• 著者: Ugur Sahin, Evelyna Derhovanessian, Matthias Miller, Björn-Philipp Kloke, Petra Simon, Martin Löwer, et al.
  • Corresponding author: Ugur Sahin (BioNTech Corporation / TRON / University Medical Center, Mainz, Germany)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28678784

背景

腫瘍ネオエピトープに対するT細胞応答は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の臨床効果を支える主要な機序であることが知られている。しかし、自然発生的な抗ネオエピトープ免疫応答は限定的であり、その効果は高変異負荷の腫瘍に偏る傾向があることが報告されている Rizvi et al. Science 2015。このため、免疫療法効果の拡大には、ネオエピトープ特異的T細胞応答の効率的な誘導が不可欠であると考えられている。先行研究では、マウスモデルにおいて、予測されたHLAクラスIおよびクラスIIネオエピトープを搭載したワクチンが腫瘍拒絶を誘導することが示されており、特にCD4+ T細胞が腫瘍ネオエピトープの主要な認識者であることが報告されている (Kreiter et al. Nature 2015)。

しかし、患者個々の変異プロファイルに基づいた個別化ネオエピトープワクチンを臨床応用するためには、変異同定、エピトープ予測、GMP (Good Manufacturing Practice) 準拠の製造、そして患者への投与という一連の統合プロセスを規制要件下で確立する必要があった。このプロセスは、これまでのところ臨床的に未確立であり、その実現可能性、安全性、免疫原性、および抗腫瘍効果については未解明な点が多かった。特に、ヒトにおいて個別化RNAネオエピトープワクチンが多特異的なT細胞応答を誘導し、臨床的有用性を示すか否かは、本研究以前には報告されていなかった。また、ネオエピトープワクチン単独での転移再発抑制効果や、ICIとの併用による相乗効果についても、臨床データが不足していた。これらの知識ギャップを埋めるため、本試験はfirst-in-human検証として実施された。

目的

切除不能なステージIII/IVメラノーマ患者を対象に、個別化RNA mutanome vaccineの製造プロセスの実現可能性、安全性、ネオエピトープ特異的T細胞応答の誘導、および臨床的有用性を検証することを目的とした。具体的には、ワクチン製造の成功率、関連する有害事象の発生率、ワクチン接種後のCD4+およびCD8+ T細胞応答の頻度と特異性、ならびに転移再発率および無増悪生存期間 (PFS) を評価した。さらに、ワクチン誘導T細胞の腫瘍内浸潤と腫瘍細胞殺傷能力、および免疫チェックポイント阻害剤との併用効果についても探索的に評価した。本研究は、個別化RNAネオエピトープワクチンがヒトにおいて多特異的なT細胞応答を誘導し、抗腫瘍活性を示すか否かを初めて検証するものであった。

結果

製造プロセスの完全成功と良好な忍容性: 13例全例において個別化RNAワクチン製造に成功し、成功率は100%であった (Figure 1c)。ワクチンリリースまでの中央値は103日 (範囲89-160日) であった。患者は最大20回のネオエピトープワクチン投与を良好に忍容し、関連する重篤な有害事象は認められなかった。最も一般的な有害事象は注射部位反応とインフルエンザ様症状であり、大部分がGrade 1-2であった。これにより、個別化RNAネオエピトープワクチンがfirst-in-humanとして臨床的に実装可能であることが確立された。

ポリ特異的T細胞応答の誘導: 投与された125個のネオエピトープのうち、60% (n=75) に対してT細胞応答 (IFNγ ELISpot) が誘導され、全13例が少なくとも3つ以上の変異に対してT細胞応答を獲得した (Figure 1e, Extended Data Table 2)。これらの応答のうち約1/3は既存応答の増強であり、約2/3はde novo応答であった。免疫原性変異はペンタトープRNAの5つのポジション全体に均等に分布しており、位置による偏りは認められなかった (Figure 1g)。ワクチン接種後の血液サンプルでは、ネオエピトープ特異的TCR-β鎖配列がワクチン接種前のサンプルと比較して有意に豊富に存在することが示され (Figure 2d)、de novoプライミングが裏付けられた。この結果は、ワクチンが広範なT細胞レパートリーを動員する能力を持つことを示している。

