• 著者: Julie R. Brahmer, Scott S. Tykodi, Laura Q.M. Chow, Wen-Jen Hwu, Suzanne L. Topalian, Patrick Hwu, Charles G. Drake, Drew M. Pardoll, Jon M. Wigginton
  • Corresponding author: Julie R. Brahmer (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University, Baltimore, MD)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-06-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22658128

背景

腫瘍は、T細胞の機能抑制を介して宿主の免疫系から逃れるメカニズムを進化させてきた。このメカニズムには、T細胞のトレランス誘導や、抑制性リガンドの発現が含まれる。細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4 (CTLA-4) を標的とするイピリムマブは、2011年に進行メラノーマに対する最初の免疫チェックポイント阻害薬として承認されたが、頻繁な免疫関連有害事象 (irAEs) を伴うことが報告されている Hodi et al. NEnglJMed 2010。CTLA-4の阻害は強力な抗腫瘍効果を示すものの、自己免疫様症状を誘発するリスクが課題とされてきた Leach et al. Science 1996

プログラム細胞死1 (PD-1) タンパク質は、CTLA-4と相同性を持つ別のT細胞共抑制受容体であるが、そのリガンド特異性 (PD-L1/B7-H1およびPD-L2/B7-DC) と生物学的機能はCTLA-4とは異なる。PD-1経路は主に、腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化を抑制することで、腫瘍の免疫回避に寄与すると考えられている。PD-L1は、多くの固形癌において選択的に発現が亢進しており、腫瘍微小環境における炎症性刺激に応答してアップレギュレートされることが知られている。PD-L1はPD-1を介して、腫瘍浸潤CD4+およびCD8+ T細胞のサイトカイン産生と細胞傷害活性を抑制することが示されている Dong et al. NatMed 2002Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002。この経路の阻害は、T細胞の抗腫瘍応答を回復させる可能性を秘めている Pardoll et al. NatRevCancer 2012

前臨床モデルでは、PD-1/PD-L1経路の阻害が強力な抗腫瘍活性を示すことが報告されており、PD-L1はがん免疫療法の有望な標的として注目されてきた。しかし、PD-L1を直接標的とする抗体のヒトにおける安全性、薬物動態、薬力学、および抗腫瘍活性に関する包括的な臨床データは、本研究の時点ではまだ不足しており、特に多様な進行がんにおけるその有効性は未解明であった。この知識のギャップを埋めることが、本研究の重要な動機付けとなった。特に、非小細胞肺がんのようなこれまで免疫原性が低いと考えられていた腫瘍タイプにおけるPD-L1阻害の可能性については、先行研究において十分なデータが提供されておらず、未開拓な領域であった。

目的

本研究の主要目的は、高親和性完全ヒトIgG4 (S228P) 抗PD-L1モノクローナル抗体であるBMS-936559(PD-L1とPD-1およびCD80の結合を阻害する)の安全性プロファイルと有害事象を、選択された進行がん患者において評価することである。本試験は、用量漸増とコホート拡張を通じて、BMS-936559の最大耐用量 (MTD) を特定し、用量制限毒性 (DLT) の発生頻度を評価することを目的とした。

副次目的として、本抗体の抗腫瘍活性および薬物動態を評価した。抗腫瘍活性の評価には、客観的奏効 (ORR) の確認と、奏効の持続期間の評価が含まれた。薬物動態解析では、血清中BMS-936559濃度の経時的変化を測定し、半減期や曲線下面積 (AUC) などのパラメータを算出することで、最適な投与間隔と用量を推定することを目指した。

さらに、探索的評価項目として薬力学的測定も実施し、末梢血CD3+ T細胞上のPD-L1受容体占有率を測定することで、in vivoでの標的結合の証拠を得ることを目指した。これらの評価を通じて、PD-L1経路の阻害ががん治療において安全かつ有効なアプローチとなる可能性を検証することを目的とした。特に、これまで免疫療法に対する反応性が低いとされてきた腫瘍タイプにおける有効性のシグナルを探索することも重要な目的の一つであった。

