• 著者: Navin R. Mahadevan, Erik H. Knelson, Jacquelyn O. Wolff, 他多数 (Dana-Farber Cancer Institute)
  • Corresponding author: David A. Barbie・Matthew G. Oser (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-06-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33707236

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、その高い腫瘍変異負荷 (TMB) にもかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) に対する持続的な奏効が稀であるという課題を抱えている。例えば、atezolizumabと化学療法の併用療法では、全生存期間 (OS) の延長は約2か月に留まることが報告されている Horn et al. NEnglJMed 2018。このICBへの低応答性の主要な原因の一つとして、MHC class I (MHC I) 発現の内在的な低下による抗原提示機能の不全が指摘されてきた。このMHC Iの抑制は、エピジェネティックなメカニズムによって引き起こされる可能性が示唆されている。

SCLCは、その病理学的特徴から神経内分泌 (NE) 型と非神経内分泌 (非NE) 型に大きく分類される。非NE型SCLCは全SCLCの約10%〜15%を占め、NE型とは異なる細胞形態学的および分子生物学的特徴を示す。具体的には、非NE SCLC細胞はASCL1や神経内分泌マーカー (chromogranin A, synaptophysin) の発現が低く、代わりにAXL, POU2F3, YAP1, c-MYCなどの転写因子を高発現する。先行研究では、NE型から非NE型への細胞可塑性が報告されており、非NE細胞では内在性レトロウイルス (ERV) の脱抑制とそれに伴うSTING (stimulator of interferon genes) 経路の活性化が示されている Canadas et al. NatMed 2018。しかし、このSCLCの細胞可塑性とMHC I発現、さらにはICB応答性との直接的な関連性については、これまで十分に探索されていなかった点が未解明である。

また、EZH2 (enhancer of zeste homolog 2; ヒストンH3K27メチル基転移酵素) がSCLCの神経内分泌状態の維持に重要な役割を果たすことは知られていたが、EZH2阻害によるNE型から非NE型への細胞状態変換が、SCLCの免疫原性を直接的に回復させるという治療戦略は、これまで具体的に提唱されていなかった。SCLCのMHC I発現は一般的に低いことが報告されているが George et al. Nature 2015、SCLCの不均一性とMHC I抗原提示の関連性は十分に検討されておらず、この領域に知識の不足が存在する。したがって、SCLCの免疫応答性における細胞可塑性の役割を理解し、それを治療に応用するための知識が不足していた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究は、小細胞肺癌 (SCLC) の免疫原性における細胞可塑性の役割を包括的に解明し、新たな免疫療法戦略を開発することを目的とする。具体的には、以下の4つの主要な目的を設定した。

(1) SCLC患者の腫瘍組織におけるMHC I (MHC class I) 発現の不均一性と細胞可塑性(神経内分泌型から非神経内分泌型への移行)との関連性を詳細に解析し、MHC I発現がICB (免疫チェックポイント阻害薬) に対する持続的奏効のバイオマーカーとして機能するかを検証する。これにより、ICB治療の患者選択におけるMHC Iの臨床的意義を評価する。

(2) 神経内分泌型SCLC細胞におけるMHC I抑制の分子メカニズム、特にTAP1 (transporter associated with antigen processing 1) 遺伝子のエピジェネティックなサイレンシングがMHC I抗原提示経路の欠陥にどのように寄与しているかを、直接的な免疫ペプチドーム解析を用いて解明する。

(3) EZH2 (enhancer of zeste homolog 2) 阻害が神経内分泌型SCLC細胞の非神経内分泌型への移行を誘導し、その結果としてMHC I発現およびSTING (stimulator of interferon genes) 経路の活性化を介して免疫原性を増強する可能性をin vitroモデルで検証する。

(4) EZH2阻害とSTINGアゴニストの逐次療法が、in vivo同系マウスモデルにおいてSCLCのT細胞認識と免疫拒絶を相乗的に増強する効果を評価し、新たな併用免疫療法の概念を確立する。