CD4+優位の応答パターンとCD8+細胞傷害性活性: 誘導されたT細胞応答の大部分はCD4+単独応答であり (57%)、CD8+単独応答は少数 (17%)、約1/4 (26%) がCD4+とCD8+両方の応答を誘導した (Figure 1e, Extended Data Fig. 2b)。これはマウスモデルでの予測と同様にCD4+ T細胞が中心的な役割を担うことを示唆する。クローン化されたTCRとHLAマルチマー解析により、ネオエピトープ特異的な細胞傷害活性が確認された (Figure 2c, e)。例えば、P01患者のNARFL(E62K)変異に対するCD8+ T細胞は、HLA-A*3101拘束性で特異的な殺傷能を示した (Figure 2c)。ネオエピトープ特異的CD8+ T細胞は、2-4週間以内に高単一桁パーセンテージまで拡大し、弱くPD-1陽性のセントラルメモリーまたはエフェクターメモリー表現型を示し、抗原刺激時にIFNγとTNFαを同時に発現する完全な機能を有していた (Figure 2e, f)。

腫瘍内浸潤とネオエピトープ特異的腫瘍細胞殺傷: ワクチン接種後に切除された転移巣2例 (P04, P17) の解析では、ワクチン誘導T細胞が腫瘍内に浸潤し、自家腫瘍細胞をネオエピトープ特異的に殺傷することが実証された (Figure 3d, i)。P04患者のワクチン接種後転移巣では、CD8+ T細胞浸潤、PD-L1染色、および免疫活性化・炎症マーカーの発現が増加していた (Figure 4a, b)。特に、P17患者のRETSAT(P546S)変異に対するT細胞は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 中でHLA-A*6801拘束性の反応性を示し、自家メラノーマ細胞株MZ-I-017を効率的に殺傷した (Figure 3e, i)。これは、in vivoでのワクチン作用機序を明確に裏付けるものである。

転移発生率の低下と長期PFS: ワクチン接種開始後の累積転移発生率は、開始前と比較して統計学的に有意に減少 (p < 0.0001) し、持続的な無増悪生存期間 (PFS) が得られた (Figure 3a)。ベースラインで測定可能な病変を有していたステージIV患者5例中2例 (P03, P04) でワクチン関連の客観的奏効 (objective response) が確認された。P03患者は、放射線療法やCTLA-4阻害薬に不応であった複数の進行性転移巣において完全奏効を達成し、26ヶ月間再発なく経過した。P04患者は腹部リンパ節転移の部分奏効を示したが、後にβ2-ミクログロブリン (B2M) 欠損メラノーマクローンの増殖による獲得耐性機序で晩期再発を経験した (Figure 4c, d, f)。このB2M欠損は、HLAクラスI提示の完全な喪失を引き起こし、ワクチン誘導T細胞による認識を回避したことが示唆された。

抗PD-1併用での完全奏効: 別のステージIV患者 (P07) では、ネオエピトープワクチンとPD-1阻害薬 (ペムブロリズマブ) の併用療法により完全奏効が達成された (Figure 3b)。P07患者はワクチン接種後も疾患進行が速かったため、抗PD-1治療に移行したところ、2ヶ月以内に複数のメラノーマ病変が80%縮小し、最終的に完全奏効に至った。ワクチン誘導T細胞はワクチン接種終了後9ヶ月まで持続した (Figure 3c)。この結果は、個別化ネオエピトープワクチンと免疫チェックポイント阻害剤の併用戦略が強力な相乗効果を持つことを臨床で初めて示したものである。

考察/結論

本研究は、個別化mutanome RNAワクチンが規制適合のGMPプロセスとして製造可能であり、忍容性良好かつ全例でポリ特異的T細胞応答を誘導し、転移再発抑制と客観的奏効を達成できることをfirst-in-humanで実証した歴史的なランドマーク論文である。

先行研究との違い: 従来の免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果は、高変異負荷の腫瘍に偏る傾向があり、自然発生的な抗ネオエピトープ免疫応答は限定的であることが報告されていた (例: Rizvi et al. Science 2015)。本研究はこれと異なり、比較的低い変異負荷の患者においても、広範なT細胞応答を誘導できることを示した。また、マウスモデルで示唆されていたCD4+ T細胞の中心的役割が、ヒトの臨床試験で確認された点も重要である (Kreiter et al. Nature 2015)。