結果

患者背景と治療期間: 2009年4月9日から2012年2月24日までに、合計207例の患者が抗PD-L1抗体BMS-936559の投与を受けた。内訳は非小細胞肺がん75例、メラノーマ55例、結腸直腸がん18例、腎細胞がん17例、卵巣がん17例、膵臓がん14例、胃がん7例、乳がん4例であった。これらの患者はすべて安全性解析の対象となった。有効性解析は、2011年8月1日までに治療を開始し、奏効評価が可能な160例で実施された。治療期間の中央値は12週 (範囲: 2~111週) であった。患者の86%が90%以上の相対用量強度を達成した。治療中止に至った有害事象は12例 (6%) であり、これは全患者数 n=207 に対する割合である。

安全性プロファイル: 最大耐用量 (MTD) には到達しなかった。治療関連の有害事象は207例中126例 (61%) で報告された。最も頻度の高い薬物関連有害事象は、疲労、注入反応、下痢、関節痛、発疹、悪心、そう痒症、頭痛であった。これらの事象の大部分はグレード1または2であり、グレード3または4の治療関連有害事象は19例 (9%) で認められた (Table 1)。注入反応は21例 (10%) で観察され、主に10 mg/kg群で発生したが、ほとんどがグレード1または2であり、抗ヒスタミン薬や解熱剤の前投薬で管理可能であった。治療関連の有害事象により治療を中止したのは12例 (6%) であった。重篤な治療関連有害事象は11例 (5%) で発生した。

免疫関連有害事象 (irAEs): 潜在的な免疫関連の原因を持つ特異な薬物関連有害事象は、207例中81例 (39%) で観察された (Table 1)。これには発疹、甲状腺機能低下症、肝炎が含まれ、サルコイドーシス、眼内炎、糖尿病、重症筋無力症がそれぞれ1例ずつ報告された。これらのirAEsは主にグレード1または2であり、治療中断や中止によって管理された。9例の患者はグルココルチコイドによる治療を受け、全例で有害事象の改善または消失が認められた。さらに、これらの9例中4例は、グルココルチコイド治療中にもかかわらず病勢コントロールを維持した。

抗腫瘍活性: 臨床活性は1 mg/kg以上のすべての用量で観察された。客観的奏効(完全奏効または部分奏効)は、メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、卵巣がんの患者で認められ、多くの奏効は持続的であった (Table 2, Figure 1, Figure 2)。結腸直腸がんおよび膵臓がんの患者では客観的奏効は観察されなかった。

腫瘍タイプ別の奏効率:

  • メラノーマ: 52例中9例 (17%, 95% CI 8-30) で客観的奏効が認められた。1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの各用量での奏効率はそれぞれ6%、29%、19%であった。3例の患者が完全奏効を達成した。奏効を示した全9例はデータ解析の少なくとも1年前に治療を開始しており、そのうち5例で1年以上の奏効持続が確認された。また、メラノーマ患者52例中14例 (27%) で24週以上持続する病勢安定化が認められた。
  • 非小細胞肺がん (NSCLC): 49例中5例 (10%, 95% CI 3-22) で客観的奏効が認められた。奏効は非扁平上皮癌サブタイプ4例、扁平上皮癌サブタイプ1例で観察され、3 mg/kgおよび10 mg/kgの用量での奏効率はそれぞれ8%および16%であった。奏効を示した全5例はデータ解析の少なくとも24週前に治療を開始しており、そのうち3例で24週以上持続する奏効が確認された。さらに6例のNSCLC患者で24週以上持続する病勢安定化が認められた。
  • 腎細胞がん: 17例中2例 (12%, 95% CI 1-36) で客観的奏効が認められ、いずれも10 mg/kgの用量で、奏効期間は4ヶ月および17ヶ月であった。7例の腎細胞がん患者 (41%) で24週以上持続する病勢安定化が認められた。
  • 卵巣がん: 17例中1例 (6%, 95% CI 0-29) で部分奏効が認められ、3例 (18%) で24週以上持続する病勢安定化が観察された。これらはいずれも10 mg/kgの用量であった。

