Article data

  • 著者: Ioanna Keklikoglou, Chiara Cianciaruso, Esra Güç, Mario Leonardo Squadrito, Laura M. Spring, Simon Tazzyman, Lore Lambein, Amanda Poissonnier, Gino B. Ferraro, Caroline Baer, Antonino Cassará, Alan Guichard, M. Luisa Iruela-Arispe, Claire E. Lewis, Lisa M. Coussens, Aditya Bardia, Rakesh K. Jain, Jeffrey W. Pollard, Michele De Palma
  • Corresponding author: Ioanna Keklikoglou; Michele De Palma (Swiss Institute for Experimental Cancer Research, EPFL, Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2018-12-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30598531

背景

術前化学療法 (Neoadjuvant chemotherapy, NAC) は浸潤性乳がん患者に長期生存利益をもたらす標準治療だが、パクリタキセル (Paclitaxel, PTX) やドキソルビシン (Doxorubicin, DOX) 等の細胞障害性薬剤がマウス前臨床モデルで逆説的な転移促進効果をもたらすことが複数報告されていた。Volk-Draper CancerRes 2014 はPTXが肺血管内皮VEGFR-1発現を上昇させてがん細胞接着を促進することを示し、Karagiannis SciTranslMed 2017 はPTX・DOXがTIE2+マクロファージ介在の腫瘍細胞血管内浸潤 (intravasation) を促進することを実証した。一方でCosta-Silva NatCellBiol 2015 やHoshino Nature 2015 は腫瘍由来細胞外小胞 (Extracellular vesicle, EV) が肝・肺・骨等の特定臓器に転移前ニッチ (Pre-metastatic niche, PMN) を形成することを示し、EV積荷インテグリンが転移臓器指向性を規定することを報告していた。Qian Nature 2011 は炎症性Ly6C+CCR2+単球がCCL2 (C-C motif chemokine ligand 2) 依存性に乳がん肺転移を促進することを実証していた。しかし化学療法-EV-転移前ニッチの3者を結ぶ統一的機序、すなわち細胞障害ストレスがEV積荷組成を変化させて遠隔臓器の転移微小環境を変えるかは未検証であった。何が足りなかったかというと、(i) 化学療法がEV積荷の質的変化を引き起こすのか、(ii) どの分子がメディエーターとなり受容細胞でどのシグナルを活性化するのか、(iii) 乳がん患者NAC中の循環EVで同様の変化が観察されるのか、という3つの未解明領域があった。本研究はこのギャップを埋めるため、PTX・DOX投与下の乳がんモデルEVの肺転移ニッチ形成能をプロテオーム解析+機能阻害+ヒト検体検証の多層的アプローチで包括的に検証した。

目的

PTX・DOXがマウス乳がんモデルで腫瘍由来EVの肺転移促進能を増強するかを検証し、化学療法誘発EV中の転移促進分子・受容細胞シグナル経路・転移前ニッチ形成カスケードを同定して、ヒト乳がん患者NAC中の循環EVでの臨床的関連性を評価すること。

結果

所見1 PTX投与は乳がんモデルで原発抑制と肺転移促進の解離を示す: MMTV-PyMTマウスでPTX 10 mg/kg×3投与は対照CREMO群と比較して原発腫瘍重量に有意差を示さなかったが、自然発症肺転移結節数は中央値で約2-fold増加し統計的有意差を示した (p=0.02、n=12-14/群、Fig 1a-c)。4T1同所性モデルでもPTXは原発を約30%抑制したが肺転移面積を約2.5-fold増加させた (p=0.01、Fig 1d-f)。PTXを直接4T1細胞in vitroに添加した場合は逆に肺colonizationを抑制したため、転移促進は腫瘍細胞への直接作用ではなく宿主因子を介する間接的機序であることが示唆された (Fig 1g)。Zebrafish胚モデルでも患者マウスPTX-EVがMDA-MB-435細胞のCHA定着を約1.8-fold増加させ (p=0.03)、種を超えた保存性が示された。