結果

SCLC患者102例でのMHC I発現不均一性と非NE表現型の関連: 102例の原発SCLC患者腫瘍組織を解析した結果、72例 (71%) がMHC I lo/neg (H-score≤30) であり、SCLCにおけるMHC Iの広範な低発現が確認された。しかし、15例 (15%) はMHC I hi (H-score≥140) を示し、これらの腫瘍はelongated morphology、核/細胞質比の低下、organoid構造の減少といった非神経内分泌型 (非NE) の形態学的特徴を呈した (Fig. 1A, B)。mIF解析では、MHC I hi腫瘍は全例 (n=15/15) でRB欠損を有し、INSM1 (insulinoma-associated protein 1) は多くで保持されていた (n=12/14)。特に、MHC I hi腫瘍ではASCL1とchromogranin Aの発現がMHC I lo/neg腫瘍と比較して有意に低く、非NE表現型との強い関連が示された (Fig. 1E)。Bulk RNA-seq解析では、MHC I hi腫瘍でIFNシグナリング、炎症応答、EMT (上皮間葉転換)、TNFαシグナル経路の遺伝子が高発現しており、特にAXLがMHC I hi腫瘍で突出して高発現していた (Fig. 1C, D)。AXLは非NE/innate immune active状態のマーカーであり、STING活性化状態と関連することが以前に報告されている。mIFによる免疫細胞浸潤の評価では、MHC I hi腫瘍はCD45+/PD-L1+免疫細胞とCD3+ T細胞の腫瘍内浸潤がMHC I lo/neg腫瘍と比較して有意に増加していた (P<0.05, P<0.01) (Fig. 1F)。PD-L1はMHC I hi腫瘍細胞でも上昇していたが、その絶対発現量はCD45+/PD-L1+免疫細胞における発現量よりも低かった。

MHC I高発現とICBの持続的応答: DFCIコホート (n=31、exceptional responder富化) の解析では、MHC I hi患者はMHC I lo/neg患者と比較して、ICB治療後のOSおよび持続的奏効率が有意に高かった。多変量解析の結果、MHC I発現がICB後の生存を予測する唯一の独立因子であることが示された。Checkmate 032コホート (n=18) においても、長期奏効を示した唯一の患者がMHC I hi腫瘍を有していた。両コホートを合算した解析では、MHC I hi患者はMHC I lo/neg患者よりも12か月durable clinical benefit率が有意に高かった (P<0.001)。MHC I hi患者のOS中央値はMHC I lo/neg患者と比較して有意に延長しており (HR 0.35, 95% CI 0.15-0.81, p<0.001)、ICB治療に対する優れた応答性を示した (Fig. 1H)。詳細が提示されたMHC I hi症例の患者は、長期完全奏効を達成しており、MHC I hi、AXL高発現、ASCL1低発現という非NE特徴と、豊富なCD3+ T細胞浸潤を示した (Fig. 1G)。

エピジェネティックなTAP1サイレンシングがNE SCLCのMHC I抑制の分子基盤: H69 (NE型) とH69M (非NE型) 細胞株を用いた統合H3K27 ChIP-seqとRNA-seq解析により、H69MではTAP1、AXL、YAP1が「H3K27Me3消失 + H3K27Ac獲得」というエピジェネティックな状態変化と対応する最上位の脱抑制遺伝子として同定された (Fig. 2A)。MHC I抗原提示機構 (APM) 関連遺伝子全般がH69MでH3K27Acの増加を示し、これは患者MHC I hi腫瘍でも同様の遺伝子群の発現増加として確認された (Fig. 2B)。LC-DIAMSによるMHC I結合免疫ペプチドームの直接測定では、H69細胞はシグナルペプチドのみを提示し (TAP1依存的内在性ペプチド提示の完全欠損)、H69M bulk細胞では部分的な回復、H69M PD-L1/MHC I hi細胞ではHLA-A2拘束性内在性ペプチドの多様性がほぼ完全に回復していることが実証された (Fig. 2F, G, H)。CRISPRによるTAP1過剰発現がNE SCLC細胞のMHC I発現を回復させたことから、TAP1の脱抑制がMHC I回復の直接的な原因であることが確認された。複数のNE型 (浮遊型) と非NE型 (接着型) SCLC細胞株において、HLA-ABC発現とTAP1 mRNA発現が正相関した (R²=0.26, p=0.0009)。Cancer Cell Line Encyclopediaの解析でも、TAP1とEZH2の発現が逆相関し、接着性 (非NE型の代替指標) と関連することが確認された (Fig. 3C)。

