• 著者: Taku Okazaki, Shunsuke Chikuma, Yoshiko Iwai, Sidonia Fagarasan, Tasuku Honjo
  • Corresponding author: Tasuku Honjo (Department of Immunology and Genomic Medicine, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-11-18
  • Article種別: Review
  • PMID: 24240160

背景

PD-1 (programmed cell death 1) は、1992年に本庄らの研究室によって活性化リンパ球のアポトーシス関連遺伝子として同定された免疫抑制性共受容体である Ishida et al. EMBO J. 1992。その後の研究により、PD-1のリガンドであるPD-L1 Freeman et al. JExpMed 2000 およびPD-L2が同定され、この経路が免疫応答の負の制御において中心的な役割を果たすことが明らかになった。PD-1欠損マウスは、C57BL/6背景ではループス様腎炎 Nishimura et al. Immunity 1999、BALB/c背景では拡張型心筋症 Nishimura et al. Science 2001 を自発発症することから、末梢自己寛容の維持に必須であることが示されている。さらに、腫瘍細胞上のPD-L1が免疫監視から逃れる機構に関与していること、およびPD-1経路の阻害が有効ながん治療法となることが動物モデルで示された Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002

しかし、本レビューが執筆された2013年当時、PD-1が他の抑制性共受容体(CTLA-4など)と比較して、なぜ穏やかで組織特異的な自己免疫病態を示すのか、その詳細な分子基盤は未解明であった。また、PD-1が免疫応答の「レオスタット(連続的調節装置)」として機能する具体的なシグナル伝達機構や、細胞内在性(cell-intrinsic)の作用機序が、がん治療における高い有効性と低い毒性という臨床的優位性にどのように結びつくのかについて、体系的な整理が不足していた。さらに、T細胞疲弊(T cell exhaustion)における持続的なPD-1発現を規定する転写・エピジェネティック制御機構や、腸管免疫におけるB細胞制御と全身性自己免疫との関連性についても、知識のギャップが存在していた。本レビューは、これらの課題や未解明な領域を解決し、PD-1のユニークな特性を包括的に説明することを目的として執筆された。

目的

本レビューの目的は、PD-1が他の抑制性共受容体(特にCTLA-4)と対比して、免疫応答を「全か無か(on-off)」ではなく「レオスタット(連続的調節)」として機能させる分子・細胞・組織学的基盤を明らかにすることである。具体的には、PD-1の分子構造、ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif) およびITSM (immunoreceptor tyrosine-based switch motif) を介したシグナル伝達機構、リガンド発現の解剖学的特性、および末梢寛容維持における役割を詳細に解説する。さらに、CTLA-4との機能的差異(細胞内在性作用と細胞外在性作用の違い)を明確にし、PD-1のユニークな特性が、がん治療において高い有効性と比較的低い毒性(良好な安全性プロファイル)をもたらす臨床応用の根拠を論じる。これにより、慢性感染症やがんに対する免疫応答を調節する上でのPD-1の重要性を包括的に理解することを目指す。

結果

PD-1の分子構造とSHP-2を介したシグナル抑制機構: PD-1はCD28ファミリーに属するI型膜貫通タンパク質であり、細胞質領域にITIMとITSMの2つのチロシン含有モチーフを持つ。PD-1がそのリガンド(PD-L1またはPD-L2)と結合すると、ITSMのチロシン残基がリン酸化され、ホスファターゼであるSHP-2が動員される。SHP-2は、TCRシグナル伝達経路の近位エフェクター分子であるZap70 (zeta-chain-associated protein kinase 70) やCD3ζを脱リン酸化し、PI3K-Akt経路などの下流シグナルを抑制する (Fig 1)。この作用はTCRシグナルの閾値を上昇させ、抗原刺激に対するT細胞応答の強度を連続的に調節する「レオスタット」として機能する。PD-1は、CTLA-4とは異なり、エンドサイトーシスに関与するAP2 (adaptor protein 2) 結合モチーフを欠くため、活性化T細胞の表面に持続的に発現できるという特徴を持つ。DO11.10 (DO11.10 TCR transgenic) トランスジェニックT細胞を用いたin vitro実験では、PD-1欠損は3回以上の細胞分裂を経たT細胞数を選択的に増加させ、初期の1〜2回の分裂には影響を与えなかった。これは、PD-1が活性化後期のTCR応答閾値を調節することを示している。

