 (Immunity) は PD-1 欠損マウスが自己免疫疾患を自然発症することを示し、PD-1/PD-L 相互作用の自己寛容維持における役割を確立した。PD-L1 (B7-H1、CD274) と PD-L2 (B7-DC、CD273) は染色体 9p24 のゲノム領域に座位する B7 ファミリーの細胞表面糖タンパクで 37% の相同性を持ち、末梢では主に IFN-γ により誘導される。Dong et al. 2002 (Nat Med、PMID 12091876) はメラノーマ・卵巣がん・大腸がん・肺がんでの高 PD-L1 発現を初めて報告し、Parsa et al. 2007 (Nat Med、PMID 17159987) は PTEN 喪失が PD-L1 発現を誘導することを示した。しかし、希少な胚細胞腫瘍・間葉系腫瘍・血液リンパ系腫瘍を含む網羅的な PD-L1 IHC 解析は存在せず、抗 PD-1 抗体 (nivolumab/pembrolizumab) が NSCLC・腎細胞がん・ホジキンリンパ腫で承認されつつあった当時、奏効予測バイオマーカーとしての PD-L1 IHC の腫瘍種横断的参照データが著しく不足・未解明であった。とくに希少腫瘍での発現頻度と、MMR 状態・EBV 感染との関係は手薄なままだった。

目的

PD-L1 免疫組織化学の診断的有用性を腫瘍種横断的・包括的に評価し、PD-1/PD-L 免疫チェックポイント療法の潜在的候補となる新たな腫瘍型を同定すること、ならびに大腸がん・胃がんでの PD-L1 発現と MMR (mismatch repair) 状態・EBV (Epstein-Barr virus) 感染との関係を明らかにすることを目的とする。

結果

正常組織での生理的 PD-L1 発現:正常成人組織で最強の膜状 PD-L1 発現を示したのは胎盤トロホブラストであった。肺胞マクロファージ・リンパ組織樹状細胞・末梢神経 (シュワン細胞相当)・平滑筋・骨格筋で変動を伴う陽性が認められた一方、副腎・脳・腎・肝・肺・乳腺・膵・甲状腺などは陰性であった。10 週胎仔組織はトロホブラスト以外すべて陰性で、母体免疫回避 (fetomaternal tolerance) の生理的役割と一致する (Guleria et al. 2005 J Exp Med の PD-L1 欠損雌マウスで同種異系胎仔生存率低下の所見と整合)。

胚細胞腫瘍 — 絨毛癌とトロホブラスト成分での一貫した強発現:(Fig 1) 子宮絨毛癌 n=8 例全例 (100%) が PD-L1 強陽性 (膜染色、陽性細胞率 90〜100%、中央値 100%)。トロホブラスト成分を含む精巣混合型胚細胞腫瘍 n=8 例全例 (100%) でもトロホブラスト細胞に限局した発現 (陽性率 10〜100%、中央値 50%)。一方、精上皮腫 91 例・奇形腫 17 例では腫瘍細胞の発現を認めず、胎児性癌は 34 例中 1 例 (2.9%) のみ弱陽性で、PD-L1 がトロホブラスト分化マーカーとして補助活用しうることが示された。

リンパ造血系腫瘍 — 古典的ホジキンリンパ腫と ALCL での高率発現:(Fig 2) 古典的ホジキンリンパ腫 47 例中 45 例 (95.7%) が腫瘍性 Hodgkin-Reed-Sternberg 細胞に強発現 (陽性率中央値 80%)。EBER 陽性 14/47 例は全例陽性だが、EBER 陰性例でも 94% (31/33 例) が陽性で統計的相関はなく、9p24 領域 (JAK2・PD-L1・PD-L2 を含む) のゲノム増幅が EBER 非依存的発現の主要機序と示唆された (Green et al. 2010 Blood)。ALCL (anaplastic large cell lymphoma) 15 例中 13 例 (86.7%、陽性率中央値 100%) でも強発現し、ALK 発現との相関は示されず (ALK 陰性 ALCL の 9/10 例も強陽性)、NPM (nucleophosmin)/ALK-STAT3 軸以外の代替経路が示唆された。EBER 陽性 DLBCL (diffuse large B-cell lymphoma、びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫) 2 例で 100% 陽性 (Fisher p<0.05)、EBER 陰性 82 例では 15.9%。濾胞性・マントル細胞・辺縁帯・小リンパ球性リンパ腫は全例陰性。

上皮性腫瘍 — 胸腺腫・扁平上皮癌・消化管腺癌での特徴的分布:胸腺腫 33 例中 26 例 (78.8%、陽性率中央値 100%) が腫瘍上皮で強発現 (胸腺細胞は陰性)、胸腺癌は 16 例中 6 例 (37.5%) と低率。扁平上皮癌では舌/扁桃 (66.7/61.0%)・皮膚 (60.6%)・肺 (58.9%)・歯肉 (58.1%)・食道 (38.8%、最低値) の順。大腸腺癌 n=506 例では MMR 保持群 6.8% vs MMR 欠損群 44.7% (P<0.01、約 6.6 倍)、胃腺癌では MMR 保持群 12.1% vs MMR 欠損群 46.7% (P<0.01、約 3.9 倍)、かつ EBER (EBV-encoded small RNA) 陰性群 12.3% vs EBER 陽性群 45.5% (P<0.05) で、MMR 欠損と EBER 陽性は相互排他的に検出され TCGA 分類 (Bass et al. 2014 Nature、PMID 25079317) と整合した (Table 1–3)。肺腺癌 137 例中 30 例 (21.9%)・膵管癌 (15.6%)・胆管細胞癌 (14.6%)・子宮内膜腺癌 (13.0%) で陽性例あり、乳癌・卵巣癌・前立腺癌・肝細胞癌では 1〜6% と稀であった。