薬物動態および薬力学: 評価対象の131例の患者において、抗PD-L1抗体の血清レベルは1 mg/kgから10 mg/kgの範囲で用量依存的に増加した。1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの用量における幾何平均曲線下面積 (AUC0-14日) はそれぞれ2210、7750、36620 μg・mL⁻¹・h⁻¹であった。半減期は母集団薬物動態モデルから約15日と推定された。末梢血CD3+ T細胞上のPD-L1受容体占有率は、1サイクル治療後において、1 mg/kgから10 mg/kgのすべての用量群で中央値65%を超えていた (Figure S2)。これは、in vivoでの標的結合が達成されたことを示唆している。

考察/結論

本研究は、抗PD-L1抗体BMS-936559のヒトにおける安全性と有効性を評価した最初の臨床試験であり、PD-1/PD-L1経路の阻害が、メラノーマだけでなく、非小細胞肺がん、腎細胞がん、卵巣がんなど、多様な進行がんにおいて持続的な腫瘍退縮と病勢安定化を誘導することを示した。これは、同時期に発表された抗PD-1抗体ニボルマブの第I相試験 Topalian et al. NEnglJMed 2012 と並び、免疫チェックポイント阻害薬が広範な抗腫瘍活性を持つことを確立した画期的な研究である。

先行研究との違い: これまでの免疫療法では、非小細胞肺がんは免疫原性が低く、免疫ベースの治療に反応しにくいと考えられていた。しかし、本研究で非小細胞肺がん患者において10%の客観的奏効率 (95% CI 3-22) が示されたことは、この腫瘍タイプに対する免疫療法の有効性を示す強力な根拠となり、これまでの認識と対照的な結果であった。また、イピリムマブと比較して、BMS-936559による有害事象は頻度と重症度が低い傾向にあり、これはCTLA-4とPD-1経路の生物学的特性の違いを反映していると考えられる。特に、イピリムマブで頻繁に報告される重度の大腸炎は、BMS-936559では稀であった。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1を直接標的とするモノクローナル抗体が、進行がん患者において忍容性の高い安全性プロファイルと、複数の腫瘍タイプにわたる持続的な抗腫瘍活性を示すことを新規に実証した。特に、非小細胞肺がんにおける奏効は、これまで報告されていない重要な知見であった。PD-L1とPD-1およびCD80の両方への結合を阻害するというBMS-936559の作用機序は、PD-1のみを阻害する抗体とは異なる可能性があり、その臨床的意義は今後の研究でさらに明確化されるであろう。末梢血CD3+ T細胞におけるPD-L1受容体占有率の測定は、in vivoでの標的結合を直接的に示す薬力学的エビデンスを提供し、本薬剤の作用機序を裏付ける新規な情報であった。

臨床応用: 本研究の知見は、PD-1/PD-L1経路ががん治療の重要な標的であることを強く裏付けるものであり、その後のニボルマブ (CheckMate-017/057)、ペムブロリズマブ (KEYNOTE-024)、アテゾリズマブ (OAK)、デュルバルマブ (PACIFIC) などの大規模な第III相臨床試験へとつながる、臨床応用への道を開いた。特に、非小細胞肺がんにおける有効性は、この疾患の治療パラダイムを大きく変える可能性を示唆した。本研究で示された持続的な奏効は、従来の化学療法や分子標的薬と比較して優位である可能性があり、免疫記憶の誘導による長期的な腫瘍制御の可能性を示唆する。この結果は、免疫チェックポイント阻害薬が幅広い腫瘍タイプに適用可能であることを示唆するものであり、がん治療戦略に大きな臨床的含意を持つ。

