• 著者: Shi Yue, Zheng Guo, Crystal Pan, Xueyuan A. Jing, Litao Tao, Tai Nguyen, Jiaqi Tang, Yanpui Chan, Humberto Contreras-Trujillo, Du Jiang, Xue Yan, Hang Xiang, Ravindra Majeti, Chao Zhang, Qi-Long Ying, et al.
  • Corresponding author: Qi-Long Ying (University of Southern California)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42320470

背景

キメラ抗原受容体 (CAR)-T細胞療法は血液悪性腫瘍において持続的な寛解を実現しているが、固形腫瘍では腫瘍浸潤の限界・免疫抑制性微小環境・局所集積の不足により有効性が制約されている。これらの課題を補完する細胞療法モダリティとして、マクロファージを中心とした骨髄系細胞が注目されてきた。CAR-マクロファージ (CAR-macrophage; CAR-M)は標的特異的な貪食活性を付加し、腫瘍微小環境のリモデリングや抗原処理・提示を通じた適応免疫の活性化を期待できる。Klichinsky et al. (Nat Biotechnol 2020)はヒトCAR-Mが腫瘍特異的な貪食と微小環境M1分極を誘導することを初めて報告したが、終末分化マクロファージを用いたCAR-M療法には3つの根本的制約が存在した: (1) ex vivoでの増殖能の乏しさによる製造スケールアップの困難さ、(2) レンチウイルスやプラスミドによる遺伝子導入効率の低さ、(3) 静脈内投与後の肺・肝臓・脾臓への優先的集積と腫瘍局所への限られた集積および短い生体内持続性。さらに、ドナー由来の終末分化マクロファージは上流の前駆細胞貯蔵庫を持たないため輸注後に骨髄系産生が補充されず、持続的な腫瘍浸潤細胞の供給が不可能であった。同種異系設定ではMHC不一致によりドナーのCAR発現細胞が宿主APCを介したT細胞プライミングを行えず、宿主抗腫瘍免疫の活性化が著しく制限されていた (Mitroulis et al. Cell 2018)。

Granulocyte-monocyte progenitor (GMP)は自然界では短命な系統拘束前駆細胞であり、安定した増殖プラットフォームとして利用された前例がなかった。Morrissey et al. (eLife 2018)が貪食を誘導するCARの概念を提示した後も、骨髄系前駆細胞を治療的スケールで長期クローン増殖させながら系統同一性と分化能を保持できる化学的定義条件は未解明であった。また同種異系環境でのCAR-M療法において宿主APCネットワークへの抗原引き渡しを可能にする分子設計が不足していたことが、従来の骨髄系細胞療法の有効性を制限する根本的な知識の欠如であった。

目的

(1) マウス・ヒトGMPを長期大規模にex vivoで増殖させ、前駆体同一性と多系統骨髄分化能を保持する化学的定義培地条件を開発すること。(2) 増殖GMPのin vivo生着・播種・機能的骨髄産生を検証すること。(3) CAR工学GMPの抗腫瘍有効性を血液がんおよび固形腫瘍モデルで評価すること。(4) IgG Fc ドメインを組み込んだ新規CAR-Fc設計により宿主Fc受容体陽性貪食細胞を動員し、MHC不一致環境での宿主T細胞活性化と同種異系抗腫瘍効果を増強すること。(5) SKL2001によるGMP増殖の分子機序をMyeloperoxidase (MPO)阻害と同定すること。

結果

SCF/2i条件によるマウスGMP (mGMP)の大規模クローン増殖: SCF (stem cell factor)、GDC-0879 (BRAFi; BRAF阻害薬)、SKL2001 (Wnt/β-catenin調節薬)から構成されるSCF/2i培地が、初代マウス骨髄細胞の対数増殖を>50日間持続させ、累積増殖量は約10^8倍 (理論細胞数~10^13) に達した (Figure 1A)。単細胞クローンも効率的に増殖し (Figure S1B)、正常核型を維持した (Figure S1C)。SCF/2iはHSC・共通骨髄系前駆細胞 (common myeloid progenitor, CMP)・GMPを支持したが、共通リンパ系前駆細胞 (common lymphoid progenitor, CLP)や成熟造血細胞は増殖しなかった。増殖細胞の>90%はLin⁻Sca1⁻CD48⁺c-Kit⁺FcγR⁺の免疫表現型を示し (Figure 1F)、scRNA-seqおよびATAC-seqではGMPシグネチャと一致した (Figures 1B-E)。コロニー形成アッセイでは SCF/2i-mGMPは192細胞あたり110±8.66コロニーを形成し、初代mGMPの96±5.57に対して遜色なく (Figure 1G、各n=3独立実験)、マクロファージ・顆粒球・好塩基球・好酸球への分化能も保持されていた。

