- 著者: Liu J, Blake SJ, Yong MC, Harjunpää H, Ngiow SF, Takeda K, Young A, O’Donnell JS, Allen S, Smyth MJ, Teng MW
- Corresponding author: Michele W.L. Teng (michele.teng@qimrberghofer.edu.au)
- 雑誌: Cancer discovery
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-09-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 27663893
背景
免疫チェックポイント阻害薬(抗CTLA-4、抗PD-1/PD-L1)は進行がん治療に革命をもたらしたが、根治的手術が可能な早期がん患者に対して、術前(ネオアジュバント)と術後(アジュバント)のどちらで免疫療法を投与すべきかは未解明であった。従来の化学療法については、術前・術後の比較で生存利益の差は確立されていなかった(Mauri et al. J Natl Cancer Inst 2005)。免疫療法はT細胞を介した全身免疫応答を誘導するため、原発腫瘍という大きな抗原源が存在する術前の段階で投与することが、術後よりも広範な抗腫瘍T細胞応答を誘導できる可能性があるという理論的仮説があった。しかし、これを前臨床モデルで直接比較した研究は不足しており、最適な治療タイミングに関する知識ギャップが残されていた。例えば、Sharma et al. Science 2015やTopalian et al. NEnglJMed 2012といった先行研究では、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されているものの、術前と術後の比較に関するデータは限られていた。また、Brahmer et al. NEnglJMed 2012の研究も同様に、進行がんにおける免疫療法の安全性と活性を報告しているが、早期がんにおける最適な投与タイミングについては言及が不足していた。本研究では、自然発生転移性乳がんモデルを用いて、この重要な課題に取り組む。
目的
2種類の自然発生転移性乳がんマウスモデル(4T1.2、E0771)を用いて、ネオアジュバント対アジュバント免疫療法の転移根絶効果と長期生存への影響を直接比較し、その免疫学的機序を解明する。
結果
所見1:ネオアジュバント免疫療法はアジュバントに比べ転移根絶と長期生存において著明に優れ、この効果は4種類の免疫療法・2種類の腫瘍モデルで再現性をもって確認された
BALB/c FOXP3-DTRマウス(n=20 mice/group)を用いたコンディショナルTreg除去(ジフテリア毒素DT 250 ng、腫瘍移植第10日に投与・第13日に原発腫瘍切除)実験では、ネオアジュバント群は19/20匹(95%)が250日以上の長期生存を示したのに対し、アジュバント群(第16日DT・第13日切除)では5/20匹(25%)のみであった(p < 0.0001)。無手術DT投与群は原発腫瘍増大で全例死亡し、手術との組み合わせが必須であることを示した。抗CD25抗体によるTreg除去でも、ネオアジュバント群で40%(8/20 mice)対アジュバント群で10%(2/20 mice)の長期生存率差が再現された。抗PD-1単剤(100 μg)では4T1.2モデルでネオアジュバントがアジュバントより生存延長を示したものの長期生存者は得られなかったが、抗PD-1 + 抗CD137(各100 μg)の組み合わせでは4T1.2モデルにおいてネオアジュバント群で50%(5/10 mice)対アジュバント群で0%の長期生存率を示した(p < 0.0001)。E0771(C57BL/6)モデルでもネオアジュバント抗PD-1 + 抗CD137で40%(4/10 mice)対アジュバント群で0%の長期生存率差が確認された(p < 0.0001)。同日手術スケジュールでもネオアジュバント群で67%(6/9 mice)対アジュバント群で0%の差が再現された(p = 0.0002)。E0771では抗CD137単剤でもネオアジュバントがアジュバントより有意に生存を延長し(p < 0.05)、抗PD-1単剤は無効であった。以上4種類の免疫療法と2腫瘍モデルで一貫してネオアジュバント優位性が確認された(Figure 1A, 1B, 2B, 2C, 2D)。一方、パクリタキセル化学療法ではネオアジュバント・アジュバント間で長期生存率に有意差はなく、本優位性が免疫療法特有の現象であることが示された。
