- 著者: Anoek Zomer, Carrie Maynard, Frederik Johannes Verweij, Alwin Kamermans, Ronny Schäfer, Evelyne Beerling, Raymond Michel Schiffelers, Elzo de Wit, Jordi Berenguer, Saskia Inge Johanna Ellenbroek, Thomas Wurdinger, Dirk Michiel Pegtel, Jacco van Rheenen
- Corresponding author: Jacco van Rheenen (Hubrecht Institute-KNAW and University Medical Center Utrecht, Utrecht, Netherlands)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 26000481
背景
腫瘍の異質性 (intratumoral heterogeneity) は遺伝的変異と腫瘍微小環境の多様性に起因し、個々の細胞が異なるエピジェネティクスプロファイルと表現型を示すことが治療成功の最大の障壁となっている (Meacham & Morrison, Nature 2013)。細胞外小胞 (extracellular vesicles; EVs) はエクソソーム (exosome) を含む多種の膜小胞群であり、タンパク質・脂質・核酸を搭載した細胞間コミュニケーションの重要メディエーターとして急速に注目されている (Raposo et al. JCellBiol 2013)。先行研究では in vitro において EVs 経由で mRNA が機能的に転送されて受容細胞の挙動変化を引き起こすこと (Valadi et al. NatCellBiol 2007)、および濃縮腫瘍 EV 製剤の注射によって骨髄由来細胞が前転移ニッチ (pre-metastatic niche) 形成を促進するよう再教育されること (Peinado et al. NatMed 2012) が示されていた。さらに間質細胞由来 EVs が腫瘍細胞の遊走・浸潤を変化させる報告も蓄積し、腫瘍内 EV 交換が転移に関与するという仮説が有力となっていた。
しかし、これらの先行研究はいずれも in vitro 共培養モデルか、大量濃縮 EV 製剤をマウスに投与する人工的条件に依拠しており、生理的コンテキストでの直接証拠は手薄であった。最大の gap in knowledge は「生体腫瘍内で EVs を取り込んだ細胞と取り込んでいない細胞をリアルタイムに区別し、その行動を同一微小環境下で直接比較する技術が存在しなかった」点である。EV 産生能を遺伝子操作で低下させる従来の「逆アプローチ」は、EV 非依存的なサイトカインプロファイル変化—PIGF-2 (placental growth factor 2)、PDGF-AA (platelet-derived growth factor AA)、osteopontin 等—という交絡因子を生じることが指摘されており、高転移性腫瘍細胞が EVs 経由で低転移性細胞に転移能を直接伝播するという因果証明は達成されていなかった。
目的
Cre-LoxP (Cre recombinase/loxP site recombination system) 遺伝子組換えレポーター系と高解像度多光子生体顕微鏡 (multiphoton intravital microscopy) を組み合わせた新規実験系を構築し、生体マウス腫瘍内での腫瘍細胞由来 EVs 取り込みを単細胞解像度で直接可視化する。これにより、高転移性腫瘍細胞株 MDA-MB-231 (Michigan Cancer Foundation-231, high-invasive human breast cancer cell line) から低転移性腫瘍細胞株 T47D (low-metastatic human breast cancer cell line) への EVs 介在 mRNA 転送が、受容細胞の遊走能と肺転移能を変化させるか—すなわち「転移表現型のフェノコピー (phenocopying of metastatic behavior)」を生体内で実証することを目的とする。
結果
EV の in vivo 放出と転移関連 mRNA カーゴの特性解析:MDA-MB-231 乳腺腫瘍を多光子イントラビタルイメージングで観察すると、腫瘍細胞から直径 2.5 μm 以下の多様なサイズの EVs が継続的に放出される様子をリアルタイムで可視化できた (Fig 1B、Movies S1-S3)。切除腫瘍から精製した EVs の TEM では典型的な二重膜小胞形態を確認し、NanoSight 解析では粒子サイズが概ね 100 nm 前後に分布することを示した (n=5 実験、mean ± SD; Fig 1C, 1D)。腫瘍細胞と腫瘍由来 EVs の mRNA プロファイルを Illumina HumanHT-12 v4 マイクロアレイで比較したところ (n=6 replicate)、200 遺伝子以上が細胞に対し EVs で 2 倍超富化されており (p<0.05)、GO 解析では細胞移動 (cell movement) および転移関連プロセスが最上位カテゴリに集積した (Fig 1E, 1F)。この結果は MDA-MB-231 由来 EVs が転移促進 mRNA プログラムを積極的に搭載・濃縮していることを示す。