ヒトGMP (hGMP)増殖のためのSCF/2i-IG最適化とゲノム安定性: SCF/2iはヒト前駆細胞には十分な増殖を誘導できなかった。SKL2001の構造活性相関研究によりTN2-30が同定され、SCF、GDC-0879、IL-3、G-CSFと組み合わせたSCF/2i-IG培地がcord blood CD34⁺CD38⁺CD45RA⁺細胞の大規模クローン増殖を実現した (Figure 2A-B)。28日間のSCF/2i-IG培養では、全ゲノム配列解析によりsomatic mutation burdenの増加や優性クローン形成の証拠は検出されなかった (Figures S2I-J)。scRNA-seqではcord blood・動員末梢血・骨髄由来の培養細胞いずれもGMPクラスターに収束し (Figures 2C-E)、フローサイトメトリーではLin⁻CD34⁺CD38⁺CD45RA⁺を維持した (Figure S2E)。

生体内生着と造血ニッチへの播種・骨髄産生の持続: NSGマウスにルシフェラーゼ標識hGMPまたはヒトマクロファージを静脈内投与して比較したところ、hGMPは多数の造血ニッチに局在し21日目付近でピークに達した後再分布して少なくとも180日間持続した (Figures 3A-B)。減衰コンポーネントの半減期はhGMPが150.81日、hGMP由来マクロファージが5.31日 (n=6/群)。同系マウスではmGMPが150日以上持続し (半減期142.28日)、輸注マクロファージは7日以内に消失した (半減期3.92日、n=6) (Figures 3C-D)。GFP標識mGMP移入の7日目に骨髄白血球の46.5%がドナー由来で、20.4%のGFP⁺細胞が増殖していた (Figure S3E)。CGD (慢性肉芽腫症)マウスモデルでは、SCF/2i mGMP輸注がS. aureus感染での肝臓膿瘍形成を著明に抑制し (Figure 3F)、脾臓重量を正常化し (Figure 3G)、生存率を改善した (n=10/群, Figure 3H)。B. cepacia感染でも血液中菌量を低下させ生存を改善した (Figure 3I-J)。

遺伝子工学効率とin vitro標的特異的CAR-M機能: ヒト・マウスマクロファージはレトロウイルス・レンチウイルス形質導入やプラスミド導入効率が低かったが、GMPはレンチウイルスで効率的に形質導入され (Figure 4A)、CRISPR-Cas9によるノックアウト、順次多重工学も可能であった。αCD19 CAR mGMP由来マクロファージはCD19⁺ B-ALL細胞を効率的に貪食し、抗CD47抗体併用でさらに増強された (Figures 4C-D、n=3)。αHER2 CAR mGMP由来マクロファージはHER2⁺ SK-BR-3細胞を特異的に貪食し、αCD19 CAR-Mとの相互特異性検証でもoff-target貪食は見られなかった (Figure 4F)。

CAR-hGMPによる白血病・固形腫瘍の生体内制御: NSGマウスのCD19⁺ B-ALL異種移植モデルでは、B-ALL生着21日後にαCD19 CAR-hGMPを投与したところ、治療群10例中6例が80日目以降も末梢血B-ALL最小限または非検出を維持し (Figure 5B)、6/10が80日超生存した一方で全対照マウスは38日目までに死亡した (Figure 5C)。HER2⁺ SKOV3卵巣がんモデルでは、αHER2 CAR-hGMPが腫瘍に優先的に集積し (Figure 5E, dual-luciferase)、観察期間を通じてほぼ完全な腫瘍増殖抑制 (n=8/群、Figure 5H-I) と有意な生存延長 (Figure 5J) を達成した。

