• 著者: Zilei Liu, Jie P. Li, Mingkuan Chen, Mengyao Wu, Yujie Shi, Wei Li, John R. Teijaro, Peng Wu
  • Corresponding author: Jie P. Li (Nanjing University, China); Peng Wu (The Scripps Research Institute, La Jolla, CA, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33096019

背景

がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害薬や養子細胞移入療法 (adoptive cell transfer; ACT) の成功は、腫瘍特異抗原 (tumor-specific antigen; TSA) 反応性 T 細胞の再活性化とクローン拡張に依存している。先行研究により、腫瘍の遺伝子変異に由来するネオアンチゲン負荷が PD-1 阻害薬の治療奏効を規定すること (Rizvi et al. Science 2015) や、個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床的有用性 (Ott et al. Nature 2017Sahin et al. Nature 2017)、さらにチェックポイント阻害療法の将来性 (Sharma et al. Science 2015) が示されてきた。しかしながら、腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte; TIL) の中から真に TSA 反応性を持つ T 細胞を特異的に同定・単離するための信頼できる細胞表面マーカーは存在しなかった。PD-1 などの活性化マーカーを発現する TIL の中には、ウイルス特異的 T 細胞などの腫瘍を攻撃しない bystander T 細胞が多数混在していることが大きな課題であった。従来のペプチド-主要組織適合遺伝子複合体 (peptide-major histocompatibility complex; pMHC) マルチマー法は、全エクソームシーケンス (whole exome sequencing; WES) とバイオインフォマティクス予測に基づく逆免疫学的アプローチに依存しているが、予測されたペプチドの多くは免疫原性を欠いており予測精度が不完全であった。遺伝子改変や事前の抗原予測を必要とせず、迅速かつ簡便に TSA 反応性 T 細胞を同定・単離できる汎用的なプラットフォームは依然として確立されておらず、この技術的不足が本研究における最大の動機である。このように、腫瘍微小環境における真の抗原特異的 T 細胞を直接的かつ簡便に識別する技術は未だ確立されておらず、この技術的 gap が存在することが、個別化がん免疫療法の発展を阻害する重大な課題として残されている。

目的

細胞表面の N-アセチルラクトサミン (N-acetyllactosamine; LacNAc) を基質とする Helicobacter pylori 由来 α(1,3)fucosyltransferase (FT) (α(1,3)フコース転移酵素) を、遺伝子改変なしで抗原提示細胞 (antigen-presenting cell; APC) である樹状細胞 (dendritic cell; DC) 表面に化学酵素的に結合させる手法を開発する。この FT 結合 DC を用いて、抗原提示 DC と T 細胞の物理的接触を近接依存的なフコシルビオチン標識 (fucosyl-biotinylation) によって検出する新規プラットフォーム「FucoID」を確立し、腫瘍消化液から事前の抗原情報なしに直接 TSA 反応性 TIL を識別・単離することを目的とする。

結果

FucoIDによる相互作用特異的標識の確立: CHO-FT 細胞と野生型 CHO 細胞の共培養において、細胞間接触界面のみに強いビオチン標識が検出され、非接触細胞では標識が観察されなかった (Fig 1)。OVA257-264 プライム iDC-FT は OT-I CD8+ T 細胞の 36% を特異的に標識したのに対し、非特異的な LCMV GP33-41 プライム iDC-FT による標識は 1% の背景レベルにとどまった (Fig 2)。APL を用いた実験では、TCR 結合親和性の順に N4 (64%) > A2 (30%) > T4 (9%) と標識率が段階的に低下し、親和性を反映した標識強度が示された。C57BL/6J スプレノサイト中に OT-I CD8+ T 細胞を 2% スパイクした希釈条件 (n=3 replicates) においても、iDC-FT との比率を 3:1 に高めることで、94% の OT-I T 細胞を極めて高い感度で捕捉することに成功した。また、OT-II CD4+ T 細胞に対しても、OVA323-339 プライム iDC-FT が 11.3% の特異的標識を示し、MHC クラス II 提示系への適用性も確認された。