Cre-LoxP システムによる EV 取り込みの機能的検証:MDA-MB-231 Cre+ 細胞と reporter+ 細胞を 1 週間共培養すると eGFP+ 色変換細胞が出現し、その比率は Cre+/reporter+ 細胞比に比例して増加した (n=5 独立実験、mean ± SEM; Fig 3B)。eGFP+ 細胞は CFP 陰性であり細胞融合ではなく EV 介在性転送によるものと確認した (Fig 3C)。Transwell 共培養 (上室 Cre+、下室 reporter+) でも下室に eGFP+ 細胞が出現し、細胞-細胞接触に依存しない EV 介在伝送を確認した (Fig 3D)。T47D および MCF-7 reporter+ 細胞に対しても MDA-MB-231 Cre+ 細胞からの Cre 転送を確認し、高転移性から低転移性細胞への分子転送が一般的現象であることを示した (Fig 3D, 3E)。Western blot では EV 画分に CD63 および Hsp70 を確認し、Cre タンパク質は非検出であった (Fig 2E)。RT-PCR では Cre mRNA を EV 画分に検出した (Fig 2F)。RNase/proteinase K 処理 EV の腫瘍内注射でもレポーター活性が得られ、組換え Cre タンパク (110 ng) および腫瘍細胞溶解液の注射では活性が見られなかった (Fig 4B-D)。これらの対照実験から EV に内包された Cre mRNA のみが機能的転送の担体であることが確立された。
生体腫瘍内 EV 交換と遠隔転送の直接証明:in vivo 実験では MDA-MB-231 Cre+/T47D reporter+ 混合腫瘍 (局所通信モデル) において、1 intravital z-stack (620×620×100 μm) あたり 260 ± 67 個の eGFP+ 腫瘍細胞を検出した (n=3 マウス; Fig 4E)。T47D 単独腫瘍切片 (16 μm 厚) でも 513 ± 66 個/切片 (n=3 マウス) のeGFP+ 細胞が確認された。特筆すべきは、Cre+ 細胞と reporter+ 細胞を対側乳腺に分離移植した遠隔通信モデルでも T47D 腫瘍内に eGFP+ 細胞が出現し、全身循環 EVs を介した遠隔腫瘍への機能的 mRNA 転送を生体内で初めて直接証明した点である。PyMT モデルおよび B16 メラノーマモデルでも EV 取り込みを確認し (PyMT: confetti+ 細胞 30 ± 13/切片、B16: 43 ± 10/切片、n=3 マウス)、ヒト乳がん・マウス乳がん・黒色腫の複数モデルにわたる普遍的現象であることが示された。全身 EV 分布の検討では、B16 Cre+ 細胞を R26-LSL-tdTomato B6 マウスに投与したところ、腫瘍 (374 ± 76 cells/mm3)、リンパ節 (168 ± 69 cells/mm3)、肺 (69 ± 17 cells/mm3)、脾臓 (104 ± 22 cells/mm3) の全臓器で tdTomato+ 非腫瘍細胞を検出し (n=3 マウス、mean ± SEM; Fig 5B)、CD45+ 免疫細胞 (Fig 5C)、Gr1+ (granulocyte receptor 1, myeloid cell marker) 好中球、F4/80+ (macrophage surface marker, encoded by Adgre1) マクロファージを含む多様な非腫瘍細胞種への EV 転送も確認された (Fig 5D)。
EV 受容細胞における遊走能の有意な亢進:局所通信モデルにおけるイントラビタルイメージング (3 時間追跡、>360 cells/条件、n=3 マウス) では、eGFP+ (EV 受容) T47D 細胞が同一視野内の DsRed+ (非受容) T47D 細胞より有意に高い遊走速度を示した。DsRed+ 細胞の遊走距離で正規化した結果、EV 受容細胞の遊走速度は局所通信条件で 1.57 ± 0.084 倍 (n=17-18 imaging fields、3 マウス; p<0.01、Fig 6G)、遠隔通信条件で 2.37 ± 0.431 倍 (n=17-18 imaging fields、3 マウス; p<0.01、Fig 6H) 増加していた。18 個の局所通信観察点全てで、また 17 個の遠隔通信観察点のうち 15 個で eGFP+ 細胞が DsRed+ 細胞より速く遊走した。対照として MCF-7 Cre+ 細胞由来 EVs を T47D が取り込んだ条件では遊走速度の増加は見られず、むしろ有意な低下が観察され (Fig S3C)、遊走亢進効果が MDA-MB-231 特異的な転移関連 mRNA カーゴに依存することが示された。さらに MDA-MB-231 高遊走性細胞と低遊走性細胞の間で EVs 取り込み量に差がないことを確認し、遊走速度の高い細胞が先天的に EVs を多く取り込むという逆因果を除外した (Fig S5A)。