新規性: 本研究で初めて、患者個々の腫瘍変異に基づいたRNAワクチンを、迅速かつ効率的に製造し、臨床的に安全に投与できるプロセスを確立した。さらに、このワクチンが多特異的なT細胞応答を誘導し、転移性イベントの有意な減少 (p < 0.0001) と持続的な無増悪生存期間をもたらすことを新規に実証した。特に、PD-1阻害薬との併用により完全奏効を達成した症例は、個別化ワクチンと免疫チェックポイント阻害剤の相乗効果を臨床で初めて示したものであり、その後の大規模ランダム化試験 (例: autogene cevumeran (Rojas et al., Nature 2023, PDAC試験) やmRNA-4157 (V940, melanoma KEYNOTE-942)) への礎となった。

臨床応用: 本知見は、個別化免疫療法の臨床的実現可能性と抗腫瘍活性を明確に示し、がん患者に対する個別化医療の新たな道を開くものである。臨床的意義として、(1) 低変異負荷の腫瘍でもde novo応答を誘導可能であること、(2) CD4+ネオエピトープが治療効果に重要であること、(3) β2-ミクログロブリン (B2M) 欠損という免疫逃避機構が獲得耐性として顕在化することが示唆される。このB2M欠損は、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016McGranahan et al. Science 2016でも報告されており、ネオエピトープワクチンがチェックポイント阻害剤や養子T細胞療法と同様の耐性メカニズムを誘発するほど強力であることを示している。

残された課題: 今後の検討課題として、ネオエピトープ予測アルゴリズムの精度向上、MHCクラスI制限エピトープの効率的な誘導、ICI併用戦略の最適化、様々な腫瘍タイプへの横断的展開、そして製造期間のさらなる短縮 (本研究の103日から1ヶ月以内へ) が残されている。本研究は、その後10年で結実した個別化がんワクチン領域の出発点を画するものであり、これらの課題克服に向けた継続的な研究が期待される。

方法

本研究は、ステージIII/IVメラノーマ患者13例 (Extended Data Table 1) を対象とした多施設共同第I相試験 (NCT02035956) として実施された。全患者から腫瘍生検組織と健常血液細胞を採取し、エクソームシーケンスおよびRNAシーケンスを用いて非同義変異を網羅的に同定した。変異は、HLAクラスIIへの高親和性結合予測と高RNA発現レベルに基づいて優先順位付けされ、さらにHLAクラスI結合予測も考慮された。各患者につき10個の変異 (P09患者のみ5個) を選定し、これらを27merペプチド (変異残基を14番目に配置) として5個ずつ連結したペンタトープRNAを2種類設計した (Figure 1b)。これらのRNAは、GMP基準に準拠して製造され、製造期間中央値は68日 (範囲49-102日)、ワクチンリリースまでの期間中央値は103日 (範囲89-160日) であった (Figure 1c)。NY-ESO-1および/またはチロシナーゼ陽性の患者には、個別化ネオエピトープワクチンがリリースされるまでのブリッジングとして、これらの共有抗原をコードするRNAワクチンが投与された。ネオエピトープワクチンは、最低8回、超音波ガイド下に鼠径リンパ節へ経皮的に投与された (Figure 1d)。用量は、10例で500 µg、3例で1,000 µgが投与された。

免疫原性の評価は、ワクチン接種前後の血液サンプルを用いて実施された。IFNγ ELISpotアッセイによりCD4+およびCD8+ T細胞応答を評価し、TCR α/β鎖のシングルセルクローニング、およびHLAマルチマー解析によりネオエピトープ特異的T細胞の分子特性を詳細に解析した。TCRディープシーケンスにより、ワクチン接種後の血液サンプルにおけるネオエピトープ特異的TCRの頻度を評価した。臨床的有用性については、RECIST version 1.1および免疫関連奏効基準 (irRC) Wolchok et al. ClinCancerRes 2009 に基づくCTスキャンおよびMRIによる画像評価を実施し、転移再発率とPFSをワクチン接種前後で比較した。安全性はCTCAE v4.03に従って評価された。さらに、ワクチン接種後に切除された転移巣の組織学的解析 (免疫組織化学染色、遺伝子発現解析) を行い、ワクチン誘導T細胞の腫瘍内浸潤と腫瘍細胞殺傷能力を評価した。統計解析には、転移性イベントの累積発生率の比較にFisher’s exact testが用いられた。次世代シーケンスデータは、Li et al. Bioinformatics 2009 のbwaおよび Langmead et al. GenomeBiol 2009 のbowtieを用いてアライメントされた。