B16-OVAモデルにおけるTSA反応性TILの同定: B16-OVA 腫瘍消化液から回収した TIL に対し、腫瘍ライセートプライム iDC-FT を用いた FucoID を適用したところ、自己 CD8+ TIL の 57% が標識された (Fig 3)。全 CD8+ TIL の 76% が PD-1+ であり、そのうち 74% が Fuc-Bio+ (TSA 反応性) であった。一方、PD-1+ のうち 26% は Fuc-Bio- であり、これらは bystander T 細胞であると考えられた。PD-1- 標識率は 3% のみであった。ソートした PD-1+Bio+ TIL を 48時間 培養後に H-2Kb/OVA257-264 テトラマーで染色したところ、50% が陽性 (うち 6% が tetramer^high) であったのに対し、PD-1+Bio- 群では tetramer^high 細胞は 0% であった。congenic マウスを用いた養子移入試験 (n=8 mice) において、PD-1+Bio+ TIL を移入した群では LM-OVA 接種後に血中 CD8+ T 細胞の 1.1% 以上に達する強力な増殖を示し、day 38 の脾臓でも 0.2% が維持され、再刺激により強力なリコール反応を示した。これに対し、PD-1+Bio- および PD-1- 移入群では増殖やメモリー形成は観察されなかった。

複数腫瘍モデルへの適用と治療効果: B16 黒色腫 (34%)、E0771 乳がん (17%)、MC38 結腸がん (25%) の CD8+ TIL が、腫瘍ライセートプライム iDC-FT によって特異的に標識された (Fig 4)。健常組織ライセートを用いた場合の標識率は 3% 未満であり、高い特異性が実証された。IFNγ ELISpot 解析において、拡大培養後の PD-1+Bio+ TIL のみが腫瘍ライセート再刺激に対して特異的に IFNγ を分泌し、この反応は抗 MHC クラス I 抗体によって完全に阻害された。in vitro 殺傷試験において、PD-1+Bio+ TIL は total PD-1+ TIL よりも有意に高い殺傷活性を示した。in vivo 治療モデルにおいて、B16-luc 肺転移モデルにおける腫瘍負荷を PD-1+Bio+ TIL 移入群は 98% 抑制し、生存期間を著しく延長させた (Fig 5)。また、MC38 皮下腫瘍モデル (n=8 mice) において、PD-1+Bio+ TIL と抗 PD-1 抗体の併用療法は、total PD-1+ TIL 併用群と比較して腫瘍体積を 1/4 に縮小させ (p<0.001)、50% のマウスが day 34 時点で生存し、12.5% (n=1/8 mice) が完全奏効 (tumor-free) に至った。

TSA反応性CD8+ TILのトランスクリプトームおよびTCR特性: scRNA-seq 解析により、PD-1+Bio+、PD-1+Bio-、PD-1- の 3 サブセットは明確に異なる遺伝子発現プロファイルを示した (Fig 6)。PD-1+Bio+ TIL は、PD-1+Bio- と比較して、活性化および機能障害 (dysfunction) 関連遺伝子 (Tox, Pdcd1, Lag3, Tigit, Havcr2, Entpd1, Mki67, Gzmk) が有意に上昇していた。さらに、ステロイド・コレステロール生合成経路 (Msmo1, Dhcr7) が特異的に活性化されており、Msmo1 は 2.8-fold increase、Dhcr7 は 2.3-fold increase を示した。TCR レパートリー解析では、PD-1+Bio+ TIL は極めて高い偏りと低い多様性 (oligoclonal expansion) を示し、上位 10 クローンの配列は PD-1+Bio- サブセットと全く重複しなかった。

TSA特異的CD4+ T細胞における機能的二面性の発見: Pan02 膵がんモデル (n=6 mice) において、FucoID により CD4+ TIL の 20% が特異的に標識された (Fig 7)。Bio+ CD4+ TIL の 64% は Foxp3+ であり、Helios や GITR を高発現する腫瘍特異的調節性 T 細胞 (Treg) であった。IFNγ ELISpot 解析において、CD25-Bio+ CD4+ TIL (ヘルパー T 細胞画分) は CD8+ TIL の抗腫瘍活性を相加的に増強したのに対し、CD25+Bio+ CD4+ TIL (Treg 画分) は CD8+ TIL の IFNγ 分泌を著しく抑制した (p<0.001)。この抑制効果は抗 MHC クラス II 抗体によって解除され、抗原特異的な抑制機構であることが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来のバイオインフォマティクス予測に基づくネオアンチゲン同定法 (Schumacher et al. Science 2015) や pMHC マルチマー法と異なり、抗原の配列情報を事前に一切必要としない。また、遺伝子改変を伴う近接標識技術とも異なり、一次細胞である DC 表面に化学酵素的に FT を結合させることで、生細胞間の物理的接触を直接ビオチン標識として検出できる点が決定的に異なる。