EV 受容細胞における肺転移能の劇的増強:担腫瘍マウス (n=4 マウス/条件) の肺と原発腫瘍のクライオセクション解析 (>1,000 転移巣を解析) では、MDA-MB-231 Cre+ と T47D reporter+ の局所通信モデルにおいて、EV 受容 (eGFP+) T47D 細胞の肺転移ポテンシャルが非受容 (DsRed+) T47D 細胞に対して 52 倍増加した (Fig 7B)。遠隔通信モデルでも 7.9 倍の転移能増強が観察された (Fig 7C)。MCF-7 Cre+ 細胞由来 EVs を受容した T47D 細胞では転移能の増加は認めず (Fig S3D)、増強効果は MDA-MB-231 特異的である。MDA-MB-231 自身が同種細胞由来 EVs を受容した場合も遊走・転移能が増強されることを確認し (Fig S6)、転移関連 mRNA がオートクリン的にも機能することが示唆された。
考察/結論
本研究は Cre-LoxP レポーター系とイントラビタルイメージングを融合した独創的な実験系により、腫瘍細胞間 EV 交換の in vivo 直接証拠を初めて提供し、EVs が転移表現型をフェノコピーする機能を定量的に証明した landmark 研究である (Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019)。先行研究では濃縮 EV 製剤の注射モデルや EV 産生細胞の遺伝子操作が主流であったが、これらは生理的条件から乖離しているか、EV 非依存的サイトカイン変化を誘発するという問題点があり in vivo での直接因果証明に根本的な限界があった。先行研究と異なり、本研究の Cre-LoxP 系は EV 産生側を一切操作せず、受容側の色変換を読み出すという新規な逆アプローチを採用することで、生理的濃度・位置での EV 転送を「EV 受容あり vs EV 受容なし」として同一微小環境内で直接比較することを本研究で初めて可能とした。eGFP+ と DsRed+ 細胞が同一 imaging field に存在することから、微小環境差を内部対照として消去した上で EV 受容特異的な表現型変化を確認できた点が方法論的な強みである。
52 倍という局所通信での肺転移能増強は、腫瘍内 EV 交換が転移に与えるインパクトを初めて定量的に示した数値であり、遠隔通信 (7.9 倍) においても全身循環 EVs による転移能伝播が機能することを証明した。腫瘍内で eGFP+ 細胞が出現する比率 (2-4%) は限定的であるが、転移ポテンシャルの増幅が 52 倍に達することは、少数の EV 受容細胞が転移の実行部隊として不均衡に大きな役割を担うことを示唆する。さらに腫瘍 EVs が免疫細胞 (好中球・マクロファージ) にも取り込まれることが初めて実証されており、腫瘍免疫回避との関連も示唆される。
臨床的意義として、本研究は転移能の「水平伝播」という新たなメカニズムを提示し、腫瘍を遺伝的に固定されたサブクローンの集合ではなく EVs 共有による協調ネットワークとして捉え直す必要性を示した。高転移性サブクローンが少数でも存在すれば、周囲の多数の低転移性細胞を転移能獲得状態へ動員できる可能性がある。この知見は bench-to-bedside の観点から EV 放出阻害 (中性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤等)、EV 取り込み阻害 (dynamin 阻害剤等)、EV 搭載 mRNA の機能的不活化を治療ターゲットとする新たなアプローチを支持する。また全身循環 EVs への転移関連 mRNA 搭載は液性生検 (liquid biopsy) のバイオマーカーとしての応用も期待できる。薬剤耐性クローンが EVs 経由で耐性を非耐性細胞に伝播するという臨床現場での含意も大きく、今後の検証が急務である。
今後の課題として以下が残されている。第一に、200 超の EVs 富化遺伝子の中で転移能フェノコピーの主要エフェクター分子の同定が未達成である。Cre-LoxP 系は EV 取り込みを報告するが、機能的に転移能を変容させる特定の mRNA・miRNA・タンパク質の特定は別途必要となる。第二に、ヒト患者腫瘍内での同様の細胞間 EV 交換の検出・定量法の開発が求められ、臨床標本での証拠が確立されていない。第三に、転移部位から原発腫瘍へ向かう逆方向の EV 通信 (転移巣由来 EVs が原発腫瘍細胞の転移能をさらに高める機構) の生体内検証が残課題である。第四に、非腫瘍細胞 (好中球・マクロファージ) が腫瘍 EVs を取り込むことの免疫学的意義と腫瘍免疫回避への貢献については future research による解明が必要である。本研究は生体 EV 研究の方法論的基盤を確立した点でも意義があり、Cre-LoxP 系の応用範囲は腫瘍生物学を超えて発生・神経・免疫分野にも拡張できる。
方法
Cre-LoxP EVs トラッキングシステムの構築:Cre recombinase 発現 (Cre+) ドナー細胞から放出された EVs がレポーター発現 (reporter+) 受容細胞に取り込まれると、LoxP-flanked stop カセットが除去されて DsRed (discosoma sp. red fluorescent protein) から eGFP (enhanced green fluorescent protein) への恒久的色変換が生じる Cre-LoxP システムを構築した。この系では、EV を取り込んだ受容細胞 (eGFP+) と非取り込み細胞 (DsRed+) を同一腫瘍内で明確に区別でき、受容細胞は EV 産生細胞の CFP (cyan fluorescent protein) 陽性細胞と区別可能なため細胞融合を排除できる。