間葉系腫瘍 — シュワン腫での卓越した発現:(Fig 3) 末梢シュワン腫 n=65 例中 58 例 (89.2%、陽性率中央値 90%) が一貫した細胞質性発現を示し間葉系腫瘍中最高値 (TAI は陰性)。胃シュワン腫 6 例中 4 例 (66.7%) でも陽性。神経線維腫 (43.6%)・MPNST (悪性末梢神経鞘腫瘍、21.1%)・神経芽腫 (17.2%) でも陽性例あり。一方、孤立性線維性腫瘍 (0/27)・良性線維性組織球腫 (0/59)・傍神経束腫 (0/6)・conventional GIST (2.8%) はほぼ陰性で、鑑別診断パネルへの PD-L1 IHC 追加の有用性が示された。悪性黒色腫 78 例中 5 例 (6.4%)・SDH 欠損 GIST 55 例中 5 例 (9.1%) でも散在性陽性が確認された。

考察/結論

本研究は PD-L1 を対象とした当時最大規模 (5536 例) の腫瘍種横断的免疫組織化学解析として、4 つの臨床・診断的意義を提示した。第 1 に、絨毛癌とトロホブラスト成分での一貫した強発現は、再発・転移性絨毛癌を免疫チェックポイント療法の新規候補とすると同時に、病理診断上のトロホブラスト分化補助マーカーとしての活用可能性を示す。第 2 に、古典的ホジキンリンパ腫 (95.7%)・ALCL (86.7%) での高率発現は先行報告と一致し、EBER 陰性例でも 94% が陽性であることから 9p24 増幅が EBV 非依存の主要機序であることを支持する。先行研究との違いとして、メラノーマ・肺がんなど一部腫瘍に限定されていた従来の散発的報告とは対照的に、本研究は希少腫瘍 (絨毛癌・シュワン腫・ALCL) を含む網羅的な参照基盤を初めて提供した。第 3 に、本研究で初めてシュワン腫での高頻度発現 (89.2%) が系統的に示され、末梢神経の生理的 PD-L1 発現がシュワン腫で保持・亢進されるという novel な知見と、線維性腫瘍群との鑑別への診断的寄与が得られた。第 4 に、大腸・胃癌での MMR 欠損/EBV 陽性との正相関は TCGA 分類の 9p24 増幅知見を標準的 IHC で確認したもので、臨床応用としては MMR 状態・EBV 感染を PD-1/PD-L1 阻害療法の適応判断の補完的指標とでき、MSI-high 固形腫瘍への pembrolizumab の腫瘍種横断承認 (2017 年 FDA) の基礎的根拠と整合する (PD-L1 と免疫回避機構の全体像は Galassi et al. CancerCell 2024、PD-L1 を含む checkpoint の腫瘍内空間分布は Grout et al. CancerDiscov 2022 と接続する)。残された課題 (limitation) は、抗体クローン (E1L3N vs 28-8) や自動染色システムの違いによる結果乖離が胸腺腫で顕在化しており染色プロトコルの標準化が最重要課題である点、TAI の PD-L1 発現が腫瘍免疫回避に独立して寄与するかの検証が不十分な点、マルチタンブロック評価が腫瘍内異質性に対応できない点であり、今後の臨床試験での検証が期待される (POTE 等の cancer-testis antigen を含む腫瘍抗原発現解析 Bera et al. BiochemBiophysResCommun 2012 とも併せ、腫瘍特異抗原と免疫回避マーカーの統合的評価が望まれる)。

方法

デザイン・対象: National Cancer Institute (NCI) で蓄積された 5536 例の匿名化腫瘍検体 (胚細胞腫瘍・上皮性腫瘍・間葉系腫瘍・黒色腫/神経外胚葉系腫瘍・リンパ造血系腫瘍) および正常組織 (10 週胎仔を含む) を、各スライド 30〜70 検体のマルチタンブロック形式 (Miettinen 2012 既報プロトコル) で作製した横断的免疫組織化学研究。全腫瘍は組織学的・免疫組織化学的に詳細にキャラクタリゼーション済み。PD-L1 免疫染色: E1L3N rabbit monoclonal antibody (Cell Signaling Technology #13684、1:200) を主抗体とし、28-8 抗体 (Abcam ab205921、1:500) との比較で絨毛癌・ALCL・肺扁平上皮癌・胎盤トロホブラストにおいてほぼ同等の染色を確認 (E1L3N をバックグラウンドの低さで採用)。Leica Bond-Max 自動染色システム (Refine detection kit) を使用 (高 pH epitope retrieval 25 分→一次抗体 30 分→polymer 15 分→DAB chromogen 10 分→ヘマトキシリン対比染色 5 分)。判定: 陽性 cutoff は腫瘍細胞陽性率 5%、病理医 2 名 (SI・MM) の独立評価、胎盤トロホブラストと末梢神経を陽性コントロールとし、腫瘍細胞と腫瘍関連炎症細胞 (tumor-associated inflammatory cells: TAI) を独立評価。MMR・EBV 評価: MMR は MLH1/MSH2/MSH6/PMS2 の IHC、EBV は EBER (EBV-encoded small RNA) in situ hybridization (Bond Ready-to-Use ISH EBER Probe) で評価。統計: 群間比較は χ² 検定または Fisher 正確検定 (SPSS)。