EZH2阻害によるNE→非NE移行の誘導とMHC I・STING回復: GSK126を5 μmol/Lで6日間処理後、長期継代培養したH69EZ-G細胞では、非NE/接着性サブポピュレーションが拡大し、MHC I (HLA-ABC) 発現の回復とAXLの共発現が確認された (Fig. 3E)。H69EZ-G細胞は、患者MHC I hi腫瘍やH69M細胞と同様のRNA-seqプロファイル (IFNシグナル、EMT、SPARCS ERVシグネチャーの上昇、神経内分泌遺伝子の低下) を示した (Fig. 3G)。H69EZ-GおよびH69M細胞はSTINGの脱抑制と一致して、cyclic dinucleotide STINGアゴニスト (ADU-S100) に対してCXCL10分泌の劇的な増大で応答した (Fig. 3H)。STINGのCRISPRノックダウンによりH69M細胞のHLA-ABC発現が著明に低下したことから (p<0.01)、STINGシグナリングが非NE細胞における表面抗原提示維持に必須であることが示された (Fig. 3I)。

同系マウスモデルでの非NE SCLC腫瘍の免疫拒絶と腫瘍浸潤T細胞: 免疫能BL6マウスにRPP-A (非NE接着型) 細胞を皮下移植したところ、形成された腫瘍は長期的に自然拒絶され、豊富な免疫細胞浸潤が確認された (Fig. 4C)。対照的に、RPP (NE浮遊型) 細胞は免疫回避し、大きな腫瘍を形成した。免疫不全NSGマウスではRPP-A細胞も腫瘍を形成したことから、拒絶が適応免疫に依存することが確認された (Supplementary Fig. S9C)。RPP-A細胞とRPP細胞を1:4の比率で混合移植した場合でも、RPP-A細胞がT細胞を動員し、免疫能マウスでの腫瘍拒絶を促進できた。TCRレパートリー解析では、RPP-A腫瘍の拒絶には免疫優勢なエフェクターCD8+ T細胞のクローナル増殖が伴っており、特異的なTrav14d-3-dv8/Trbv29クローンの富化が認められた (Fig. 4E)。OVA (ovalbumin) 発現RPP/RPP-A細胞を用いた実験では、RPP-A.OVA細胞はSIINFEKL (MHC class I OVAエピトープ) を基底条件で内因性提示し、cognate OT-I T細胞による殺傷感受性を示した一方、RPP.OVA細胞は高用量IFNγ刺激がなければ感受性を示さなかった (Fig. 4B)。

EZH2阻害+STINGアゴニスト逐次療法の相乗効果: GSK126を6日間パルス投与した後にSTINGアゴニスト (di-AMP) を投与する逐次療法は、EZH2阻害単剤またはSTINGアゴニスト単剤のいずれよりも有意にT細胞認識とSCLC拒絶を増強した (p<0.01) (Fig. 4H, I)。この逐次的アプローチは、「EZH2阻害によるNE→非NE細胞状態変換 (TAP1脱抑制・STING脱抑制)」と「STING活性化による自然免疫誘導」の2段階による相乗的な免疫感作メカニズムを持つことが示唆された。この併用療法を受けたマウスの生存期間は、単剤療法と比較して有意に延長した (HR 0.25, 95% CI 0.08-0.77, p<0.01)。

考察/結論

本研究は、小細胞肺癌 (SCLC) の細胞可塑性、特に神経内分泌型から非神経内分泌型への移行が、その免疫原性の内在的回復をもたらすという、これまで認識されていなかったメカニズムを実証した画期的な研究である。

新規性: 本研究で初めて、TAP1 (transporter associated with antigen processing 1) のエピジェネティックなサイレンシングが神経内分泌型SCLCにおけるMHC I抑制の分子基盤であることを、直接的な免疫ペプチドーム解析によって明らかにした点は新規性が高い。また、MHC I高発現の非神経内分泌型SCLCがICB (免疫チェックポイント阻害薬) への持続的奏効と関連することを、患者コホート解析により示した。これはこれまで報告されていない重要な知見である。

先行研究との違い: これまでのSCLC研究では、MHC Iの低発現が免疫逃避の主要因とされてきたが、本研究はSCLC内部にMHC I高発現の免疫原性サブタイプが存在し、それが細胞可塑性と密接に関連していることを示した点で、これまでのSCLCの「均一な免疫回避腫瘍」という認識とは対照的な知見を提供する。特に、AXL高発現とASCL1低発現を伴う非神経内分泌型がMHC I高発現と関連するという発見は、Rudin et al. NatRevCancer 2019が提唱したSCLCの分子サブタイプ分類に新たな免疫学的側面を追加するものである。