細胞株と腫瘍モデル:ドナー細胞として MDA-MB-231 (CFP+Cre+、高転移性ヒト乳がん細胞株)、受容細胞として T47D および MCF-7 (Michigan Cancer Foundation 7, 低転移性ヒト乳がん細胞株、reporter+ 化) を使用。メラノーマモデルとして B16 (B16; murine melanoma cell line, CFP+Cre+) を採用した。局所通信 (local communication) モデルは Cre+ 細胞と reporter+ 細胞の混合物を単一乳腺脂肪パッドに同時移植し、遠隔通信 (distant communication) モデルは Cre+ 細胞と reporter+ 細胞を対側乳腺に別々に移植して構築した。全身 EV 取り込みの検討では B16 Cre+ 細胞を、R26 (Rosa26 locus) の LSL (loxP-STOP-loxP cassette) に tdTomato reporter を組み込んだ R26-LSL-tdTomato B6 マウスに皮下投与し、tdTomato+ 非腫瘍細胞の出現を全身臓器で解析した。非腫瘍 EV 取り込みの検討では B16 reporter+ 細胞を ACTB-Cre B6 マウスに投与した。PyMT (polyoma middle T antigen transgenic mammary tumor model) マウス乳がんモデルでは Cre-confetti reporter を使用した。
EV 単離と characterization (ISEV; International Society for Extracellular Vesicles 準拠):MDA-MB-231 conditioned media (CM) および切除腫瘍組織から高速超遠心 (high-speed ultracentrifugation) によって EVs を単離した。EV の形態・サイズは電子顕微鏡 (TEM; transmission electron microscopy) および NanoSight ナノ粒子追跡解析 (nanoparticle tracking analysis) で確認した (n=5 実験の mean ± SD を報告)。表面マーカーとして CD63 および Hsp70 を Western blot で確認し、ISEV 基準の characterization を満たした。EV 画分への Cre mRNA 取り込みは RT-PCR (reverse transcription PCR) で検証した。RNase および proteinase K 処理実験で vesicular (小胞内包) Cre のみがレポーター活性を示すことを確認し、遊離 Cre タンパク質 (recombinant Cre protein 110 ng の腫瘍内注射) および細胞溶解液は活性を示さないことを対照実験で確立した。
生体顕微鏡:イソフルラン吸入麻酔 (1.5-2% isoflurane/O2 混合) 下、mammary imaging window 法を用いた inverted Leica TCS SP5 AOBS 多光子顕微鏡で連続イントラビタルイメージングを実施した。4 チャンネルの非デスキャン検出器 (NDD; non-descanned detector) により CFP (840 nm 励起)、GFP・DsRed (960 nm 励起) を同時多重検出した。
細胞遊走の定量:3D z-stack 取得後に XYZ ドリフト補正を行い、ImageJ Manual Tracking プラグインで eGFP+ および DsRed+ 細胞を手動追跡した。同一 imaging field 内で eGFP+ 細胞と近傍 DsRed+ 細胞を比較し、DsRed+ 細胞の平均遊走距離で正規化することで微小環境差を補正した。3 マウスあたり >360 細胞を条件ごとに追跡した (n=17-18 imaging fields/3 マウス)。
肺転移能の定量:150 μm 厚肺クライオセクションと対応原発腫瘍切片の eGFP+/DsRed+ 比を比較し、転移ポテンシャル倍率 = (肺中 eGFP+/DsRed+ 比) / (原発腫瘍中 eGFP+/DsRed+ 比) として定量した (n=4 マウス/条件、>1,000 転移巣を解析)。
mRNA プロファイリング:腫瘍組織由来細胞と EV の total RNA を TRIZOL で抽出し Illumina HumanHT-12 v4 BeadChip でマイクロアレイ解析 (n=6 replicate)。loess 正規化後に limma パッケージで p 値算出、2 倍カットオフで EVs 富化遺伝子を抽出し WebGestalt で GO (Gene Ontology) 解析を実施した。
統計解析:正規分布データには Student’s t test を用いて 2 群間の差を検定 (p<0.05 を有意と判定)。非正規分布データには Mann-Whitney U test を使用した。有意水準 p≤0.05 を *(1 asterisk)、p≤0.01 を **(2 asterisks) で表記した。