CAR-Fc設計による宿主APC動員とMHC障壁を超えたT細胞活性化: 細胞外IgG1 Fcドメインを組み込んだCAR-Fcは、ドナーCAR-GMPマクロファージによるcis貪食を保ちつつ、宿主Fc受容体陽性貪食細胞によるtrans貪食を可能にした (Figure 6C)。BALB/c由来ドナーマクロファージとC57BL/6由来宿主マクロファージ・OT-II T細胞の混合培養 (MHCクラスII不一致)では、CAR-FcのみがOT-II T細胞の増殖 (CFSE希釈)およびIFN-γ・IL-2産生を誘導した (Figures 6D-F)。in vivoアロジェネイックA20リンパ腫モデル (BALB/c腫瘍、C57BL/6ドナーGMP移入) では、αCD19 CAR-Fc-GMP群の5/9が60日超生存 (CAR-Fc vs Null: p=0.002、CAR-Fc vs CAR: p=0.007; Figure 6I)。hHER2⁺ 4T1乳がんオルソトピックモデルでは、CAR-Fc群の腫瘍浸潤CD3⁺T細胞およびgranzyme B⁺T細胞密度が対照・CAR群より有意に高く (Figures 6N-O)、腫瘍量が有意に低く (CAR-Fc vs Null: p<0.0001、Figure 6P)、中央生存がコントロール比ほぼ2倍に延長した (CAR-Fc vs Null: p=0.0018、CAR-Fc vs CAR: p=0.0197; Figure 6Q)。

MPO阻害によるGMP増殖制御機構の解明: SKL2001の作用機序を解明するため、アルキンタグを持つ誘導体TN3-79を用いた親和性ベースプロテオミクスを実施したところ、Myeloperoxidase (MPO, ~81 kDa)が主要ターゲットとして同定された (Figure 7G)。MPOはHSC・CMP・GMPに発現するがGMPで最も高く (Figure 7H-I)、MPO⁻/⁻ GMPはSCF/2i非存在下で野生型GMPを上回る増殖優位性を示し、この優位性はSKL2001添加で消失した (Figure 7J)。構造的に無関係な2種のMPO阻害剤 (verdiperstatおよびmitiperstat)もmGMPおよびhGMPの持続対数増殖を支持した (Figures 7K-L)。Surface plasmon resonance (SPR)ではSKL2001がマウスMPOに可逆的に結合し (Figure 7M)、TN2-30がヒトMPOに結合することを確認 (Figure 7N)。in vitro APF (aminophenyl fluorescein)アッセイではSKL2001がマウスMPOのハロゲン化活性を直接阻害した (n=4; Figure 7O-P)。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでの骨髄系細胞療法は終末分化マクロファージを出発点としており、これと異なり本研究はGMPという上流前駆細胞を安定増殖プラットフォームとした。終末マクロファージが輸注後数日以内に消失し腫瘍への集積が限定的であるのに対照的に、GMPは140〜150日以上の半減期で生着し、ドナー由来骨髄産生の波を起こして腫瘍局所に豊富なマクロファージを持続供給した。また、これまで造血階層における持続的クローン増殖は幹細胞コンパートメントの属性とされてきたが、これまで報告されていない知見として、GMPという系統拘束前駆細胞においてもMPO・BRAFによる内在性プログラムを阻害することで長期増殖が可能であることを示した。

② 新規性: 本研究で初めて、GMPを治療的スケールで長期クローン増殖させながら前駆体同一性を保持できる化学的定義条件を確立した。さらに新規のCAR-Fc設計 (Zah et al. CancerImmunolRes 2016 が二重特異性CARで抗原逃避を防いだように抗原認識の拡張を追求したのと異なり)、宿主Fc受容体陽性貪食細胞を介してMHC不一致を超えた抗原提示とT細胞活性化を新規に可能にした点が際立っている。また、MPOをGMP増殖の負の制御因子として新規に同定したことは、骨髄系前駆細胞の増殖制御生物学に新たな知見を加えるものである。

