- 著者: Wang J, Sanmamed MF, Datar I, Su TT, Ji L, Sun J, Chen L, Chen Y, Zhu G, Yin W, Zheng L, Zhou T, Badri T, Yao S, Zhu S, Boto A, Sznol M, Melero I, Vignali DAA, Schalper K, Chen L
- Corresponding author: Lieping Chen (Department of Immunobiology, Yale University School of Medicine)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30580966
背景
がん免疫療法において、PD-1/PD-L1シグナル経路の阻害は劇的な臨床効果をもたらしてきたが、依然として多くの患者が治療抵抗性を示す。がん細胞がPD-L1(B7-H1)を発現してT細胞のアポトーシスを誘導し、免疫逃避を駆動する機構 Dong et al. NatMed 2002 が明らかにされて以来、この耐性克服のためにPD-1以外の新規免疫チェックポイント分子の同定と機能解明が急務となっている。LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3) は、活性化されたT細胞上に発現する代表的な免疫抑制性受容体であり、CD8⁺およびCD4⁺ T細胞の増殖、活性化、およびエフェクター機能を負に制御することが知られている。先行研究 Anderson et al. Immunity 2016 において、LAG-3の正規リガンドとしてMHC-II (major histocompatibility complex class II) が同定され、その相互作用を阻害する抗体が開発されてきた。しかし、MHC-IIを介さない抗LAG-3抗体がT細胞機能を増強することや、MHC-IIを発現しないCD8⁺ T細胞やNK (natural killer) 細胞に対してもLAG-3が抑制的に働くことなど、MHC-II非依存的な抑制機構の存在を示唆する証拠が蓄積していた。このことから、LAG-3には未知の主要な機能的リガンドが存在する可能性が指摘されていたが、その実体は長らく「未解明」であり、がん免疫回避における具体的な役割も「不明」であった。既報のgalectin-3や LSECtin (liver and lymph node sinusoidal endothelial cell C-type lectin) といった分子もLAG-3との結合が報告されているが、腫瘍免疫における主要な抑制経路としての厳密な検証は「不足」しており、治療標的としての妥当性には「課題」が残されている状態であった。このように、LAG-3経路の全貌を理解するための機能的リガンドに関する知見が決定的に「不足している」ことが、次世代の免疫チェックポイント阻害剤の開発における大きな「gap」となっていた。本背景を踏まえ、LAG-3の新規リガンドを網羅的に探索し、その生物学的・臨床的意義を明らかにすることが求められていた。
目的
本研究の目的は、ゲノムスケールの受容体アレイ技術を用いて、MHC-IIとは独立してLAG-3に結合する新規の機能的リガンドを網羅的にスクリーニングし、同定することである。さらに、同定されたリガンドとLAG-3の生化学的相互作用を解析し、in vitroおよびin vivoの腫瘍モデルを用いて、この新規経路がT細胞免疫抑制およびがんの免疫逃避に果たす役割を検証する。最終的に、ヒトがん組織および血漿サンプルを用いて、このリガンドの発現状況と抗PD-1療法に対する治療抵抗性や予後との関連性を明らかにし、次世代のがん免疫療法における新たな治療標的およびバイオマーカーとしての有用性を確立することを目指す。具体的には、FGL1 (fibrinogen-like protein 1) とLAG-3の結合親和性や、FGL1の CCD (coiled-coil domain) および FD (fibrinogen-like domain) などの結合ドメインを特定し、FGL1欠損マウスや特異的モノクローナル抗体を用いて、腫瘍微小環境におけるT細胞活性化への影響を多角的に評価する。これにより、PD-1/PD-L1経路とは独立した新しい免疫逃避機構の実体を証明し、臨床応用への基盤を構築する。
