- 著者: Wells DK et al.
- Corresponding author: Wells DK, Defranoux NA
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 33038342
背景
腫瘍ネオアンチゲンは、がん細胞に固有の変異に由来するペプチドであり、MHCクラスI分子上に提示されることで腫瘍特異的T細胞応答を誘導する。腫瘍特異性と免疫寛容の非対称性から、ネオアンチゲンはがんワクチンや養子細胞療法の主要標的として注目されており、変異特異的T細胞は複数の癌種で持続的な腫瘍退縮を誘導する事例が報告されている。例えば、Gubin et al. Nature 2014は、チェックポイント阻害剤が腫瘍特異的変異抗原を標的とすることを示した。また、Tran et al. Science 2014は、上皮がん患者における変異特異的CD4+ T細胞に基づくがん免疫療法を報告している。さらに、Schreiber et al. Science 2011は、がん免疫編集の概念を提唱し、がん免疫応答の重要性を示した。しかし、免疫原性ネオアンチゲンを正確に同定するためには、腫瘍シーケンシングデータとバイオインフォマティクスアルゴリズムの組み合わせが不可欠である。従来のアルゴリズムは主にMHC結合親和性の予測に基づいていたが、その予測精度は低く、異なるパイプライン間での比較評価が行えるリファレンスデータセットが存在しなかった。エピトープの免疫原性を規定する複数のパラメータの相互関係も未解明であり、有効なネオアンチゲン予測に必要な要件の体系的評価が不足していた。この知識ギャップを埋めることが、個別化がん免疫療法の進展における重要な課題であった。
目的
本研究の目的は、TESLA (Tumor Neoantigen Selection Alliance) というグローバルコンソーシアムを構築し、参加者全員が同一の腫瘍シーケンシングデータから独立して予測を行い、共有の検証実験で免疫原性を測定することで、腫瘍エピトープ免疫原性を規定する主要パラメータを同定することである。さらに、これらのパラメータを活用したパイプライン改善介入が予測性能を向上させることを実証し、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測バイオマーカーとしての有用性を探索することを目指した。
結果
TESLAチーム間での予測多様性とパイプライン性能の差異: 25チームのネオアンチゲン予測リスト(中央値 204 pMHC/腫瘍サンプル、範囲 7–81,904)から選定された608個のペプチド中、37個(6%)がT細胞免疫原性を示した(検証率6%は既報と一致)。チーム間での上位100位ランクpMHCの重複率は中央値13%(最大62%)と低く、Spearman相関係数も中央値0.18と低かった。全体的な予測性能の指標としてAUPRC(精度再現曲線下面積)・FR (fraction ranked)(免疫原性pMHCをトップ100に含む割合)・TTIF (top-20 immunogenic fraction)(上位20中の免疫原性ペプチド割合)の3指標が評価され、チーム間で著明な差異が確認された (Figure 1F)。どのチームも37個の免疫原性ペプチドのうちトップ100に20個以上を含むことができず、予測の多様性が高かった。パイプラインの組み合わせによる予測改善については、「重複が中程度で相対的なTTIF差異が小さいペアを交差して平均ランクで再ランク付けする」アプローチで19%のペアが改善を示した。
エピトープ提示特性 (MHC結合親和性・腫瘍発現量・結合安定性) が免疫原性の主要決定因子: 免疫原性pMHCは非免疫原性と比較して、MHC結合親和性(実測値: p = 4×10⁻⁶)・腫瘍発現量(p = 0.01)・結合安定性(p = 1.4×10⁻⁴)が有意に高く、疎水性(p = 0.04)は有意に低かった (Figure 3C-F)。交差検証による最適閾値として、MHC結合親和性 < 34 nM・腫瘍発現量 > 33 TPM・結合安定性 > 1.4時間の3基準が同定された(提示ペプチドと定義)。これらの閾値は既報の推奨値よりも厳格であった。286個のpMHC(全5変数測定済み)に適用すると、非免疫原性の93%をフィルタリングしつつ免疫原性の55%を保持した(p = 3.7×10⁻⁸)。変異位置については、免疫原性ペプチドは第2アミノ酸(主要アンカー残基)位の変異から決して生じなかった(p = 0.006)のに対し、第3アミノ酸位の変異は有意に多かった(p = 0.003) (Figure 3J)。
認識特性 (アグレトピシティと異物性) が提示ペプチドの免疫原性をさらに絞り込む: 「提示」基準を通過した29個のpMHC(免疫原性12個、非免疫原性17個)において、アグレトピシティと異物性という2つの認識特性を解析した。大多数のpMHCはアグレトピシティ > 0.1かつ異物性 < 10⁻¹⁶であったが、一部にアグレトピシティが極めて低いグループ(group 1)または異物性が極めて高いグループ(group 2)があった。これら2グループは相互排他的であり(p = 0.005)、“recognized” pMHCと定義した。Recognized pMHCは免疫原性pMHCと強く相関し(p = 0.003、オッズ比 14.3)、提示かつ認識の両基準を満たすpMHCは免疫原性と強力に関連した(オッズ比 51.7、p = 6×10⁻¹⁰) (Figure 4D, G)。4特性すべて(強いMHC結合親和性・高腫瘍発現量・高結合安定性・ペプチド認識性)を満たすpMHCは非免疫原性の98%をフィルタリングしつつ免疫原性の45%を保持し、precision > 0.70を達成した。精度-再現曲線での比較では、MHC結合親和性のみではランダムに近い精度(< 20%)であったが、提示・認識の両基準適用で最適精度 > 70%・再現率45%を達成した (Figure 4H)。