③ 臨床応用: GMPプラットフォームは製造スケールアップの観点から臨床的意義を持つ。cord blood・動員末梢血・骨髄いずれの出発素材からも増殖が可能であり、ゲノム安定性が保たれ、ドナーを選ばないoff-the-shelf骨髄系細胞製剤への発展が期待される。CAR-Fc設計によるアロジェネイック設定での有効性向上は、MHC適合ドナーへの依存を減らす臨床応用の可能性を開く。また、CAR-T細胞と異なりGMP由来マクロファージの持続性が限定的であることは、on-target/off-tumor毒性リスクのある標的での安全性プロファイルにとって有利な特性となりうる。臨床的有用性の観点からは、化学療法・放射線・造血幹細胞移植後の一時的な骨髄機能不全に対するGMP輸注という応用も示唆される。

④ 残された課題: hGMPの有効性はNSG免疫不全マウスで検証されており、適応免疫や免疫記憶、alloimmune rejectionが存在する完全免疫適格ヒト環境での有効性・安全性の評価が今後の課題である。本研究はCD19・HER2の2標的に絞っており、他のCAR標的や腫瘍微小環境のコンテキストへの外挿には追加研究が必要である。GMPのin vivo増殖は宿主環境依存性が高く、同種異系ホストでは14日目以降に急速に減少した。MPOがGMP増殖のlifespan制限に関わる下流エフェクター機序、他の造血コンパートメントへの応用、長期安全性(大規模コホートでの希少な骨髄増殖性変化・組織炎症)については今後の検討が必要である。また、STC1など新規phagocytosis checkpoint (Lin et al. CancerCell 2021)がCAR-GMP療法の抗腫瘍活性に与える影響についても今後の重要な研究課題である。

方法

研究デザイン: in vitro/in vivoを組み合わせた基礎研究。マウスはC57BL/6J (syngeneic)およびBALB/c (allogeneic)、免疫不全マウスはNSGを使用。CGDモデルはp47phox欠損マウス。

mGMP増殖: C57BL/6J骨髄細胞をB7培地にSCF・GDC-0879 (1μM BRAF阻害剤)・SKL2001 (Wnt調節薬)添加条件(SCF/2i)で培養、3日ごとに継代。細胞数は各継代時にカウント (mean±SD, n=3)。

hGMP増殖: cord blood CD34⁺CD38⁺CD45RA⁺またはunfractionated成人骨髄・動員末梢血細胞をSCF/2i-IG (SCF + GDC-0879 + IL-3 + G-CSF + TN2-30)で培養。ゲノム安定性は全ゲノム配列解析 (28日間培養) で検証。

生着実験: NSGマウスは200 cGy X線照射後にルシフェラーゼ標識hGMP (5×10^6 cells/マウス) または macrophage投与 (n=6/群)。mGMPは500 cGy照射後に1×10^7 cells/マウス (n=6)。生体内分布はbioluminescence imagingで追跡。フローサイトメトリーで末梢血ドナー由来骨髄細胞を検出。

CAR構築と腫瘍実験: αCD19 CAR (CD3ζ/FcRγ/truncated CD19ドメイン含有) ・αHER2 CAR・CAR-Fcをレンチウイルス形質導入。in vitro貪食アッセイは共培養1時間後にフローサイトメトリー定量 (mean±SD, n=3)。B-ALL異種移植: NSGマウスにCD19⁺B-ALL生着後21日目にCAR-hGMP投与 (n=10/群)。SKOV3固形腫瘍: dual-luciferase (Fluc-腫瘍/Nluc-GMP) で直交追跡 (n=8/群)。アロジェネイック実験: A20リンパ腫 (BALB/c)・4T1乳がん (BALB/c) にC57BL/6由来CAR-GMPを投与 (n=9または10)。

MPO同定: TN3-79 (アルキンタグ付きSKL2001誘導体) によるABPP (affinity-based protein profiling)、SDS-PAGE銀染色、質量分析。競合培養アッセイ: Mpo⁻/⁻ vs 野生型mGMP 1:1混合、SKL2001±条件で細胞内MPO染色・フローサイトメトリーで組成追跡。SPRはBiacore法で可逆結合を測定。APF (aminophenyl fluorescein) アッセイでMPOハロゲン化活性を定量 (n=4)。

統計: 生存解析はKaplan-Meier法。p値はlog-rank検定またはノンパラメトリック検定 (詳細は各Figure legend参照)。データは特記なければmean±SD、独立実験3回。scRNA-seqはt-SNE/UMAPによりGMP同一性を確認。