結果
GSRAシステムによるFGL1の同定と高親和性結合特性の解明: ゲノムスケール受容体アレイ(GSRA)を用いた6,000以上のcDNAスクリーニングにより、肝臓分泌タンパク質であるFGL1が、MHC-IIとは独立したLAG-3の高親和性結合パートナーとして同定された。Octetバイオレイヤー干渉法による生化学的解析では、FGL1とLAG-3の結合親和性は Kd ≈ 1.5 nM という非常に高い値を示し、極めて安定した相互作用であることが確認された (Fig 1)。ドメイン解析の結果、FGL1のFDがLAG-3との結合に必須であり、CCDは不要であることが判明した。一方、LAG-3側ではD1およびD2ドメインが結合に寄与していた。MHC-IIとの結合を阻害するLAG-3のY73F変異体を導入した実験においても、FGL1-Igの結合は阻害されず、100-fold excess のFGL1存在下でもMHC-IIのLAG-3への結合は変化しなかった。このことから、FGL1とMHC-IIはLAG-3上の異なる部位に独立して結合することが実証された。また、サイズ排除クロマトグラフィー解析により、FGL1はオリゴマーを形成し、このオリゴマー型は二量体型と比較してLAG-3に対して有意に高い結合活性を示すことが、n=3 replicates の実験で明らかになった (Fig S1)。
FGL1によるT細胞活性化の抑制とFGL1欠損による腫瘍免疫の増強: in vitroにおいて、FGL1-Ig融合タンパク質は、野生型T細胞の増殖を抗CD3抗体刺激下で約3-fold有意に抑制したが、LAG-3-KOマウス由来のT細胞(n=3 mice)ではこの抑制効果が消失した。また、3A9-LAG-3ハイブリドーマを用いた実験において、FGL1は抗原特異的なIL-2産生を用量依存的に抑制し、この抑制は抗FGL1抗体(177R4)または抗LAG-3抗体(C9B7W)の添加によって完全に解除された (Fig 2)。FGL1-KOマウス(n=5 mice)を用いたMC38腫瘍モデルでは、野生型マウスと比較して腫瘍増殖が著しく遅延し、約50%のマウスで200日以上の長期にわたる完全な腫瘍消失が観察された (Fig 4)。腫瘍組織から回収したTILのCyTOF解析(n=4-5 mice)では、FGL1-KO群において、CD44⁺ CD62L⁻ PD-1⁺ Gata3⁺のエフェクターメモリー様CD4⁺ T細胞およびCD44⁺ Ly6C⁺のメモリー様CD8⁺ T細胞の有意な増加が認められた (Fig 5)。さらに、抗FGL1抗体または抗LAG-3抗体治療群のTILにおいて、活性化マーカーであるCD69やエフェクター分子である GZB (granzyme B) の発現上昇が確認された。
FGL1-LAG-3経路阻害の受容体・リガンド相互依存性の検証: 抗FGL1抗体による抗腫瘍効果は、T細胞およびB細胞を欠損したRag1-KOマウス(n=6 mice)や、CD4⁺またはCD8⁺ T細胞を特異的に枯渇させたマウスでは完全に消失し、T細胞依存的な機序であることが示された。さらに、抗LAG-3抗体はFGL1-KOマウスにおいて抗腫瘍効果を示さず、逆に抗FGL1抗体はLAG-3-KOマウスにおいて無効であった。この結果は、両抗体の治療効果がFGL1-LAG-3相互作用の遮断に厳密に依存していることを証明している。また、MC38腫瘍モデルにおいて、抗FGL1抗体または抗LAG-3抗体と抗B7-H1(PD-L1)抗体の併用療法は、単剤治療と比較して腫瘍増殖を強力に抑制し、30%以上のマウスで150日以上の腫瘍消失を維持する相乗効果を示した (Fig 6)。具体的には、抗FGL1抗体と抗B7-H1抗体の併用群では、単剤群と比較して腫瘍体積が有意に縮小し、生存期間の著しい延長が確認された。この相乗効果は、PD-1/PD-L1経路とFGL1/LAG-3経路が互いに独立した、かつ相補的な免疫抑制シグナルをT細胞に伝達していることを示唆している。このように、両経路を同時に遮断することが、難治性腫瘍に対する極めて有効な治療戦略となることが示された。