臨床応用: MHC I高発現と非神経内分泌表現型 (AXL高発現、ASCL1低発現) がSCLCにおけるICB持続的応答の新規バイオマーカーとなる可能性は、将来のICB患者選択に直接応用できる臨床的意義を持つ。IHCによるMHC I評価は通常の臨床検査室でも実施可能であり、これはプロスペクティブなバイオマーカー主導型試験への道筋を示している。EZH2 (enhancer of zeste homolog 2) が神経内分泌型からMHC I hi非神経内分泌型への移行を制御することから、EZH2阻害はSCLCを免疫攻撃に対して脆弱化するという全く新しい治療コンセプトを提供する。EZH2阻害とSTING (stimulator of interferon genes) アゴニストの逐次療法は、この内在的免疫原性を最大化するための合理的アプローチとして有望であり、SCLCの治療抵抗性を克服する新たな道を開く可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、EZH2阻害時の神経内分泌型から非神経内分泌型への移行が化学療法耐性獲得を促進するリスクの評価、GSK126以外の選択的EZH2阻害薬 (tazemetostat等) での効果再現性の確認、臨床試験におけるMHC I IHCスコアカットオフの最適化、および逐次療法の最適タイミングの確立が挙げられる。また、本研究の患者コホートは限定的であり、n=102例のIHCコホートから得られた臨床的意義は、大規模な前向き試験での検証が今後の最優先課題である。これらのlimitationを克服するためのさらなる研究が残されている。

方法

患者検体解析: 原発SCLC患者腫瘍組織102例を対象に、MHC I (HLA-ABC) 発現を免疫組織化学 (IHC) のH-scoreと多重免疫蛍光 (mIF) 法で評価した。IHCのH-scoreに基づき、MHC I lo/neg (H-score≤30)、MHC I foc (focal high)、MHC I hi (H-score≥140) の3群に分類した。組織形態、神経内分泌分化マーカー (INSM1, ASCL1, chromogranin A, synaptophysin) とMHC I発現の関係をmIF (RB, INSM1, ASCL1, chromogranin A抗体を使用) で詳細に検討した。MHC I hiとMHC I lo/neg患者腫瘍の少数例についてbulk RNA-seqと遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) を実施した。腫瘍免疫浸潤量はmIF (CD45, PD-L1, CD3, CD8等) で定量化した。

ICB患者コホート解析: Dana-Farber Cancer Institute (DFCI) でICB治療を受けたSCLC患者31例 (exceptional responder富化) と、CheckMate 032試験に参加した患者18例のMHC I発現とICB臨床応答、全生存期間 (OS) を解析した Antonia et al. LancetOncol 2016。生存解析にはログランク検定 (log-rank test) を用いた。多変量解析により、MHC I発現がICB後の生存を予測する独立因子であるかを評価した。

In vitro検討: ヒトSCLC細胞株NCI-H69 (H69; 神経内分泌型、浮遊型) とその接着性誘導体H69M (非神経内分泌型) を用いた。H3K27 ChIP-seqとRNA-seqの統合解析により、細胞状態変化に関連するエピジェネティックな遺伝子座を同定した。H3K27 ChIP-seqデータはMACS (Model-based Analysis of ChIP-Seq) を用いて解析された Zhang et al. GenomeBiol 2008。EZH2阻害薬 (GSK126, 5 μmol/L, 6日間) を用いてH69細胞に神経内分泌型から非神経内分泌型への変換を誘導し (H69EZ-G細胞)、フローサイトメトリーでMHC I (HLA-ABC) とAXL, PD-L1の発現回復を定量した。MHC I結合免疫ペプチドームの直接測定には、液体クロマトグラフィー-データ非依存型質量分析 (LC-DIAMS) を実施した。CRISPR-Cas9技術によるSTINGノックダウン実験を行い、HLA-ABC発現への影響を検討した。TAP1 (transporter associated with antigen processing 1) の過剰発現実験も行った。

In vivoモデル: Rb1/Trp53/Rbl2 (RPP) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM) から樹立したC57BL/6背景の神経内分泌型浮遊細胞 (RPP細胞) と非神経内分泌型接着細胞 (RPP-A細胞) を免疫能マウス (BL6) または免疫不全マウス (NSG) に皮下移植した。腫瘍増殖、拒絶率、T細胞浸潤、TCR (T-cell receptor) レパートリーを評価した。EZH2阻害 (GSK126, 10日間) 後にSTINGアゴニスト (cyclic dinucleotide di-AMP) を逐次投与する併用療法の抗腫瘍免疫増強効果を評価した。統計解析には、Student t test、Mann-Whitney test、ANOVA、Bonferroni補正、log-rank test、χ² testを用いた。