リガンド発現の解剖学的特性と末梢寛容の維持: PD-1シグナルの生物学的作用は、リガンドの発現パターンに強く依存している。PD-L1は、抗原提示細胞(APC)だけでなく、非リンパ組織の血管内皮細胞、上皮細胞、および腫瘍細胞に幅広く発現し、組織局所におけるエフェクターT細胞の活性を直接抑制する (Fig 2)。in vitro実験において、PD-L1を発現する腫瘍細胞はCD8+ T細胞による細胞傷害活性に対して抵抗性を示し、PD-1/PD-L1経路が腫瘍の免疫逃避に直接寄与することが確認された Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002。一方、PD-L2の発現は樹状細胞やB細胞などのプロフェッショナルAPCに限定されており、胚中心(GC)におけるT細胞-B細胞相互作用の制御に関与している。PD-1欠損マウスにおける自己免疫病態は遺伝的背景に強く依存しており、C57BL/6背景ではループス様腎炎、BALB/c背景では抗トロポニンI抗体依存性の拡張型心筋症を発症する。この系統特異性は、PD-1が「見かけ上の抗原特異性」を持って免疫応答の閾値を制御していることを示唆している。

CTLA-4との機能的差異および細胞内在性作用: PD-1とCTLA-4の最も重要な違いは、その作用様式にある。CTLA-4は、主に二次リンパ組織においてCD28とB7分子(CD80/CD86)の結合を競合的に阻害し、T細胞の初期活性化を強力に抑制する(on-off制御)。また、CTLA-4はFoxp3+ Treg (regulatory T cell) 上に高発現し、細胞外在性(in trans)に周囲のT細胞を抑制する (Fig 3b)。CTLA-4欠損マウスは、遺伝的背景に関わらず生後数週間で致死的な全身性自己免疫疾患を発症する。これに対し、PD-1欠損T細胞を野生型マウスに共移入しても自己免疫病態はレスキューされず、PD-1が主に細胞内在性(cell-intrinsic)に作用することが証明された (Fig 3a)。PD-1は末梢組織のエフェクター期において抗原特異的T細胞を直接抑制するため、その阻害に伴う免疫関連有害事象(irAE)は、CTLA-4阻害薬(ipilimumab)と比較して穏やかで局所的なものに留まる。

B細胞応答および腸内細菌叢の制御におけるPD-1の役割: PD-1はT細胞だけでなく、B細胞の活性化や抗体産生の制御にも関与している。PD-1は、腹腔内のB-1 (B-1 cell) 細胞や、胚中心に存在する濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)および濾胞性調節性T細胞(TFR細胞)に高発現している。PD-1欠損マウスでは、TFH細胞の過剰な増加が観察される一方で、B細胞の分化や生存に必要なIL-21の産生能が低下し、結果として高親和性IgG抗体や腸管IgA抗体の産生が障害される。特に腸管において、PD-1欠損は適切なIgA選択を妨げ、腸内細菌叢の組成異常(dysbiosis)を引き起こす。このdysbiosisは腸管バリア機能を低下させ、全身的な免疫活性化を誘導することで、自己反応性T細胞・B細胞の増殖と自己抗体産生を促進する。この「腸内細菌叢-PD-1-自己免疫」の連環は、PD-1が全身の生理的恒常性維持に果たす多面的な役割を示している。

慢性感染症におけるT細胞疲弊と転写・エピジェネティック制御: 慢性LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus) 感染モデルにおいて、持続的な抗原刺激を受けたCD8+ T細胞は、極めて高レベル(活性化初期の約2〜3 log高いレベル)のPD-1を発現し、機能不全に陥る「T細胞疲弊」を示す Barber et al. Nature 2006。この持続的なPD-1発現は、Pdcd1プロモーター上流のCpGジヌクレオチド領域における不可逆的なDNA脱メチル化というエピジェネティックな変化によって規定されている。転写レベルでは、TCRシグナル下流のNFATc1 (nuclear factor of activated T cells c1) がPdcd1プロモーターの-1160位に結合して即時的な転写を誘導し、慢性感染下ではI型インターフェロン(IFN-α)シグナルによって活性化されたIRF9が-1040位のISREに結合することで、PD-1の転写が持続的に維持される。

がん免疫療法への臨床応用と治療効果: 腫瘍微小環境におけるPD-1/PD-L1経路の阻害は、疲弊したT細胞の機能を回復させ、強力な抗腫瘍効果を発揮する。完全ヒト型抗PD-1抗体であるnivolumab(IgG4アイソタイプ、ADCC活性を回避する設計)を用いた第I相臨床試験において、非小細胞肺癌(NSCLC)でORR 18% (n=14/76)、悪性黒色腫でORR 28% (n=26/94)、腎細胞癌でORR 27% (n=9/33) という優れた奏効率が報告された Topalian et al. NEnglJMed 2012。また、Grade 3-4の重篤な薬剤関連有害事象の発生率は低く、良好な安全性プロファイルが示された Brahmer et al。抗PD-L1抗体(BMS-936559)でも同様の治療効果が確認され Brahmer et al. NEnglJMed 2012、PD-1経路の阻害はがん治療における極めて有望なアプローチとして確立された Ribas et al. NEnglJMed 2012