所見2:ネオアジュバント優位性は治療時の転移負荷差に依存せず、原発腫瘍の存在と切除の両方が必要である
ネオアジュバント群の優れた効果が治療時点の転移負荷が少なかったためである可能性を排除するため、投与スケジュールを変更した複数の実験を実施した。第一に、遅発ネオアジュバントDT(アジュバントと同日の第16日)でも35%(7/20 mice; プール解析で14/28 mice)の長期生存を示し、アジュバント群5%(1/20 mice; プールで9/59 mice)と比較して有意差があった(p < 0.0001)。第二に、アジュバント群に合わせて手術時点を同一日(第10日)に揃えてもネオアジュバントが有意に優れた。第三に、gp70 qPCRによる肺転移負荷(4T1.2腫瘍マーカー)の定量では、ネオアジュバント・アジュバント治療当日の肺転移量に有意差を認めず、転移負荷の差異が交絡因子ではないことを確認した。手術なしのコンジェニタルTreg除去・抗PD-1 + 抗CD137投与では全例が原発腫瘍増大で死亡し、長期生存例ゼロであった。シャム手術 + ネオアジュバント免疫療法でも長期生存は得られず、手術単独の効果でも不十分であることが確認された(Figure 1C, 2B)。すなわち、ネオアジュバント優位性のために「原発腫瘍を抗原源として免疫活性化(術前免疫療法)」と「原発腫瘍の外科的除去(転移ソースの排除)」の両方が不可欠であることが示された。
所見3:腫瘍特異的CD8+ T細胞の全身拡大・IFNγ依存的持続と長期保護免疫記憶がネオアジュバント優位性の機序である
効果器機序の解析では、ネオアジュバント抗PD-1 + 抗CD137の有効性はIFNγ中和抗体投与で完全に消失し(4T1.2・E0771双方)、パーフォリン欠損(pfp-/-)マウスでは有意割合の長期生存が維持された(Figure 4A, 4B)。したがって、IFNγ依存的かつ細胞傷害非依存的な機序が主体であることが示された。CD4+、CD8+、NK細胞の枯渇はいずれも長期生存を有意に減少させ、3種の免疫細胞が協調的に寄与することが示されたが、各細胞の相対的重要性は腫瘍モデルと治療種類によって異なった(Figure 4C)。gp70テトラマー(内因性ネオ抗原)を用いた末梢血腫瘍特異的CD8+ T細胞のフローサイトメトリー定量では、ネオアジュバント抗PD-1 + 抗CD137治療後4日で著明な腫瘍特異的CD8+ T細胞増加が認められ、一方アジュバント群では同程度の増加はなかった(Figure 4D)。さらに、ネオアジュバント群の腫瘍特異的CD8+ T細胞は手術(第16日)後も高い値を維持し、腫瘍チャレンジから170日以上経過後も血液中で検出可能であった。同時測定したTreg除去群でも同様の持続が確認された。臓器別解析では血液、脾臓、肺、肝臓すべてでネオアジュバント群がアジュバント群より腫瘍特異的CD8+ T細胞数が有意に多かった(p = 0.0045〜0.0283)(Figure 5A-D)。これらのCD8+ T細胞はエフェクター/メモリー表現型(CD44+CD62L-)であり、Ki67陽性(増殖中)、IFNγ+(p = 0.0014)、TNF+(p = 0.0065)を示し、機能的なエフェクター記憶T細胞として維持されていた(Figure 6E-G)。初期(治療後4日)の腫瘍特異的CD8+ T細胞レベルと100日以上生存との間には相関関係があり、特にネオアジュバント抗PD-1 + 抗CD137群で明確なバイオマーカーとしての可能性が示された(約7%以上のテトラマー陽性率が閾値)(Figure 7B, 7C)。長期生存マウス(n=5 mice)への4T1.2再チャレンジ実験(皮下・乳腺脂肪体・静脈内移植)ではいずれも腫瘍増殖なく、gp70発現も検出されず、残留腫瘍細胞の存在否定と完全な免疫学的根絶・記憶が証明された。