新規性: 本研究で初めて、H. pylori 由来 α(1,3)FT の高 kcat および高 Km 特性を利用した、相互作用依存的な細胞表面フコシルビオチン標識システム (FucoID) を新規に開発した。これにより、腫瘍ライセートをそのまま「抗原ライブラリー」として提示した DC を用いて、内因性の TSA 反応性 CD8+ および CD4+ T 細胞を近接依存的に識別・単離することに初めて成功した。

臨床応用: 本知見は、個別化がん免疫療法、特に TIL を用いた養子細胞移入療法 (ACT) の臨床応用に直結する。TIL 中に混在する bystander T 細胞を排除し、真に治療効果を持つ TSA 反応性 T 細胞 (PD-1+Bio+) のみを選択的に拡大培養することで、ACT の治療奏効率を飛躍的に高めることができる。これは、肺がんや乳がんなどの低免疫原性腫瘍に対する精密医療の確立に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、第一にヒト臨床サンプルにおける FucoID の有効性と安全性の検証が挙げられる。第二に、自己抗原提示 DC ととの接触による自己反応性 T 細胞の誤標識 (交差反応性) のリスク評価が必要である。第三に、TIL 浸潤が極めて少ない「冷たい腫瘍 (cold tumor)」における検出感度の限界や、ヒト HLA 多様性に対応した DC 調製プロトコルの最適化が今後の課題として残されている。

方法

FT結合DCの作製: グアノシン二リン酸フコース (guanosine diphosphate fucose; GDP-fucose) と FT の複合体である GDP-fucose-FT (GDP-Fuc-FT) を合成し、LacNAc および sialyl LacNAc を基質とする自己触媒反応により、マウス骨髄由来未熟樹状細胞 (immature dendritic cell; iDC) およびヒト単球由来 DC の細胞表面に FT を 20分 以内で結合させた。 相互作用依存的標識 (FucoID): FT 結合 iDC (bait) と T 細胞 (prey) を GDP-fucose-biotin (GDP-Fuc-Bio, 50 mM) 存在下で共培養した。FT の高い Km 値 (LacNAc に対し 1.3 mM) と高い kcat 値 (442 min⁻¹) を利用し、非接触時の低背景シグナルと接触時の高効率標識を両立させた。 ex vivo 検証: OT-I CD8+ T 細胞 (OVA257-264 特異的) と OVA257-264 (SIINFEKL ペプチド) または LCMV GP33-41 ペプチド (100 nM) でプライミングした iDC-FT を共培養し、標識特異性を検証した。altered peptide ligands (APL: SIINFEKL N4, SAINFEKL A2, SIITFEKL T4) を用いて TCR 結合親和性と標識強度の相関を評価した。 腫瘍モデルと細胞株: B16-OVA、B16 黒色腫、E0771 乳がん、MC38 結腸がん、Pan02 膵がんモデルを用いた。マウス系統として C57BL/6J および BALB/c を使用した。腫瘍組織を機械的・酵素的に解離して単一細胞懸濁液および腫瘍ライセートを調製した。自己 iDC に腫瘍ライセートをロードしてプライミングし、FT 結合後に TIL と共培養した。 機能検証と養子移入: PD-1+Bio+ TIL を FACS ソートし、照射不活化フィーダー細胞、抗 CD3 抗体、rhIL-2 存在下で迅速拡大培養 (rapid expansion protocol) を行った。IFNγ ELISpot、in vitro 腫瘍殺傷活性、in vivo 肺転移モデル (B16-luc) および皮下腫瘍モデル (MC38) での治療効果を評価した。 統計解析: 統計学的有意差の判定には Student t-test、one-way ANOVA、および Mann-Whitney U test を使用した。また、RNA-seq 解析には R パッケージの DESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014) を用いた。