自己免疫モデルにおける遺伝的背景と表現型: 遺伝子欠損マウスを用いた解析では、PD-1欠損による自己免疫病態の発症様式が遺伝的背景に強く依存することが明らかになっている。C57BL/6J背景のPdcd1欠損マウスは生後約6ヶ月以降にループス様腎炎および関節炎を自発発症するが、BALB/c背景では生後数週から数ヶ月で抗トロポニンI抗体依存性の致死的な拡張型心筋症を発症する。さらに、MRL (MRL/lpr background) 背景やNOD (non-obese diabetic) 背景では、それぞれ劇症型心筋炎や1型糖尿病の早期発症が観察される。これらの結果は、PD-1が全身の免疫系を非特異的に遮断するのではなく、個々の遺伝的背景に存在する潜在的な自己抗原反応性の閾値を調節する「レオスタット」として機能していることを明確に示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、PD-1を単なる一般的な免疫抑制分子としてではなく、免疫応答の強度を微調整する「レオスタット」として定義した。CTLA-4が二次リンパ組織でT細胞の初期活性化を「全か無か」で制御するのとは対照的に、PD-1は末梢組織のエフェクター期において細胞内在性に作用するという明確な機能的差異を提示した。この作用機序および作用部位の違いが、抗PD-1抗体治療において、抗CTLA-4抗体よりも重篤な自己免疫関連有害事象(irAE)が少なく、優れた安全性プロファイルを示す分子基盤であることを論理的に説明した。

新規性: 本研究で初めて提示された重要な概念は、PD-1によるB細胞およびT細胞の制御が腸内細菌叢の恒常性維持に直結しており、PD-1欠損による腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が全身性の自己免疫病態を増幅するという新規の病態経路である。これは、PD-1の機能が局所的なT細胞抑制に留まらず、全身の免疫恒常性と生理機能のバランスを維持する広範な役割を担っていることを示した点で極めて新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法におけるPD-1阻害薬の圧倒的な臨床的有用性を裏付ける強力な理論的根拠となった。PD-1の細胞内在性かつ抗原特異的な抑制機構は、腫瘍特異的T細胞を選択的に再活性化させるため、従来の化学療法や放射線療法とは一線を画す持続的な治療効果をもたらす。この基礎研究から臨床応用への展開(bench-to-bedside)の成功は、がん治療のパラダイムシフトを牽引した。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、PD-1阻害薬に対する非奏効例(約70%の患者)が存在する原因の解明と、それを克服するためのバイオマーカー(PD-L1発現、腫瘍遺伝子変異量など)の確立が挙げられる。第二に、非奏効例に対する治療効果を向上させるため、抗CTLA-4抗体との併用療法 Wolchok et al や、TIM-3 Sakuishi et al. JExpMed 2010、LAG-3などの他の抑制性共受容体との複合的阻害、さらにはがんワクチンやサイトカインとの併用療法の最適化が今後の研究方向性として示されている。

方法

本論文はレビュー記事であるため、新規の患者コホートや動物実験による直接的なデータ取得は行っていない。過去20年間にわたるPD-1の発見から臨床応用までの主要な基礎研究および臨床試験の知見を統合・分析する方法を採用した。文献検索には PubMed などの主要な医学データベースを使用し、1992年から2013年までに発表された論文を対象とした。検索キーワードには “PD-1”, “PD-L1”, “PD-L2”, “CTLA-4”, “cancer immunotherapy”, “autoimmunity”, “T cell exhaustion” などを設定した。

分析においては、以下の3つの軸を中心として議論を構成した。第一に、PD-1の分子生物学的特性として、細胞質領域のITIM/ITSMモチーフのリン酸化と、それに伴うチロシンホスファターゼ SHP-2 (Src homology 2-domain containing tyrosine phosphatase 2) の動員機構、およびTCR (T cell receptor) 下流分子(Zap70など)の脱リン酸化によるシグナル抑制メカニズムを整理した。第二に、遺伝子欠損マウスモデル(C57BL/6J、BALB/c、NOD、MRLなどの背景)における自己免疫表現型の違いを比較し、PD-1が末梢寛容に果たす役割を評価した。特に、CTLA-4欠損マウスにおける致死的な全身性リンパ増殖性疾患との対比を通じて、作用機序の違い(細胞内在性 vs 細胞外在性)を明確にした。第三に、がん免疫療法への応用として、抗PD-1抗体(nivolumab)および抗PD-L1抗体(BMS-936559)の初期臨床試験データを基に、その治療効果と安全性プロファイルを検証した。統計解析手法や特定の実験プロトコルは含まれていないが、学術的エビデンスの論理的統合によりPD-1の「レオスタット機能」を概念化した。