残された課題: 本研究は第I相試験であり、患者数が限定的であること、PD-L1発現状況をバイオマーカーとして系統的に検討していないこと、および長期的な追跡期間が比較的短い点がlimitationとして挙げられる。今後の検討課題として、奏効が期待できる患者を特定するためのバイオマーカー(例:PD-L1発現レベル)の同定、最適な臨床用量の確立、および本経路を標的とする治療が有効な腫瘍タイプのさらなる定義が必要である。本研究の抗PD-L1抗体BMS-936559自体は商業開発中止となったが、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブといった同経路を標的とする後続の抗PD-L1抗体がFDA承認薬として臨床導入されており、本研究の基礎的意義は極めて大きい。

方法

本研究は、多施設共同第I相臨床試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT00729664) として、2009年4月9日から2012年2月24日にかけて実施された。対象患者は、文書化された進行非小細胞肺がん、メラノーマ、結腸直腸がん、腎細胞がん、卵巣がん、膵臓がん、胃がん、または乳がんを有し、少なくとも1回以上の前治療後に病勢進行が認められた患者(膵臓がんおよび胃がん患者は前治療の要件なし)であった。主要な除外基準には、自己免疫疾患の既往、全身性グルココルチコイドまたは免疫抑制療法を必要とする疾患、T細胞調節抗体による前治療(抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4抗体を含む)、HIV感染、活動性B型またはC型肝炎ウイルス感染が含まれた。患者はEastern Cooperative Oncology Group (ECOG) のパフォーマンスステータスが2以下である必要があった。

患者にはBMS-936559を60分間の静脈内点滴で14日ごとに投与し、6週間を1サイクルとして最大16サイクル、または完全奏効もしくは病勢進行が確認されるまで治療を継続した。用量漸増フェーズでは、0.3、1、3、10 mg/kgの用量を加速滴定デザインと標準的な3+3デザインを組み合わせて評価した。サイクル1中にグレード2以上の治療関連有害事象が発生した場合、その用量レベルでさらに2名の患者を登録し、3+3デザインに移行した。最大耐用量 (MTD) は、用量制限毒性 (DLT) が患者の3分の1未満で発生した最高用量と定義された。

その後、安全性、副作用プロファイル、および臨床活性プロファイルをさらに評価するため、疾患特異的コホート拡張が行われた。当初、非小細胞肺がん、メラノーマ、腎細胞がん、卵巣がん、結腸直腸がんの5つのコホート(各16例)が並行して登録され、10 mg/kgの用量で治療を受けた。初期の活性シグナルに基づき、メラノーマ(1 mg/kgおよび3 mg/kg)、非小細胞肺がん(扁平上皮癌および非扁平上皮癌サブタイプに分けられ、1、3、または10 mg/kgに無作為に割り付け)、膵臓がん、乳がん、胃がん(すべて10 mg/kg)の追加コホート(各最大16例)が登録された。

安全性評価は、ベースライン時および定期的に全患者に対して実施され、有害事象の重症度はNCI-CTCAE v3.0に基づいて評価された。抗腫瘍活性は、RECIST v1.0に従って放射線学的測定値から最良の全奏効を導出し、客観的奏効は少なくとも1回の連続した腫瘍評価によって確認された。臨床的進行が確認された後も、臨床的に安定している患者では治療継続が許容された。薬物動態解析のため、血清BMS-936559濃度をELISA法で測定するための血液サンプルを採取した。薬力学解析として、フローサイトメトリーを用いて末梢血CD3+ T細胞上のPD-L1受容体占有率を測定した。統計解析には、ベースライン特性および有害事象の評価、ならびに有効性評価可能患者における最良の全奏効の算出が含まれた。有効性解析は、2011年8月1日までに治療を開始し、奏効評価が可能な160例で実施された。統計的手法として、客観的奏効率の95%信頼区間 (CI) はClopper–Pearson法を用いて算出され、無増悪生存率の95% CIはKaplan–Meier法とGreenwood法を用いて算出された。