所見2 化学療法誘発EVが肺PMNを形成して4T1肺colonizationを増強する: 健常BALB/cマウスにPTX-EV (約4×10^9 particles×2回、3日間隔) を尾静注した後に4T1-mCh 1×10^5細胞を尾静注すると、CREMO-EV対照群と比較して21日後の肺転移結節数が中央値で約2-fold増加した (p=0.01、n=8-14/群、Fig 2a-c)。DOX-EVでも同様の転移促進効果が観察され (Fig 2d-f)、MMTV-PyMT由来PTX-EVを用いた実験でも複数モデル間で再現性が確認された。EV枯渇上清対照では転移促進効果は消失したため、効果はEV特異的であることが立証された。

所見3 PTX-EVはANXA6に富む:LC-MS/MS同定とCa2+依存的積荷機序: 4T1由来PTX-EV vs CREMO-EVのLC-MS/MSプロテオーム解析 (n=3 biological replicates) で約1,400タンパク質を定量し、Volcano plot上でANXA6 (Annexin A6、Ca2+依存性膜結合タンパク質) がPTX-EVに最も顕著に過剰発現する候補として同定された (fold change=約4.5-fold、p=0.001未満、Fig 3a-b)。WBでANXA6がPTX-EV内腔に濃縮されること、Ca2+キレーターBAPTA-AM 50 μM処理でこの濃縮が完全に消失することからCa2+依存的なEV積荷機序が立証された (Fig 3c-d)。重要なことに、骨髄樹状細胞や胎児線維芽細胞などの非腫瘍細胞ではPTX/DOXによるANXA6 EV積荷増加は認められず、腫瘍細胞特異的応答であることが確認された (Fig 3e)。

所見4 ANXA6→NFκB→CCL2→Ly6C+CCR2+単球動員カスケードが肺PMN形成を駆動する: Anxa6 KO 4T1-mCh由来PTX-EVはAnxa6 WT EVと比較して肺colonization促進能が完全に消失し、対照CREMO-EV水準に戻った (p=0.005、Fig 4a-c)。肺内皮bEnd.3細胞でPTX-EVがANXA6をNFκB p65と近接させ (Duolink近接ライゲーション陽性スポット約3-fold増)、Ccl2 mRNAを約5-fold誘導 (p=0.001未満、qPCR)、CCL2タンパク質分泌をELISAで約4-fold上昇させた (Fig 4d-f)。Rela (p65) KO bEnd.3細胞ではPTX-EVによるCcl2誘導が完全消失し、Ccr2-/-宿主マウスでもPTX-EV誘発肺Ly6C+CCR2+炎症性単球動員 (flow cytometryで対照の約3-fold) および転移促進効果が完全消失した (p=0.001未満、Fig 4g-i)。

所見5 PTX誘発EV放出のRab27a依存性と臨床的ANXA6検出: Rab27a欠損4T1細胞では基礎的EV放出が約60%減少し、PTX誘発EV放出増加も有意に減衰した (p=0.01)。Taxane系PTXはRab27a-微小管相互作用を介してEV放出を増加させる一方、Anthracycline系DOXはEV放出を増加させずにANXA6積荷組成のみを変化させるという薬剤クラス特異的差異が確認された (Fig 5a-c)。NAC治療中乳がん患者 (n=20) の循環EVを治療前後でWBで解析した結果、PTX含有レジメン施行患者の治療後血漿EVでANXA6シグナルが治療前と比較して有意に上昇し、ヒト乳がんでの臨床的関連性が示された (Fig 5d-e)。