ヒトがん組織におけるFGL1高発現と抗PD-1治療耐性との関連: ヒトNSCLC組織(n=275 patients)のQIF解析では、FGL1は正常肺組織には発現せず、腫瘍細胞に特異的に高発現しており、約15%の症例が高発現群に分類された (Fig 6)。FGL1高発現群は、低発現群と比較して5年全生存率が有意に低下していた。さらに、抗PD-1抗体治療を受けたNSCLC患者(n=18 patients)において、治療前の血漿中FGL1濃度が高いFGL1高値群 vs 低値群の比較では、高値群(カットオフ値 336.5 ng/mL)において全生存期間が有意に短縮していた(HR 6.8 (95% CI 1.1-42, p=0.04)) (Fig 6)。同様に、抗PD-1治療を受けた転移性黒色腫患者(n=21 patients)における血漿中FGL1高値群 vs 低値群の比較においても、高値群(カットオフ値 114 ng/mL)で予後不良であった(HR 7.9 (95% CI 2.2-27.4, p<0.001))。これらの臨床データは、FGL1が抗PD-1療法に対する治療抵抗性のバイオマーカーとして極めて有用であることを示している。
FGL1欠損マウスにおける自己免疫表現型と免疫恒常性維持の解析: FGL1の生理的機能を明らかにするため、FGL1-KOマウス(n=20 mice)を作製し、長期的な表現型解析を行った。FGL1-KOマウスは若年期には正常な発育を示したが、加齢に伴い自己免疫疾患に類似した表現型を呈することが明らかになった。具体的には、生後8ヶ月以上の高齢FGL1-KOマウスにおいて、約40% (8/20) の個体で皮膚炎が自発的に発生し、真皮層への顕著なリンパ球浸潤が観察された (Fig S3)。さらに、生後12〜16ヶ月の高齢雌マウス(n=8 mice)では、野生型マウスと比較して血漿中の抗二本鎖DNA自己抗体価が有意に上昇していることが確認された (Fig S3)。末梢血のCyTOF解析(n=3 mice)では、CD44⁺ CD62L⁺ Ly6C⁺ CD127⁺ Tbet⁺ Eomes⁺のセントラルメモリー様CD8⁺ T細胞サブセットの有意な増加が認められた。これらの結果は、FGL1が定常状態において過剰な自己免疫反応や炎症反応を抑制し、免疫恒常性の維持に寄与していることを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、LAG-3の主要な機能的リガンドとしてFGL1を同定し、その詳細な免疫抑制機序を明らかにした。これは、従来の「LAG-3の機能は主にMHC-IIとの結合によって媒介される」という定説と異なり、MHC-IIとは完全に独立した新規の抑制経路が存在することを初めて実証したものである。先行研究 Anderson et al. Immunity 2016 では、LAG-3、Tim-3、TIGITなどの共抑制性受容体(co-inhibitory receptor)がそれぞれ特異的なリガンドを介して免疫調節を行うことが示されていたが、CD8⁺ T細胞やNK細胞におけるLAG-3の抑制シグナル伝達機構の詳細は不明であった。本研究は、FGL1がMHC-II非発現細胞に対してもLAG-3を介して強力な抑制シグナルを伝達することを示し、長年の謎を解決した。
新規性: 本研究で初めて、肝臓から分泌されるFGL1がLAG-3の主要な機能的リガンドであり、腫瘍細胞がこのFGL1を過剰発現することでTIL上のLAG-3に結合し、T細胞免疫を抑制するという「腫瘍固有の免疫回避機構」を新規に同定した。この知見は、がん細胞がPD-L1(B7-H1)発現 Dong et al. NatMed 2002 以外にも、FGL1の分泌を通じて全身的および局所的な免疫監視から逃れる経路を構築していることを示している。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。組織中のFGL1発現を客観的に測定すること Schalper et al. JNatlCancerInst 2015 や、患者の血漿中FGL1濃度を測定することは、抗PD-1/PD-L1療法に対する治療抵抗性を予測する新規バイオマーカーとして臨床現場で有用である。さらに、既存の抗LAG-3抗体の多くがMHC-IIとの結合阻害作用のみを持つため臨床効果が限定的であった可能性が示唆され、FGL1-LAG-3結合を標的とした次世代の阻害剤開発や、PD-1阻害剤との併用療法という新たな translational な治療戦略の設計を可能にする。