モデル特性の活用によるパイプライン性能の有意な向上と、PRNA指標による治療予測: 14種のサブミッション特性と予測性能の相関分析では、強いMHC結合親和性の優先・弱い結合親和性ペプチドの除外・低腫瘍発現量ペプチドの除外・低結合安定性ペプチドの除外が複数の性能指標と正相関した (Figure 5B)。一方、提示特性を考慮せずに異物性・アグレトピシティのみを優先したサブミッションは性能改善なしまたは悪化を示した。介入実験では、結合親和性34 nMカットオフでのフィルタリング・提示基準フィルタリング・提示+認識の両基準フィルタリングをすべての参加者の予測に適用したところ、いずれの介入も予測性能を有意に向上させた。独立コホート(310 pMHC)での検証では、同一の閾値セットが非免疫原性の97%をフィルタリングしつつ免疫原性の75%を保持し(p = 9×10⁻⁵、オッズ比 116.5)、再現性が確認された。バイオマーカーとして、既存の腫瘍変異量 (CNB: classical neoantigen burden) および提示基準のみに基づく予測ネオアンチゲン量 (PNA: predicted neoantigen abundance) は55例の抗PD-1黒色腫コホートで全生存との有意な関連を示さなかったが、提示・認識の両基準を統合した指標 PRNA (predicted and recognized neoantigen abundance) の中央値以上の患者群は有意に長い全生存を示した(p = 0.063、log-rank検定) (Figure 6D)。PRNA高値患者は2年生存率が約50%高かった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、世界で初めて、共有の腫瘍シーケンシングデータと集中化した検証実験を用いることで、単一パイプラインバイアスを排除してネオアンチゲン予測の主要パラメータを同定した点で、これまでの研究と異なる。既存アルゴリズムが主に利用してきたMHC結合親和性のみに比べて、本研究が明らかにした4パラメータモデル(MHC結合親和性・腫瘍発現量・結合安定性・ペプチド認識性)は格段に高いprecisionを達成する。
新規性: 本研究で初めて、アグレトピシティと異物性という2つの認識特性が、提示されたペプチドがT細胞に「非自己」として認識される可能性を反映しており、自然免疫寛容の回避を評価する上で重要であることをヒトのがん患者データで実証した。これら2特性が相互排他的であるという発見は、MHCアンカー残基の変異(アグレトピシティ)とTCRコンタクト残基の外来性(異物性)という異なる経路によって認識が達成されることを示唆する新規な知見である。
臨床応用: 本研究で同定された4つの独立したパラメータは、ネオアンチゲン予測パイプラインの性能を大幅に改善する介入を可能にし、個別化がん免疫療法の開発に直接的な臨床応用が期待される。特に、PRNA という統合指標は、抗PD-1療法に対する応答予測能を示唆しており、Samstein et al. NatGenet 2019が示した腫瘍変異量 (TMB) と同様に、治療効果予測バイオマーカーとしての臨床的有用性を持つ可能性がある。
残された課題: PRNA バイオマーカーの予測能はまだ予備的な性質であり(p = 0.063)、より大規模なコホートでの検証が必要である。また、本研究はSNV/インデル由来MHCクラスI制限ネオアンチゲンに焦点を当てており、融合タンパク質・スプライシング変異・MHCクラスII制限エピトープは考慮されていない。Kreiter et al. Nature 2015がMHCクラスIIエピトープの重要性を示したように、これらの要素も今後の検討課題である。さらに、UV曝露(黒色腫)や喫煙(NSCLC)による高変異量腫瘍での検証が中心であるため、他の癌種での有効性は要確認であるというlimitationも存在する。
方法
TESLA には25チーム(アカデミア、産業界、非営利機関)が参加した。6例の患者(転移性黒色腫3例、非小細胞肺がん (NSCLC) 3例)の腫瘍・正常ペアの全エクソームシーケンシング (WES)・腫瘍RNAシーケンシング・臨床グレードHLAタイピングデータが全チームに提供され、各チームが独立してネオアンチゲン予測リストを作成した。上位ランクのpMHC予測リストから608個のペプチドが選定され、pMHCマルチマーベースアッセイにより患者マッチPBMC・TILでのT細胞結合が測定された。提示特性としてMHC結合親和性・腫瘍発現量 (tumor abundance)・結合安定性 (binding stability)・ペプチド疎水性・変異位置の5特性を評価し、認識特性としてアグレトピシティ (変異型 vs. 野生型結合親和性比) と異物性 (IEDBの既知病原体ペプチドとの相同性) を評価した。交差検証ベースのアプローチで閾値セットを同定し、統合モデルを構築した。統計解析にはMann-Whitney U検定やFisher’s exact testなどのノンパラメトリック手法が用いられた。最終的に、独立コホート(黒色腫3例、310 pMHC検証済み)での検証と、55例の抗PD-1治療黒色腫コホートでのバイオマーカー解析も実施した。この研究では、ヒトのPBMCや腫瘍溶解物を使用しており、特定の細胞株やマウスモデルは使用していない。