考察/結論

本研究はこれまで報告されていない化学療法-EV-転移前ニッチを結ぶ統一的機序、すなわち細胞障害性薬剤が腫瘍由来EV積荷を質的に変化させて肺転移前ニッチを「前条件付け」するという逆説的転移促進カスケードを初めて包括的に実証した。Volk-Draper CancerRes 2014 およびKaragiannis SciTranslMed 2017 が報告した化学療法-転移促進現象と異なり、本研究はEVをミディエーターとして同定し分子経路 (ANXA6→NFκB→CCL2→Ly6C+CCR2+単球) を線形的に解明した点で新規な機序解明となる。先行研究のCosta-Silva et al. NatCellBiol 2015 (膵がんEVのmacrophage migration inhibitory factorによる肝PMN形成) やHoshino et al. Nature 2015 (EVインテグリンによる転移臓器指向性) は腫瘍EVの転移ニッチ形成能を確立したが、本研究はこれと相違して「治療誘発EV」という新カテゴリを提示し、薬剤ストレス下での腫瘍適応戦略を初めて明らかにした。Qian Nature 2011 のCCL2-CCR2軸を介した乳がん転移機序と異なり、本研究はその上流にEV-NFκBという新たな入力経路を組み込んだ点で経路統合の新規性がある。臨床応用としては、(i) NAC中乳がん患者循環EVでのANXA6検出は転移リスクの新規バイオマーカー候補として臨床的意義があり (bench-to-bedside translational応用)、(ii) ANXA6・CCR2阻害剤を化学療法に併用する転移予防戦略の前臨床基盤を提示した (臨床応用)、(iii) Taxane系とAnthracycline系のEV放出機序差異はレジメン選択と転移リスク管理の臨床判断材料となる (臨床的有用性)。残された課題として、(i) ヒト乳がん患者でのANXA6+EV濃度と転移発症の前向きコホート研究 (limitation)、(ii) ANXA6阻害戦略の正常細胞副作用評価 (今後の検討)、(iii) 他のがん種・他の化学療法剤での汎用性検証 (今後の研究)、(iv) AldolaseやAl-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 (Al-Nedawi NatCellBiol 2008) との連携機序解明、という4つのlimitationが残っており今後の検討課題として明示された。本研究は化学療法時代におけるEV-PMN軸の重要性を確立し、その後の薬剤治療下でのEV研究の基盤となった。

方法

  • マウスモデル: MMTV-PyMT (FVB/n) 自然発症乳がんトランスジェニック、4T1・4T1-mCherry (CD9-mCh) 同所性接種をRag1-/-またはBALB/c野生型に皮下注射。PTX 10 mg/kg腹腔内 (×3回隔日) またはDOX 5 mg/kg静注 (×3回隔週) で処置、対照群はCREMO (溶媒)
  • EV単離 (ISEV2018相当の差速遠心法): 培養上清またはマウス血漿を300×g (10 min) → 2,000×g (15 min) → 16,500×g (45 min) → 0.22 μmフィルター → 100,000×g (90 min) で超遠心。NTA (Nanoparticle Tracking Analysis, NanoSight) で粒子径100-150 nm・濃度測定、TEM (Transmission Electron Microscopy) で形態確認、Western blot (WB) でCD9・CD81・syntenin-1陽性とcalnexin陰性を確認
  • 肺プレコンディショニングアッセイ: マウスにEV (約4×10^9 particles/回、3-4日間隔×2回) を静脈注射→4日後に4T1-mCh 1×10^5細胞を尾静注→21日後肺転移結節をH&E染色とex vivo蛍光イメージングで定量
  • プロテオーム解析: 4T1由来PTX-EV vs CREMO-EVのLC-MS/MS (label-free quantification)、非監視クラスタリング (PCA・Volcano plot) で差次的発現タンパク質同定
  • ANXA6機能解析: CRISPR-Cas9でAnxa6-KO 4T1-mCh細胞作製 (sgRNA × 2)、Ca2+キレーターBAPTA-AM 50 μM前処理でCa2+依存性検証、Rela (p65) KO mouse brain endothelial bEnd.3細胞でNFκB依存性検証、Ccr2-/-宿主マウスで単球動員依存性検証
  • シグナル経路解析: 肺内皮 (bEnd.3) でPTX-EV添加後のNFκB p65核移行・Ccl2 mRNA・タンパク質定量 (qPCR・ELISA・Duolink近接ライゲーション)、フローサイトメトリーで肺Ly6C+CCR2+炎症性単球比率定量
  • 臨床検体: NAC治療中乳がん患者 (n=20) の治療前後血漿循環EVをExoQuick精製後、ANXA6 WBで検出
  • 追加モデル: Zebrafish胚 (Danio rerio) 卵黄嚢にMDA-MB-435細胞を共焦点顕微鏡下で注射し、PTX-EV共注入による尾部血管プラーク化 (caudal hematopoietic area, CHA) を48時間後評価
  • 統計: Student t-test (2群)、ANOVA (多群)、Mann-Whitney U-test (非正規)、p=0.05未満を有意とし全実験n=3-14/群で再現性確認