残された課題: 今後の検討課題として、可溶性因子であるFGL1がどのようにして細胞膜上のLAG-3にシグナルを伝達し、T細胞内部の抑制経路を活性化するのか、その詳細な細胞内シグナル伝達機構の解明が必要である。また、FGL1は正常な肝細胞からも低レベルで分泌されているため、全身投与による抗FGL1抗体治療が肝機能や代謝に与える影響について、さらなる安全性の検証が求められる。本研究の limitation として、臨床サンプルのコホート規模が比較的小さいため、より大規模な多施設共同研究によるバイオマーカーとしての妥当性の検証が今後の課題として残されている。
方法
本研究では、LAG-3の新規結合パートナーを同定するため、独自の GSRA (genome-scale receptor array) システムを用いた。このシステムは、5,600以上のヒト膜貫通タンパク質および1,000以上の分泌タンパク質をコードするcDNAライブラリを293T.2A細胞(DAP10、DAP12、FcRγ、CD3ζを過剰発現させた HEK293T 細胞 of サブライン)に発現させ、1,536ウェルプレートを用いてハイスループットにスクリーニングするものである。生化学的解析として、Octetバイオレイヤー干渉法を用いて、FGL1とLAG-3の結合親和性(Kd値)を測定した。また、FGL1のCCDおよびFDのドメイン欠損体を作製し、結合部位の特定を行った。さらに、SEC-MALS (size exclusion chromatography with multi-angle light scattering) 解析を用いて、FGL1のオリゴマー状態を評価した。 In vitro機能解析では、野生型および LAG-3-KO (LAG-3 knockout) マウスから調製した脾細胞を用い、抗CD3抗体刺激下でのT細胞増殖抑制試験を行った。また、3A9-LAG-3 T細胞ハイブリドーマと LK35.2 (mouse B-cell lymphoma line) の共培養系を用い、抗原特異的なIL-2産生に対するFGL1の抑制効果を評価した。 In vivo評価には、C57BL/6J 背景 of 野生型マウス、FGL1-KO (FGL1 knockout) マウス、およびLAG-3-KOマウスを使用した。腫瘍モデルとして、同系の MC38 (mouse colon adenocarcinoma cell line) および Hepa1-6 (mouse hepatoma cell line) を皮下移植した。治療実験では、独自に作製した抗FGL1モノクローナル抗体(177R4クローン)および抗LAG-3抗体(C9B7Wクローン)を単剤または抗B7-H1抗体(10B5クローン)と併用投与した。腫瘍浸潤白血球である TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の解析には、32種類の金属標識抗体を用いた質量サイトメトリーである CyTOF (cytometry by time-of-flight) を使用し、t-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) アルゴリズムおよびX-shiftクラスタリングを用いて免疫細胞サブセットを同定した。統計解析には、生存曲線の比較として log-rank 検定を用い、群間比較には Student’s t-test および two-way ANOVA を用いた。 ヒト臨床検体の解析として、Yale大学の NSCLC コホート(n=275)の TMA (tissue microarray) を用い、多重 QIF (quantitative immunofluorescence) 法により腫瘍細胞におけるFGL1タンパク質発現を定量評価した。また、抗PD-1治療を受けたNSCLC患者(n=18)および転移性黒色腫患者(n=21)の治療前血漿サンプルを用い、ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 法により血漿中FGL1濃度を測定し、Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いて生存期間との相関を解析した。