NK/T細胞枯渇でも長期生存は不変であり、腫瘍休眠ではなく完全除去を確認した。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、術前免疫療法が術後よりも転移根絶において有意に優れることを、複数の免疫療法・複数の腫瘍モデルにまたがって初めて体系的に示した前臨床研究として画期的な意義を持つ。これは、従来の化学療法では術前・術後で生存利益の差が認められなかったことと対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ネオアジュバント免疫療法の優位性が、原発腫瘍が免疫療法投与時に大きな抗原ライブラリーとして機能し、より広範で多様な腫瘍特異的T細胞クローンを活性化・拡大させるという概念によって裏付けられることを示した。術後では原発腫瘍抗原源が消失した状態で治療するため、T細胞応答の幅が制限される可能性がある。IFNγ依存性は、ネオアジュバント療法の機序がエフェクターT細胞の細胞傷害ではなく、IFNγを介した多面的免疫活性化(抗原提示促進・直接腫瘍増殖抑制など)であることを新規に示唆する。
臨床応用: 血中の腫瘍特異的CD8+ T細胞が治療早期に増加し長期間持続すること、かつその早期増加が長期生存と相関することは、血液バイオマーカーとしての臨床応用可能性を示す。特に、ネオアジュバント抗PD-1 + 抗CD137療法において、治療後4日時点での血中腫瘍特異的CD8+ T細胞レベルが約7%以上であることが長期生存の予測因子となる可能性があり、これは臨床現場での治療効果予測に繋がる臨床的意義を持つ。この知見は、ネオアジュバント免疫療法の臨床開発に強力な理論的根拠を提供し、その後の複数の臨床試験(肺がん、乳がん、メラノーマなど)の科学的基盤となった。
残された課題: 本研究の重要なlimitationとして、前臨床マウスモデルを用いた研究であり、ヒトへの外挿には注意を要する。また、抗PD-1単剤ではネオアジュバント投与でも長期生存が得られなかったこと(E0771モデル)は、ネオアジュバント設定でも組み合わせ免疫療法の必要性を示す。今後の検討課題として、ネオアジュバント免疫療法が免疫関連有害事象の発生率や重症度に与える影響、および手術時期の遅延がもたらすリスクとベネフィットのバランスを臨床的に評価する必要がある。さらに、gp70以外の腫瘍特異的ネオ抗原を同定し、それらに対するT細胞応答を評価することも今後の研究方向性である。
方法
BALB/c FOXP3-DTRマウスおよびワイルドタイプマウスの乳腺脂肪体に4T1.2細胞(5×10^4 cells)を、C57BL/6マウスにE0771細胞(5×10^4 cells)を注射し、自然転移モデルを構築した。免疫療法として、(1) ジフテリア毒素(DT)によるコンディショナルTreg(Regulatory T cell)除去(FOXP3-DTRマウス)、(2) 抗CD25抗体によるソフトTreg除去、(3) 抗PD-1抗体(100 μg)、(4) 抗PD-1 + 抗CD137抗体(各100 μg)、(5) 抗CD137単剤の4種類の免疫療法を2つの腫瘍モデルで、術前(ネオアジュバント)と術後(アジュバント)投与を比較した。主要エンドポイントは全生存(Kaplan-Meier曲線、ログランク検定)と長期生存率(250日以上生存)とした。転移評価はIHC(Immunohistochemistry)およびgp70 qPCRで実施した。治療効果の機序解析では、IFNγ中和抗体、パーフォリン欠損マウス、CD4/CD8β/NK細胞枯渇抗体による免疫学的依存性の評価、gp70テトラマーを用いた末梢血・臓器の腫瘍特異的CD8+ T細胞の定量(フローサイトメトリー)、ネオアジュバント治療長期生存マウスへの再チャレンジ実験を実施した。転移負荷の差異による交絡を排除するため、投与スケジュールを複数パターン変更して比較を繰り返した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを用い、unpaired Student t検定、unpaired Welch t検定、one-way ANOVA、Mann-Whitney U検定、ログランク検定を用いた。